固定資産の会計処理(減価償却と減損会計) その1
【固定資産の会計処理】
固定資産の会計処理に関して、その方針により会計の内容が変わるものは、主に減価償却の方法と減損会計についてです。
【減価償却】
減価償却という用語はこれまでにも出てきました。
今回はそれが何なのかを具体的に考えてみましょう。
例えば自動車部品製造会社が新しい部品製造のために製造用機械を購入したとします。
その機械は5年間使用する予定で、取得価格は500万円です。
機械を購入すると、その500万円は資金をどこから調達するにせよ、購入した段階で支払いをします。
しかし機械は5年間使用する予定です。
よって取得した年に一気に支払った金額を費用計上してしまうと、その年の費用だけが一気に跳ね上がり、その後の4年間はその機械に関する費用はかからないことになります。
5年間に渡って使用していくことを考えると、これは会社の実態を表しているとは言えません。
よって、実際の出費は取得年度だけだとしても、費用を使用期間である5年間に分散して計上しようというのが「減価償却」という考え方です。
図のように新しく購入した固定資産は、長期間使用することでその価値が減っていきます。
その減った分の価値(減価)を使用する期間にわたって費用として計上していこう(償却)ということです。
なお、ここでは機械の耐用年数を5年としていますが、実際の耐用年数は法定耐用年数で定められているため、それを使用するのが一般的です。
耐用年数とは、固定資産を使える年数です。
また、固定資産は、残存価額(使い終わったときの価値)が「1円」まで償却できることとされていますが、ここでは簡易化するために、残存価額を0円として計算します。
【減価償却の種類と費用計上の手法】
減価償却には、主に「定額法」と「定率法」という2つの方法があります。
このどちらを採用するかにより、減価償却費が変わってきます。
≪定額法≫
定額法は、使用年度に応じて均等に減価償却費を割り振る方法です。
今回は機械を500万円で取得し、5年間で減価償却しますので、5年間の減価償却費は以下になります。
500万円÷5 = 100万円
よって、
1年目 100万円 残存価額400万円
2年目 100万円 残存価額300万円
3年目 100万円 残存価額200万円
4年目 100万円 残存価額100万円
5年目 100万円 残存価額0万円
1年目から5年目まで、均等に100万円ずつ減価償却費が売上原価あるいは販売費及び一般管理費などに計上されることになります。
(使用用途によって異なります。)
そして5年たつとその機械の価値は0になります。
≪定率法≫
定率法は200%定率法とも呼ばれ、定額法で計算された減価償却費の200%(2倍)を減価償却費とする方法です。
(定率法の率は制度により変更される場合があるので、都度確認することが必要です。)
今回のケースでは、定額法で計算された減価償却費は100万円(資産の20%)ですので、定率法の償却率はそれを2倍した200万円(資産の40%)となります。
そして毎年残存価額の40%を償却していきます。
よって、5年間の減価償却費は以下になります。
1年目 200万円 残存価額300万円
(500×0.4 = 200)
2年目 120万円 残存価額180万円
(300×0.4 = 120)
3年目 72万円 残存価額108万円
(180×0.4 = 72)
4年目 54万円 残存価額54万円
5年目 54万円 残存価額0万円
(4年目と5年目は均等償却という方法で減価償却していますが、ここでは説明を省略します。)
こちらも用途に合わせて上記の減価償却費が売上原価あるいは販売費及び一般管理費などに計上されます。
そして5年たつとその機械の価値は0になります。
【定額法と定率法では何が違うのか?】
ここまで、定額法と定率法の計算方法を見てきました。
違いを簡単にまとめると、以下のようになります。
・定額法は毎年同じ費用となるのに対し、定率法は取得当初の費用が高く、年数がたつにつれて安くなる。
・結局0になるまで償却されるため、減価償却費用の総額は同じである。
そして、それぞれの減価償却費は以下のようになります。
この図からもわかるとおり、定率法を採用すると費用が平均的にはならないということになります。
取得初期に多額の減価償却費が計上されているためです。
よって、業績を安定的に推移させたい場合は毎期同じ費用を計上する定額法が向いていると言えます。
これに対し、業績が好調で利益変動がさほど気にならない場合や、初期に多く費用を計上し、早めに償却を進めて次の投資の準備を進めておきたい場合などは、定率法が向いていることになります。
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