企業の成長性を分析
【成長性を分析】
成長性とは、会社の売上や利益、資産の成長の度合いのことを言います。
会社を継続していくためには、売上や利益を安定的にあげていくことが必要です。
しかし、ただ同じことをしているだけではやがて競争力のある同業他社によって顧客を奪われ、売上や利益は下がってしまいます。
特に近年は規制緩和などによって様々な業種で競争が激しくなっています。
会社を存続させるためには、常に競合相手を意識し、顧客に自社を選択してもらえるように成長していくことが不可欠となっているのです。
また、会社が成長することは、従業員のモチベーションアップにもつながり、ステークホルダーの安心感にもつながります。
そのような意味でも、会社は常に成長が求められていると言えます。
また、成長性を分析することで、会社のフェーズ(成長期、成熟期など)を判断することもできます。
ここでは、売上高・経常利益・総資産について、S社とY社の5年前と現在を比較し、それぞれの成長性を分析してみましょう。
【売上高成長率】
売上高成長率は、売上高の成長度合いのことです。
基準となる年と現在の売上高を比較し、その成長度合いを見ます。
計算式は、以下になります。
売上高成長率=(当期売上高−基準年の売上高)÷基準年の売上高×100
そしてS社とY社の売上高成長率は以下です。
(S社・Y社ともに当期売上高は1億円です)
S社の売上高成長率=(1億円−1億2000万円)÷1億2000万円×100 ≒ −16.67%
Y社の売上高成長率=(1億円−5000万円)÷5000万円×100 ≒ 100%
5年前と現在では、S社の売上はマイナスとなって減少、逆にY社の売上は倍増しています。
これは、S社がここ5年間で苦戦しており、逆にY社はS社を含む競合他社を尻目に業績を大きく伸ばしていることを意味しています。
また、売上高をフェーズで考えるとS社は安定期、Y社は成長期と考えることができます。
S社は売上高がこれ以上じり貧になるのを防ぐために、何らかの対策を講じる必要があると言えます。
【経常利益成長率】
成長率を利益で見る場合、どの利益を使うかで若干数値が異なってくる可能性がありますが、ここでは「会社としての年間を通した経営力」である経常利益で考えてみます。
会社全体の成長力ということで言うと、経常利益が最も適していると考えられるためです。
計算式は、以下になります。
経常利益成長率=(当期経常利益−基準年の経常利益)÷基準年の経常利益×100
そしてS社とY社の経常利益成長率は以下です。
(S社の当期の経常利益は900万円、Y社は2500万円です)
S社の経常利益成長率=(900万円−1200万円)÷1200万円×100 ≒ −25%
Y社の経常利益成長率=(2500万円−500万円)÷500万円×100 ≒ 400%
ここでもS社とY社は対照的な結果となっており、S社の経常利益は25%のマイナス、Y社の経常利益は4倍になっています。
そして売上高の変化率に比べ、経常利益の変化率はさらに大きくなっています。
比率で考えると、売上の増減は利益率により大きな影響を与えていることがよくわかります。
そしてそれだけに売上の確保は非常に重要であると考えることができます。
【総資産成長率】
最後に総資産の成長率を見てみましょう。
一般的に売上と利益が伸びると、利益が会社に蓄積していくため、自己資本が増えて総資産も大きくなっていくと考えられます。
S社とY社の場合はどうでしょうか。
計算式は、以下になります。
総資産成長率=(当期総資産−基準年の総資産)÷基準年の総資産×100
そしてS社とY社の総資産成長率は以下です。
(S社の当期総資産は1億4000万円、Y社は1億2000万円です)
S社の総資産成長率=(1億4000万円−1億5000万円)÷1億5000万円×100 ≒ −6.67%
Y社の総資産成長率=(1億2000万円−7000万円)÷7000万円×100 ≒ 71.43%
やはり売上が鈍化しているS社は総資産も目減りしており、成長著しいY社は資産も70%以上増えています。
S社は事業の縮小や効率化のために資産を切り崩しており、Y社は利益の積み上げによって資産を順調に増やしているということになります。
これを見てもS社は事業の過渡期、Y社は事業が順調に伸びている成長フェーズであることが推測できます。
成長率も数年という単位で見るとその会社の経営状況を推測することが可能になります。
単年度だけの売上や利益・資産だけではなく、その「成長度合い」にも注目していくと、財務理解がより進むこととなります。
継続してその成長にも注目していきましょう。
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