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ゲーム理論の視点からオークションの仕組みを理解する

オークションは入札者同士が互いの評価額を知らないまま、相手の意思決定を予想し合うゲーム的状況です。すなわちオークションは「不完備情報のゲーム」と言うことができます。

 

実際にオークションはゲーム理論の研究分野として頻繁に取り上げられており、ゲーム理論の研究成果が現実のオークションに適用されることもあります。

 

かつてアメリカの周波数使用権は公聴会もしくは抽選によって発行されていましたが、この場合与えられた周波数使用権を有効活用しない権利者も多く、効率の点で問題を抱えていました。

 

そこで経済学者であり、ゲーム理論家のポール・ミルグロムらが設計したオークションを採用したところ、有効活用の問題が解消されるとともに権利を与える政府の収入も増加したのです。

 

オークションの4つのパターン

 

このようにゲーム理論と密接に関係のあるオークションですが、4つのタイプに分類することができます。以下ではこれらについて簡単に見ておきましょう。

 

イギリス式オークション

 

オークションは大きく「オープン・ビットオークション」と「シールド・ビットオークション」に分類されます。

 

オープン・ビットオークションのうちの1つが「イギリス式オークション」と呼ばれるものです。魚の卸売市場で行なわれている「セリ」や、ロンドンのオークション会社「サザビーズ」などで行われるオークションがこのタイプのオークションに該当します。

 

イギリス式オークションでは買い手が価格をつけて競り上げていき、最終的に最高額をつけた買い手の価格が落札額になります。いわゆる「オークション」はこのイギリス式オークションのイメージが強いのではないでしょうか。

 

オランダ式オークション

 

オープン・ビットオークションのもう1つのタイプが「オランダ式オークション」。日本の花き市場では「下げぜり」方式と呼ばれる方法で花きの値段が決められていきます。

 

これはあらかじめ売り手が高価格を設定しておき、そこから徐々に価格を下げていく方法で、買い手は価格が下がる動きを見て購入を検討します。1人が「買った」と言ったところでオークションは終了です。

 

東京卸売市場でもこのタイプのオークションを採用しているのは花き市場だけとなっています。

 

ファースト・プライス・オークション

 

ファースト・プライス・オークション」は「シールド・ビットオークション」の1つです。日本語で言うと「第一価格封印オークション」。

 

シールド・ビットオークションでは買い手が入札額を紙に書いて封印し、その後全ての封印を解いて最も高い価格をつけた買い手が落札します。したがって入札額がわかるオープン・ビットオークションとは違い、落札の瞬間まで全員の入札額がわかりません。

 

ファースト・プライス・オークションでは落札者が本人の入札した金額を支払います。

 

セカンド・プライス・オークション

 

セカンド・プライス・オークション」とファースト・プライス・オークションの違いは「支払い金額の決め方」です。

 

最も高い価格をつけた買い手が落札するところまではファースト・プライス・オークションと同じですが、セカンド・プライス・オークションの場合、落札者は自分の入札額ではなく、2番目に高い入札額を支払うことになっています。

 

オークションに見るゲーム理論

 

その他のオークションについて

 

「他にも色々なオークションがあるのでは?」と考える人もいるかもしれません。しかし世の中の多くのオークションはここまで見てきた4つのタイプのオークションの要素を組み合わせて設計されているのです。

 

例えば機械による自動入札で落札者が決まるインターネットオークションは、入札者が制限時間内に価格を競り上げていくのでイギリス式オークションが採用されています。

 

しかし落札者が実際に支払うのは、自分の入札した価格ではなく、2番目に高い入札額です。そのため「セカンド・プライス・オークション」の要素も盛り込まれています。

 

このように4つの要素を組み合わせると、様々なオークションを設計することができるのです。

 

英国式オークションとオランダ式オークション

 

オークション方式は大きく4種類に整理することができます。まずは大きく2種類に分類します。

 

1点目は、オークション中、他者の入札価格が公開されながら進行するもの(公開式)があります。公開式の中にも2種類あります。

 

オークションの入札価格が上昇していき、最も高い価格を入札した買い手がその価格で購入する方式を英国式オークションといいます。

 

反対に高価格からスタートして価格を下げていき、買い手の誰かが購入の意志を示した価格で購入する方式をオランダ式オークションといいます。

 

2点目は、入札価格が公開されずに紙に書いて買い手が入札し、入札価格を確認した後、買い手が決まる方式を非公開オークションと言います。非公開式においても2種類に分かれます。

 

1つ目は最高額を提示した人がその価格で落札する方式でファーストプライスオークションといいます。また、最高価格を入札した買い手が2番目に高い価格で購入する方式をセカンドプライスオークションといいます。

 

オークションの分類

 

英国式オークションの特徴

 

英国式オークションは、競り上げ式と呼ばれることもあります。対象物に対して、低い額から始めて、入札額を上げていくからです。英国式の特徴は、自分が入札した金額が他社の入札額より少しでも高ければいいという点です。

 

この方式の前提は、落札したい品物の評価価値は他人は関係なく、自分自身で定めていることになり、私的価値と呼ばれます。つまり、自分が対象物に対して評価している価値のことを私的価値といいます。

 

英国式オークションでは、私的価値に至るまでオークションに参加することができるのです。有名なところでは、魚の卸市場などではこの英国式オークションが採用されており、「競り」と言われることもあります。

 

買い手によって私的価値は当然異なります。オークションが進むにつれて購入価格は上昇していくため、自身の私的価値を超えていくにつれて買い手は脱落していくことになるのです。

 

最終的に、最も高い私的価値以外の買い手が脱落した時点でオークションは終了となります。結果として、購入者は2番目に高く私的価値を設定していた額を支払うことになり、落札者の私的価値は実際の支払額には反映されないことがポイントとなります。

 

英国式オークションの例

 

私的価値が1,000円の品物があるとします。現在のオークション価格が1,000円未満の場合、自分自身は買い手として参加し、他者がオークションから降りれば私的価値よりも低い価格で購入することができ、その差分だけ得をします。

 

一方、価格が1,000円を超えてくると、自分が購入者となったとしても私的価値よりも高く支払うことになるため、差分だけ損をします。私的価値を超えた時点でオークションから降りれば損得0となります。

 

つまり、損得0となるタイミングは、購入価格(自身が競り勝った価格)と私的価値が等しくなるときです。

 

オランダ式オークションの特徴

 

オランダ式オークションでは、買い手は自分自身で入札したい価格を決めておきます。オークションのスタートと共に価格は下がっていきます。買い手は自身が考える入札価格の中で最も高いところで購入の意思を示します。

 

オランダ式オークションのポイントは、より低い価格で入札するほど、購入できた時の得が大きくなるということです。一方、他者が先に入札してしまう場合もあるため、自身が購入可能となる確率は低くなります。

 

そのため、買い手は勝つ確率と勝った場合の得を積算した期待利得が最大となるように行動することが求められるのです。有名なところでは、日本での花卉(かき:観賞用植物)の卸市場ではこのオランダ式オークションが採用されています。

 

ファースト・プライス・オークションとセカンド・プライス・オークション

 

買い手の私的価値が非公開となっており、入札制度で行われるオークションには、「ファースト・プライス・オークション」と「セカンド・プライス・オークション」の2種類があります。

 

まずはじめに、ファースト・プライス・オークションについて解説します。ファースト・プライス・オークションとは、オークションの支払価格決定方法のひとつです。買い手が一斉に入札を行い、最も高い価格を入札した買い手が落札者となる方式です。

 

買い手は私的価値で入札することになるのですが、例えば、ワインのオークションを考えてみましょう。

 

Aさん、Bさん、Cさん、それぞれのワインに対する私的価値(ワインに対して感じている価値)がA:10万円、B:5万円、C:3万円だったとします。その場合、入札結果はAさんが落札者となり、10万円支払うことになるでしょう。

 

Aさんは落札者となった後に、「もっと安い価格で落札できたのではないか?」「評価額は適切だったのか?」といったことを考えてしまうかもしれません。このように落札者が悩むことを「勝者の呪い」と言います。

 

ファースト・プライス・オークションとセカンド・プライス・オークション

 

勝者の呪い

 

買い手が支払う金額が必ず他者よりも高くなるという点は、ファースト・プライス・オークションの仕組みに起因するため、勝者の呪いは必ず発生してしまいます。

 

勝者の呪いに陥ると、本来、自身が想定している私的価値に対して、他者を強く意識するあまり、低い価格で入札することも多くあるのです。その結果、落札できたとしても「もっと低く落札できたのではないか?」と感じるため、どこまでいっても勝者の呪いからは逃れられません。

 

売り手の立場においても、自身が出品している商品について、買い手側が正当な評価額で入札してこない可能性があるため、両者にとって最善のオークション方式とは言えないでしょう。そこで、考え出されたのが、セカンド・プライス・オークションです。

 

ファースト・プライス・オークションとセカンド・プライス・オークション2

 

セカンド・プライス・オークションとは

 

セカンド・プライス・オークションとは、買い手が一斉に入札を行って、最も高い値を付けた人が落札者となるところまでは、ファースト・プライス・オークションと同じです。しかし、落札者は、2番目に高い値を付けた人の入札価格で購入するという点が異なります。

 

これはアメリカの経済学者であるウィリアム・ヴィックリーが考案したオークション方式です。最も高い価格を入札した買い手を勝者とする際に、落札者自身の入札額ではなく、全体で2番目に高い入札額で購入させる考え方となっています。

 

一般にセカンド・プライス・オークションは、ファースト・プライス・オークションで懸念事項として挙げられる落札者の不満を考慮したものとなっており、売り手と買い手がWin-Winの関係なれるオークション方式となっています。

 

この考え方は、様々なオークション市場で取り入れられており、Yahoo!オークションにおいても採用されているのです。

 

セカンド・プライス・オークションの例

 

ファースト・プライス・オークションのワインの例を取り上げます。あるワインに対して、Aさん:10万円、Bさん:5万円、Cさん:3万円で入札を行いました。その結果、最も高値を付けたAさんが落札者となります。

 

そして、支払う価格は2番目に高い価格をつけたBさんの5万円となります。これにより、Aさんは10万円だと考えていた評価額に対して、他者(Bさん)が評価していた5万円で購入することができ、勝者の呪いに陥ることを避けられます。

 

売り手についても、適正な金額にならないことを避けられ、2番目に評価してもらえた額で売れることはよしと考えられるのです。

 

ファースト・プライス・オークションとセカンド・プライス・オークション3

 

セカンド・プライス・オークションと英国式オークション

 

セカンド・プライス・オークションと英国式オークションの共通項は、買い手は全員、自身の私的価値に従って入札を行うという点です。

 

私的価値が最も高値の買い手が落札者となります。そして、落札者の支払う額は、入札で2番目に高い値を付けた額になります。英国式オークションもこれは同様です。

 

この両者のオークションの仕組みは、売り手としても望ましい結果を得られるようになっています。ここで言う売り手にとって望ましい結果とは、売った結果の収益が大きいことです。

 

セカンド・プライス・オークションと英国式オークションでは、2番目の高値が売り手の収入となります。これは、売り手にとって期待収入と同値となるのです。

 

インターネットオークションの自動入札

 

セカンド・プライス・オークションと英国式オークションを融合させたオークションルールがビジネスサービスとして私たちの暮らしの中で存在しています。Yahoo!オークションがそれにあたります。

 

Yahoo!オークションには、自動入札という手法がありますが、これは価格を高くしていく際に自動で入札する仕組みのことです。

 

買い手(仮にAさん)は、「いくらまでだったら入札してもよい」という価格をあらかじめ定めておきます。自動入札の仕組みでは、現時点の入札額がAさんの限度額よりも低い場合は、その時点の最高額に上乗せして入札を行います。

 

それを繰り返し、Aさんが最高額となったら自動入札は一旦停止されるのです。また、Aさんの限度額で入札してもオークションの最高額に達しない場合も自動入札は停止されます。

 

例:ワインに関する自動入札

 

前提:売り手はフランス産のワインを1本オークションに出品しています。買い手は、AさんとBさんの2人です。ここでは、2人とも自動入札の仕組みを利用しています。また、入札の最小単位は1,000円とします。

 

つまり、1,000円単位で自動入札が行われることを意味し、Aさん、Bさんが設定した限度額は、Aさんが9,000円、Bさんが15,000円です。

 

はじめに、Aさんが7,000円で入札したとします。この時点ではAさんが最高入札者です。そこからBさん、Aさんと交互に入札が自動で行われていきます。

 

1回目:Aさんが7,000円
2回目:Bさんが8,000円
3回目:Aさんが9,000円
4回目:Bさんが10,000円

 

交互に自動入札が進み、Bさんが4回目の自動入札を行い、10,000円を入札した時点で、Aさんの限度額(9,000円)を超えていますので、Aさんの自動入札は停止されます。落札者はBさんとなるのです。

 

そして、Bさんは10,000円を支払うということになります。つまり、落札者は2番目に高く設定された入札額に最小の入札単位の金額を加えた額を支払うことを示しているのです。

 

通常のオークションであれば、Aさんは限度額を更新することもできます。その場合、自動入札が再開されることになりますが、当然Bさんにも限度額を更新する権利がありますので、どちらか一方が脱落しない限りオークションは続くことになります。

 

セカンド・プライス・オークションと英国式オークション

 

例示したようにセカンド・プライス・オークションと英国式オークションの場合は、買い手は自身の次に高い価格を入札した人の入札額を知っている必要はありません。自分自身の私的価値に従って入札することが最も良い結果をもたらします。

 

その結果、売り手にとっても期待収入を得ることができるのです。オークション自体を見ても、最も高く評価する買い手が落札者となり、その落札者は自身の入札額ではなく、2番目の高値の額を支払うのみとなります。

 

それらの結果、買い手、売り手共にWin-Winの結果となるのがセカンド・プライス・オークションと英国式オークションとなります。

 

ファースト・プライス・オークションとオランダ式オークション

 

ファースト・プライス・オークションとオランダ式オークションは本質的には同じ仕組みに分類されます。オランダ式オークションの場合は私的価値を買い手が頭の中にイメージしておき、ファースト・プライス・オークションの場合は紙に書いて入札します。

 

オランダ式オークションの場合は、オークションがスタートすると価格は下がっていき、買い手が考える入札額の中で最も高いところに到達した時点で、購入の意思を示して落札することになります。

 

ファースト・プライス・オークションの特徴は、自身が購入の意思を示した額が実際の購入時に支払う額になることです。

 

元々、想定していた私的価値で入札すると自身が落札した場合においても私的価値と同額を支払うことになりますので、入札額と私的価値の差分である利得は0円となります。

 

自分が想定していた価格よりも低い額まで購入意思を示すのを引き延ばすことに成功すると、その差額を利得として得られるのです。つまり、自身の想定していた価格よりも低い金額で購入意識を示すことに成功すれば、それだけ大きな利得を得られます。

 

しかし、その分、他者が購入意識を示す可能性も高まりますので、自身が落札者となる可能性は低くなるでしょう。買い手は、自身の落札確率と利得の積算で算出される期待利得金額が最大となるように行動する必要があります。

 

この場合、買い手が落札者となる確率は他者がどのような金額で購入意思を示すかに依存しているのです。各買い手がお互いに他者の戦略を予想しながら最適な行動を取るベイジアンナッシュ均衡となります。

 

 ファースト・プライス・オークションとオランダ式オークション

 

ベイジアンナッシュ均衡

 

ベイジアンナッシュ均衡とは、買い手が2人いて、互いに自身の評価額の半分(1/2)を入札することを示しています。その前提は、買い手2人の評価額が0円〜V円までが等確率で分布していることです。

 

ベイジアンナッシュ均衡の例

 

0〜Vまでの一様分布のV=1の場合を考えます。ここでは、評価金額が0円〜1万円ということにします。その0円〜1万円に対して、2人の買い手、AさんとBさんが評価する確率が等確率になっています。均衡点では、買い手は評価額の半分である1/2で入札します。

 

Aさんは、自分自身の評価額をa円とします。そしてAさんがX円で入札し、落札できたとします。その場合の利得はa-X円です。

 

期待利得額=(X円で入札できる確率)×(a-X円の利得)

 

で算出されます。Aさんが入札額X円で落札できるのは、Bさんの入札額がX円よりも小さい場合です。つまり、「a-X > 2X」 が成り立つことことが前提となります。そのため、

 

期待利得=2X(a-X)

 

となるのです。この計算式を展開すると、

 

期待利得=-2X2+2aX

 

となるため二次関数であることがわかります。このグラフはX=0とX=aの際に利得が0円になることを意味しています。期待利得が最大となるのは、X=a/2の時となりますので、入札額Xは自身の評価額a円の半分で入札することが最適となることを示しているのです。

 

ちなみに、最適となる入札額で入札した場合の期待利得は、以下のようになります

 

期待利得 =2×a/2×(a-a/2)
=a×a/2
=a2/2

 

ファースト・プライス・オークションは、最も高い価格で入札した買い手が落札者となり、支払額は自身が入札した全買い手の中で最も高い価格での支払いとなります。

 

オランダ式オークションもファースト・プライス・オークションと同様ですが、買い手は「もっと安く買えたのではないか?」という想いを持つでしょう。これを勝者の呪いといい、この形式のオークションでは必ずつきまといます。

 

勝者の呪いを解消するオークションルールとして、英国式オークションやセカンド・プライス・オークションがあるのです。

 

収入同値定理

 

オークションに出品する売り手にとっての最大の関心ごとは、どういった仕組みのオークションに出品すると高値で売れるのか、自身の収入を最大化できるのか、ということです。

 

収入同値定理は、一定の条件下においては、どの仕組みのオークションでも売り手が得られる期待収入は同一であるという定理になります。これまでに解説してきた主要な4つのオークションルールは、以下の通りです。

 

・オランダ式オークション
・ファースト・プライス・オークション
・英国式オークション
・セカンド・プライス・オークション

 

収入同値定理が成立するための前提条件は以下の2点になります。

 

・全ての買い手は、リスク中立型である

 

・評価額の0〜Vまでは等確率で分布している(一様分布であること)

 

上記2点の条件下において、4種類のオークションでは、売り手の期待収入は全て同じになります。この結果を証明したものを収入同値定理といいます。

 

この定理の証明によって、オークションに出品を考えている売り手にとっては、採用するオークション方式で悩むことがなくなるため、非常に実用的な定理であると言えるのです。

 

ファースト・プライス・オークションでは、買い手が2人で私的価値が0〜Vまでの確率が一様分布となっているとき、買い手は私的価値の1/2で入札することが最適となります。

 

つまり、私的価値を高く設定した人が落札することになるのです。このような前提を押さえた上で次を考えます。

 

2人の買い手のうち、高い方の私的価値の期待値は、2V/3となり、支払額の期待値はその半分となる為V/3となります。

 

これは、オランダ式オークション、ファースト・プライス・オークション、英国式オークション、セカンド・プライス・オークションのどれでシミュレーションを行っても同値となります。オークションに出品して収入を得るという観点では、どのオークションでも同じということになるのです。

 

収入同値定理が不成立となる場合

 

<私的価値に相関関係がある場合>

 

例えば、Aさんは商品が高いと考えて私的価値を高く設定したとします。そのように考えるAさんは他の参加者も高い評価をしていると考えるはずです。

 

また反対にAさんが低く私的価値を設定した場合においても、他の参加者も低く評価しているはずだと考えます。このように考えることが私的価値に相関関係があると言います。

 

英国式オークションでは、高い私的価値を設定した買い手は、積極的に高値を付けていくことになり、落札額が大きくなる可能性があるのです。

 

<談合が行われた場合>

 

買い手の間で入札額に対する談合が行われると、収入同値定理は成立しません。複数人の買い手の内、1人だけが落札するように入札額を提示し、他の参加者が極端に低い入札額を提示することがあります。

 

セカンド・プライス・オークションの場合では、落札者は通常のオークションでは得られないほどの低い値で商品を手に入れることが可能となってしまうのです。

 

つまり、Aさんは私的価値が1万円だと考え、1万円で入札したとします。それ以外のB〜Dさんも同様に1万円前後を私的価値だと考えていたとしても、談合でBさんは3,000円、Cさんは2,000円、Dさんは1,000円を入札したとしましょう。

 

すると、落札者はAさんとなり、支払う額は2番目に高い3,000円となります。このようなことが起こってしまうと、正常なオークションは成り立ちません。1万円と考えていたものが3,000円で手に入ってしまうためです。

 

つまり、買い手の私的価値に相関関係がなく、独立であること、談合などの不正が行われないということが前提となりますが、そのような条件下ではどのようなオークション方式を採用しても売り手の収入は同値となることが言えます。

 

共通価値と勝者の呪い

 

共通価値は、ある商品に対して、買い手(売り手含む)全ての人が同等の価値であると考えていた場合においても、市場における評価額は推定が必要となることです。

 

例えば、絵画などは、美術関係者が資産として購入することもあります。この場合の絵画は、現在の価値だけではなく、将来的な価値を含み、この将来における市場価値は全員に共通のものとなります。

 

しかし、現在の真の価値や将来価値は誰にもわからず、各人がそれぞれの推測のもとで価値が決まってきます。このような価値を共通価値と呼んでいます。

 

勝者の呪いとは

 

勝者の呪いとは、勝者が商品を落札した後、実際の価値は事前の自身の予想(入札額)よりも低くなることをいいます。

 

例えば、Xさんは美術工作品の価値をだいたい10万円くらいだろうと考えていました。ファースト・プライス・オークションが行われていたため、8万円で入札を行い、落札できれば2万円の得になると考えていたとします。

 

Xさんのこの考え方は、オークション理論に照らし合わせると正しくありません。Xさんが8万円で落札するということは、他の買い手はXさんよりも低く価値を予測し、入札していたことを示しています。

 

Xさん以外の予測が正しいとすると、Xさんの予測は他の人たちよりも高く予測してしまっていたことになります。そのため、実際の価値はわからないものの、もしかしたら市場価値は5万円で3万円の損をしているかもしれないのです。

 

このような状況、Xさんが実際はもっと安いのかもしれないと思いながら入札する心理を勝者の呪いといいます。

 

共通価値と勝者の呪い

 

土地の競売に関する例

 

土地の競売案件を例にとって、私的価値と共通価値の考え方や勝者の呪いについて解説します。

 

10年近く土地開発が行われていなかった土地の競売に関して、マンションの施工業者(A社)が入札することを考えます。A社が土地を活用し、マンションを施行し販売していくことは、A社のみに影響を及ぼすと考えられるため、私的価値であると言えるでしょう。

 

一方、地域住民のマンションへの需要が高まっているということは、入札するA社以外にも影響があります。各業者が入札に対して、地域性や住民の需要、周辺施設との兼ね合いなど、多くの情報から入札額(評価額)を推察するのです。

 

これは共通価値の要素と言えるでしょう。ここで、共通価値の要素が含まれると、勝者の呪いが発生します。A社は落札するにあたって、本来の価値、他社が入札してくる額は自社の予想よりも低いのではないか、という推察を含んで入札する必要があります。

 

多くの正確な情報から予想の精度を高めた上で慎重に行動することが、勝者の呪いを回避するための策です。具体的には、上記の例でいうと、これまで10年近く誰も手を出してこなかった土地という点について、何かしらの理由があると考えるのが妥当でしょう。

 

土地が汚染されているのかもしれませんし、周囲の環境がよくないのかもしれません。または、周辺住民からマンションへの需要がないのかもしれません。何が正しいかはわかりませんが、10年近く開発されてこなかった実情に対しての分析を慎重に行うことが肝要です。

 

オークションに参加する買い手は、市場において常識的に妥当だと予想される価格についての情報を得ることができない場合があります。そのため、オークションに参加する前に、オークションに出品されている商品の価格について、自身で情報を収集して仮説で予測する必要が出てくるのです。

 

しかも、オークションで商品の購入となる特性上、他者と競ることになるため、自身が予測した価格よりも高値になることは多々あります。結果的に、入札をした買い手は、市場価値よりも高値で購入する可能性が高くなり、その結果が「勝者の呪い」を引き起こしていると言えるのです。

 

まとめ

 

・オークションはゲーム理論における重要な分野

 

・ゲーム理論に基づいてオークションが設計されることもある

 

・オークションのタイプは大きく「オープン・ビットオークション」と「シールド・ビットオークション」に分けられる

 

・オープン・ビットオークションは「イギリス式オークション」と「オランダ式オークション」に分けられる

 

・シールド・ビットオークションは「ファースト・プライス・オークション」と「セカンド・プライス・オークション」に分けられる

 

・多くのオークションはこの4つのタイプか、これらを複合させて設計されたもの

 

・英国式オークションとオランダ式オークションの共通点は、公開オークションであること。これは入札額が買い手に見えている状態でオークションが進む。ポイントは私的価値の設定次第で購入可否が決まること

 

・ファースト・プライス・オークション、セカンド・プライス・オークション共に自身が考える評価額で入札することを前提としているが、ファースト・プライス・オークションでは勝者の呪いに陥る危険性がある

 

・その点を改善したセカンド・プライス・オークションでは、自身が評価する額を正直に書いて入札することを後押しする仕組みとなっている

 

・買い手、売り手共にWin-Winの結果となるのがセカンド・プライス・オークションと英国式オークション

 

・ファースト・プライス・オークションとオランダ式オークションには勝者の呪いがつきまとう

 

・勝者の呪いを解消するオークションルールとして、英国式オークションやセカンド・プライス・オークションがある

 

・収入同値定理を考えると、どのようなオークション方式を採用しても売り手の収入は同値となる

 

・真の価値や将来価値は誰にもわからず、各人がそれぞれの推測のもとで決めている価値が共通価値

 

・勝者の呪いとは、商品を落札した後、実際の価値が事前の自身の予想(入札額)よりも低くなること


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