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パワーと影響力によるリーダーシップ

リーダーシップを発揮するときには、他人や組織に働きかけ動かしていく「パワー」が必要です。スタンフォード大学の経営学者であるジェフリー・フェファーは、このパワーを以下のとおり定義しています。

 

他者の行動に、自分の意図した特定の結果をもたらす能力のこと

 

また、パワーを他者に対して行使する際に、影響力が大きければその効果も比例して大きくなります。フェファーは、この影響力を次のように定義しました。

 

潜在的なパワーを用いて実現するプロセス・行動

 

この記事では、パワーと影響力について詳しく見ていきます。

 

パワーと影響力の概念図

 

フェファーの提唱するパワー

 

フェファーは、出世して権力や地位を得るためには、パワーを獲得する必要があり、必ずしも仕事上の成功が必要であるわけではないと主張しています。

 

仕事ができて成果を挙げても、短期間で解雇されてしまう企業のCEO(最高経営責任者)は、決して珍しくありません。なぜそのようなことが起こっているのかというと、成果を挙げるよりもパワーを身に着けることの方が重大であることを理解していないからだといいます。

 

パワーを身に着けたCEOの中には、業績が伸びていなくとも長期間に渡って地位を維持し、場合によっては報酬さえも上げることができるとし、多くの実例を挙げています。

 

彼の主張で注目すべきところは、世にあふれるリーダーシップ本(ここでは、優れたリーダーシップを発揮した人を称える書物を指す)は、出世・昇進の妨げにはなっても、得るものは少ないとまで言っているところです。

 

なぜなら、それらの書物に出てくる人々は、スーパーマン、スーパーウーマンであって、本の中で紹介されている内容は、誰もが真似できる方法ではないからです。

 

しかし、フェファーによると、パワーは獲得の意思されあれば、誰もが獲得しうるものだと説明されています。ただし、その獲得は容易であるとは限りません。

 

それでは、パワーはどのようにして身に着ければよいのでしょうか。フェファーの示すパワーの源泉は、以下の4点です。状況に応じて、これらの組み合わせでパワーを獲得すべしとしています。具体例とともに紹介しましょう。

 

1. リソースを獲得する
具体例:予算と人事を掌握する。情報を獲得する。有力者の後ろ盾を得る。

 

2. 人脈を作る
具体例:組織内外に人的なネットワークを作る。

 

3. ふるまいと話し方を印象付ける
具体例:権力を印象付けるふるまいと話し方を身に着ける。ときには、怒りを表す。

 

4 .評判を高めるよう努力する
具体例:理想の自分のイメージを持ち、そのようにふるまうことによって現実に近づく。外見に気を配る。

 

上記の行動を実践することにより、パワーを高め、他者への影響力を増し、他者を自分の意図した行動に結びつけるのです。

 

高い地位に就く人の2つの基本要素と7つの資質

 

フェファーはさらに、高い地位に就く人に共通して見られる要素として、次の2つを挙げています。

 

・困難に挑戦しようとする意志

 

・その意志を目標達成に結びつけるスキル

 

そして、高い地位に就いた人に備わっている7つの資質を挙げていますが、これらはフェファーの数百人にのぼる人物の観察から得た知見です。

 

ただし、パワーと深い関連性のあることに疑いはないものの、これらの資質が、高地位へ上り詰める前から備わっていたものなのか、それとも地位に就いた後に備わったものなのかは、判断が付きにくいとしています。

 

1. 決意
2. エネルギー
3. 集中
4. 自己と省察
5. 自信
6. 共感力
7. 闘争心

 

この中に、「頭が良いこと」が含まれていないことに違和感を覚えるかもしれません。フェファーは、「頭が良いこと」がある程度は重要な要因であるとはしながらも、過大評価されすぎているとしています。むしろ、頭脳明晰で正しいことを行っていれば、パワーと影響力は自ずと付いてくるという考えは、妄想であると戒めているのです。

 

チャルディーニの説く影響力の強め方

 

さて、次にパワーの行使を、より有効にする「影響力」についてみていきましょう。

 

影響力について多くの知見を社会に提示したのは、アリゾナ州立大学の社会心理学者ロバート・B・チャルディーニです。彼は、著書「影響力の武器」の中で、影響力を高めるために有効な事項として次の6つを挙げています。

 

1. 返報性
相手に有用なものを与え、それに報いなければならないと感じさせること。いわゆる、「ギブ・アンド・テイク」。

 

2. コミットメントと一貫性
自分がコミットメントしたことや価値観と一貫性のある行動をとること。

 

3. 社会的証明
他者の行動や判断に基づいて自身の行動や判断を決めること。自分に自信がない場合、他者が採った方法を真似るのはよくあることである。

 

4. 好意
自分が好意を感じている人の要求は受け入れやすいということ。好意を感じさせやすい要素としては、知性を感じさせる容貌、自分との類似性、成功体験を分かち合ったというような親密性などがある。

 

5. 権威
権威や専門性を持った人物の要求には従いやすい。

 

6. 希少性
入手が困難だったり、失いかけているものは、実際以上に価値のあるものだとみなしてしまうこと。

 

チャルディーニは、これらの利用には、悪意を伴ったり騙したりすることがあると、人間関係が破綻し、逆効果となることもあると注意喚起しています。

 

ジョン・コッターによるパワーを強化する4つの方法

 

もう一人の論客、ジョン・コッターの主張するパワーの強化方法を見てみましょう。彼は、ハーバード大学ビジネススクール名誉教授で、変革型リーダーシップ理論(常に状況が変化する現代の大企業を変革に導くリーダーシップ理論)の大家です。

 

コッターは、4つのパワーの強化方法を挙げています。チャルディーニの影響力を増大させる6項目との共通性が見て取れます。

 

1. 感謝や恩義を感じさせる
・賢いマネージャーは自分に恩義を感じてくれそうな人を大事にする
・相手が恩義に感じてくれそうな機会を巧みに利用する
・依存している相手と真の友情を築こうとする

 

2. 豊富な経験や知識の持ち主として信頼される
・信頼されれば頼られる場面が増える
・目に見える実績をPRすることも必要(差がつく)

 

3. このマネージャとは波長が合うと思わせる
・理想的なマネージャーだと思われるようにふるまう
・マネージャーへの帰属意識を高めるため
・「このマネージャーに依存している」と気付かせる

 

4. 経営資源を手に入れる
・意思決定権、設備と資金、オフィスの管理権、有力者と接触する機会
・それらを活用して支援または妨害する意思があることをわからせる
・自分が管理している経営資源への評価を高める
・自分に関する噂で都合の良いものをうまく利用する
・実力者や有力者とつきあう

 

パワーを賢く使うための7箇条

 

コッターは、パワーを効果的に行使するため、「パワーを賢く使うための7箇条」を以下の通り紹介しています。

 

パワーという概念は、えてして「濫用」という言葉と結びついて語られがちです。行使する相手に濫用と捉えられれば、逆効果となりかねません。一方で、パワーを行使するということ自体に嫌悪感を覚える人もいることでしょう。それらの事項に対して、示唆を与える内容となっています。

 

1. パワーを身につけ行使するうえで、どのような行動ならば、周囲の目に「妥当である」と映るのかに敏感である。

 

2. 周囲に影響を及ぼすには、権力や方法を使い分ける必要があり、このことを直感的に理解している。

 

3. 4種類のパワー強化方法すべてをある程度行使し、以下の図に挙げた方法をすべて用いる。

 

パワーを行使する方法

 

4. キャリア上の目標を定め、パワーによって成果を上げられる地位を求める

 

5. 持てる資源、公式・非公式の権力を総動員して、おのれのパワーをさらに強化する

 

6. 熟慮し、自制しながら、権力志向の行動を取る。

 

7. こうした方法を使って、他人の行動やワーク・ライフに、目に見えるかたちで影響を及ぼすことは、けっして不条理なことだと思ったりしない。

 

ボス・マネジメント

 

相対的にパワーが弱い立場にいるものが、よりパワーの強い者を動かす必要が出てくることも、よくあるケースです。特に、上司を動かすには、コッターの示す「ボス・マネジメント」が参考になると思われます。

 

有能なマネージャーは部下だけではなく、上司との関係も重要視します。上司からの下命にただ受け身なだけでは、会社にも組織にも決してよい影響は及ぼしません。コッターは、上司も部下も、相互に依存する関係であり、その関係を管理することが重要だと説きます。

 

彼の示す管理のポイントは、以下の2点です。

 

・相手と自分自身、特にその強みや弱み、ワークスタイル、ニーズをよく理解する

 

・これらの情報に基づいて、仕事上の健全な関係、すなわち両者のワーク・スタイルや長所をそれぞれ尊重しながら、それぞれの期待を互いに理解し合い、それぞれが最も重視するニーズに応え合う関係を築き、これをうまく管理する

 

上司との関係を管理する方法

 

上司との関係を管理する際に留意すべき点

 

コッターは、上司との関係性を構築する際に、留意すべき事項について、5点を挙げて具体的に述べています。

 

1. ワーク・スタイルの共存
・上司が、「聞くタイプ」か「読むタイプ」かを見極め、報告や連絡の方法を決める。
・上司が、権限譲渡をするタイプか、各事項に深く関わるタイプかを見極め、報告や連絡の程度を決める。

 

2. 相互期待
・指示を仰ぎたいときには、上司にメモを渡して回答を書いてもらう。
・上司と非公式に話し合う機会を作る。
・上司の期待値が高すぎる場合には、それを伝えて適正なレベルに調整する。

 

3. 情報の流れ
・上司がどの程度の情報を必要としているのかを見極め、過不足なく伝える。
・問題に耳をふさぐタイプの上司は探るのが難しい。

 

4. 信頼性と誠実さ
・期限を守らなければ、実績とは関係なしに上司からは信頼されないことを肝に銘ずる。
・上司の優先順位を把握し、それに合わせて仕事を進める。

 

5. 上司の権限・時間の使い方
・上司の時間には限りがあることを理解する。

 

例1:2人の経理課長

 

ドラッグストアの全国チェーンであるX社は、地域ごとに統括する経理課を置いていました。A課長は関西地方、B課長は東北地方をそれぞれ統括する地区の経理課を任されています。

 

A課長は仕事に対する責任感が強く、実務にも詳しく、店舗からの評判も上々でした。東京本社にいる全国を統括する部長よりも、仕事はできるという自負もあります。

 

そのため、イレギュラーな事項が発生したときの判断は、いちいち部長に報告せずに行っていました。部長には、本当に指示が必要なときだけしか連絡しません。

 

一方、B課長は若くして課長に昇格しました。実務経験を買われてというよりは、将来性を見込んで登用されたという噂が立っています。実務経験に乏しいため、部長にこまめに相談したり、連絡をしたりしていたのです。

 

ある時、関西地方のZ店舗から東北地方のY店舗に異動した店長Cが、着服横領していることが発覚します。B課長が、Y店舗の帳簿に不審点があることで、部長に相談し、部長が確認すべきポイントをまとめて調査を指示しました。B課長が忠実にそれを実行したため、不正が明るみに出たのです。

 

当然、以前に勤務していたZ店舗についても、部長からA課長に調査指示があり、やはり不正が発覚しました。A課長も帳簿の不備に気付いており、当時のC店長に確認していましたが、C店長の言うことを鵜呑みにして敢えて調査は行っていなかったのです。もちろん、部長への報告もしていませんでした。

 

部長の信頼を失ったA課長は、間もなく他部署の閑職に左遷され、B課長は、その後有望なプロジェクトを任され、数年後に部長の後任として抜擢されることになります。

 

解説

 

例の2人の課長について見てみましょう。A課長は、上司とのコミュニケーションが不足していたために、「上司との関係を管理する際に留意すべき点」のうち1、2、3がコントロールできていなかったと思われます。

 

仕事ができれば、上司との関係には気を配らなくても、組織としては問題ないと考えてしまったことに誤算がありました。

 

B課長は、部長とのコミュニケーションを密に取り、上記1〜5の項目も十分考慮しつつ、一定の良好な関係の構築に成功していたものと考えられます。

 

問題が起きたときには、うまく部長から指示を引き出し、仕事を知っているA課長よりもよい結果を出したと言えるでしょう。

 

【まとめ】

 

・パワーとは、他者の行動に、自分の意図した特定の結果をもたらす能力のことである。予算、人事、情報などのリソースを確保したり、人脈を作ったりすることで、努力する意思があれば誰にでも獲得できる

 

・影響力とは、潜在的なパワーを用いて実現するプロセス・行動のことである。相手に感謝や恩義を感じさせたり、専門性や知見を頼りにさせたり、親密性を感じさせたりすることで強めることができるが、やり方を間違えると逆効果となることもある

 

・部下との関係性だけではなく、上司との良好な関係性を作ることも重要である


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