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経営の多角化が企業価値に与える影響

【経営の多角化が企業価値に与える影響】
近年は消費者の嗜好の変化の速さから、「経営の多角化」を進める会社も珍しくはありません。

 

事業が単一であるいわゆる「専業」の会社は、社会変化などでその事業が不調となった場合の業績の悪化が著しいと考えられるため、それを可能な限り均一化しようという考え方から来ています。

 

消費者志向の変化にも対応可能な会社にしようということです。

 

このような場合の企業価値について考えてみましょう。

 

例えば以下の例を考えてみます。

 

 

≪多角化の例≫
これまで景気に左右されやすかった素材専業の製造会社が、景気の不透明感から医薬品事業に進出する。

 

ここでは、多角化によって素材と医薬品の割合が1:1となり、素材専業時代のリスクは便宜的に20、医薬品事業のリスクは便宜的に10と考えてみます。

 

この場合、企業価値はどうなるかを考えてみましょう。

 

わかりやすく考えるため、数値などはできるだけ簡単にして考えてみます。

 

まず素材専業の場合のリスクは20です。

 

そしてこれに医薬品が1対1、つまり素材と同じ規模となりますので、そのリスクは以下のようになります。

 

多角化した場合のリスク = (20+10)÷2 = 15

 

この場合、リスクは単純に事業が追加された分減少することになります。

 

これは「価値加法性の原則」などと呼ばれ、会社が独立した事業をいくつ行ってもそのリスクが金融投資のマーケットポートフォリオのようには減少しないということを意味しています。

 

よって基本的には素材事業の現在価値に医薬品事業の現在価値が単純に追加されたものが企業価値になり、それぞれの事業のリスクを加重平均したものがその会社のリスクになります。

 

リターンについても同様です。

 

つまり、新事業が順調に進めば会社にとってはリスク回避の要素があるものの、投資家にとってはメリットは特にないということになります。

 

リスクが回避される分、事業が独立して行われればリターンも分散してしまうためです。

 

また、多角化には場合によって以下のメリットとデメリットがあると言われています。

 

 

≪メリット≫
・既存の経営資源や技術を有効活用できる(効果が発揮できる)。
・収益の源泉が増えることにより、ブレが少なくなって安定する。
・事業が増えることによって会社内の組織が活性化する。

 

 

≪デメリット≫
・新事業の専門性に欠けた経営になりやすい。
・既存事業とかけ離れた事業の場合、資源や技術を有効利用できない可能性がある。
・会社の資産が膨張し、収益性が低下する可能性がある。

 

 

例えばニュースなどで、ある会社が多角化を図って新事業に進出したと報道されて株価が高騰することがあります。

 

これは既存の事業を何らかの形で新事業に活かし、シナジー(相乗)効果が発揮されて今後のフリーキャッシュフローの増加に貢献すると考えられる場合などに起こる現象です。

 

上記の例でいうと、素材産業で培った技術力が医薬品でも活かせると市場が判断した場合は、企業価値の増加につながるということです。

 

つまり、同じ会社内でシナジー効果を発揮できると考えられる事業に進出した場合には、キャッシュフロー(リターン)の期待値が高まり、企業価値に貢献するのです。

 

この場合は投資家にとってもメリットとなります。

 

しかしその反面、そのようなシナジー効果や経営の効率化にはつながらず、新事業という経験のなさによって経営リスクが高まると判断された場合は、逆に企業価値は低下し、株価も下落する可能性があります。

 

これは投資家にとってもデメリットです。

 

容易に多角化を行うことは、その事業リスクを高めることにもなりかねないということです。

 

新事業に着手する場合は、既存事業との関わりや新事業の成長性、消費者に振り向いてもらうための一定の専門知識や顧客開拓などが必要となります。

 

そこにはファイナンスだけではなく、定性的で冷静な経営判断も必要になってきます。

 

ここでは専業に頼ることの不安から解放されるためだけに行う単なる多角化は、必ずしもその会社の企業価値を高めるものにはならないということを理解しておきましょう。

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