標準原価と予算差異分析
【標準原価と予算差異分析】
これまで、原価には様々な計算方法があり、メリットとデメリットがあるということを学習してきました。
そして原価は発生原価を計算して満足するというだけではなく、これまでの原価計算で養ってきた経験を生かして今後の原価を設定し、売上高や利益などとともに経営計画の策定に活かしていかなければなりません。
この今後の予想を立てて設定した原価を「標準原価」と呼びます。
それに対して、その標準原価を目安として計画を実行し、実際に発生した原価を「実際原価」と呼びます。
売上と費用、利益を継続してバランスの良いものにしていくためには、それまでの実際原価をもとにした可能な限り精度の高い標準原価を設定し、さらに実際原価と比較するというPDCAサイクルが必要です。
そして標準原価と実際原価の差異は「予算差異」と呼ばれます。
効率よく費用を設定していくためには常にこの予算差異を分析し、可能な限り差異をなくしていくことが必要となります。
よってここでは標準原価と実際原価、予算差異について考えていきましょう。
【標準原価とは】
前述したように標準原価とは製品を生産するために事前に設定する「標準的な」原価です。
これまでの生産実績や現在の経済状況・物価などを考慮して、対象となる時期の材料費や労務費を決定します。
このとき、標準原価をあまりに安く(厳しく)見積もってしまうと、実際原価はかなり高い確率でそれよりも上がってしまうことから、作業者が最初から「無理」と考えてしまい、逆に高く(甘く)してしまうとハードルが低くなることから、作業者のコストに関する意識が低くなります。
よって、標準原価は「何もしなければ達成できない可能性が高いけれども、作業者が自ら工夫することで達成可能となる水準」が最も望ましいと言えます。
【実際原価とは】
実際原価は最終的に費用として使われた材料費や労務費の合計です。
例えば歩留まり率が悪ければ材料費は標準原価よりも増加することになり、作業効率が悪くても実際原価は標準原価よりも上昇します。
歩留まり率とは、使用した原材料に対して、出荷できるレベルの製品がどれだけあったかを表す指標です。
不良品が多ければ歩留まり率は悪くなります。
よって、歩留まり率が悪ければそれだけ不良品が発生し、無駄になってしまう原材料が増えて原材料費が高くなってしまうということになるのです。
実際原価と標準原価とを比較することで、現場の担当者(部署)がどれだけその技術を発揮して効率的に生産を行えたかがわかります。
そしてその結果を次に活かすことで、次第に標準原価の精度が上がり、実際原価を低くすることが可能となるということです。
【予算差異分析】
ではここで実際に標準原価と実際原価に関する予算差異を分析してみましょう。
今回設定した標準原価と実際に作業を行った後の実際原価は以下です。
なお、賃率とはその作業を行っている作業者の時間給のことです。
では実際に直接材料費の数量差異と価格差異を計算してみましょう。
≪直接材料費の予算差異≫
直接材料費の予算差異は以下のように計算します。
数量差異 = (標準消費量−実際消費量)×標準価格
価格差異 = (標準価格−実際価格)×実際消費量
よって、今回は以下のようになります。
数量差異 = (300−350)×500 = −2500円
価格差異 = (500−450)× 350 = 17500円
そしていずれも差異は「標準」から「実際」を引いていることから、差異がプラスになれば「優位差異」、マイナスになれば「不利差異」と呼ばれます。
ここでは数量差異は「−2500円」の不利差異が、価格差異は「17500円」の有利差異が発生していることがわかります。
≪直接労務費の予算差異≫
次に直接労務費を計算してみましょう。
直接労務費の予算差異は以下のように計算します。
時間差異 = (標準作業時間−実際作業時間)×標準賃率
賃率差異 = (標準賃率−実際賃率)×実際作業時間
よって、今回は以下のようになります。
時間差異 = (120−100)×400 = 8000円
賃率差異 = (400−450)×100 = −5000円
ここでは時間差異は「8000円」の有利差異が、賃率差異は「−5000円」の不利差異が発生していることがわかります。
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