クールノー競争とベルトラン競争
クールノー競争は、「ゲーム理論」や「ナッシュ均衡」といった概念が生まれる前から存在する戦略モデルの1つです。
19世紀の哲学者・数学者・経済学者であるアントワーヌ・オーギュスタン・クールノーが提唱したもので、寡占状態における企業間の生産量の調整をモデル化しています。
X社とY社の寡占市場において、X社が自社の利潤を大きくするために先月よりも生産量を減らし価格を上昇させるとします。しかしY社も同じことを考えて生産量を低下させるでしょう。するとX社が当初考えていたよりも市場価格が上昇してしまいます。
これを受けてX社は次の月には生産量を増やして、市場価格を想定した価格に調整しようとします。ところがここでもY社が同じことを考え、生産量を増やすので、今度はX社が考えていたよりも市場価格が下落してしまうのです。
そこでX社はまた価格を上げるために生産量を減らして……。この繰り返しをクールノー競争と呼びます。
このクールノー競争の中でもたらされる企業(=プレイヤー)間の均衡がクールノー・ナッシュ均衡です。なぜクールノー競争の方が先に提唱されたにもかかわらず、この呼び名がついているのでしょうか。
それはクールノー・ナッシュ均衡においては、企業は生産量を決定する際に互いの生産量に影響を受けながら、利潤の最適化をするとされているからです。
これをゲーム理論に引きつけると、この均衡ではプレイヤーは「生産量」という戦略を使って、互いに最適反応を取り合っているということができます。つまりクールノー競争におけるナッシュ均衡になっているというわけです。
「生産量」を戦略として、プレイヤーが利得の最大化のために駆け引きをした結果、互いにとっての最適反応を選択した結果が、クールノー・ナッシュ均衡なのです。
以上がクールノー競争及びクールノー・ナッシュ均衡の説明です。以下ではこれが数理的にどのような構造になっているのかを説明していますが、「数式は苦手だ」という人は飛ばしても問題ありません。
クールノー・ナッシュ均衡の導き方
まずは前提として次の5点を定めます。
1. X社とY社は同一財・同一市場の2社である。
2. 一つの財あたりの費用は2である。
3. XとYは同時に生産量Qx・Qyを決定する(同時手番ゲーム)。
4. 一つの財あたりの販売価格は逆需要関数(※)「P=10-Qx-Qy」で決められる。
5. 利潤=総収入-総費用とする。また利潤はゲーム理論における「利得」と同義である。
※需要関数とは「取引量=価格の関数」(価格によって取引量が決まる状態)を指す。よって、逆需要関数とは「価格=取引量の関数」(取引量によって価格が決まる状態)となる。数式で表すと、関数y=f(x)に対してx=g(y)を「逆関数」と呼ぶ。
以上を踏まえて次の数式を見てください。
赤いアンダーラインの部分がX社の最適利潤(最適反応)を指します。同時にこの部分は「Y社の生産量に影響されるX社の最適利潤を示す放物線」です。
企業の利潤は最初は作れば作るほど膨らんでいきますが、一定以上の生産量を超えると、販売量が減少し始めるため、利潤も低下していきます。つまりX社の最適利潤の関数は上に凸な放物線になるのです。
対して1行目の右辺の数式は販売価格Pを指す青いアンダーラインの部分にX社の生産量を乗じて、そこから総費用を示す緑のアンダーラインを差し引く数式です。
1行目の数式を書き換えると、「企業の最適反応=価格×生産量-総費用」という構造になっています。
これを因数分解したものが、3行目の数式です。企業活動では生産量がゼロのとき、利潤はゼロです。したがって1行目右辺は「y=x2」の形になる必要があります。このことから、X社の最適反応Qx及びY社の最適反応Qyは以下の数式となります。
この数式からわかるのは、右辺のX社(あるいはY社)の生産量が、左辺のY社(あるいはX社)の生産量によって決定されているということです。x軸をQx、Y軸をQyとし、生産量を0以上と考えた場合のそれぞれの最適反応は、以下のようなグラフを示します。
この2つのグラフの交点が「クールノー・ナッシュ均衡」です。この交点の座標と、それをもとに計算したX社とY社の利潤は以下のようになります。
これらのことから寡占状態において、企業同士が「生産量」を戦略として互いの最適反応を取ると言うことができます。
ここは数式が出てきて難しく感じる部分かと思いますが、クールノー競争下では企業間の生産量の調整が最終的に最適反応を取り合い、ナッシュ均衡となるということです。
ベルトラン競争
フランスの数学者ジョセフ・ベルトランは1883年、「クールノー競争」を提唱したアントワーヌ・クールノーの著作『富の理論と数学的原理に関する研究』と、「すべての経済学者の中で最も偉大」と言われることもあるレオン・ワルラスの『社会的富の数学的理論』に対する書評を展開します。
その中でベルトランが提唱した理論の1つが「ベルトラン競争」でした。
ベルトラン競争とは
「クールノー競争」のところでも見たように、クールノーの提唱したモデルは「価格は生産量によって決定される」と主張しています。
しかしベルトランはこの主張に疑問を持ち、「ベルトラン競争」では「生産量は価格によって決定される」とし、経済的競争においては生産量よりも価格が重要であるとしたのです。
以下ではベルトラン競争下ではどのような競争が行なわれているのかを、具体的な数値を用いながら見ていきましょう。
例題
X社とY社が同じ市場で原料も味付けも分量も全く同じお好み焼きを販売しています。総取引量をQ、市場価格をPとした場合の需要関数を「Q=500-P」とし、費用をCとした費用関数を「C=95Q」とします。
以下のそれぞれのケースについて、2社の利潤がどのように変化するかを、ベルトラン競争の考え方に基づいて考えてみましょう。
ケース1:X社がY社よりも安い価格をつける。
ケース2:Y社が原価を価格に設定する。
ケース3:X社が原価割れ戦略を実行する。
解説
ベルトラン競争において消費者は「安い価格をつけた生産者からしか買わない」ことが前提となります。なぜなら財は全く均質であるため、差は価格しかないからです。ケース1からケース3のそれぞれについて、X社とY社それぞれの利潤を計算したのが下図です。
ケース1ではX社が120円、Y社が125円をつけています。したがって消費者はX社のお好み焼きしか買わず、Y社の利潤はその時点でゼロです。対してX社の利潤は9,500円となります。
<X社の利潤>
Q=500?120=380
売上=380×120円=45600円
C=95円×380=36100円
利潤=売上?費用(C)=9500円
そこでY社が思い切って価格を原価(=95円)に設定したのがケース2です。X社よりもY社の価格が安くなるので、X社のお好み焼きを買う消費者はいません。しかし同時にY社の価格設定では利潤もゼロになるため、ケース2ではX社・Y社ともに利潤はゼロです。
安売り合戦に躍起になったX社はケース3「原価割れ戦略」を打ち出します。価格は90円です。すると確かにX社の方が安いため、消費者はX社からしかお好み焼きを買わなくなります。
しかし売れば売るほど赤字、すなわち「負の利潤」が積み重なるため、X社の利潤はマイナス2,050円です。
<X社の利潤>
Q=500?90=410
売上=410×90円=36900円
C=95円×410=38950円
利潤=売上?費用(C)=-2050円
これがベルトラン競争の考え方です。
ベルトラン・ナッシュ均衡とは
クールノー競争では、各プレイヤーが「生産量」を戦略として、互いに最適反応を選択している状態を「クールノー・ナッシュ均衡」と言います。ベルトラン競争では、各プレイヤーは「価格」を戦略とし、各プレイヤーが最適反応を選択した状態を「ベルトラン・ナッシュ均衡」と呼びます。
ベルトラン・ナッシュ均衡の解はたった1つ。「限界費用」(原価)です。下図はX社とY社をプレイヤーとし、「限界費用(=95円)」「限界費用以上」「限界費用以下」という3つの価格の戦略を選択した場合のそれぞれの利得(=利潤)を示したものです。
X社にとってはD、Y社にとってはBの戦略の組み合わせでは、確かに利潤は自分も相手もゼロになりますが、自分の方が価格が高いため、商品は1つも売れていません。
また2社とも限界費用以下の戦略を選んでしまうと、利得はゼロかマイナスになります。Iのように限界費用以下での価格競争に負けた場合は、利潤はマイナスにならずゼロで済みますが、やはり商品は1つも売れていません。
問題はEの場合です。安い価格をつけた方は利潤を独占できますが、高い価格をつけた方は利潤がゼロになってしまいます。このとき2社は相手よりも少しでも安い価格をつけようと、価格競争をはじめます。
その結果、価格はどんどん限界費用(=95円)へと近づいていき、2社は「限界費用」を戦略として選ぶことになるのです。
したがって、ベルトラン・ナッシュ均衡は常に限界費用を示します。
まとめ
・クールノー競争は寡占状態における企業間の生産量の調整をモデル化したもの
・クールノー・ナッシュ均衡とはプレイヤーが「生産量」という戦略を使って、互いに最適反応を取り合っている状態を指す
・クールノー・ナッシュ均衡を数式で導くと、プレイヤーの生産量が互いの生産量に影響されていることがわかる
・ベルトラン競争では生産量は価格によって決定される
・ベルトラン競争では消費者は、安い価格をつけた生産者からしか買わない
・ベルトラン競争では財は全く均質であるため、差は価格しかない
・ベルトラン・ナッシュ均衡は常に限界費用を示す
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