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オーセンティック・リーダーシップとは

オーセンティック・リーダーシップは、メドトロニック社のCEOであったビル・ジョージによって、2003年に提唱された理論です。

 

2001年にはエンロン社が、2002年にはワールドコム社が、それぞれ巨額の粉飾決算を露呈したことにより、相次ぎ経営破綻に追い込まれました。これらの会社のCEOは、従業員、顧客、投資家などの企業を取り巻くステークホルダー(利害関係者)の利益よりも、私腹を肥やす事を優先したのです。

 

ビル・ジョージは、粉飾を行ったことを痛烈に批判し、企業のトップマネジメントのあるべき姿を示しました。そのため、倫理観を重視したリーダーシップ理論となっています。

 

オーセンティックとは、真正の、本物の、信頼できる、頼りになる、信念に基づく、という意味があります。ジョージは、オーセンティック・リーダーの特性として、次の5つを挙げています。

 

1. 目的|自らの目的を理解する
2. 価値観|しっかりした倫理観に基づいて行動する
3. 真心|真心を込めてリードする
4. 人間関係|永続する関係を築く
5. 自己規律|自己規律を保つ

 

また、それぞれの特性を獲得し開発するための要件も示しています。それをまとめると、以下の図のようになります。

 

オーセンティック・リーダーシップの特性と開発要件

 

開発要件

 

ジョージは、これらの5つの特性、リーダーが開発するための要件を提示しています。一つひとつ見ていきましょう。

 

1. 目的の開発要件 − 自分の目的に捧げる「情熱」

 

ジョージは、人生の目的に情熱を燃やし続けることは容易ではないと言っています。人生を通じて情熱を燃やし続けるためには、高度にモチベーションを感じる職に就くことを推奨しているのです。

 

2. 価値観の開発要件 − 自分の価値観に沿った行動を貫く

 

企業のトップに自分の信じている価値観を問うと、たいがいは立派な見解をしっかりと示します。しかし、その行動が全く逆であることがしばしば見られます。

 

タイコ社の元CEOのデイブ・コロウスキーは、英国ケンブリッジ大学に企業ガバナンスの寄付講座を開設していましたが、自社の企業ガバナンスは崩壊していました。ジョージは、自分の価値観を貫くことは、ときに困難を伴うことを認めつつも、行動をねじ曲げないことが、その人の将来に必ずつながると説いています。

 

3. 真心の開発要件 − 社内の者だけではない他の人々への愛情を育む

 

世のリーダーは、部下に限らず家族や友人を含めた他人に無関心な人が数多くいます。しかし、家族、友人、会社の同僚、部下との親密な関係を築くことで、愛情を育むことができるのです。個人的な共感を通じて得た結びつきを通じて、人々はリーダーに信頼を寄せ、後を追う決心を固めると、ジョージは主張します。

 

4. 人間関係の開発要件 − 深い結びつき

 

人間関係は、共通のゴールに向かっての協力関係で深く結ばれるとしています。他の者への共感を示せば、分かち合いたい人生を語ってくれ、そのときに信頼関係が生まれ、親密な関係を築くことができると主張しているのです。

 

5. 自己規律の開発要件 − 一貫性

 

本物のリーダーは、常に一貫性のある行動が取れるようにしなければなりません。そのためには、ストレスを仕事に影響させない工夫が必要であり、頭脳をシャープに保つ方法を実践することが求められます。

 

ステークホルダーの優先順位

 

ステークホルダーとは、企業の利害に影響を与える者のことです。具体的には、従業員、株主、顧客、取引先、地域社会、行政機関などを指します。

 

これらの中で、特に重要なステークホルダーである、従業員、株主、顧客の3者について、ビル・ジョージが優先順位をどのように考えているのか見てみましょう。

 

彼は、まず顧客を第一優先にすべきだとしています。その理由は、株主のために行動することよりも、顧客のために行動する方が従業員のモチベーションを高めやすいからです。

 

当然、株主利益を確保することは重要ですが、株主の利益を第一優先とした場合よりも、顧客の利益を第一優先とした方が、長期的に見ると株主への貢献額も大きくなると主張しています。

 

第二優先は従業員、第三に株主としていますが、理由は同様です。従業員のモチベーションを高め維持することが、結果として長期に渡って株主利益を最大化することにつながるとしています。

 

倫理上のジレンマとは

 

「世の中の多くの経営者は、倫理観はビジネススクールで討議される課題であって、実際の経営上の問題ではないと信じている」とジョージはいいます。

 

ほとんどの企業では、明文化された倫理基準を持っており、入社時に従業員は必ずサインさせられるでしょう。しかし、この倫理基準は、実際に倫理観に則って判断が必要となったときに活かされるかどうかで、実効性が試されるのです。

 

例えば、ファイヤストーン社のタイヤを使用したフォード社の車で死亡事故が起こりましたが、両社はお互いに非難し合うことに終始しました。エクソン社のタンカーがアラスカ沖で座礁し、地元の漁業に壊滅的被害を出しましたが、エクソン社のトップは一度も現場に足を運ぶことはなかったのです。

 

一方で、ジョンソン・エンド・ジョンソン社は、店頭の自社商品に何者かが青酸カリを仕込んで死者が出るという事件で異なる対処をしました。当時のCEOであったジェームズ・バークは、自社の責任ではないにもかかわらず、異物の混入を防ぐ新しい梱包が完成するまで、その全商品を撤収したのです。

 

このように、倫理観は企業の社会的危機を回避することに役立つということを、ジョージは説いています。

 

例1:カネボウ経営陣の倫理観の欠如

 

カネボウ株式会社は、粉飾決算を永年にわたり繰り返していたことが発覚し、経営破綻に追い込まれ、2004年3月に産業再生機構傘下に入ることとなりました。

 

カネボウの経営破綻の原因は1960年代後半に始った業容拡大路線にあると言われています。ペンタゴン経営と呼ばれた繊維・化粧品・食品・薬品・住宅の5事業を中核とした経営は、いずれかの部門で赤字が出ても、他の事業で補うというコンセプトがあり、それが粉飾の土壌を作り上げることになります。

 

1972年の第一次オイルショックで繊維事業が大打撃を受けると、他事業でもカバーはできず、赤字を計上することとなってしまいました。小規模な粉飾が行われ始めたのはこの頃からです。

 

その後無配に転じると、明らかな粉飾が度々行われるようになり、1990年以降は毎期行われるようになります。1998年以降は債務超過が確実となり、それを隠すために、当時のトップマネジメントは意図的な大規模粉飾決算を毎期行っていたのです。

 

この粉飾決算を指南していたのは、本来であれば粉飾を戒める役割であるはずの監査法人の会計士でした。翌年も粉飾を繰り返し、結局2003年度には3500億円にも及ぶ債務超過に陥っていたのです。

 

社内には、到底達成不可能なノルマ達成圧力と緩い倫理観が企業風土として存在したといわれています。

 

この事例では、倫理観を喪失したトップマネジメントが迷走し、会社を経営破綻に走らせることになってしまいました。多くの従業員、株主、金融機関、取引先などのステークホルダーに多大な損害を与えたことは言うまでもありません。

 

主な不正経理

 

企業ガバナンスの重要性

 

ビル・ジョージは、ガバナンスについての理想を述べています。ここには、多くの日本企業のトップマネジメントが傾聴すべき、示唆が含まれているでしょう。

 

ガバナンスとは、企業統治と訳されます。株主や銀行、債権者、取締役、従業員など企業を取り巻くさまざまなステークホルダー(利害関係者)が企業活動を監視して、健全かつ効率的な経営を達成するための仕組みのことです。

 

米国では、役員会が大きな役割を果たしますが、日本では取締役会がそれに当たります。役員会がうまく機能していないと、CEOがステークホルダーよりも自らの利益確保のために暴走したとしても、それを阻止することができません。

 

ジョージは、役員会とCEOの役割分担を明確にし、役員会にCEOやその他役員の評価を行う仕組みを確立すべきだとしています。役割分担を機能させるためには、役員会の議長をCEOが兼任してはなりません。

 

役員の人選もCEOの裁量ではなく、多岐にわたる分野から高度な提言を得られる人物を選ぶ仕組みを整えるよう、提唱しています。

 

【まとめ】

 

・オーセンティック・リーダーシップは、メドトロニック社の元CEOのビル・ジョージが提唱した理論で、トップマネジメントが自らの利益のために粉飾決算を行ったエンロン社事件への戒めに端を発している

 

・オーセンティック(真正の)・リーダーは、.目的、価値観、真心、人間関係、自己規律を重視する

 

・CEOが率先して、自ずからを含むトップマ・ネジメントを評価するガバナンス体制を構築することが重要である


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