帰納法 その1
【帰納法とは】
ビジネスの世界では、目まぐるしく変化する状況に対して適時適切に対処しなければなりません。
とくに、現代のような朝令暮改(法令等がすぐに変更されて一定しないこと)が平然と行われる社会情勢においては、昨日までの常識を盲信していては最適解を見つけることはできないでしょう。
過去の一般論に安住できない理由には、日進月歩の技術革新やインターネットの普及があげられます。
過去の法則を信じるのは個々人の自由ですが、「気がつけば時すでに遅し」ということがないように柔軟な判断力を身につけたいですね。
先の見えない社会において、私たちは普段、どのように決断を下しているのでしょうか。
たとえば株式市場において、株の値上がりと値下がりを100%予想出来る人はいませんが、それでも決定をしなければなりません。
そのような状況で、私たちが意識的あるいは無意識的に行っているのが「推論」です。
たとえば次のようなものです。
・A店もB店もC店も卵が高い → 卵の値が上がっている
・同僚のAもBもCも左遷された → 自分もじきに左遷されるだろう
・同業のA社もB社もC社も業績が良い → 当社の業績も良くなるだろう
このように推論とは、個別の事例から今後の見通しを予想することですね。
不透明な今後の先行きを推測することで失敗を減らし、不測の事態に対処するための初動を早くすることが可能になるのです。
そして、これらの推論に活用されているのが「帰納法」です。
帰納法とは、複数の事例から共通項を抜き出し、そこからルールや一般論を導き出す思考法です。
考えてもみてください。
私たちを取り巻く一般常識は、当初から市民権を得ていたわけではありませんよね。
たとえば昔ながらの天気予報。
「猫が顔を洗う」「ツバメが低く飛ぶ」「カエルが鳴く」などを見かけると何を予想できますか?
そうです「雨降り」ですね。これは
・猫が顔を洗った → その後に雨が降った
・ツバメが低く飛んだ → その後に雨が降った
・カエルが鳴いた → その後に雨が降った
というような事例が過去に多数観察されたために、今では一般常識となっています。
つまり、帰納法が生み出した一般論ということですね。
このように基本的には、「帰納法→一般論→推測への応用」という流れで活用されています。
【例題】
それでは、例題を通じて帰納法についての理解を深めていきましょう。
<例>
スマートフォン向けゲームアプリを開発してるベンチャー企業のY社は、3年前の創業時に制作したゲームアプリはヒットしたものの、それ以降売れ筋の商品を開発できず今後の戦略に苦慮していました。
そんな折、学性の頃からのインターン入社組でもあったAさんは、社長から「採算のとれる新規事業を考案すればリーダーとして担当してもいい」と言われていたこともあり、ほとんど寝ずに他社事例を研究しています。
いつものように始発でオフィスにやってきたAさんは、おもむろにパソコンを立ち上げ、昨晩放送された某経営者向けニュース番組のアーカイブを見ていました。
特集は「ニュースアプリで稼ぐ次世代のベンチャー企業たち」です。
これだと思ったAさんは、食い入るように番組の内容をメモし始めました。
特集に登場していたB社、C社、そしてD社も、A社の競合であるベンチャー企業です。
創業年数も規模もそれほど変わりません。
調べてみると、各社が提供しているニュースアプリというのは、自社でニュースを作成するのではなく、既存メディアの記事をキュレーションするタイプのものばかりでした。
つまり、取材や記事の作成そのものはほぼ不要です。
Aさんは、この手のアプリであれば自分がリーダーでもやっていけそうだし、ヒットすること間違いなしだと感じました。
ユーザーを囲い込めさえすれば今から参入しても遅くはないと判断したAさんは、さっそく番組の内容をまとめた企画書をつくり、意気揚々と社長の出社を待っていました。
「これで自分もリーダーだ」と、思いながら……。
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