たな卸資産の評価基準と評価方法 その2
【実際に計算してみよう】
では最初の図で使ったLEDを使って、実際に計算してみましょう。
まず、平均法(総平均法と移動平均法)と先入先出法を使って取得価格を決め、それを低価法で時価と対応させることで最終的に棚卸資産額を決定します。
(個別法はここでは省略します。)
なお、ここでは当期2月の仕入れ後に150個販売し、150個が棚卸資産として残っていると考えます。
また、通常はすでに期首に棚卸資産が計上されており、それを加味して当期の棚卸資産が決定されますが、今回は計算を簡略化するため、期首の棚卸資産は0として考えます。
≪取得価格の決定≫
上の図を用いて実際に計算してみましょう。
仕入れ価格は、1月が400円、2月が390円、3月が380円です。
・総平均法
総平均法は、在庫の総額から取得価格の平均を出す計算方法です。
よって、計算式は以下になります。
(400×100+390×100+380×100)÷300 = 390円
取得価格の平均は390円です。
そして全体の仕入れ価格は以下になります。
390×300 = 117000円
そしてこれを150個売っているので残りは150個となり、棚卸資産の計上対象は150個になります。
残りの150個の合計額は以下です。
117000−(390×150) = 58500円
よって、300個(117000円)仕入れたうち、残った150個の取得価格として計上されるのは58500円です。
・移動平均法
移動平均法は、そのとき残っている在庫の平均と新しく仕入れた在庫から平均を出す計算方法です。
よって、計算式は以下になります。
1月 400円を100個仕入れる。
在庫の額:400×100 = 40000円
2月 390円を100個仕入れる。
在庫の額:40000+(390×100) = 79000円
平均:79000÷(100+100) = 395円
2月 製品を150個販売する。在庫は50個となる。
在庫の額:79000−(395×150)= 19750円
平均:395円
3月 380円を100個仕入れる。
在庫の額:19750+(380×100) = 57750円
平均:57750÷(50+100) = 385円
取得価格の平均は385円です。
そして300個(117000円)仕入れたうち、残った150個の取得価格として計上されるのは57750円です。
・先入先出法
先入先出法は、仕入れた300個のうち、先に仕入れた150個を販売したと考える計算方法です。
実際に使ったものがいつ仕入れたものであれ、会計上は先に仕入れた分を使用したと考えます。
図の例でいうと、仮に3月に仕入れたものから使用していたとしても、会計上は1月に購入したものから使用していったと考えるということです。
すると、取得価格の対象となるのは、最後(3月)に買ったものから数えて150個です。
今回は、3月に仕入れた100個と2月に仕入れた50個が取得価格計算の対象となります。
計算式は以下になります。
380×100+390×50 = 57500円
よって、300個(117000円)仕入れたうち、残った150個の取得価格として計上されるのは57500円です。
これで平均法・先入先出法それぞれの評価方法による取得価格が決定しました。
総平均法では58500円、移動平均法では57750円、先入先出法では57500円と、評価方法の違いによって取得価格が異なっていることがわかります。
≪棚卸資産の決定≫
ここまで、平均法と先入先出法によるそれぞれの取得価格を決定してきました。
次はそれらの取得価格と時価を比較して、最終的な棚卸資産を決定します。
棚卸資産の最終決定は、低価法によって行います。
時価は385円/個です。
よって、150個分の時価は、以下になります。
385×150 = 57750円
よって今回の棚卸資産は以下のようになります。
総平均法を使った場合は時価のほうが安いため、安い時価が適用されて棚卸資産は57750円が計上されます。
移動平均法を使った場合は時価と同じとなり、棚卸資産は57750円が計上されます。
先入先出法を使った場合は時価のほうが高いため、安い取得価格が適用されて棚卸資産は57500円が計上されます。
このどれを採用するかで、会計上の資産価値が異なってきます。
それぞれの考え方を知り、棚卸資産額は会社の方針によって異なる場合があるということを理解しておきましょう。
関連ページ
- 損益分岐点分析とその求め方 その2
- 損益分岐点分析とその求め方 その1
- 貸借対照表(B/S) その3
- 貸借対照表(B/S) その2
- 貸借対照表(B/S) その1
- 財務諸表とは
- 損益分岐点分析から見た利益向上策 その1
- 損益分岐点分析の活用法 その1
- 損益分岐点分析の活用法 その2
- 損益分岐点分析の活用法 その3
- 損益分岐点分析から見た利益向上策 その2
- キャッシュフロー計算書(C/S) その1
- キャッシュフロー計算書(C/S) その2
- キャッシュフロー計算書(C/S) その3
- 総合原価計算と個別原価計算
- 国際会計基準
- 日米の会計方針の違い
- 損益計算書(P/L) その1
- 損益計算書(P/L) その2
- 損益計算書(P/L) その3
- ABCと価格設定
- ABC(活動基準原価計算)とは
- ABM(活動基準管理)とABB(活動基準予算管理)
- アカウンティングとは
- 固定資産の会計処理(減価償却と減損会計) その1
- 固定資産の会計処理(減価償却と減損会計) その2
- 会計方針とは
- 費用の計上基準
- 収益の計上基準
- 全部原価計算と直接原価計算
- 引当金の計上方法
- 財務諸表から業界の特徴を分析 その1
- 財務諸表から業界の特徴を分析 その2
- 簿記の基本
- BSC(バランスト・スコアカード)とは
- 予算管理の意義
- 予算の設定方法
- 予算の3つのタイプ
- 業務的意思決定(差額原価収益分析)
- 企業の総合力を分析 その1
- 企業の総合力を分析 その2
- 会計公準と企業会計原則 その1
- 会計公準と企業会計原則 その2
- 会計公準と企業会計原則 その3
- 株主から見た企業価値 その1
- 株主から見た企業価値 その2
- コストセンターとプロフィットセンター
- 原価管理と原価計算
- 負債コストと株主資本コスト
- 組織の設計と種類
- 直接費と間接費
- EBITDAによる株価の評価
- 企業の効率性を分析 その1
- 企業の効率性を分析 その2
- EVA(経済付加価値)とは
- 財務会計と管理会計
- 財務分析とは
- 固定費と変動費 その1
- 固定費と変動費 その2
- 企業の成長性を分析
- 業界と企業の比較分析 その1
- 業界と企業の比較分析 その2
- 内部統制
- たな卸資産の評価基準と評価方法 その1
- たな卸資産の評価基準と評価方法 その2
- 管理会計の必要性
- 安全余裕率と損益分岐点比率
- ABCの活用方法
- 業績評価の手法
- MVA(市場付加価値)とは
- 比率分析の限界と注意点
- 組織管理と管理会計
- 具体的な業績評価のシステム
- 意思決定の前提(付加価値と生産性分析) その1
- 意思決定の前提(付加価値と生産性分析) その2
- 製品原価と期間原価
- 企業の収益性を分析 その1
- 企業の収益性を分析 その2
- 責任会計システム
- 企業の安全性を分析 その1
- 企業の安全性を分析 その2
- 標準原価と予算差異分析
- 業績評価のステップと留意点
- 戦略的意思決定1(フリー・キャッシュフロー) その1
- 戦略的意思決定1(フリー・キャッシュフロー) その2
- 戦略的意思決定2(運転資本の意義)
- 戦略的意思決定3(金銭の時間的価値)
- 戦略的意思決定4(リスクと割引率)
- 戦略的意思決定5(DCF法) その1
- 戦略的意思決定5(DCF法) その2
- 戦略的意思決定5(DCF法) その3
- 戦略的意思決定6(ペイバック法)
- 原価企画
- 税効果会計