【ランチェスター戦略】弱者が強者に勝つための3原則と5ステップ
ビジネスには戦略が必要です。そのため、企業の幹部クラスのビジネスパーソンの中にはビジネス戦略を学ぶためにMBAを取得する人もいます。
しかし、MBAで学ぶことのできる戦略の多くが、大企業向けに構築された理論です。つまり、業界No.1の大企業にとっては役に立ちますが、それ以外の中小零細企業にはそぐわないことが多いのです。
そこで、中小零細企業や個人事業主のような「弱者」にも役立つように考え出されたのが、「ランチェスター戦略」です。今回、ランチェスター戦略を活用して、弱者が大企業のような強者に勝つための、3つの原則と5つのステップについて解説していきます。
ランチェスター戦略とは
ランチェスター戦略は、第一次世界大戦の頃、イギリスの自動車工学・航空工学のエンジニアであるF.W.ランチェスターによって考え出された、戦闘の法則・方程式である「ランチェスターの法則」が基となっています。
ランチェスターの法則は、その後、第二次世界大戦中にアメリカで研究が重ねられ、「戦争の法則」に発展します。そして、戦後日本において、マーケティングコンサルタントである田岡信夫によりビジネスに応用され、販売戦略としてまとめられました。
つまり、戦争における法則をビジネスに転用したものが「ランチェスター戦略」です。ビジネスを一種の戦争と捉え、どのようにしたら相手に勝てるのかといったことを、「弱者の視点」と「強者の視点」から論じているところが、ランチェスター戦略の特長です。
戦争では、敵と味方が直接戦闘を行いますが、ビジネスの場合は、顧客を奪い合い市場占有率(シェア)を競います。最終的に、市場占有率が高い方が勝者となります。
それでは、ランチェスター戦略とは具体的にはどのようなものなのでしょうか。これを理解するには、まず前提となる「ランチェスターの法則」を理解する必要があります。
ランチェスターの法則には、第1法則と第2法則の2つがあります。それぞれ詳しく解説していきます。
ランチェスター第1法則
まず、ランチェスター第1法則を説明します。第1法則は、狭い範囲で敵と味方が対峙し、刀剣などの近接戦闘用の武器で、味方の一人が敵の一人と戦う白兵戦を行う場合に適用されます。
ビジネスで置き換えれば、ニッチな市場や限定的な顧客層、狭いエリアなどでマーケテイングや販売施策を行う場合を想定します。
そして、ランチェスター第1法則は、以下の方程式によって成り立ちます。
戦闘力=武器効率×兵力数
つまり、戦闘力は武器効率と兵力数の掛け合わせで決まるということです。
武器効率とは、武器の質のことです。例えば、敵が木のこん棒を持ち、味方が鉄の刀を持って戦う場合は、味方の武器効率の方が良いということです。また、同じ槍を持って戦う場合でも、味方の槍の方が長ければ、その分リーチが長く有利になりますので、味方の武器効率の方が良いといえます。兵力数とは、そのまま兵隊の数のことです。
つまり、兵隊の数が同じであれば、武器の質が高い方が勝ち、武器の質が同じであれば兵隊の数が多い方が勝つということです。
例えば、5人の兵隊を擁するA軍と3人の兵隊を率いるB軍が、同じ長さの槍を持って戦った場合、2人の兵隊を残してA軍が勝利します。武器効率が同じなので、兵力数の違いが勝敗の分け目となり、「A軍5人−B軍3人=A軍2人」となるのです。
そして、武器効率をビジネスに置き換えると、「商品」「サービス」「集客スキル」「販売スキル」の質となります。また、兵力数をビジネスに置き換えると、「人」「モノ」「金」「情報」などの経営資源のことです。
つまり、競合局面において、経営資源が同等ならば、商品やサービス、集客スキル、販売スキルの質の高い方が勝ちます。反対に、商品等の質が同等であれば、経営資源の豊富な方が勝つということになります。
ランチェスター第一法則は、狭い範囲の接近戦であれば、小さな企業でも大企業に勝てる可能性があるため、業界シェア2位以下の弱者の戦略として活用されます。
ランチェスター第2法則
次に、ランチェスター第2法則を説明します。第2法則は、広範囲で敵と味方が離れ、機関銃や戦艦の砲撃など、多数が多数を攻撃する武器を使う場合に適用されます。
近代以降の戦争のほとんどは、この形態で戦闘を行っています。この広域で行う戦闘は、損害が確率的に発生するので、確率戦と呼ばれます。
そして、ランチェスター第2法則は、以下の方程式によって成り立ちます。
戦闘力=武器効率×兵力数の2乗
第1法則と異なるのは、確率戦の場合、兵力数が2乗となっていることです。なぜ2乗になるのかというと、損害が確率的に発生するからです。例えば、A軍5人、B軍3人で、離れた場所から機関銃で戦うとしましょう。
その場合、A軍の損害量は1/5で当たる攻撃を3人から受けるので「1/5×3」となり、B軍の損害量は1/3で当たる攻撃を5人から受けるので「1/3×5」となります。そのうえで、A軍の損害量とB軍の損害量とを比較してみると、次のようになるのです。
A軍の損害量:B軍の損害量=1/5×3:1/3×5
=3/5:5/3
=9/15:25/15
=9:25
=3の2乗:5の2乗
そのため、広域での確率戦の場合は、戦闘力=武器効率×兵力数の2乗となるのです。なお、A軍5人対B軍3人で確率戦を行った場合、B軍が全滅した時点でA軍には4人の兵力が残ります。なぜなら、損害量はA軍が「3の2乗=9」、B軍が「5の2乗=25」なので、「25−9=16」となるからです。
しかし、16は2乗しいている数字なので、平方根をかけ元に戻しあげると「4」となります。つまり、A軍は4人の兵力を残して(一人の損害だけで)、B軍に勝つことができるのです。
そして、ランチェスター第2法則が適用される広域での確率戦をビジネスに置き換えると、ディーラーや卸などの流通網、テレビCMなどを使い、エリアや商品ラインなどを最大範囲に広げることにより、確率的に市場シェアを奪う戦略となります。
つまり、ランチェスター第2法則は、業界シェア1位の強者の戦略として活用されます。
ランチェスター戦略のメリット
ここまで、ランチェスターの法則の概要を説明してきましたが、ランチェスターの法則には、第1法則と第2法則があり、それぞれ活用する場面が異なるということが理解できたかと思います。第1法則は弱者向きで、第2法則は強者向きです。
強者の定義は、業界シェア1位の企業。弱者の定義は、業界シェア2以下の全ての企業です。そして、企業全体の9割以上が、業界シェア2位以下の弱者となります。つまり、あなたの会社が業界シェア1位でないかぎり、弱者の戦略をとらなければならないのです。
そのため、ランチェスターの法則は、多くの場合、第2法則より第1法則の方が重要となります。
ランチェスター第1法則は、多くの弱小企業(弱者)が、強者に勝つためのヒントを与えてくれます。そして、これから解説する弱者の戦略を用いれば、小さな会社や起業したばかりの個人事業主であっても、強者に勝ち、No.1となることができるのです。
それでは、ランチェスター第1法則を活用した、弱者が強者に勝つための「弱者の戦略」を解説していきます。
弱者の戦略3原則
ランチェスター第1法則を再度復習してみましょう。第一法則は、狭い範囲で行われる接近戦に当てはまります。そして、次の方程式で成り立っています。
戦闘力=武器効率×兵力数
これらのことから、弱者の戦略として、3つの原則が導き出されます。それは、以下の3原則です。
1. 局地戦・接近戦に持ち込む
2. 武器効率を上げる
3. 競合局面に兵力数を集中させる
それぞれ詳しく見ていきましょう。
局地戦・接近戦に持ち込む
弱者はランチェスターの第1法則に基づいて戦略を立てなければなりません。そのため、狭い範囲で接近して戦う必要があります。これを局地戦、接近戦といいます。
局地戦をビジネスに置き換えると、狭い営業エリアや狭い客層、狭い製品ラインで勝負するということです。範囲を広げれば広げるほど、第2法則で戦いを仕掛けてくる強者が有利になります。そのため、弱者でも勝てるように、なるべく狭く絞り込むのです。
例えば、あなたが酒屋を経営しているとすれば、「半径300メートルの範囲にだけチラシを配る」「シニア男性だけをターゲットにする」「日本酒だけを取り扱う」など、ニッチな市場を狙うということです。
接近戦とは、エンドユーザーに直接アプローチするということでもあります。エンドユーザーとは、最終的にその商品やサービスを使う人、つまり購買意思決定者のことです。酒屋の場合は、お酒を買ってくれる消費者のことですね。
このように、弱者はまず局地戦・接近戦に持ち込むことが、強者に勝利する条件となります。
武器効率を上げる
武器効率とは、「商品」「サービス」「集客スキル」「販売スキル」の質のことです。競合局面において兵力数が同じであれば、武器効率が良い方が勝ちます。そのため、弱者は商品の質やサービスの質、集客スキル、販売スキルを高めなければなりません。
武器効率が圧倒的に高ければ、多少兵力数が劣っていても勝てる可能性があります。武器効率を上げことが、弱者にとって最も重要といえます。
競合局面に兵力数を集中させる
兵力数とは、人、モノ、金、情報などの経営資源のことです。武器効率が同じであれば、兵力数が多い方が勝ちます。そのため、経営資源の多い大企業の方が有利ということになります。
しかし、重要なのは「競合局面における」兵力数であるという点です。競合局面とは、敵(競合企業)と実際に顧客を奪い合う局面を意味します。酒屋の例で考えてみましょう。
例えば、あなたが経営する酒屋の近くにスーパーマーケットが新規オープンすることになったとします。スーパーマーケットはお酒の販売も行っており、価格も割安です。そして、大型店だけあって、商圏はとても広いとしましょう。
あなたの酒屋とスーパーマーケットの商圏は以下の図のように重なっています。
この重なり合った部分が競合局面です。そのため、スーパーマーケットとすべての商圏で顧客を奪い合っているわけではなく、一部分でシェア争いを行うことになります。
スーパーマーケットは広い範囲をカバーしなければなりませんし、お酒だけを販売しているのではありませので、集客にかける経営資源が分散します。しかし、あなたの酒屋は商圏が狭く、お酒だけを販売しているのです。そう考えると、競合局面だけに限れば、スーパーマーケットよりも集客販売にかける経営資源を多く投下することができる可能性があります。
例えば、商圏の重なる競合地域だけに集中して、スーパーマーケットよりも多くの広告チラシを配布します。そうすれば、その地域の人がお酒を買うときに、スーパーマーケットではなく、あなたのお店を選んでもらえる可能性が高くなるでしょう。
このように、競合局面において経営資源を集中投下することで、弱者でも強者に勝つことができるのです。
以上、弱者の戦略には、「局地戦・接近戦に持ち込む」「武器効率を上げる」「競合局面に兵力数を集中させる」の3原則があります。弱者はこの3原則を守ってビジネスを進めていきましょう。
弱者の戦略を構築する5ステップ
ここまでで、ランチェスターの法則から導き出される、弱者の戦略3原則が理解できたかと思います。それでは、実際に弱者の戦略を構築するためのステップを解説していきます。
弱者の戦略を構築するには、次の5ステップで考えていきます。
1. 差別化する
2. 1点集中する
3. 接近戦を行う
4. 小さなNo.1を作る
5. 足下の敵を攻撃する
それぞれ詳しく解説していきます。
差別化する
弱者の戦略で、まず重要なことは差別化です。強者は圧倒的な物量で攻撃を仕掛けてきますので、まともに戦っては負けてしまいます。そこで、差別化を行うことにより、強者となるべく競合しないように、競合範囲を狭めるようにしていくのです。
また、差別化は武器効率を上げることと直結します。酒屋の例で考えてみましょう。同じビールであっても、全国どこに行っても売られているキリンやアサヒのビールと、特定の土地でしか販売されていない地ビールとでは、価値が異なります。
スーパーマーケットではキリンやアサヒのビールしか取り扱いがなく、あなたの酒屋ではその土地特産の地ビールを販売しているとしましょう。この場合、地ビールを飲みたいお客は、あなたのお店で買わざるをえません。
この場合、ビールという限定的な市場においては、酒屋の方がスーパーマーケットより商品の質で優っていると考えることができます。つまり、武器効率が良いのです。
このように、弱者が強者に勝つには、まず差別化を考えなければなりません。それでは、どのような視点で差別化を行えばよいのでしょうか。
差別化は4P+顧客の視点で行う
差別化と一口に言っても、さまざまな施策が思い浮かびます。例えば、商品の差別化や営業エリアの差別化などです。業種や業態によって、差別化すべきポイントは異なります。そこで、どのような業種・業態であっても活用できる汎用的な視点があると便利です。
私が推奨する、差別化を考える際の視点は「4P+顧客」です。4Pとはマーケテイングミックスの4Pと呼ばれるもので、「製品(Product)」「価格(Price)」「流通(Place)」「プロモーション(Promotion)」の4つのことです。それぞれの頭文字をとって4Pといいます。
この4Pに顧客を追加した5つの視点で差別化を考えると、アイディアがまとまりやすいと思います。つまり、「製品の差別化」「価格の差別化」「流通の差別化」「プロモーションの差別化」「顧客の差別化」を考えていくということです。
製品の差別化
製品の差別化は最も分かりやすと思います。競合企業が取り扱っていな製品や、同種類の製品であっても高クオリティのものを販売することにより、自社を選んでもらえる可能性が高くなります。
居酒屋の例で考えましょう。他店では通常扱っていない、全国から集めた地酒を豊富に取りそろえていれば、強力な差別化となるでしょう。さらに、このような特殊な商品を扱っていれば、想定している商圏外からも、口コミでお客が来店する可能性があります。
また、サービス業の場合は、サービス自体が製品となりますので、サービスの差別化も重要です。例えば、マッサージ店を経営している場合、通常のマッサージだけではなく、「女性専用の小顔マッサージ」を取り入れてみれば、他店が集客できていない若い女性客を取り込むことができるかもしれません。
このように、まずは製品(商品・サービス)で差別化することで、競合企業との違いを生むことが重要です。
価格の差別化
価格を差別化することで、成長する企業もあります。例えば、マッサージ店の場合、従来は1時間6千円(10分1000円)ほどが相場でした。しかし、近年、1時間3千円のマッサージ店が急成長しています。
1時間6千円では高価な買い物となってしまうので、多くの人々は特別なときにしかマッサージ店に通えませんでした。しかし、1時間3千円という手ごろな価格であれば、頻繁に通えるようになったのです。
このように、通常、価格を下げればお客は増えます。しかし、弱者が価格で差別化する場合に値下げは推奨できません。なぜなら、値下げをするということは、粗利が少なくなるということだからです。
粗利は企業のガソリンです。粗利が少なくなれば、経営が苦しくなります。いずれ、体力勝負で大企業に負けてしまうでしょう。弱者は粗利率を上げる施策を取らなければなりません。そのため、弱者が価格で差別化を図る場合は、価格を上げる方がベターです。
もちろん、ただ値上げするだけでは、お客は離れていってしまいます。価格を上げるには、それ相応の理由がなければなりません。そこで、製品の差別化とも重なり合いますが、他店では扱っていない「レア」な商品を販売すれば、価格を上げることができます。
人は希少性にとても弱く、レアであるというだけで高いお金を出して消費することがあるのです。例えば、旅行に行った際に、「ご当地限定」というお土産があれば、多少高くてもついつい購入してしまうことがあるのではないでしょうか。
これと同じで、他店では買えない希少性の高いものを販売できれば、価格を上げることができます。また、サービスの面でも同じことがいえるでしょう。例えば、同じ商品を扱っていたとしても、他店より接客などのサービスがよければ、多少価格が高くても選んでもらえる可能性が高くなります。
マッサージ店が従来の価格の半額にしても経営が成り立つのは、手技のみの提供のため、売上のほとんどが粗利となるためです。つまり、元々粗利率が非常に高い業態なのです。
このように、価格で差別化を図ることも可能ですが、弱者はなるべく価格を上げる工夫をしましょう。
流通の差別化
流通とは、流通チャネルや営業エリアのことです。例えば、メーカーが製品を作って消費者の手元に届くまでには、多くの業者が介在します。1次卸、2次卸、小売業者などです。これらの流通チャネルにおいて差別化できないか考えます。また、店舗運営を行っている場合は、商圏(エリア)の差別化も考えなければなりません。
しかし、卸などの流通チャネルを使う手法は、広域戦となり、強者の戦略となります。そのため、弱者は、なるべくエンドユーザーに接近して販売をしなければなりません。つまり、メーカーであれば、直接小売業者に卸せないか、もしくは通信販売で消費者に直接商品を届けることができないかを考える必要があります。
弱者はエンドユーザーと近ければ近いほど有利になります。強者を出し抜くには、最終的な購買意思決定者に直接アプローチする工夫をするべきです。
また、エリア戦略は大変重要となります。まず考えなければならないのが、いかにライバルと競合しないようにするかということです。つまり、商圏が重ならない立地に店舗を構えることができればベストでしょう。
中国の古代の兵法書である「孫子」には、「戦わずして勝つ」と書かれています。つまり、敵と戦わないで勝つのが最も良い戦略だということです。店舗ビジネスの場合、競合店と商圏が重なっていなければ、戦う必要がないので、戦わずして勝つことができます。
この考え方は、ブルーオーシャン戦略とも呼ばれます。ブルーオーシャン戦略とは、競合ひしめくレッドオーシャン(赤い海、血で血を洗う競争の激しい領域)ではなく、ブルーオーシャン(青い海、競合相手のいない領域)で魚を独り占めしようという考え方です。
魚がいっぱいいる(お客がいる)ブルーオーシャンを見つけることができれば、戦わずして勝つことができます。しかし、現実にはそのようなエリアは少ないでしょう。そこで次に考えなければならないのが、孫子にある「勝ちやすき(易き)に勝つ」という考え方になります。
これは、自社よりも弱い競合しかいない領域で戦うべきであるということです。商圏が重なっていても、自社の方が商品が良かったり(武器効率が高い)、経営資源が豊富(兵力数が多い)であれば勝てます。
つまり、あまり耳触りのよい言葉ではありませんが、「弱い相手とだけ戦え」ということです。弱い相手を倒していくうちに力をつけていけば、いずれ強者にも勝てるときがきます。
このように、競合他社にはない流通チャネルやエリアを見つけることで、差別化を図っていきます。
プロモーションの差別化
プロモーションとは、お客とのコミュニケーション全般を指すものです。例えば、広告であったり、情報提供であったり、特典であったりします。
プロモーション戦略を差別化することは、とても重要です。なぜなら、扱っている商品やサービスがコモディティ化している(他との違いがほとんどない)場合は差別化を図りずらく、価格や流通・立地も、容易に変更することができないからです。
しかし、プロモーションだけは、容易に差別化を図ることができます。例えば、広告の場合は、広告を打つ媒体を変えてみたり(新聞、チラシ、雑誌、WEB、SNSなど)、広告文やデザインを変えてみたりすることもできるでしょう。
また、現在であれば、ブログやSNSで定期的に情報提供を行い、お客とコミュニケーションを図っていくのも有効です。商品でライバルと違いが出せないのであれば、購入者特典などを付けて差別化することも可能です。テレビショッピングでは、セールス文句の最後によく特典が付いてきますが、今でもとても効果的な手法です。
このように、他で差別化ができなくても、プロモーションで大きく差別化を図れば、顧客を取り込むことができます。
顧客の差別化
顧客の差別化とは、顧客層、顧客ターゲットの差別化とも言い換えられます。全ての顧客を狙うのではなく、ターゲットを絞り込んでアプローチをしていくということです。
モノが溢れかえり、価値観が多様化している現代では、全ての顧客を満足させる商品やサービスなどありません。ニーズを細かく分析し、絞り込む必要があります。ある一定の層だけに響くものを届けられれば、ビジネスは成り立つのです。
例えば酒屋の場合、60歳以上のシニア男性だけをターゲットにして商売をするという戦略が考えられます。若い人は、居酒屋に行ったり、スーパーマーケットやコンビニでお酒を買うことが多いでしょう。
しかし、シニア層(特にお酒をよく飲む男性)は、従来のように酒屋でお酒を買うという習慣が残っています。そのようなシニアそ男性向けの商品を扱ったり、御用聞きのような昔ながらのスタイルで営業をしたりすれば、多くの顧客を取り込むことができるでしょう。
日本は超高齢化社会ですので、シニア層はとても多いのです。シニア向けビジネスは今後も広がりを見せるはずですので、決してターゲットを絞りすぎているということはありません。むしろ、絞りすぎだと思うくらいが、メッセージが明確になり、成功する可能性が高いのです。
以上、「4P+顧客」の5つの視点で差別化を考えてきました。どれか一つを差別化するのではなく、全ての視点で差別化できないか考えてみましょう。しかし、注意点もあります。あまりに差別化しすぎて、市場がない(お客がいない)ということは避けてください。
あまりにニッチすぎる市場ですと、顧客の絶対数が足りないということがあります。例えばマッサージ店であれば、「手の指専門のマッサージ店」などと絞りすぎてしまえば、おそらく需要がないでしょう。これはかなり極端な例ではありますが、このような失敗がないように、大前提として「需要がある」ということを念頭に置きながら、戦略を練るようにしましょう。
1点集中する
差別化の次は、1点集中です。「製品」「価格」「流通」「プロモーション」「顧客」で差別化を行ったら、その領域に1点集中します。つまり、全ての経営資源をその狭い領域に集中して投下するのです。
弱者の戦略3原則の1つである「競合局面に兵力数を集中させる」とは、まさにこの1点集中をすることといえます。例えば、あなたが酒屋を経営していて、全国の日本酒を豊富に取り揃えることで差別化を図ると決めたら、そこに1点集中するのです。
つまり、ビールや焼酎、ウィスキー、ワインなどは扱わずに、日本酒だけに絞ります。専門店化するといってもいいでしょう。普通の酒屋と日本酒専門店では、顧客の受ける印象が異なります。お客が日本酒を飲みたいと思った場合、真っ先にあなたのお店を思い出してもらえるようになるのです。
確かに、他の商品を切り捨てれば、その分お客が減ってしまうかもしれません。実際、最初はその通りになるでしょう。しかし、中長期のスパンで考えれば、売上は必ず上がっていきます。日本酒専門店とすることで、「お酒」という領域では他のお店と競合しづらくなりますし、「日本酒」という領域では、あなたのお店の方が強い立場に立てるからです。
マッサージ店の例でいえば、例えば「腰痛専門のマッサージ店」として他店と差別化するとします。そうしたら、腰痛に関係ないことは一切やらないと決めるのです。肩こりや膝の関節痛の人は切り捨て、腰痛に悩んでいるお客だけにフォーカスします。
世の中に腰痛持ちの人はとても多いです。需要は十分にありますので、憶することはありません。腰痛専門とすることで、将来的には腰痛持ちのお客がたくさん集まってきます。
つまり、「選択と集中」が大事なのです。選択と集中とは「専門化」とも言い換えられます。「何でもできる」は「何もできない」ことと同じです。この領域で勝負すると決めたら、躊躇せず1点集中しましょう。
接近戦を行う
弱者の戦略3原則の1つは、「局地戦・接近戦に持ち込む」です。局地戦に持ち込むには、差別化と1点集中を行う必要があります。この2つがしっかりできていれば、狭い範囲での局地戦を行う準備が整うはずです。
それでは、次のステップは接近戦を行うことです。接近戦とは、エンドユーザーに直接アプローチすることでした。エンドユーザーと実際にコミュニケーションを取ることにより、正確なニーズをつかむことができます。そうすれば、適切な商品やサービスを提供することができますので、販売が容易になるのです。
接近戦を行ううえで、私が推奨している手法があります。それは、ダイレクト・レスポンス・マーケティング(DRM)です。詳しく解説していきます。
ダイレクト・レスポンス・マーケティングで接近戦を戦う
ダイレクト・レスポンス・マーケティング(DRM)とは、「マーケットから直接反応を得て、商品・サービスが自動的に売れていく仕組」を作ることです。そして、DRMには次の3原則があります。
・見込み客を集める
・見込み客を育成し信頼関係を築く
・見込み客に販売する
まず、見込み客を集める施策を行います。広告やブログなどのWEBメディアから見込み客を集めていくのです。そして、集めた見込み客に有益な情報提供を行うことにより、信頼関係を築きます。例えば、電話やメルマガ、小冊子などで定期的に情報提供をしていきくのです。
そして、見込み客と信頼関係ができたうえで、商品やサービスの販売を行っていくという手法がDRMとなります。これは、まず見込み客を集めてから(1ステップ)、その後に販売を行う(2ステップ)ので、2ステップマーケティングと呼ばれるものです。
通常、新規のお客に最初からセールスを行う、1ステップマーケティングを行っている企業が多いので、2ステップマーケティング(DRM)を取り入れることで、成約率を高めることができます。
弱者は接近戦を行わなければなりません。接近戦の良いところは顧客と直接コミュニケーションが取れるということです。つまり、顧客と信頼関係を築きやすいというメリットがあります。顧客側の視点で考えても、信頼のおける人から買いたいと思うはずです。
ぜひ、ダイレクト・レスポンス・マーケティングを活用して、接近戦で効果を上げてください。
小さなNo.1を作る
差別化して、1点集中し、接近戦を行うことの最初の目標は小さなNo.1になることです。例えば、「埼玉県○○市△△町の販売数No.1」「新潟県○○市の腰痛専門マッサージ店では来店数No.1」などです。
局地的なニッチ市場で戦っているため、小さなNo.1を作りやすくなっています。ブルーオーシャンの市場であれば、戦わずしてNo.1になることもできるでしょう。
それでは、なぜNo.1にならなければならないのでしょうか。それは、1位と2位以下とでは、圧倒的に売上に差が出るからです。例えば、日本で一番高い山と聞いて「富士山」と答えられない人はいないと思います。しかし、2番目に高い山を「北岳」と答えられる人がどれほどいるでしょうか。
富士山に観光に行く人はたくさんいますが、北岳の観光というのはほとんど聞いたことがありません。つまり、お客の大半はNo.1の商品を買い、No.1のお店に集まるのです。そのため、領域は小さくても構わないので、No.1になることが重要になります。
一つの領域でNo.1になったら、別の領域でもNo.1を作っていき、徐々にシェアを広げていくのです。
ランチェスター戦略では、第一法則で戦う場合、2位とのシェアの差を3倍つけられれば、安定した圧倒的1位になれるとされています。第2法則で戦う場合は、√3倍、つまり約1.7倍差をつければ地位が安定するようです。
まずは、自社で設定した集中領域で、小さなNo.1を作ることを目標にしましょう。
足下の敵を攻撃する
差別化して1点集中し、接近戦をを行った結果、小さなNo.1を獲得できたとします。そうなれば、あなたの企業はすでに強者の地位を手に入れているのです。ランチェスター戦略では、競合局面で1位の企業を強者と言い、2位以下の会社を弱者としています。
つまり、小さなNo.1を獲得している時点で、その競合局面においては強者なのです。しかし、強者になったからといって安心していてはいけません。今度は、弱者があなたの地位を奪いに来ます。そのため、No.1の地位を守っていかなければなりません。
そのために、次に必要になってくるのが「足下の敵を攻撃する」というも施策です。足下の敵とは、1位の企業から見れば2位の企業であり、2位の企業から見れば3位の企業のこと。つまり、1ランク下の企業を攻撃することにより、シェアを守っていきます。
なぜ足下の敵なのかというと、それよりも下の敵を攻撃している間に、足下の敵がシェアを伸ばしてしまう恐れがあるからです。また、No.1の地位は、2位と3倍もしくは1.7倍の差をつければ安定するので、足下の敵を攻撃することが重要となります。
それでは、どのように攻撃するのでしょうか。これには強者の戦略を用いる必要があります。強者の戦略とは「ミート戦略」です。ミート戦略とは「真似る」ということです。足下の敵は、弱者の戦略に習い、強者であるあなたの会社と差別化しようとします。差別化された場合、シェアを奪われるかもしれません。
そのため、敵の差別化を封じるために、敵の真似をするミート戦略が効果を発揮するのです。例えば、コーヒーチェーンの最大手のドトールコーヒーは、スターバックスからシェアを奪われないように、スターバックスとよく似た「エクセルシオールカフェ」というお店を作りました。
この施策により、それまでスターバックスに流れていた、おしゃれなカフェを好む客層の一部を取り込むことができるようになったのです。このように、業界最大手の企業(強者)はミート戦略を駆使して、シェアを守っています。
例え小さなNo.1であっても、足下の敵を攻撃する場合には、強者の戦略であるミート戦略を行うことも必要です。
ここまで見てきてわかるように、ランチェスター戦略では、競争目標と攻撃目標を分けて考える必要があります。
競争目標は頭上の敵である強者であり、弱者の戦略で対応します。差別化して、直接的な競合を避けるようにしなければなりません。攻撃目標は足下の敵となり、強者の戦略で対応します。その際は敵の真似をするミート戦略を行うのです。
しかし、まずは小さなNo.1を作ることが当面の目標となりますので、弱者の戦略を優先して取り組むようにしましょう。
まとめ
・ランチェスター戦略とは、戦争における法則をビジネスに転用したもので、「弱者の視点」と「強者の視点」の両方から論じられている
・ランチェスター第1法則は、「戦闘力=武器効率×兵力数」の方程式によって成り立ち、弱者の戦略に用いられる
・ランチェスター第2法則は、「戦闘力=武器効率×兵力数の2乗」の方程式によって成り立ち、強者の戦略に用いられる
・ランチェスター戦略のメリットは、弱者の戦略を用いることで、小さな会社や起業したばかりの個人事業主であっても、強者に勝ち、No.1となることができるというもの
・弱者の戦略3原則は以下である
1. 局地戦・接近戦に持ち込む
2. 武器効率を上げる
3. 競合局面に兵力数を集中させる
・弱者の戦略を構築する5ステップは以下である
1. 差別化する
2. 1点集中する
3. 接近戦を行う
4. 小さなNo.1を作る
5. 足下の敵を攻撃する
おすすめ教材
ランチェスター戦略をより詳しく学びたければ、竹田陽一氏と栢野克己氏による以下の著書をおすすめします。
是非、読んでみてください。