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定量分析とは…ビジネスパーソンが知っておくべきデータの分析手法

21世紀は情報社会といわれています。情報技術が著しく発達したことで、私たちの生活は一変しました。

 

特にビジネスにおいては、時価総額のトップランキングをT関連企業が占めていることを考えると、情報技術の重要性が益々高まってきていることがわかると思います。

 

そこで、現在のビジネスパーソンには、情報を適切に扱うスキルが求められています。特に社内外に蓄積されたデータから意味ある情報を抽出し、論理的な意思決定のために活用することが重要です。情報を定量的に扱う分析手法を学ぶ意義は、相手を説得することにあります。

 

この記事では、データや情報を分析してビジネスに活かすための、定量分析のやり方を解説していきます。

 

ビジネスセンスがないと出世できないのか

 

上司や先達の判断は、驚くような発想や鋭い指摘でかなわないと舌を巻くことがあります。そして、そのようなとき、自分にはビジネスセンスがないのだろうかと落ち込むことがあるかもしれません。

 

ビジネスセンスがあるから、相応の役職を手にいれて成功者になるのでしょうか。分析力のあるコンサルタントに丸投げし、現場の社員は決められたことをただ実行すればよいのでしょうか。

 

しかし、そのように考え、自分にはできないとあきらめるのは早いかもしれません。

 

ビジネスの意思決定にかかわる経営学において研究が進み、定石ともいえる分析手法が存在しています。情報を整理してその特徴を見出す技術を習得し、意識して使えるようになりましょう。そのように過ごした時間の先に、ショートカットして思考する能力が発揮できる日が来るのです。

 

社会人として働く期間は、40〜50年にも及びます。近年、情報革命とよばれるように通信技術が進歩して、手の中にある携帯端末から情報収集できるようになりました。この過程で、広告業界では紙媒体が斜陽となってWEB系サービスが広く普及し、情報産業ではビッグデータやAIの技術が注目されています。

 

社会の変化を見極め自身の能力を改善していく力があれば、社会人としての逆転ホームランも可能なはずです。

 

勘にたよらない合理的な課題の設定と解決手段で説得する

 

ビジネスの現場では、目標とされるノルマと現状にギャップがあります。会社では1年の初めに、従業員が集められての決起集会が開かれることも多いでしょう。その次は、各部署や個人に割り振られた予算をどのように達成するのかという個人面談がセッティングされて、営業パーソンが憂鬱になる時期です。

 

法人営業の場合は、案件の積み上げによる獲得見込みと実績が、会議の報告事項になります。「頑張ります。たぶん大丈夫です」という言葉にかわる説得方法はあるのでしょうか。

 

営業推進部のような部門がある場合には、ターゲットとなる企業や事業所の一覧と担当者を紐づけ、取引状況を分類します。エクセルなどの一覧表で管理をしたり、CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)のクラウドシステムを導入している企業も多いでしょう。

 

ここで管理する項目は、ターゲット顧客は新規か既存か、営業活動のフェーズはどこまで進んでいるのか、コンペの有無はどうか、といったことです。それぞれの状況にあわせた成約率を設定することで、仮説売上がたちます。

 

ある業界に対する売上やシェアが極端に低い場合には、業界に精通した営業パーソンを中心にした対策チームを立てる必要があるでしょう。また、ある地域に対する売上やシェアが低い場合には、支店の新設や営業の強化が必要になります。

 

営業推進部がない場合には、営業担当が独自にこれらの営業策を立案する必要があるでしょう。営業行動を記した日報を書くのではなく、意識的に営業活動の情報を整理してベンチマークをする作業は大変な作業です。

 

しかし、ある程度のまとまりごとに売上やシェアの定量データを導き出せれば、会社の資源である「ヒト・モノ・カネ」を投入する説得力ある提案になるのではないでしょうか。

 

定量データ分析の基本となる考え方は、「大きさ「分ける」「比較する」「時系列」などがあげられます。

 

定量データ分析の考え方

 

期初のミーティングで次のような発言をすれば、上司は安心して任せられると感じられるはずです。

 

「私が担当する顧客の状況を見直してみました。AA業界の成約率が低いことがわかったので、この業界に精通しているB先輩に同行をお願いし、指導を受けることで受注につなげます。伸び盛りのXX業界は、新規顧客開拓につなげるために20社程度を集めたセミナーを2回開催します。これにより、昨年から増分になった予算YYY万円を達成できる見込みです。この実現のためにZZ万円のセミナー予算を確保し、広告費にあてたいと考えています。つきましては・・・」

 

大きさの程度…重要度に応じた経営資源投入の在り方を考える

 

意思決定のための分析の技術」で著者の後正武氏は、分析の基本は「大きさを考える」、「分けて考える」、「比較して考える」、「時系列を考える」の4つであると述べています。まず、「大きさを考える」に着目していきます。

 

大きさを考える…マーケットサイズの違いを乗り越えるテーマパークの未来

 

事業の新規参入に際し、競合他社を取り上げて収益性を試算することがあります。また、施設見学などで現地へ出向くこともあるでしょう。そのようなときに、事業規模の算出の根拠となるマーケットサイズを考えることは重要です。

 

意思決定のための分析の技術」では、北九州のスペースワールド開業時に、東京ディズニーランドをベンチマークとした事例をあげていました。大坂のユニバーサル・スタジオ・ジャパンの業績をV字回復させたと話題になった森岡毅氏の著書にも、東京ディズニーリゾートをベンチマークとした事例がでています。

 

北九州市と大阪市、浦安市に立地する各テーマパークを、どのようにベンチマークしていけばよいのでしょうか。周辺の人口や対象年齢層の割合、夏休みなど長期休暇中に訪れる旅行客数、交通手段の費用などがわかれば、事業の試算はできそうなものです。

 

しかし、ディズニーリゾートに関していえば、これまでにその世界観を培ったマーケティング費用がブランド資源となり、ゲストを魅了していることは明白であるので、単純な金額の比較にはなりません。

 

映画をテーマにすることからはじまったユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、アニメやゲームなどのエンターテイメント領域のセレクトショップへと変貌を遂げることで急成長しています。宇宙をテーマにしたスペースワールドは、新たな魅力を打ち出せないまま、2018年元旦に閉園してしまいました。

 

首都圏と大阪、北九州、これらはマーケットサイズが異なることを正しく認識したうえで、その差を乗り越える魅力を提供できるかによって、事業の繁栄と衰退の未来が変わってきます。市場規模を意識し、重要度に応じて経営資源の投入方法を考えなければなりません。

 

大きさを考える…80対20の法則を使い、異なる施策を実施する

 

80対20の法則は、2:8の法則やパレートの法則ともいわれる分析手法の一つです。多品目を扱う場合、「売れ筋の上位20%の商品によって8割の売り上げがもたらされる」といった傾向があり、そのまま分析手法の名称になりました。

 

品揃えが重要視される機械部品業界では、在庫スペースの確保や管理に要する人員を、いかにコントロールするかが重要です。

 

80対20の法則を参考に現状調査を行い、大きな売上を占める上位品目を特定して各営業所に配置することで欠品を防ぎ、それ以外の商品は在庫の管理を1か所に集約するといった取り組みを行うことができます。

 

優先順位としては大きな部分から考えていくことを意識します。

 

このときに、視覚的に便利なグラフがパレート図と呼ばれるものです。パレート図は、降順に配置された棒グラフと、累積構成比を表す折れ線グラフの複合グラフで表現されます。表をうまく整えることで、エクセルでもグラフを作成できます。

 

商品を売上の高い順に並べ、累積売上構成のグラフが80%を示すラインまでに入る商品は、重点商品といえます。

 

パレート図

 

大きさを考える…感度分析から、着手する優先順位を導く

 

感度分析は、ある選択肢が全体に与える影響度を考慮する分析手法の一つです。

 

先ほどの機械部品業界の話を例に続けます。商品ごとの開発コストが同じだとすれば、「売上下位80%の商品群の開発をやめても、売上に与える影響は20%、開発費の大きなコスト削減につながる」という仮説が生まれます。極端な例ではありますが、実際に試算すれば、いかに大きなインパクトになりうるかがわかります。

 

このように、「どのくらいの影響度が与えられるか=感度」として、全体の中から程度の大きさを考慮して、分析に優先順位をつけることを感度分析と呼びます。

 

実際には、品揃えが少なくなると顧客は別の会社に発注する手間が増えることになります。そのため、これを面倒だと考える顧客とは、売れ筋商品の取引さえもなくなるかもしれません。

 

感度分析で重要なことは、最初に仮説を導き出したように、影響度が大きな要素を探し出し、重要なものから検討をするという優先順位をつけることです。

 

大きさを考える…面積図を使うと総資源の配分を視覚化しやすい

 

会社に複数の事業があり、人員の再配置を検討するときには、どのような考え方をすればよいのでしょうか。そのようなときに便利なのが、面積図の考え方です。

 

面積図

 

会社組織の最も多い形態は、主に事業部制組織と機能別組織に分かれます。事業部制のメリットは、大きな会社であっても経営の単位が小さくなるため、意思決定の伝達がしやすいことです。デメリットは、同じ職能の従業員が複数必要になること、組織をまたぐ人的リソースの交換が難しくなることだといえます。

 

事業部ごとの人員を面積で表現したグラフを準備して、開発技術者をどの事業部へ割り当てるのかを検討してみましょう。

 

伝統があり人員の割り当ても多いけれども、製品のライフサイクルが衰退に向かう事業や、成長期にあって開発人員が足りない事業などの特徴を面積図で視覚的に把握すると、議論が進みやすくなります。

 

面積図の考え方は、人員数以外に、人件費でも活用できます。ただし、人的リソースの配分は、同じ職能であっても業務内容が異なる場合も多く、単純に移動させればよいというわけではないので、実態を把握することが大事でしょう。

 

大きさを考える…クリティカル・マス(しきい値)を超えるか超えないか

 

商品がマーケットに受け入れられる状態というのは、必ずしも直線的な右肩上がりになるわけではありません。大きなヒットを飛ばしたた商品も、発売当初は一部の人にしか受け入れられていなかったということがあります。しかし、それが口コミで広がり、マスメディアに取り上げられることによって、爆発的なヒットにつながるということがあるのです。

 

ある一定ラインを超えるまでは需要がほとんど増えませんが、一定ラインを超えた瞬間に、爆発的に需要が増えるということがあります。

 

このような現象を考えたとき、商品が広く認知されるまでの販促活動や製造の現場では、「成果を得るために集中的に経営資源を投入することが必要だ」とされることがあるのです。

 

この必要量のことをクリティカル・マスと呼びます。不十分な量の投資では、どれだけ時間をかけようとも、成果を生み出せないことがあるのです。

 

例えば、新製品の商品広告は、短期間にマスメディアにどれだけ露出するか、という瞬間的なものです。これは、広告出稿量と広告費の兼ね合いで解決できることが簡単に予測ができます。

 

他にも、開発の現場について考えてみましょう。5人いる研究開発員が1人1テーマで5年かけて開発する分散投資よりも、5人が1テーマに1年かけて取り組むことで、開発の成果を次々と商品化する集中投資のほうが実益を得られることがあります。

 

クリティカル・マス

 

開発要員の投入と同じことは、戦闘時の兵力を考えるときにも定説とされています。戦争では、兵力は1点に集中して大量に投入することが定石です。戦力の逐次投入は、兵法では愚かな行為とされています。

 

このように、重要度の高いところには、戦略的なリソースの割り当てが必要になることがわかるでしょう。これを、クリティカル・マス(しきい値)と呼びます。

 

「分けて考える」ことが全体の理解につながる

 

ここまでで、「大きさを分析する」ことの重要性に関して、理解できたかと思います。ここからは定量分析の基本の一つである、「分けて考える」に着目していきます。

 

マーケットを分け、損益の要素を分けることの意義は大きい

 

取り扱っている商品が生活必需品だからといって、日本に住む人全員をひとくくりにしたのでは、有効な施策は生まれてきません。なぜなら、商品の価格やデザイン、機能など、人それぞれに優先させたいことが違うからです。

 

当然ですが、消費者にはそれぞれに嗜好があり、年代や地域でも差があります。そのようなことを考えれば、どうやら市場を分けて考えることに意味がありそうです。

 

市場を分けて考える場合には、どのような方法があるのでしょうか。まず、同質的なニーズをもった集団に分けることを考えます。このとき用いられる概念が、「マーケット・セグメンテーション」です。分けられた特定市場をターゲットにしたときに、競合に対して優位なポジションをとれるよう、マーケティング・ミックス(製品、価格、流通、広告宣伝など)を実施します。

 

マーケット・セグメンテーションの事例

 

【地理的要因】地域、人口密度、気候など

 

【人口動態的要因】年齢、性別、所得、職業、教育など

 

【サイコグラフィック・行動的要因】ライフスタイル、パーソナリティー、使用機会など

 

 

次に、商品の収益性を考えるため、利益を因数分解してみます。

 

例1:利益=売上数量×1個当たり粗利益−諸経費

 

さらに、各要素は分けて考えることができます。売上数量は、市場の大きさとシェアにより算出できるでしょう。粗利益は、製品価格から製造原価を引けば算出できます。諸経費は、さまざまな費用項目の和です。これにより、次のように計算式を書き換えることができます。

 

例2:利益=市場規模×シェア×(販売価格―製造原価)−(費用項目A+費用項目B・・・)

 

利益を増やしたいという経営課題に対して、誰が何をするのか、各部署への具体的な指示ができなければなりません。そのためには、利益の実態を細かい要素に分け、アクションにつなげることが必要です。利益をどのように分解していくのか、さまざまな方法がありますので、組織や施策に応じて考えてみましょう。

 

分けて考えるための基本原則は「もれなくダブりなく」

 

ここまで、物事をより小さい単位へ分けて考えることの重要性を述べてきました。具体的な施策に落とし込めるまで細かい要素に分けていくには、論理的な思考が必要とされます。

 

そのような場面で役に立つ考え方が、「MECE」と呼ばれるものです。日本語訳では「もれなくダブりなく」と表現されることが多く、ロジカルシンキングの基礎的な考え方となります。

 

MECEに分ける

 

MECEとは、以下の単語のそれぞれの頭文字をとったものです。

 

・Mutually=要素が互いに

 

・Exclusive=重複がなく(原意:排除し合っていて)

 

・Collectively=集めると

 

・Exhaustive=全体を尽くす

 

例として、ワインのマーケットを輸入業者の視点から考えてみましょう。

 

「まずワイン市場は業務用市場と一般消費者市場に分かれる。一般消費者市場は、贈答用と一般家庭用に分かれる。一般家庭用は、30歳と50歳を区切りに男女別に考慮していく」

 

このような思考は、要素を足し算することで、ワイン市場全体=100%として捉えることを意味します。

 

ただし、現実の市場はこのようにすっきりと区分できるものではありません。業務用チャネルを考えても、大手酒類問屋から地域問屋があります。そこからレストランへ流れるルートのほか、酒類専門ディスカウントチェーンやスーパーのワインコーナーもありえるでしょう。それぞれのルートは、どこかで重複しているかもしれません。

 

また、ピックアップできないような小さなチャネルや、区分できないチャネルは、「その他」としてまとめてしまいましょう。これは、引き算の考え方といえます。ただし、まとめてしまった「その他」にも、魅力的なマーケットが隠れていることがありますので注意が必要です。

 

このように、まず、一つひとつの項目をあげて足し算をして100%に近づけていきます。また、100%に届かない項目は引き算でその他枠をつくるなどの工夫をしましょう。もれなくダブりなくMECEの原則に戻って考えることで、ヒントが見えてくるに違いありません。

 

「分ける」と書くと、100%のターゲットをいくつかの小分類にしていくイメージを持ちます。小売業であれば、売上は店舗の合計であり都道府県別にある支社の合計です。ただし、売上を考えるときは、掛け算で表現できる場合もあります。

 

例1:売上高=個数×単価

 

例2:売上高=客数×客単価

 

例3:売上高=店舗数×店舗当たりの売上

 

足し算や引き算の場合には同質的なものが並びますが、掛け算の場合には異質な別次元のもの同士の結果となります。そして、これによりまた別の分析をすすめることができるのです。

 

 

具体的な施策を考えて分ける

 

前項では、もれなくダブりなく考えるMECEという手法について述べました。その考え方は、単なる興味本位ではなく、具体的な施策につなげることができるかが重要です。

 

車の販売を例に考えてみましょう。

 

1台目に購入する車は、家族全員が乗れる車で、購入者は家長であり年齢層が高いことが想定されます。2台目に購入する車は、近所での買い物利用やスポーツカーなど機能別に選定され、1台目に比べると購入決定権をもつ性別や年齢層が異なることが想定できるでしょう。

 

つまり、1台目に保有する車として人気がある車種と、2台目として需要のある車種とでは、マーケティング施策が異なってくることがわかります。

 

何も考慮せずに、全社一律に一定の層に向けて広告費を増大させようとするより、家族の多い人が休日にみんなでお出かけするイメージの車種、結婚年齢に近い男女が夜景デートに行くときの車種、このように分析することで、施策は効果絶大になるのです。

 

分析することに慣れてくると目的を忘れがちなのですが、経営に効果のある施策にするための分析であることを忘れないようにしましょう。

 

全体を把握して検討対象の位置づけを考える

 

これまで、全体の大きさを考慮して重要なものから検討をする、具体的な施策につながるよう分析をして、当初の意図からずれないようにすることが大事である、と述べてきました。

 

ここで、会社の実態を考えてみましょう。会社組織は、経営責任者をトップにした階級のピラミッド構造になっています。また、組織は部門という機能別にまとまっているため、部門にまたがる課題の解決について、正しい判断をすることは簡単なことではありません。

 

ヒット商品がないことは開発部門のみの課題でしょうか。また、営業部門の努力が足らないから売上が低下したのでしょうか。ある部分に特化した対策ばかりに目を奪われてはいけません。

 

ここで、温室効果ガスの事例をみてみましょう。

 

地球の気候変動にかかわる要因は、温室効果ガスだといわれています。まず、最初に思い浮かぶこととして、化石燃焼による二酸化炭素が大きな要因であることが、よく知られています。

 

事実として、1950年代の気候変動の要因は、温室効果ガスのうち3分の2を超える二酸化炭素が主たる要因となっていました。ところが、年を経るごとに温室効果ガスの全体量が増え、1980年代には二酸化炭素の割合は、全体の半分以下になっているのです。

 

また、二酸化炭素は、化石燃料の燃焼によるものだけではありません。海水面からの放出や吸収で、海水中層・深層に蓄えられることもわかってきました。地球規模での炭素の循環を考える必要があるのです。このままでは、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の対策をしたところで、地球の気候変動は解決しないでしょう。

 

この事例のように、ほかの選択肢を考慮しないまま、化石燃料の燃焼による二酸化炭素の対策に集中するのでは意味がありません。全体を把握したうえでコントロールしていくことが大事になります。

 

複合的な分け方

 

分けて考えることを視覚的にもっともわかりやすく表現するならば、縦軸・横軸で4象限にわけたマトリックスを考えることが手っ取り早い方法です。

 

基準軸にどのような項目を設定するのか、それはもっとも重要で効果的と考えられる項目の組み合わせを見つけることが重要となります。経営分野の分析手法としては、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)と呼ばれるフレームワークが有名です。

 

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)

 

良く知られた企業名を思い浮かべてみましょう。その企業は、ある製品やサービスで構成される複数の事業で成り立っています。それぞれの事業は、市場の大きさやシェアが異なるのでしょう。そこで、縦軸に「市場成長率」を、横軸に「市場占有率」を設定します。

 

・花形製品…成長度と市場シェアがともに大きく、守り抜く事業。成長を支えるための投資が必要になる

 

・金のなる木…成長度が低いがシェアが大きい事業。投資は必要としないため、資金源となる

 

・問題児…高成長率だがシェアが低い事業。市場成長にともない、シェアの維持もしくは拡大するための投資が必要になる

 

・負け犬…成長度もシェアも低い事業。撤退を視野に入れる

 

プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレームワークを活用して、複合的に分けて考えると、事業のあるべき方向性を考えることができます。おおまかな投資予算の分配も、検討をつけることができるでしょう。

 

このように、独立した2軸の取り方についてはいろいろな考え方があります。以下の、いくつかアイデアを載せておきます。

 

分野を絞り込む…市場の成長率とシェアの2軸でフレームワークを作ります。その中で問題児の領域にある地域を特定することで、そのエリアに絞り込んだ競合対策を効果的に実施することができます。

 

2軸のフレームワーク上に、3つ目の指標をのせる…例えば、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレームワーク上に、既存事業の売上高を円にしてプロットしてみます。既存事業の方向性を決めて、経営資源をどこに投入すべきかの大局をみるときに、事業規模が判断要素に加わるのです。

 

割り算をする…都道府県別の交通事故数は○○が最も多い、というのはひとつの事実ですが、母数となる車両登録台数や走行距離に応じて事故の意味合いが異なるでしょう。そこで、1万台あたりの事故数に置きかえれば、都道府県別の傾向が見えるようになります。このように割り算で表現された軸をつかえば、4つの項目について分析を深めることもできるのです。

 

多数の要素をより大きな2軸に集約する…プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントの例でいえば、縦軸を市場成長率と設定しましたが、市場規模や収益性、競合数などの項目を選択することも可能です。また、「市場占有率」は、技術力や販売チャネル数などを指標にすることもできるでしょう。

 

多元回帰などの数学的処理を用いる…統計学的な手法を使えば、価格と機能についての相関を調べることができます。

 

「比較して考える」類似点や差異を発見し法則を見出す

 

ここまでで、「大きさを分析する」「分けて分析する」ことの重要性に関して、理解できたかと思います。ここからは、「比較して考える」に着目していきます。

 

比較のための基本姿勢は、共通の目的と同一の指標

 

品質査定(大きさ、色、形、味など)のために並べられたリンゴのなかにメロンがあったならば、メロンを除外することに意味があります。それは、同質のものではないからです。しかし、朝食用に食べるカロリー計算のために、リンゴ、メロン、オレンジを並べて比較することは可能でしょう。モノとして異質であっても、カロリーという尺度があるからです。

 

このように、共通の目的をもって同一の指標があり、比較対象として正しい場合に、英語では「アップル・トゥー・アップル」という表現をします。

 

ここで、比較の際に心掛けることを3つ挙げます。

 

1. できるだけ同じものを比較すること

 

2. 異なるものを比較するときは、意味がありかつ比較できる指標を探すこと

 

3. 似たもの同士を比較する場合も、同じ要素と異なる要素を見分け、異なる部分の影響を勘案しつつ合理的な比較を心掛けること

 

比較のための枠組み(表など)を工夫する

 

車選びを例に、対象車種を比較するときのことを考えてみます。車は多種多様な部品で組み立てられた複雑なものですが、ある程度定められた規格がある製品です。車雑誌やカタログを見れば、どのような仕様であるかが明記されているので、各製品を比較しやすいでしょう。

 

では、「もれなくダブりなく」のMECEの概念を思い出して、比較項目を抜き出してみます。

 

大分類:小分類

 

寸  法:外形、内寸、ホイールベースなど

 

特  性:エンジン、サスペンション、ブレーキなど

 

性  能:加速性、ハンドリング、回転半径、燃費など

 

快 適 性:ノイズ、振動、かたさなど

 

安 全 性:自動ブレーキ、エアバックなど

 

スタイル:外形のデザイン、内装インテリア、色など

 

利 便 性:音響装置、カーナビなどの付属品、収納など

 

価  格:標準車、グレード別など

 

車の知識がない人でも、このように客観的なカタログ値や主観的なスタイルなどで比較をすれば、重要視したい項目、したくない項目が把握でき、自分でも気がつかない好みが浮かび上がることがあります。

 

購入したい車のイメージが、より明確に浮かび上がってくるのではないでしょうか。その重要視したい部分にフォーカスした車種をいくつかピックアップすることで、最終的な決定をすることができます。

 

このように、車を購入するという目的に応じて、全体や部分をアップル・トゥー・アップルに比較できるよう、工夫をしましょう。

 

説得のために比較を活用する3つのポイント

 

自身で購入する車であれば、主観的な判断ができます。しかし、これをビジネスの場に置きかえた場合、経営判断のためには客観性のあるデータを活用して、会議や稟議書で多くの人に説得できる分析をしなければなりません。

 

説得できる条件とはどのようなものでしょうか。注意すべき点として、3つ挙げます。

 

1. わかりやすさ

 

2. 客観性

 

3. 十分な製品データ

 

「わかりやすさ」とは、車でいうと軽トラ・セダン・スポーツカーのような、目的に応じた比較をいいます。ワインでれば、辛口〜甘口という味の比較にあたります。

 

「客観性」とは、車の外寸や価格・燃費のことを示します。

 

「十分な製品データ」とは競合も含めたもので、自社製品の知識だけでは比較することができません。

 

差異の要因を明らかにするギャップ分析

 

経営分析に用いられる分析手法をいくつか事例として挙げます。まずは、ギャップ分析です。ギャップ資料はIR資料等でよく用いられ、前年度から収益性がどのように変化したのかを説明するときに便利です。

 

ギャップ分析

 

ギャップ分析の特徴には、まず全体のギャップの大きさを示し、次にその差異要因を細かに示すことがあります。収益性の変化を見るための具体的な事例は、利益の対前年比を説明するため、勘定科目の増減をグラフに表現することです。

 

ギャップ分析のグラフを活用すれば、売上高を過年度と比較したとき、どの事業分野が影響を与えているのかがよくわかります。

 

コストの分析方法は、主に2つあります。マクロアプローチは、財務諸表や統計資料から推計するものです。そのため、個別の製品について正確なコスト感をつかむことができません。

 

一方、ミクロアプローチは、製品を部品に分解して一つひとつのコストを積み上げていくか、製造工程のプロセス毎にコストを積み上げていく方法です。マクロアプローチで大局観をつかみ、ミクロアプローチで個別のコスト分析を行う手順を踏むとよいでしょう。

 

コスト分析

 

インダストリー・コストカーブ

 

コスト分析について、広く普及した製品の競合分析のひとつに「インダストリー・コストカーブ」と呼ばれるものがあります。各社の生産コスト・原価軸と、生産量を軸に、市場全体としての収益を推計することができるものです。

 

インダストリー・コストカーブ

 

インダストリー・コストカーブでは、現在の供給量線上にある企業を限界生産者と呼びます。損を出してまで生産する企業はいないと考え、限界生産者より生産能力が低い企業は撤退の可能性が高くなります。

 

生産能力が高い企業がシェアを取ろうと生産量を増やすと、価格が下落して利益が薄くなる可能性もあるでしょう。このように、インダストリー・コストカーブでは、価格弾力性の概念と競合の状態を一つのグラフで表現できるので、大変便利です。

 

シェアの考え方と比較

 

シェアとは、一般的に「売上高÷市場規模」で表現されます。これを、ほかの表現(掛け算)で表すと、どのようになるのでしょうか。

 

例えば、「製品力×販売力」ではどうでしょう。他社よりも優れた機能を持つことやコストパフォーマンスに優れているなど、製品力が高くて25%のシェアをとる企業があります。

 

一方、どこよりも地域に取扱店を増やすことによって販売力を高め、25%のシェアをとる企業もあるでしょう。掛け算のグラフにすれば、企業それぞれの強みや弱みがはっきりとよくわかります。

 

シェアの考え方

 

このように、さまざまな要素に分解して比較することで、自社と競合の強みや弱みを把握しながら、改善の施策を検討することができるようになるのです。

 

比較するのは数字だけではない

 

比較する項目は、定量的な数字に限りません。ベストセラーになっているビジネス書をみれば、優れた企業がどのような特質をもっているか知ることができます。明確に目的を持てば、定性的な情報も比較することができるのです。

 

エクセレント・カンパニーの8要素

 

1. 行動の重視
2. 顧客への密着
3. 人の重視
4. 自主性・企業家精神の尊重
5. 単純で小さな組織
6. 基軸事業への傾斜
7. 価値観に根差した実践
8. 自由と規律の共存

 

マーケティングにおいても、定量的なアンケートのほか、定性的にはグループインタビューを行って消費者のインサイトを探る方法があります。

 

「変化/時系列を考える」ことで自社の戦略を自覚しトレンドを読む

 

ここまでで、「大きさを分析する」「分けて分析する」「比較して分析する」ことの重要性に関して、理解できたかと思います。ここからは、「時系列を考える」に着目していきます。

 

自社の戦略を自覚する

 

日常業務を振り返れば、現場レベルから経営陣まで、日夜会議が行われています。戦略がなかったわけではなく、自覚されなかった意思決定があったはずなのです。

 

産業全体と自社、もしくは自社と競合他社を照らし合わせて過去の傾向を知ることは、実は難しいことではありません。

 

長く続いている産業であれば、日銀や総務省のWEBサイトから、産業全体の売上や費用などの統計データを調べることができます。

 

過去数十年の推移について、産業全体の売上高、経常利益、研究開発費、広告宣伝費などを折れ線グラフで表現してみるとよいと思います。また、自社の推移でも、同様の項目をグラフにして、産業全体と比較してみましょう。

 

過去のデータ分析という事実に向き合うことで、現在の意思決定会議の参加者に、共通の認識を持たせることができます。それは、未来への正しい戦略に向けて、積極的な議論の礎となるでしょう。

 

研究開発費、広告宣伝費、経常利益 の 対売上高比率推移

 

景気はときに大きく落ち込むものです。売上高に変化があるにもかかわらず、研究開発費や広告宣伝費などの絶対額を変えないならば、気がつかないうちにそのコスト割合が高くなっている可能性があります。これが、無自覚となって投資され続けた結果なのです。

 

例えば、勘定科目ごとに対売上高比率の過去データをグラフで表現してみれば、このようなことが発見できるかもしれません。

 

このような視覚化を経て、現在の市場や競合はどのような状況なのか、代替商品が出ていないか、新しいテクノロジーを取り込めないかといったことを検討します。その結果、前年同様に投資をするという決定をするならば、それはそれで立派な戦略なのです。

 

もう一つ事例を挙げます。シェアトップの企業と比較したとき、自社がほぼ同じ品質で同じ数の商品ラインアップを持つとしましょう。

 

単純に現在の比較だけをしたのでは、シェアが引き離される理由がわかりません。ここで、過去にさかのぼって、投じられた商品数とその時期について各社比較をしてみましょう。

 

すると、自社の開発数は多いにもかかわらず商品ライフサイクルが短い、ということが判明することがあります。開発効率が悪かったのです。商品数が多かった分、営業への負担も過大になっていることが考えられます。

 

今一度、その事業の在り方を検討することで、未来の戦略がみえてくるのです。

 

大きな流れを把握してトレンドや繰り返されるパターンを読む

 

費用の推移を見るときには、一般的に絶対額を折れ線グラフに表現します。物価などの推移を見るときには、指数で表現されることもあります。最終年を100とした消費者物価指数などがその事例です。

 

統計データを見慣れてくると、賃金が上昇して購買力が増えた時期はいつか、エネルギー関係は変動が激しい、などの傾向をつかむことができます。

 

景気に連動する統計データには、景気に先駆けて動く設備投資指標や、有効求人倍率などの同時指標、家計消費などの遅行指標などがあり、これらの動きを読むことは、トレンドに先駆けることにつながるのです。

 

一定期間に変動幅が大きい場合には、「移動平均」という処理を行います。○日、○週、○年移動平均など、データの種別に応じて適切に選択するのです。株価の移動平均線などがその事例といえます。

 

売上高の変化をみるときにも、平均的な売上高を把握するほかに、季節要因の売上変化、短期キャンペーン要因の売上変化など、見るべき点が多くあるでしょう。

 

1店舗の売上高を店長ごとに比べてみれば、運用オペレーションの違いによる売上変化がみられるかもしれません。人に起因して繰り返し現れる売上高変化のパターンがあるならば、その店長が売上を改善する店長か、売上を減少させる店長か、の判断材料になります。

 

例えば、「この人が店長になると、なんだか店の雰囲気が明るくなって売上高も上昇傾向にある」などといったとヒントを得たら、その背景にある運用オペレーションのコツを探ってみましょう。

 

「過程/プロセスを考える」ことで分析の漏れをなくす

 

「シェアが下がった」という結果に対して、営業部門を強化するなど、原因を検討することなく直接的な対処をすることは珍しくありません。しかし、ここでやみくもに人員投入をしても、コストがかかる一方です。

 

そこで、プロセスに注目することで、シェアが下がる原因を探る方法があります。

 

サービスや商品を開発し、顧客のもとに届けられ、次の購買につなげるまでのモノや作業の流れ(過程やプロセス)を整理してみましょう。この場合、フロー図にすることが多いです。

 

フローアウト・アナリシス

 

ワインの流通経路を調べたい場合には、流れ分析が最適です。また、開発にかかわる業務をまとめたい場合には、部門とタイムラインを軸に判断内容を書き込んだ業務フロー図などがよいでしょう。

 

ここで、シェアの漏れ分析をしてみます。市場に対してシェアが20%であったとして、どのような打ち手があるでしょうか。営業プロセスを分解して考えることで、答えに近づきます。

 

シェアの漏れ分析

 

シェア20%のうち、無条件で獲得できた案件を特定します。課題の1つ目は、「将来にわたってこのシェアが守れるか」です。

 

次に、コンペになった案件とその勝率を特定します。勝敗の要因を分析して「勝率を高める対策をとる」が課題の2つ目です。製品やサービスそのものの品質、もしくは価格や納期などの条件、また営業アプローチなどの要因を特定していきます。

 

3つ目の課題は、かつて顧客であったクライアントや、アプローチできていないクライアントの特定です。これは、「営業のカバー率」が課題となります。

 

最後に、企業系列などの問題でアプローチできないクライアント、また潜在的な市場などを検討していくのです。

 

このように、シェアを増やすための取り組みには、さまざまな要因があることがわかります。この漏れ分析は、製品開発などにも応用できるでしょう。

 

意思決定のための分析の技術」で著者の後正武氏は、ビジネスシステムの概念は80年代にマッキンゼー社でビジネスプロセスと呼ばれ、主に物流の効率化や全体コストの最適化を目指す取り組みがもとになったと述べていました。

 

プロセスに着目する分析には、マイケルポーター氏が提唱したバリューチェーンのフレームワークもあります。

 

双方の概念は、企業の内部環境をプロセスに沿って検討するもので、同じように考えることができるのです。具体的には、「開発→調達→生産→マーケティング→販売」のように分解されます。

 

この一連のビジネスシステムを見て、どのプロセスにヒト・モノ・カネを集中させるかは、それぞれの産業によって異なるでしょう。例えば、情報通信機器の場合には、新製品が次々と出るので、開発に集中していると考えられます。

 

また、一般消費者をターゲットにした製品では、ブランドも大事です。コンビニエンスストアなどでは、商品の調達に力を入れています。

 

チェーン展開するための販売店舗数も重要でしょう。このような、成功のためにかかせない要件をKFS(Key Factor for Success)KSF(Key Success Factor)と呼びます。

 

後正武氏によれば、ビジネスプロセスの検討には3つの概念が大切です。

 

・フィックス
これは、各プロセスにおいてコスト改善の工夫を行うなど、部分最適をすることを差します。品質管理活動QCで注力されるのも、この部分です。

 

・バランス
これは、業務の流れを最適化することです。物流の単位を検討したり、製造部品の備蓄と販売サイクルの整合を合わせたりするような活動を指します。

 

・リデザイン
これは、システム全体を見たときに、異なる視点から再設計することです。ダイナミックな変化が求められます。

 

ツリーで考える方法

 

ツリー分析とは、自然の樹木がそうであるように、1つの事柄がいくつかの要素に枝分かれし、全体として意味をもつフレームワークを呼びます。

 

意思決定のための分析の技術」で著者の後正武氏が挙げる、「ロジック・ツリー」「イッシュー・ツリー」「業務ツリー/テーマ・ツリー」「デシジョン・ツリー」の4つの分析について、それぞれの特徴を解説していきます。

 

ロジック・ツリー

 

日本人の日常生活で、ロジックの正しさを指摘される場面はあまりないでしょう。国語の教育においても、どのような気持ちであったかといった情緒を優先させる傾向にあります。

 

しかし、論理の抜けや漏れは分析の狂いに繋がりかねません。ここでは、ピラミッド形式の構造的な考え方をサポートするロジック・ツリーについて説明します。

 

ロジック・ツリーの基本は、次の4つです。

 

1. 論理構造の基本は、帰納と演繹

 

2. 論理構造は、ピラミッド型

 

3. ピラミッドの下のレベルは、確からしさの度合いが高いものをおく

 

4. 論理構造は、MECEである

 

既知の事柄から未知の事柄を明らかにするための論理構造には、2つの方法があります。帰納法演繹法です。

 

帰納法は、多くの独立した事象から集約されることを抽象化して、結論を導く方法です。

 

もう一方の演繹法は三段論法ともいわれ、「Aは必ずBである」という大前提があり、「CはAである」という小前提をもって、「よって、CはBである」という結論を導く方法です。

 

ヒトは必ず亡くなる→豊臣秀吉はヒトである→よって豊臣秀吉は亡くなる、という論理構造です。

 

ロジック・ツリー

 

イッシュー・ツリー

 

イッシュー・ツリーとは、人によって主張が異なる場合に、より具体的な課題に対し、どの部分に力をいれるのか、どの事実が判明すれば何が解決するのか、をフレームワークで検討するものです。

 

ロジック・ツリーが事実や大前提の積み上げであるのに対し、イッシュー・ツリーは、明らかにすべき事実を検討するためのフレームワークといえます。ここで重要なことは2つです。

 

1. 解決志向でツリーを構成するため、重要ではない事項を省くこともある

 

2. 論理の組み立ては柔軟に行い、より的確なツリーになるよう再構成することもある

 

売上高を改善するために、どのような切り口があるでしょうか。チェーン店舗なら、「店舗数×1店舗あたりの平均売上」であり、「客単価×客数」「地域別の足し算」「製品別の足し算」などの要素に分解することができます。

 

「店舗数×1店舗あたりの平均売上」を例にとると、次のようなイッシュー・ツリーになります。

 

イシュー・ツリー

 

このように、イッシュー・ツリーは思考のフレームワークとして、構成要素に分解して、事実をもとに考え方を発展させていくものです。

 

業務ツリー/テーマ・ツリー

 

業務ツリーは、組織の効率化を検討するための分析手法です。こまごまとした作業をツリー状に集約して、組織のアウトプットまでつなげます。

 

そして、ある役職(組織)に期待されるアウトプットを、人件費や経費などのコストとして算出するのです。アウトプットとコストのバランスを見極め、安いコストで似たようなアウトプットに置き換えられる外注を検討したり、アウトプットの頻度を変更して部門の人員削減の目途をつけたりします。

 

業務ツリー

このように、作業レベルごとにツリー階層を分けながら、部門としてのアウトプットの評価につなげていきます。

 

デシジョン・ツリー

 

デシジョン・ツリーは、選択肢と確率から意思決定を助ける分析手法です。未来に起こりうることを定量的に把握できるようになります。

 

例えば、海で貝を拾うか、山で鹿狩りをするか、どちらの選択を行うのかを次のように考えるのです。

 

デシジョン・ツリー

 

人間の判断には、リスクの主観的な要素がどうしても混じります。食料に飢えていれば、確実に食べ物を採取できる海に行くでしょうし、貯えがあるならば貴重な鹿の捕獲に出かけることも考えられるのです。

 

企業経営の場合にも、一定期間における研究開発の成果が出るかでないかという場面においては、リスクを考慮した評価が必要でしょう。

 

このリスクにも幅があり、貝の量が籠1杯なのか2杯なのかは確率の問題です。これらは、シミュレーションを繰り返して結果を算出します。これは、デシジョン・ツリーの応用編として、モンテカルロ・シミュレーションと呼ばれるものです。

 

不確実性のある投資の場合には、オプション理論と呼ばれる考え方もあります。

 

不確定/あやふやな選択肢からいかに判断するか

 

経営の意思決定は、科学的な判断で行われるのでしょうか。現実的には、不確実な要素があり、選択できない場合があったり、個人的な直観で決められたりすることを私たちは知っています。

 

ここでは、そのような不確定なものをどのように判断していくかを検討していきましょう。

 

判断することは、分析の結果で導かれたいくつかの選択肢に対し、総合的な観点で意思決定することだといえます。

 

意思決定のための分析の技術」で著者の後正武氏が挙げる判断方法は、次の4つです。

 

1. 信頼性のレベルにより情報を分類する

 

2. ロジックとフレームワークを活用する

 

3. プロセスを活用する

 

4. 多数の意見の集約を図る

 

1. 信頼性のレベルにより情報を分類する

 

1つ目の手法は、判断材料となりうる事象を書き出し、重要度を整理することです。情報を信頼性のレベル(事実ー法則ー経験則ー推定ー意見ー想像)に分けてみます。

 

再現性はあるのか、個人的な好みなのか、を自覚すれば、判断材料としても有益です。紙に書き出して、重要度の順に並べる作業を行いましょう。

 

情報は、必ずしも正しいものだけではありません。そのために全体像を描けないときには、わかるまで推測で議論を進めることもあります。

 

2. ロジックとフレームワークを活用する

 

2つ目の手法は、ロジックや、なんらかのフレームワークを用いて整理をすることです。

 

コンサルタントの仕事は、不確実性のあるものを整理し方向性を見出すことにあります。彼らは論理的な思考を持ち、課題の解決のためにもれなくダブりなく、重要度を勘案しながら結論を導き出すのです。

 

そこで、有名なフレームワークをいくつか挙げます。

 

4C…自社、競合他社、顧客、販路から現状分析を行う

 

PPM(製品・市場ポートフォリオ)…縦軸に市場の魅力度(市場成長率)、横軸に自社の強さ(市場占有率)をとり、事業をマッピングする。経営資源の投資配分の目安になる

 

7S…戦略にそった組織のための要素(機構、制度、戦略、技術、人材、スタイル、共有価値)

 

フレームワークには長所と短所があり、最適な使い方をしなければなりません。

 

7S

 

3. プロセスを活用する

 

3つ目は、プロセスを経て結論を出すということです。戦略立案のプロセスには、「課題の設定」「現状分析」「診断」「解決策の検討」「実行」などがあります。

 

プロセス毎に最適なフレームワークを用い必要な関係者で共有することで、権力者の恣意的な判断のみで決定されることを防ぎ、結論がある程度の予測範囲内におさまることが期待されるのです。

 

未来に実現したい事柄を、ロードマップとして表現することもあります。時間軸にそって各組織の実施プロセスが明確化されるため、万が一遅れる場合の影響範囲を予測しやすく、結果的に効率を高めることができるのです。

 

4. 多数の意見の集約を図る

 

4つ目は、複数の意見集約を図る方法です。アンケートを実施したり、テーマに対して自由に発言するブレーンストーミングをしたり、会議ではない意見集約も含みます。これにより、一人が持っている誤った認識で判断をすることを防止するのです。

 

ここで、未知数の事柄に判断を下す方法として、デルファイ法を紹介します。

 

与えられた課題に対して、匿名性を保った状態で関係者の判断や意見を聞き出し、判断のため必要な追加情報を挙げてもらうのです。この集計結果のフィードバックと再検討を、複数回繰り返します。すると、判断要因の見落としを防ぎ、論点が明確になり、徐々に意見が収れんされていくのです。

 

デルファイ法は単なるアンケートではないので、事務局が正しいハンドリングができるかが重要となります。通常の会議が形骸化していたり、意見の一致の圧力を感じたりすることがみられるようになれば、この方法も検討しましょう。

 

人の行動や心理から課題を解決する

 

法人は社会の一員であり、人間の集団で構成されています。そのため、人と組織の課題から逃れることはできません。

 

企業経営における「人の問題」とは、従業員と顧客、それ以外の一般大衆といった区分ができます。これらの分析をするにあたって、心理学の観点から「行動」「表層心理」「深層心理」に分けて考えてみましょう。

 

人と組織の課題

 

人的課題に対処するためのフレームワーク

 

それぞれの個別課題に対応するためには、従業員の仕事に対する態度を改善するためにリーダーシップ論を深めたり、顧客の分析を行うときにはブランド志向の有無を調査したり、最適な方法を検討します。

 

事実を把握する方法

 

人がどのような行動をとるのか、その事実を把握するためには、観察・記録・調査・実験などの方法があります。

 

営業担当者が商談の場でどのような発言をするか、消費者が商品をどのように使用するか、といった行動に関わることは、観察することで実態がつかめるものです。

 

時間分析をしたい場合には、記録が必要になります。機械的にログデータを取得できる場合は良いのですが、各自の行動を手作業で記録する場合には、記入や集計の手間がかかるでしょう。そのため、内容に応じて、1週間分の行動記録を参考に1か月分を推計するなどして、おおよその実態をつかめるようにします。

 

アンケートやインタビューは、調査により実態を把握する方法です。うまくサンプルをとれば、個々に状況を把握することなく、全体を推計することができます。

 

仮説ができたならば実験が可能です。コンビニやスーパーの食品配置が同じようなのは、仮説検証の繰り返しの結果で、最も売上が伸びる配置が生み出されてきたからだと考えられます。

 

行動の背景にある心理的な情報を得る方法

 

人の課題に取り組むためには、行動の観察のみでは不十分です。その背景にある意識や、気質を考慮しなければならないことがあります。

 

従業員の場合には、当事者に直接話を聞くことができます。また、複数の従業員を集めて、自由に発言をしてもらったり、何かしらのテーマにそって会議をしてもらったりすることで、信頼性の高い情報を集めることができるでしょう。

 

顧客の場合であっても、グループインタビューを実施することが、背景を探るのに役立ちます。

 

データや情報を用いる工夫

 

人の課題解決のために、仮説を立てテストケースなどでシミュレーションを行います。その際には、評価できるデータを取得し、改善の後に本番環境で実施するのです。

 

店内の商品配列と導線、営業担当者のルートなどは視覚化できます。所要時間の検討と合わせて行うと効果的で、視覚化された情報は思考を助けるでしょう。

 

全国展開する前にテスト販売をして広告と消費の関係性をより正確に検討したり、一部の店舗で改装した結果をもって全社に展開したりすることができます。

 

先人の知恵を活用する方法

 

兵法を経営に応用したり、最新の行動科学の研究から経営判断をしたり、人の心理と行動に関わる先人の知恵を活用する方法があります。

 

マズロー欲求階層説

 

マズローの欲求階層説では、人の心理的特性を探るため、その動機に着目してピラミッド構造になることを提唱しました。人々のニーズが、置かれた状況により変化することがまとめられています。

 

従業員をめぐる社会的背景をさかのぼれば、戦後の衣食住に困った状況から脱し、高度成長期には会社への帰属意識も芽生えてきました。

 

組織が拡大すればポジションが多くでき、地位が上がっていきます。自らの成長を実感できたころ、バブルの崩壊で企業と従業員の関係も安定したものではなくなっていきました。リストラや望まない配置転換は、従業員に対してどのような影響を与えるのでしょうか。

 

マズローの欲求階層説は、私たちに気づきを与えてくれます。

 

まとめ

 

・情報はその性質を見極め、データとして分析することを意識する。定量データとして課題を発見すれば解決手段を導き出せることも多く、相手を説得する材料となる

 

・経営のための分析ツールとして、重要度を考慮した経営資源の投入を考えるならば、まずは「大きさ」に着目することが大事。経営資源の集中と分散で、得られる実益が異なることを肝に銘じる

 

・社会のものごとは、複雑な要因がからみあって成り立っています。全体を捉えるためには、個々の要素をかみ砕いて「分けて」理解することにより、その本質をつかむことです。意味のある結論を導くためには、明確な意図をもって物事の要因を突き詰める思考が求められます

 

・比較して考えることは、類似点の発見や差異の推論につながる。分けるだけでは見えてこなかった、法則性や相互作用が見えるようになる

 

・現時点では同じような売上高(大きさ)に見えても、収益構造が異なれば(分析すれば)、未来の成長率は異なる。漠然と比較するのではなく、その本質を突き詰めながら比較するようにする

 

・将来を見通すために、過去から現在までの推移を見直してみるのは、ひとつのよい方法。時系列データを比較し、分けて考えることで、より有意義な知見を得ることができる

 

・ビジネスをプロセスに分ける際は、もれなくダブりなくのMECEを意識する。物事の原因を特定するためには、上流の工程までさかのぼり、前後の工程が関係する要因を紐解きながら分析することが必要。ときには、組織の壁も飛び越えた議論が必要となる

 

・論理的に事象を分析する際にツリーを活用することは、頭の中を整理するうえで効果的である。デシジョン・ツリーは、選択肢と確率から、未来を予測するためのツール。不確定要素を考慮した、より複雑な理論が生まれており、金融商品などに活かされている

 

・経営の判断は、しばしば非合理的なものになりがちである。権力者の持つ誤った認識のまま、直観的な意思決定がなされることを避けるには、フレームワーク等を活用して、いくつかのプロセスを経て、複数人で判断できるような体制を整えていくことが重要

 

・人の課題を解決するためには、行動の観察やコミュニケーションの状況、背景にある心理的要因を読み解くことが必要。社会の変化に応じた経営判断をすることは、組織や人事上の新しいデザインを行うことでもある


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