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仕事におけるリーダーシップとは…意味と必要性、身につけ方を学ぶ

リーダシップは、企業・官公庁に限らず、同好会やサークルなどの団体においても、組織の指導的立場に立つ人が持つべき資質です。

 

指導的立場といっても、リーダーシップを発揮すべきなのは、組織・団体・集団の指導者一人だけではありません。大組織であれば本部があり、その下に部や課、係(グループ)といった小組織があるはずです。また、組織横断的なプロジェクトチームもあるでしょう。つまり、組織・集団それぞれにリーダーを担う人材が必要なのです。

 

さらに、非常事態では誰もがリーダーシップを求められることがあります。例えば、災害や事故が起こった際に偶然その場に居合わせたことで、人々を安全な場所に誘導せざるを得ない立場となる人もいるでしょう。この場合にも、本人の望む望まないに関わらず、リーダーシップを発揮することが求められることとなります。

 

リーダーシップが求められる人々

 

リーダーは組織や集団の目的に向かって、構成するメンバーの能力を引き出し、統率していかなければなりません。その統率力、指導力を一般的にはリーダーシップと呼びます。強いリーダーシップを発揮する人は、構成メンバーの意欲を高めつつ能力を最大限に引き出し、組織の目的をより早く達成し、大きな成果をあげることができます。

 

ここで勘違いしてはいけないのが、リーダシップは芸術的センスや運動神経といった天賦の才能とは違い、努力すれば身につくものだということです。リーダーシップという資質を持って生まれた一部の者のみが発揮できるという性質のものではありません。

 

また、権力や恐怖を背景にして、人々を半ば強制的に動かすこととは全く違うものです。例えば、刑務所の看守は入獄している犯罪者に指示をして動かすことができますが、彼らのリーダーではありません。さらに、組織の目的や構成メンバーの特徴によって、好ましいリーダーシップの形は様々だということも理解しておくべきです。

 

いずれにしても、組織に目的がある限り、その組織のリーダーに求められる資質がリーダーシップです。ここからは、リーダーシップをより深く理解してもらうために、具体的な例を提示しながら説明をしていきます。

 

強いリーダーシップを発揮した歴史上の人物

 

まず、歴史上の著名な人物の中から、強力なリーダーシップを発揮した二人の例を見てみましょう。

 

豊臣秀吉

 

豊臣秀吉はご存知の通り、農民から成り上がり天下人となった、出世物語を実現した戦国時代の武将です。織田信長の草履を懐に入れて温めたというような上司に取入ることに長けた逸話が残っていますが、この人物を語る場合のキーワードは、「人たらし」です。

 

人たらしとは、他人を自分の味方に引き入れてしまう能力です。真田幸村に限らず、竹中半兵衛や石川数正、徳川家康まで、優秀な人材をスカウトして天下統一を果たしました。いわば、人との信頼関係を構築して自分の陣営に引き入れるのに長けていたと言えます。

 

強権的な指導力を発揮し躓いてしまった信長に対し、秀吉は決断力とスピードを背景に、スカウトした部下を巧みに使うリーダーシップに長けていたと言えるでしょう。

 

坂本龍馬

坂本龍馬は、幕末の志士で薩長同盟や大政奉還の実現に大きな影響力を与えた人物であることは周知のとおりです。この坂本龍馬のリーダーシップの根幹は、「社交性」です。

 

人の話をよく聞き、他人から学んだ良い点はすぐに吸収して成長していきます。例えば、勝海舟に会った際には、海軍の必要性を説かれ、それに感じ入った龍馬はすぐに弟子入りを決断しました。龍馬はまた、人を恨むことは決してなかったとも言われています。彼は多くの人と信頼の絆で結ばれていました。

 

龍馬がリーダーシップを発揮するうえで特筆すべきは、自分の配下の者だけを指揮したのではないということです。龍馬は元々自分とつながりのない他人をも動かす難易度の高いリーダーシップを発揮しました。この点は、豊臣秀吉のケースとは趣を異にしています。

 

木を見て森を見ずという諺がありますが、龍馬は常に森を見ていたのではないでしょうか。大局観を持つことが苦手な日本人の中にあって、日本国内にとどまらず世界を意識し、そこから今どう行動すべきかを考えていた稀有なリーダーでした。

 

リーダシップの意義

 

ここで、リーダーシップの意義を説いた経営学者ピーター・ドラッカーの主張に耳を傾けてみましょう。ドラッカーは、数多くの成功した経営者・政治家に会い、それぞれのリーダーシップをつぶさに観察してきた人物です。

 

ドラッカーが説いたリーダーの条件は、以下の3点です。

 

1. リーダーとは、組織の目標を明らかにし、その達成のためやるべきことの優先順位や基準を定め、それらを実施し続ける人である。

 

ドラッカーによると、リーダーとは仕事としての役割であり、そこには天賦の才能やカリスマ性は必要ではなく、誰でも果たすことのできる立場なのだということです。。

 

2. リーダーシップを、地位や特権ではなく責任と見ることである。

 

リーダーシップは、親から引き継いだ地位特権とは切り離して考え、リーダーに課された責任であるとしています。

 

3. 真のリーダーは、自らが最終的に責任を負うべきことを理解しているため、部下の台頭を恐れない。

 

世の中には「No2殺し」と呼ばれるリーダーがいます。活躍している部下を脅威ととらえ、配置転換やパワーハラスメントまがいのことを行い、意図して部下の活躍を阻害する人達です。ドラッカーは、これらの人は真のリーダーとは言えないとし、本物のリーダーは、部下の成果が最大限となるよう気を配らなければならないと説きます。

 

以上の3点を踏まえたうえで、部下とは信頼関係が成り立っていなければならないとドラッカーは力説しています。

 

ここで、豊臣秀吉と坂本龍馬の2人のリーダーシップの達人のことを思い出してください。2人に共通していたのは、部下や自分に従う人々との信頼関係を構築していたことです。リーダーシップを語る場合の最大のキーワードは、「信頼関係」であることが、はっきりしてきました。

 

ドラッカーの説く真のリーダーシップ

 

立場が人を作る

ここまで見てきたように、リーダーシップは誰れでも努力によって身につけられるものです。初めて組織を任され部下を持つようになった人でも、本稿で述べてきたことを念頭に置いて努力すれば、必ず形になってゆくことと思います。

 

立場が人を作る」という言葉をよく耳にします。新たにリーダーとなった人は、自ずとその立場で組織の目標やそれを達成するための方法を考えざるを得なくなります。初めてリーダーを任される人は決して臆することなく、自分がリーダーとして一人前となる姿を想像しながら仕事に取り組んでほしいと思います。

 

リーダーシップはどうしたら身に付けられるか

リーダーに付き従っている段階からリーダーシップを醸成することは可能です。常に自分をリーダーの立場に置き換えて、自分がリーダーだとしたらどうするかを考える習慣を身につけておくことです。もし、あなたが付き従ったリーダーが素晴らしいリーダーシップを発揮していたのなら、ぜひそれをお手本としてください。

 

初めてリーダーとなった人が陥りがちな態度は、自ら業務に没頭してしまうことです。リーダーは自ら業務を行わず、部下に仕事をさせることを考えなければなりません。ドラッカーの説くリーダーの1番目の条件、「組織の目標を明らかにし、その達成のためやるべきことの優先順位や基準を定め、それらを実施し続ける」ことがリーダーの仕事なのです。部下ができることは極力部下にやらせることを肝に銘じなければなりません。

 

部下を自身の意思のもと動かしたり、部下に信頼感を与えるための心理学を勉強することも重要です。敢えて部下とのコミュニケーションを多めに取って、部下の意識の向いている所や悩みどころを把握するのもよいでしょう。

 

そして、リーダーシップを身につけるための近道は、ともかく場数を踏むことです。優れたリーダーシップには唯一の正解があるわけではありません。ドラッカーも、世の中の成功した経営者には様々なタイプの人がいたと述べています。場数を踏んで、自らの最適なリーダーシップのとりかたを探求していってください。

 

リーダーシップの定義

 

リーダーシップには、研究者やコンサルタントによる多数の定義がありますが、それらの定義には以下の2点の共通項があります。

 

・リーダーシップとは、リーダーの中だけにあるものではなく、リーダーとそのリーダーに付き従う人々(以下フォロワー)との相互関係の中に存在する

 

・リーダーシップは、リーダーとフォロワーとの信頼関係があってはじめて発揮される

 

ここでは、先人達による様々なリーダーシップの定義を通じて、これら2点の共通部分を軸に理解を深めていただきたいと思います。それにより、リーダーシップの実践に役立つヒントを得ることができるでしょう。最終的に、あなた独自のリーダーシップの定義を確立する一助となれば幸いです。

 

まず、リーダーシップの定義の話に入る前に、そもそもリーダーシップの前提となっている条件とはどのようなものか、探ってみることにしましょう。

 

リーダーシップは、リーダーだけが行使するものか

 

リーダーシップとは、リーダーが部下などのフォロワーに対し、一方的に行使するものなのでしょうか。

 

研究者によるリーダーシップの定義では、必ずリーダーとフォロワーがいます。心理学者でリーダーシップの研究で知られた三隅二不二(1924年〜2002年)は「PM理論」を提唱しました。この理論は、「集団の目標達成のためには、部下に目標を提示し叱咤激励する行動(パフォーマンス)と、部下に助言したり処遇改善を行う行動(メンテナンス)の2面が必要である」ことを示しています。

 

アメリカのAT&Tマネジメント研究センター長を務めたR.グリーンリーフ(1904年〜1990年)は、自ら提唱した「サーバント・リーダーシップ」という理論の中で、「リーダーは『奉仕する人』であり、人々が最も望むものを手に入れるために、その人々を導き、力を発揮できるようにする者である」と説いています。

 

アメリカの作家でEQ(心の知能指数)を提唱したD.ゴールマン(1946年〜)は、「EQリーダーシップ」において、「自分の感情をコントロールし、フォロワーの気持ちをくみ取る、人間関係の管理に長けている情緒的知性がリーダーには必要である」としています。

 

多くの研究者が、リーダーとフォロワーの間に信頼関係が構築されていることが、リーダーシップの大前提であることを説明しています。こうして見てみると、リーダーシップは、リーダーがフォロワーに対して一方的に行使するものではないことがおわ分かりいただけるでしょう。つまり、リーダーシップとは、リーダーだけで成り立つものではなく、リーダーとフォロワーの両者がいてはじめて成り立つものなのです。

 

フォロワーの立場にも着目

 

リーダーシップにおいて、フォロワーも重要な要素であることがわかりました。 リーダーシップが発揮されるときのフォロワーはどのような存在なのでしょうか。理解を促すために次の事例を用いて、敢えて逆説的に考えてみましょう。

 

例:フォロワーがいてもリーダーシップが存在しない場合

 

リーダーとフォロワーがいてもリーダーシップが存在しない例として、少々極端ですが、第二次大戦直後のロシアにより、元日本軍兵士が捕虜として強制労働を課されたシベリア抑留の状況を見てみたいと思います。

 

シベリアの捕虜たちは、極寒で満足な食料のない過酷な環境で強制労働を強いられ、多くが命を落としました。フォロワー(強制収容された捕虜)は、リーダー(収容所職員)に自分の意思で付き従っているわけではありません。命令に従わなければ、生きるのに必要な最低限の衣食住さえ保証されず、強制的に従わされている状況でした。もちろん、リーダーとフォロワーの信頼関係などあるはずがありません。

 

リーダーシップの目的の一つに、集団の目標を達成するということがあります。しかし、このようなフォロワーの意思に関係なく行動を強制させられる状況下では、リーダーシップは必要ありません。リーダーは、ただ命令し、従わなければ食事を与えないという罰則を課すだけです。

 

裏返してい言えば、フォロワーが強制的に従わされているのではなく、自律的に行動している場合に初めてリーダーシップがクローズアップされてくるといえるのです。フォロワーが自律的に行動することが前提と考えると、ときにはフォロワーがリーダーをに対して批判をしたり、意図的に業務を拒否したりすることも想定されます。

 

リーダーシップに関してフォロワーの影響力の大きさに着目した研究者に、心理学者のE.ホランダーがいます。彼は、リーダーシップを発揮するうえで、リーダーはいかにフォロワーからの信頼を得られるかが重要だと説いています。

 

リーダーシップはどこに存在するのか

 

リーダーシップ不在だとどうなるか

 

ここまでの説明で、リーダーの中だけでリーダーシップが発揮されるわけではなく、リーダーとフォロワーの相互作用によってリーダーシップが発揮される土壌が整ってゆくということが理解できたと思います。

 

それでは、目的をもった集団にリーダーシップが不在だった場合、どのような事態が想定されるか具体例を見てみましょう。

 

例:旅行代理店Aさんの場合

 

中堅旅行代理店に勤務するAさん(女性)は、大学卒業後すぐに現在の会社に就職しました。そして、35歳になったとき、初めて店長を任されることになります。店頭での接客に自信のあったAさんは、店長になってからも、自ら店頭での接客に力を注いでいました。一方で、元々その店舗での経験の長い優秀な主任2人に、その他部下への業務指示の伝達をはじめ、従業員教育や資材管理など多くの業務を任せています。

 

そして、店長として赴任して半年が経ったある日、3名の社員が一斉に退職の意思を伝えてきたのです。その理由を聞いてみると、思いもよぬ事態に陥っていたことがわかりました。実は、部下が店長派と反店長派に分断されていたことが判明したのです。反店長派の言い分は次の2点でした。

 

1. 店長が2人の主任だけを可愛がり、他の従業員には職務を進めるうえでの重要な情報が入らなくなってしまった

 

2. 情報がないために業務が進められないことを、自分たちの責任であるかのごとく叱責されることが頻繁に起こった

 

Aさんはこの状況を知り、主任2人への指導が足りなかったのだと考えました。そこで2人に対し、業務指示や情報を他の部下たちにしっかり伝えることと、従業員教育を強化することを指示します。自らは、部下の退職による業績悪化を最小限に食い止めるため、さらに店頭接客に力を入れるようになりました。

 

そして半年後、業績は大幅に悪化し、Aさんは責任を取らされるかたちで内勤に異動となったのです。

 

リーダーとフォロワーの関係

 

E.ホランダーは自らが提唱した「信頼性蓄積理論」の中で、「リーダーとフォロワーとの関係の中で、リーダーシップが有効に機能していくには、両者の信頼関係が必要である」と述べました。

 

彼は、信頼の蓄積が大きいほど、リーダーの影響力も大きくなると説明しています。この信頼関係の蓄積は、リーダーとフォロワーの間で一朝一夕の間に達成されるものではなく、両者が協調して時間の経過とともに築き上げていゆくものです。

 

上記の例では、Aさんからの業務指示が従業員全員に十分伝わっていませんでした。それに加えて、部下の悩みの相談に乗ることや働きやすい環境を作るといった考えは、全くと言っていいほどAさんの頭の中になかったのです。そのために、一部の従業員との信頼関係の構築に失敗してしまったとい言えるでしょう。

 

店舗の売上が落ちてきたときに、マネジメントを放棄し、本来部下が行うべき接客にAさんが自ら力を注いでいました。そのため、店舗内の情報共有がさらに滞ってしまいます。これが原因で、部下からの信頼感がより低下するという悪循環に拍車をかけてしまったのです。

 

リーダーとフォロワーとの交換・交流に着目した理論に「LMX(リーダー・メンバー交換)理論」があります。この理論では、リーダーがフォロワーに与える評価が公平でなければ、リーダーに好意的にふるまう集団(イングループ)と非好意的にふるまう集団(アウトグループ)ができてしまうことが説明されています。しかし、リーダーがフォロワーに与える報酬や評価が公正であれば、フォロワーは集団や組織に対し積極的に貢献しようとする、パートナーといえる存在にまで発展すると結論付けています。

 

上の例のAさんは、部下との成熟したパートナー関係を築くことがはできませんでした。そのため、まさに意図せずして一部の部下は不当な評価をくだされたと思い込み、店舗内にイングループとアウトグループを作ってしまっていたのです。

 

LMX(リーダー・メンバー交換)理論

 

リーダーシップを考える視点

 

リーダーシップは、リーダーだけに帰属するものと思われがちです。しかし、リーダーシップが発揮されるときには、リーダーがいるだけではなく必ずフォロワーもいます。リーダーシップとは、リーダーとフォロワーとの相互関係の中に存在する概念なのです。

 

あなたがリーダーの立場であってもフォロワーの立場であっても、今後リーダーシップの考え方を身につけ深化させていき、リーダーシップの”持論”を確立していくことをおすすめします。

 

ここからは、リーダーシップについて今後理解を深めていくうえで、知っておくべき3つの視点を取り上げて説明していきたいと思います。その視点は、以下のとおりです。

 

1. リーダーの選ばれ方によって、リーダーとフォロワーとの間の信頼関係には濃淡が生まれ、リーダーシップの発揮の仕方にも影響するという視点

 

2. リーダーは一つの集団に必ずしも一人だけとは限らず、複数人でリーダーシップを良好に発揮している場合もあるという視点

 

3. リーダーに倫理観が欠如している場合には、フォロワーには自律的な判断力が求められるという視点

 

第1の視点:リーダーの選ばれ方による3タイプ

 

リーダーと呼ばれる人たちは、どのような経緯でそうなったのでしょうか。大きく分けると以下の3つのタイプがあると考えられます。

 

1. 自然発生的な集団のリーダー
 趣味のサークルの取りまとめ役、有志の集まる飲み会の幹事など

 

2. 選挙で選ばれたリーダー
 自治体の首長、生徒会長など

 

3. 任命・指名されたリーダー
 会社組織の管理職、世襲、前リーダーの指名など

 

以下、具体例を挙げて見ていきましょう。

 

例:どのケースが最もリーダーシップを発揮しやすいと思いますか

 

さて、以下のリーダーの中で、最もリーダーシップを発揮しやすい人は誰だと思いますか。上記の3タイプから1例ずつ挙げてみましょう。

 

タイプ1:ハイキンググループのリーダー

 

Aさんは、60歳で会社を定年退職しました。学生時代の同級生も次々とリタイアし時間的な余裕ができたため、4人ほどで集まり、月1回のペースでハイキングをすることになったのです。学生時代に登山部に所属していたAさんが、自然とリーダーの役割を担うかたちとなりました。口コミにより、同級生やその配偶者、さらにその友人がメンバーに加わっていきます。Aさんの人徳もあってサークルの雰囲気も良く、1年後には20名ほどのサークルができあがりました。

 

タイプ2:一般社団法人の理事長
X社団法人は、定款で理事長を選挙で選ぶこととなっています。もともと理事であったBさんは、対立候補を大差で破り理事長に選出されました。Bさんは当選後、選挙の対立候補やその候補を応援した理事を含め、全員協力体制でX社団法人を運営していくことを表明したのです。

 

タイプ3:大手スーパーの店長
Cさんは、大手スーパーの生鮮食品のバイヤーでしたが、大都市郊外のショッピングセンターの核テナントであるY店の店長に赴任することとなりました。この店舗には面識のある従業員が少数しかいません。また、長らく店舗の現場を離れており、8年ぶりの現場復帰となります。現場を離れている間に店舗運営システムもかなり進歩し、最初は部下に教えを乞うことも多くなりそうです。

 

さて、上記の例では、リーダーシップの発揮しやすい順番は、1→2→3である可能性が高いです。

 

なぜでしょうか。ここでは”信頼関係”というキーワードをもとに検証してみましょう。なぜなら、リーダーシップは、リーダーとフォロワーとの信頼関係がないと十分に発揮されないといわれているからです。最初に説明した通り、リーダーシップはリーダーとフォロワーの間に存在する概念なのです。

 

リーダーの選ばれ方による3タイプ

 

リーダーとフォロワーの信頼関係がリーダーシップの発揮の仕方に影響する

 

上記の例の3タイプのリーダーとそのフォロワーに関して、信頼関係に焦点を当てて検証していきましょう。

 

タイプ1のAさんの場合は、サークル発足当初からフォロワーとの信頼関係ができており、後から集まったフォロワーは自らの意思でAさんを信頼して参加していると想像できます。

 

タイプ2のBさんの場合は、選挙で対立候補がいましたが、大差で当選しており、その票数はもともと理事であったBさんへの信頼の証しと考えることができるでしょう。ただし、最初のうちは、対立候補側の人々から信頼を得られるよう努力が必要であることが想像できます。

 

タイプ3のCさんの場合は、当然業務上フォロワーはCさんに従う義務があるでしょう。しかし、面識のある部下は少数であることや、最初のうちは部下に教えを乞わなければならないというハンディキャップを抱えていることから、ほとんどゼロの状態から信頼関係を築いていかなければならないと考えられます。

 

第2の視点:リーダーは一人なのか

 

リーダーシップについて語るうえでの第2の視点は、必ずしも一つの集団にリーダーは一人ではないという点です。

 

先ほどの3タイプのリーダーの例では、いずれもリーダーは一人でした。しかし、以下のような集団・組織も存在します。

 

・マトリックス組織
例えば製品別と職能別、あるいは地域別と職能別で、それぞれリーダーを配置し、縦横のマトリックスにより2名のリーダーに従う構造の組織

 

・複数の階層がある場合
ある程度大きな規模の組織には、通常複数の階層が存在する。この場合、中間層の人たちは、部下に対してはリーダーであり、上級職に対してはフォロワーでもある。これを考えると、中間層以下の人たちは、付き従うべき上級職=リーダーが複数存在することが一般的である。

 

・複数のリーダーが存在する場合
旧ソビエト連邦のトロイカ体制や、共和制ローマ末期の3頭政治など、歴史上の政治体制でも複数のリーダーの存在は確認できる。会社組織の場合に目的を共有した複数のリーダーがいる場合もある。

 

複数のリーダーがいる場合の例

 

例:1981年〜1983年 プロ野球読売巨人軍のトロイカ体制

 

ここで、複数のリーダーがいる事例を取り上げてみましょう。トロイカ体制とは、旧ソ連において3頭立ての馬車になぞらえて名付けられた、複数名による政治指導体制のことです。

 

読売巨人軍では、1981年、藤田元司が長嶋茂雄の後を受けて監督に就任し、王貞治、牧野茂(ヘッドコーチ)とともに3人でチームを指導するかたちをとりました。これを旧ソ連になぞらえて、「トロイカ体制」と呼ばれます。

 

川上監督の後に就任した長嶋監督の時代は、リーグ制覇はあったものの、ついに日本シリーズを制することなく終わりました。藤田は元ピッチャーです。王は言うまでもなく世界のホームラン王の称号を得た大打者でした。牧野は、川上監督のいわゆるV9時代からの巨人軍の名参謀です。

 

藤田が主に投手と全体の総指揮を、王が打者を、牧野が戦略を受け持ち、チームを強化しました。投手では、西本聖や江川卓が、打者では原辰徳(当時ルーキー)や中畑清が活躍し、就任1年目にして永らく遠ざかっていた日本一を奪還したのです。

 

複数のリーダーの他の例としては、集団の中に専門分野ごとにリーダーがいるケースや、リーダーの他に補助的にサブリーダーがいるケースなどが考えられます。上述の巨人軍トロイカ体制時代は、3人の専門分野を活かして集団指導体制を確立し、強いチームを復活させました。まさに専門分野ごとにリーダーがいる典型的な例と言えるでしょう。

 

近年、企業経営において集団の中に複数のリーダーが存在する場合の方が、単独のリーダーしかいない場合と比べて、リーダーシップがより機能するという研究成果が日本で発表されました(社会心理学者坂田桐子他)。将来、会社では直属の上司が2人いるということが常識となるかもしれません。

 

第3の視点:リーダーの倫理観

 

最後の視点では、リーダーの倫理観について取り上げます。

 

もし、リーダーが不法行為をフォロワーに対し求めたら、また不法行為とまではゆかずとも、社会通念に照らし合わせると控えるべき行動を求めたら、フォロワーはどのような態度をとるべきでしょうか。

 

例:映画「アパッチ砦(とりで)」(1948年)に見るリーダーの倫理観

 

ここで、往年の西部劇の名手ジョン・フォード監督による映画「アパッチ砦」を取り上げ、リーダーの倫理観について考えてみましょう。

 

ヘンリー・フォンダ扮するサーズディ中佐は、南北戦争の失敗により降格となり、異動で辺境のアパッチ砦に赴任しました。しかし、自身の過去の実績と比べ、今回の任務は役不足であると感じ、上層部の評価については不満を抱いています。そのため、早急に戦功をあげ名声を復活したいという焦りがありました。

 

アパッチ砦では、サーズディ中佐は先住民を力でねじ伏せることを決断します。部下であるカービー・ヨーク大尉(ジョン・ウェイン)からは、アパッチ族を甘くみてはならず、慎重に行動すべきと警告されました。しかし、サーズディ中佐は、全く聞く耳をもたないどころか、ヨーク大尉の指揮権を奪い後方任務に追いやってしまいます。

 

無謀とも言える突撃をしたサーズディ中佐の率いる隊は、案の定、敵の策にはまって挟撃されるかたちとなり、砂漠の中で孤立してしまったのです。結局隊は全滅してしまいます。

 

この例で、リーダーであるサーズディ中佐は、いくつかの過ちを犯しています。早く功績を挙げたいという自己の欲望が拙攻を招く結果になってしまったこと、部下からの進言を自分の命令に背く行為だと決めつけ排除してしまったこと、自己の戦闘能力を過大評価し実力以上の実績を挙げられると思い込んでしまったことなどです。

 

ここで注目すべき点は、暴走するリーダーに対し、自律的に判断し、最悪の事態を回避しようと動いた部下=フォロワー(ヨーク大尉)がいたことでしょう。

 

「傲慢症候群」にとりつかれるリーダー

 

大企業の社長、国家や自治体の首長、新興宗教の教祖など、大組織の中でいわゆる”絶対権力”を手にした人の中には、「傲慢症候群」(英国の医師で政治家でもあったデイヴィッド・オーウェンが生み出した権力者に特有の病)に取りつかれてしまう人もいます。

 

この傲慢症候群には、「自分の判断には自信があるが、ほかの人の助言や批判は見下す」「自分の意見の可否についての審判を下す者は、同僚や世論ではなく、歴史や神であると思い込む」「イメージや外見が気になる」「自分の意見を会社や国家等と重ね合わせるうちに、その意見は会社や国家の考えと同一だと思ってしまう」などの14の症例があるとされています。

 

この「傲慢症候群」は、後天的にかかる病だとされています。極めて温厚で他人の意見にも耳を傾ける性質の人であっても、絶対権力を握った後には、上記のような症例が現われ、性格が変わったように見えるというのです。

 

この病にかかったリーダーは、反社会的な行動を取っていても、自分では修正が効かなくなってしまいます。このときに必要なのは、リーダーの指示を自律的に判断し、必要であれば撤回を求めるフォロワーの存在です。

 

傲慢症候群14の症例

 

度々耳にする上場企業の粉飾決算の問題も、この「傲慢症候群」にかかったトップが暴走したのではないかと疑わせるような記事を目にすることがあります。この際にもトップを諫めるフォロワーがいたと信じたいところです。

 

リーダーの倫理観が欠如している場合とフォロワーの役割

 

さて、リーダーの立場にいる人が、自身の行動に問題がないか自問自答することはもちろん大切です。しかし、リーダーの指示に倫理的な問題があることが明らかな場合に最も重要なのは、フォロワーが盲目的に追従するのではなく、リーダーに対して意見をぶつけてみたり、問題を回避する行動をとったりする自律的行動が取れるかどうかです。フォロワーの自律的行動が、暴走するリーダーをくい止める最後の”砦”なのです。

 

リーダーシップ論の歴史

 

ここからは、リーダーシップ論の歴史を概観していきます。

 

古代から第二次世界大戦前までは、国家の首長や歴戦の英雄の資質が研究対象でした。その研究の前提には、「リーダーには、先天的な超人的資質を持つ者のみがなりうる」という考えがあったためです。この前提は今では否定されているものの、リーダーの資質の研究は「パーソナリティ研究」として現在も成果を生み続けています。

 

第二次世界大戦後には、先天的な資質を持たない者でも優れたリーダーになれることが理解されはじめ、本格的なリーダーシップ論の研究の糸口となりました。そこから、リーダーの行動に着目した研究が行われるようになり、1960年代に入ると、リーダーとフォロワーの相互関係がクローズアップされてくることとなります。

 

1980年代には、国力が減速した米国において、変革型リーダーが必要とされるようになり、研究が深まりました。近年では、先進国社会の成熟化により、金銭的報酬だけでは企業の従業員の満足を得られにくくなってきたことから、リーダーの倫理性を重要視するリーダーシップ論が台頭してきています。

 

リーダーシップ論の論点の変遷

 

以下、詳しく見ていきましょう。

 

第二次世界大戦前までの”リーダー論”

古代以来、永らくリーダーとなるものの備えるべき資質の考察を中心とした「英雄論」が幅を効かせてきました。リーダーシップ論というよりは、リーダー論と表現した方が適切かもしれません。「類まれな資質があったからこそ英雄になれた」という論調は、人々を納得させやすい理屈でもありました。

 

ここでは、歴史上の特定の人物や一般的なリーダーについて、その資質を説明している書物をいくつか取り上げてみたいと思います。

 

例:書物に現われるリーダー論

 

「孫子の兵法」に見る”将”の資質

紀元前500年頃に中国で書かれたとされるこの書物の中では、将の資質として、物事を把握する能力である”智”、部下への信頼を表す”信”、部下を思いやる心である”仁”、困難に立ち向かう”勇”、部下を律する”厳”の5項目を挙げています。

 

「金楼子」に見える諸葛亮の”光武帝”評(後漢:前6年〜57年)

漢を復興し文武両道で中国史上最高の賢帝との呼び声が高いのが光武帝です。「金楼子」(魏晋南北朝時代:梁の元帝著)には、三国志で有名な政治家である諸葛亮(181年〜234年)が後漢初代皇帝光武帝(前6年〜57年)を評価する記述が見られます。それによると、「神の如き知謀を持ちみずから深謀遠慮を有していた」とされています。光武帝があまりにも有能で失敗も皆無であったため、家臣の活躍の場が限られていたとも諸葛亮は述べています。

 

「君主論」でマキャヴェッリが主張する君主の”力量”

マキャヴェッリがフィレンツエで16世紀にまとめたとされる「君主論」には、国家の君主は力量が必要だとしています。その力量とは、武力や謀略で勝利する力、民衆から敬愛される施策、その一方で国家を安定させるための民衆からの畏怖などであるとしています。

 

「ローマ帝国衰亡史」の”ユリアヌス帝”

「ローマ帝国衰亡史」は、イギリスの歴史家であったエドワード・ギボン(1737年〜 1794年)による歴史文学です。この本の中で、ギボンはあまり歴代皇帝を評価していません。一般的にはローマ時代一の賢帝だとされるトラヤヌスに対しても、評価は読み取れません。しかし、キリスト教以外の宗教も認めたことから”背教者”と呼ばれるユリアヌス帝(331年〜363年)だけは、不屈の勇気、高い知能、たゆまざる努力を備えた崇高な人物として高く評価しています。

 

リーダー論

 

これらの例を見ると、「優れたリーダーは、謀略も含めた知力に優れ、民衆や部下からは敬愛される慈悲深さを備える一方で、厳しさも必要である」という共通部分が見出せるように思います。

 

19世紀の英国の歴史家トーマス・カーライルの「英雄崇拝論」では、「世界の歴史は英雄によって作られる」とされ、この本は全世界に広く流布しました。そのため、「優れた資質を持つ人物こそが、リーダーたる資格がある」という主張が、世界的に認識されることになったのです。日本においても、夏目漱石、内村鑑三、新渡戸稲造等に強い影響を与えたといいます。

 

本格的リーダーシップ論の幕開け

 

1905年にフランスでアルフレッド・ビネーとその弟子テオドール・シモンによって知能測定手法が開発されて以来、知能をはじめ、身体的外見から性格や社会的地位まで、リーダー個人の資質を科学的に計測する試みが広がりました。

 

しかしながら、このような研究が進むにつれて、リーダーシップを説明するためには、リーダー個人の資質だけでは説明がつかないということも明らかになったのです。

 

リーダーの個人的資質に関する理論は、その後「パーソナリティ研究」として一つの分野を確立しています。

 

米国の人間行動学者トム・ラスとバリー・コンチーが提唱する「ストレングス・ファインダー」は、個人の特性を4つの領域からなる34の資質に分類し、180の質問に回答すると上位5つの資質が特定されるという仕組みで、近年の成果として特筆されます。

 

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行動理論と条件適合性理論

 

一方で、リーダーの個人的資質だけではリーダーシップの説明がしきれないことに気づいた研究者たちが、1940年代以降に着目したのがリーダーの取る行動です。

 

1950年代には、米国のオハイオ州立大学などの研究で、リーダーの行動は、人間関係を円滑化し信頼を形成する側面と、集団の成果をあげるための組織化や指導の側面との2種類に分けられることがわかってきました。日本において1960年代に三隅ニ不二らにより確立されたPM理論も同様に、仕事面と人間関係面の2軸で説明されています。

 

この行動理論は、人並み外れた特性を持たない普通の人間でも、適切な行動をとれば、リーダーシップを発揮できることを示しましたが、どのような条件下でも適切な行動が成果を生むとまで言い切れないという課題を残しました。

 

同じく1960年代に現われた「条件適合性理論」は、集団の成員(部下)の発達の程度や部下とリーダーとの信頼関係の成熟度、部下の職務の明確さ、リーダーの持つ部下に対する報酬決定や人事に関する権限の有無などの条件ごとに、最も成果のあがるリーダーの行動様式を策定しようという試みです。この理論の代表的な研究者は、米国のリーダーシップ研究家のフィードラーです。

 

リーダーとフォロワーとの関係に踏み込んだ交換・交流型理論

 

1960年代に、「行動理論」で部下への配慮的行動という視点が示されてはいましたが、あくまでリーダー側の行動としての研究でしかありませんでした。1970年代に入ると、リーダーとフォロワーの相互関係の中にリーダーシップを見出そうという動きが活発化してきます。

 

リーダーの指揮命令に対してフォロワーの報酬への期待が服従の行動に結びつくという、いわばリーダーとフォロワーの交換関係に着目したのが、米国の社会学者ジョージ・ホーマンズが提唱した「社会交換理論」です。

 

心理学者であるエドウィン・ホランダーは、フォロワーからの信頼が大きいほどリーダーシップの有効性を増すという「信頼性蓄積理論」を唱えました。

 

米国企業の危機意識から出てきた「変革のリーダーシップ論」

 

1980年代には、日本などの新興国に押され国力が減速した米国において、力強いカリスマ性を備えた変革型リーダーが必要とされるようになり、研究が深まりました。

 

しかし、組織を変革する際には、それを望まない部下や集団からの反発を招くのは必然です。ハーバード大学のリーダーシップ論の権威であるジョン・コッターは、それを踏まえて、改革には8つの「つまずきの石」があるとし、それらを乗り越え改革を成就するための「8段階のプロセス」が有効だと提唱しました。

 

ジョン・コッターの8段階のプロセス

 

倫理性・精神性を重視した理論

 

近年では、先進国社会の成熟化により、金銭的報酬だけでは企業の従業員の満足を得られにくくなってきたことや、大企業の不祥事による経営破綻が相次いだことから、リーダーの倫理性を重要視するリーダーシップ論が台頭してきています。

 

その代表格である「サーバント・リーダーシップ」は、1970年代にAT&Tマネジメント研究センターのロバート・グリーンリーフによって提唱され、2002年に書籍化されたことから、大きく注目されることとなりました。

 

この理論では、フォロワーの「やりたい」という気持ちを整え、前向きに行動するよう、リーダーは「傾聴」「共感」「癒し」などの特性を磨きつつフォロワーに奉仕することが最初に重要視され、指導はその後とされています。

 

リーダーシップの学び方

 

ここまで見てきたように、リーダシップは組織のトップを担いカリスマ性を持つ一部の人々だけが持つ特別な資質ではなく、誰もが学んで自分のものとすることができる技術です。

 

リーダーシップは、今後仕事で部下を持つことになったり、プロジェクトチームのリーダーを任されたりするビジネスパーソンはもちろんのこと、自治会や趣味のサークルの中で指導的立場となる人にとっても、学んでおいて損はありません。

 

ここからは、リーダーシップをどのようにして学ぶことができるのかを説明していきます。

 

リーダーシップを学ぶステップ

 

まずは、結論をまとめてしまいましょう。リーダーシップを学ぶには、以下のステップを踏んでいきます。

 

ステップ1:自分の考えるリーダーシップに関連するキーワードや文章をピックアップする

 

ステップ2:ステップ1のキーワードや文章を整理分類し、リーダーシップの”持論”を明文化する

 

ステップ3:リーダーシップを実践していくなかで、”持論”に磨きをかけていく

 

ステップ4:先人のリーダーシップ理論を参考にして、実践に落とし込む

 

ステップ5:ステップ3と4をふまえて、ステップ2で明文化した自分のあるべきリーダーシップを見直し改善する

 

ステップ6:ステップ3〜5を繰り返す

 

リーダーシップの学び方

 

まず、「リーダーシップの学び方」の説明を始める前に、知っておいていただきたいことがあります。それは、”リーダーシップ”には定まった概念がないということです。これまで、世界中の学者や実業家が、それぞれの立場でリーダーシップについて多くのことを語ってきていますが、定説とされるものはありません。

 

そのため、リーダーシップを学ぼうとする際には、個人個人がそれぞれの置かれた立場や環境に合った形のリーダーシップを見出していく必要があります。まずは、このことを頭に入れておいてください。

 

それでは、順を追って解説していきます。

 

ステップ1:自分の考えるリーダーシップに関連するキーワードや文章をピックアップする

 

まず、最初のステップであるリーダーシップの明文化について見ていきましょう。

 

リーダーシップは漠然とした概念であり、人によって捉え方が異なることもあります。世の中の多くの人は、リーダーシップの重要性を感じてはいても、自分の頭の中に思い描いているリーダーシップの形を明文化しようという人は極めて少数でしょう。

 

しかし、リーダーシップを学び、自らの能力を高めていく第一歩は、自分の心の中にあるリーダーシップを明文化して形にすることから始めなければなりません。当面語る相手がいなかったとしても、まずは明文化することによって自覚につなげることが重要です。

 

それでは、この漠然とした概念をどのように明文化していけばよいのでしょうか。以下に挙げる3つの例題で、明文化するためのヒントをつかみとっていただければと思います。

 

例題1

 

明治安田生命は、毎年、新社会人を対象に「理想の上司」のアンケートを実施しています。2016年2月の結果は以下の通りです。

 

男性 1位 松岡修造さん(スポーツキャスター)
   2位 池上彰さん(ジャーナリスト)
   3位 お笑い芸人(明石家さんまさん)

 

女性 1位 天海祐希さん(女優)
   2位 篠原涼子さん(女優)
   3位 澤穂希さん(元スポーツ選手)

 

あなたは理想の上司として、有名人の中でどなたを選びますか。また、選んだ理由を文章または単語で箇条書きにして書き出してみてください。選ぶ有名人は何人いても構いません。選んだ理由も思いつく限り書き出してみてください。

 

例題2

 

今度は、あなたが過去に出会った上司や教師、先輩(リーダー)の素晴らしいと感じた言動を思い出してみてください。その事例について、以下の観点で文章化してみましょう。事例は、いくつでも挙げてみてください。文章に表現できなければ、キーワードだけ書き出しても構いません。

 

・具体的にその言動は、どういう内容だったか

 

・なぜ、あなたが素晴らしいと思ったのか

 

例題3

 

あなた自身がリーダーとしてうまくいったと感じた体験があれば、例題2と同様の観点で書き出してみてください。リーダーとしての経験に心当たりがなければ、家族旅行で行先を決めたり、学校で友人の中で遊びを決めたりといった、自らイニシアティブをとった小さな事例でも構いません。

 

さて、うまく書き出せたでしょうか。もし、十分に書き出せていないと感じたら、例題と例題3では、反対の事例を挙げてみてください。例えば、例題2では、従いたくないと思った上司の言動を挙げてみてもよいでしょう。例題3では、自身の失敗例について書き出してみてもよいと思います。次の分類整理する段階で、反対語でまとめるようにすればよいでしょう。

 

ステップ2:ステップ1のキーワードや文章を整理分類し、リーダーシップの”持論”を明文化する

 

さて、ここまでで書き出された内容は、あなたの現状のリーダーシップに対する考えを表したものです。ここで書き出した内容を、次に分類整理していきましょう。

 

まず、書き出した文章やキーワードを見て、同じような内容のものをグループ化していってみてください。多少強引でもよいので、数個のグループにまとめていきましょう。

 

次に、それぞれのグループに見出しを付けていきます。これも、多少強引でもかまいません。グループ間の関連性があれば、さらに大きい包括的なグループを作ってもよいでしょう。そして、これらの見出し語のうち、自分で重要だと思うもの2〜5個を選びます。

 

最後に、選んだそれぞれの見出し毎に説明の文章を書いていきます。その際、ステップ1でピックアップした内容を参考にするとよいでしょう。

 

この段階でまとまったものは、あなたの考えるリーダーシップの形ということになります。いわば、リーダーシップに関する持論です。

 

 

参考として、ステップ1の例題1に登場する「理想の上司」の方々の私の印象を述べてみます。

 

スポーツキャスターの松岡修造さんは、熱血漢である一方で周囲の人々への気配りもできる方です。池上彰さんは、知性を感じさせるジャーナリストで、難題でも優しく紐解いて誰にでもわかるように説明してくれます。明石家さんまさんは、人を楽しませる達人で気配りもでき、誰でも心地よい気分にさせてくれそうな雰囲気を持った人です。

 

女優の天海祐希さんは、知性を感じさせる一方で周囲の人々をぐいぐい引っ張ってゆく力強さも感じさせる人です。篠原涼子さんは、キャリアウーマンでありながら子育てや夫の看病もしっかりこなすイメージがあります。澤穂希さんは、日本女子サッカー界を10代の頃から長きにわたり牽引してきた力強さと、引退時の去り際の決断力やスマートさが魅力です。

 

試しに上記からキーワードをピックアップしてみると、以下のようになります。

 

熱血漢、気配り、知性、誰にでもわかる、人を楽しませる、人を心地よくさせる、人を引っ張る、力強さ、家族を大事にする、家庭と仕事を両立、長期間継続する、決断力、スマート

 

これらを分類し、見出しを付けてみましょう。

 

・力強さ(熱血漢、人を引っ張る、力強さ、決断力)

 

・他者への配慮(気配り、人を楽しませる、人を心地よくさせる、家族を大事にする、 誰にでもわかる、家庭と仕事を両立)

 

・知性(知性、スマート)

 

・継続性(長期間継続する)

 

この中から、重要だと思う事項を選択します。ここでは、「力強さ」と「他者への配慮」を選びました。この2項目に説明文を加えてみます。

 

・力強さ…情熱をもって部下を先導する力強さを持つ

 

・他者への配慮…部下や家族を思いやる気持ちを欠かさず、前向きな心を保たせる

 

リーダーシップの学び方のステップ

 

ステップ3:リーダーシップを実践していくなかで、”持論”に磨きをかけていく

 

ここまでで、リーダーシップを学ぶための第一歩である、自らのリーダーシップに関する持論を明文化できました。これから後のステップでは、実践を通じてブラッシュアップしていく段階に入ります。

 

つまり、自ら経験することによって実施してゆきます。実践すること以上に有効な学習方法はありません。また、明文化した内容は、自らのアクションに結びつかなければ意味のあるものとは言えません。

 

自ら悪しき暗黙の原則を作ってしまっていて、そこから抜け出せないリーダーが数多くいます。そのため、リーダーの立場にある場合は、改善すべき点を気づきやすくするため、次のような意識を持つよう心がけてください。

 

・同僚、部下、家族との対話を通して自らの欠点や失敗のヒントを得る。他者からの批判を受け止める度量を持つ

 

・意見の相反があった場合には、自分の意見を強く主張するあまり、他の意見を封殺しないよう気を配る。特に部下や自分よりも弱い立場の者が相手の場合に気をつける

 

これらのことは、人によっては、なかなか難しいことかもしれません。しかし、人は他者とのコミュニケーションの中で触発され成長するという側面をもっています。リーダーシップの”持論”をよりよいものとするためには、身近な他者の意見は貴重な糧となるはずです。

 

組織や集団の中で、リーダーの立場ではないフォロワーの場合も、自らの将来のため、次の観点で学習してみてください。

 

・自分の付き従うリーダーのリーダーシップはどのようなものだったか

 

・フォロワーとして自分は、そのリーダーシップに接してどう感じたか

 

・仮に、リーダーの立場に自分が置かれたらどうするかを自問自答する

 

ステップ4:先人のリーダーシップ理論を参考にして、実践に落とし込む

 

ステップ3で見てきたように、実践の中で学び改善していくことを前提に、先人のリーダーシップに関する知恵をヒントとすることで、リーダーシップの能力を高めることも可能です。

 

知恵を借りるべき先人としては、2通りあると思います。一つは実業家で、もう一つは学者です。歴史上の人物からも学べるのではと考えるかもしれませんが、たいてい情報が少ないため、実践と結びつけるのは難しいと思います。

 

実業家としては、著書や評論の多い海外と日本の代表的実業家2名を紹介します。

 

ジャック・ウェルチ

 

1981年から2001年まで、アメリカのソフトウェア融合型産業機器会社であるゼネラル・エレクトリック・カンパニーのCEO(最高経営責任者)を務めた。「世界で1位、2位のシェアを取れる事業に経営資源を集中し、それ以外の事業からは撤退する」という方針を打ち立て、人材のブラッシュアップにも務めた。

 

松下幸之助

 

経営の神様と呼ばれるパナソニック株式会社の創業者で、政治家の育成にも貢献した。彼の示した「指導者の条件」102項目は、リーダーシップの指針として活かすべき内容である。

 

2人とも、確固とした経営哲学を持っており、多くの名言が残されています。ネット検索や図書を参考に、あなたも是非名言にふれて、自分に合うものをピックアップしてみてください。

 

学者の提唱してきたリーダーシップ理論については、代表的なものを下表にまとめています。

 

学者の提唱する主なリーダーシップ理論

 

実業家の理論であっても、学者の理論であっても、あなたがリーダーシップを発揮していくうえでどのように活かしていくかが重要です。環境や条件によっては、どれほど立派な理論であっても役に立たない場合もありえます。

 

自分のものとして消化できない理論では無意味で、個々人が先人のリーダシップ理論を選択して取り込み、自らのものとしていくことが重要なのです。

 

ステップ5:ステップ3と4をふまえて、ステップ2で明文化した自分のあるべきリーダーシップを見直し改善する

 

ステップ3と4をふまえたうえで、ステップ2で明文化したあなたのリーダーシップに関する持論を書き直し改善補強していきましょう。

 

ステップ2であなたが明文化した持論には、もしかしたら独りよがりな部分や、思い込みの強すぎる部分があったということに気付いたかもしれません。また、思い至らなかった部分や新たに採り入れたいと感じた部分も出てきたことでしょう。それらの部分をプラス・マイナスして、ブラッシュアップしていきます。

 

また、状況によってリーダーシップの取り方が変わる可能性を感じたかもしれません。その場合には、ケースAの場合、ケースBの場合…という形で、持論をまとめ直してもよいと思います。

 

ここで一度、リーダーシップの持論について見直す際に、以下の点をチェックしてみることをお薦めします。この2点は、リーダーシップの肝となる部分だからです。

 

・組織・集団の目標達成にプラスになるか

 

・フォロワーに良い影響があるか

 

ステップ6:ステップ3〜5を繰り返す

 

リーダーシップの持論を理想形に近付けるためには、ステップ3〜5を繰り返すことが重要です。リーダーシップの理想形にゴールはありません。常に前提となる環境や条件は変わるものだからです。

 

最も不幸なことは、周囲の変化に自らが気付かないこと、また失敗を顧みることができないことだと思います。そのためには、ステップ3で述べた同僚や部下、家族との対話が重要です。

 

リーダーシップの持論が、他の人に語って教えられるレベルになれば、かなりの成功といえるでしょう。他者に対し語ることの意味は、自らの成長が確認できることと、フォロワーへリーダーシップの喚起を行うことの2つです。

 

自ら知っているだけの段階と、それを他者へ教えることができる段階では、大きな差があります。そういった意味で、自らの成長を確認できるのです。

 

また、あなたに続く次の世代に伝えることによって、組織の好循環を生み出すことができます。特に企業は「ゴーイングコンサーン(継続企業)」であることが社会的な責任の一つです。高度なリーダーシップが企業の無形の資産として受け継がれていくことが実現すれば、社会的にも意味のあることだと思います。

 

まとめ

 

・リーダーシップとは、組織の成果を最大化するためのリーダーの技術である

 

・リーダシップは、大企業や国家などの大組織のトップ一人だけに必要とされるものではない。企業・国家の下部組織に限らず、たとえ小規模であっても、同好会や自治会などの人の集団があれば、そのリーダーが持つべきものである

 

・リーダーシップとは誰もが努力によって身につけられるものであり、特権やカリスマ性とは全く関係がない

 

・リーダーシップの前提として必須なものは、部下や組織メンバーとの信頼関係である

 

・リーダーシップとは、リーダーの中だけにあるものではなく、リーダーとフォロワーとの相互関係の中に存在する

 

・リーダーシップは、リーダーとフォロワーとの信頼関係があってはじめて発揮される

 

・リーダーが与える評価や報酬と、フォロワーの貢献との適切な交流は、成熟したリーダーシップへと発展する

 

・リーダーの選ばれ方により、リーダーシップの発揮しやすさに違いが生じる。それは、リーダーとフォロワーとの間の信頼関係の度合が影響している

 

・リーダーとフォロワーからなる一つの集団に、リーダーは一人とは限らず、複数のリーダーがいる方がリーダーシップが良好に発揮される場合もある

 

・リーダーに倫理観が欠如している場合には、フォロワーは盲目的にリーダーに従うのではなく、自律して判断し行動することが重要である

 

・古代から第二次世界大戦前までの間、永らく「リーダーには、先天的な超人的資質を持つ者のみがなりうる」と思われていた

 

・第二次世界大戦後には、先天的な資質を持たない者でも優れたリーダーになれることが理解されはじめ、そこから、リーダーの行動やリーダーとフォロワーとの相互関係などに着目したリーダーシップ論の構築が行われるようになった

 

・リーダーシップを学ぼうとする人は、リーダーシップに関する自らの考えを漠然としたまま放置せず、まずは明文化する必要がある

 

・リーダーシップに関する持論は、実践の中でより高度なものに改善していく、たゆまざる努力が求められる

 

・リーダーシップに関する持論を次の世代に引き継ぐために、語ることができるレベルになれば成功と言える


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