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企業経営とキャッシュフロー概念 その1

【企業経営とキャッシュフロー概念】
キャッシュフローの概念はすでに学びました。

 

ただ、いくらキャッシュフローの概念が理解できていても、それを実際に経営に生かせなければ意味がありません。

 

そこでここでは例を2つあげて、キャッシュフローをどのように経営に役立てたらいいか、考えてみましょう。

 

 

【生産調整の意思決定】
S社は自動車部品の製造メーカーです。

 

しかし、現在は自動車部品よりも、一般消費者向けの車の消臭芳香剤が主力商品となっています。

 

売上が自動車の売れ行きに影響されるという商品の特性から売上には波があり、来期は今期に比べると20%の売上の減少が予想されています。

 

そこでS社は売上予想に基づいて製品の減産を考えました。

 

しかしその場合は製品1個あたりの売上原価が高くなることになり、採算性は悪化します。

 

このため、生産は予定通りに行うこととし、売上の減少分は来期以降の売上の増加期に備えて棚卸資産として保管することとしました。

 

果たしてこの判断は正しいと言えるでしょうか?

 

答えは、営業的にはイエスであり、ファイナンス的にはノーです。
あるいは最近の消費者嗜好や外部環境の変化スピードを考えた場合もノーです。

 

例えばかつての日本の高度経済成長時代のように、経済が右肩上がりの状態であれば、イエスと言えるでしょう。

 

売上が右肩上がりであれば、今期多少棚卸資産が増えたところで、結局は売れていくためです。

 

あるいは営業やマーケティング部門が新たな販売戦略を予定しており、来期の売上鈍化はあくまでも一時的であると考えられる場合などもイエスと言えるかもしれません。

 

しかし、ここで考えたいのが、棚卸資産がキャッシュフローにどのような影響を与えるか?ということです。

 

ここでファイナンスの考え方が登場します。

 

棚卸資産は、運転資本という形でキャッシュフローに影響を与えるものでした。

 

ここで運転資本の定義を思い出してみましょう。

 

運転資本 = (売上債権+棚卸資産)−支払債務

 

ここで棚卸資産が増加すれば、他の要素が変化しないという前提に立つと、必然的に運転資本は増加することになります。

 

そして運転資本が増加すると、それだけキャッシュフローは減少します。

 

これが一時的であれば特に問題はありません。

 

一時的というのは、上述したように今後売上高が増加すると考えられる何らかの理由がある場合です。

 

しかしこれが恒常的に続くとすると、会社は常に運転資本の増加に苦しみ、キャッシュフローの継続的な減少を招いて、資金繰りに苦労する可能性も出てきます。

 

ファイナンス的には、資金繰りに窮するということは最もやってはいけないことです。

 

このために、ノーとなるわけです。

 

また、近年はいかに消費者嗜好や外部環境の変化に素早く対応できるかが経営のポイントとなっています。

 

売れる商品の寿命が非常に短くなっているのです。

 

このことは、棚卸資産が急に売れなくなる可能性が高くなっているということを意味しています。

 

また、それは現金不足によって売れる商品への対応ができなくなる可能性も生み出します。

 

よって、消費者嗜好や外部環境の変化スピードを考えた場合もノーなのです。

 

ちなみに、よく景気後退時には在庫が増えると言われます。

 

これは景気後退の中で全体的に売上が落ちつつある状況でも、すぐに商品の減産を行うことは難しいということを意味しています。

 

会社は組織によって様々な考え方があるため、ファイナンス的な考え方だけで動くのは難しいということです。

 

 

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