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ジョン・コッターから学ぶリーダーシップとマネジメントの違い

「リーダーシップ」に似た言葉に「マネジメント」という言葉があります。ここでは、ハーバード大学ビジネススクールの名誉教授でリーダーシップの権威であるジョン・P・コッターの主張をもとに、両者の違いについて見ていきましょう。

 

一言でいえば、リーダーシップは変革を実現する能力で、マネジメントは既存のシステムの中で課題を達成させる能力です。また、コッターによると、両者は同じくらい重要な能力であるとしています。

 

しかし、環境が目まぐるしく変わり、常に変革が求められる現代の大企業のマネジメント層には、リーダーシップの能力が極めて欠如しているといいます。それが企業の変革を妨げる根本的原因であると、彼は声高に主張しているのです。

 

変革型リーダーシップとは

 

コッターの主張するリーダーシップは「変革型リーダーシップ」と呼ばれます。リーダーシップとマネジメントの違いを詳しく見る前に、まずは変革型リーダーシップの概要を理解しておく必要があるでしょう。

 

1980年代に変革型リーダーシップが提唱された時代背景には、米国製造業がさらされた日本の脅威がありました。日本の急速な経済成長が世界的に注目される一方で、日本人は企業に飼いならされた動物のように利益をむさぼる「エコノミック・アニマル」だと揶揄されるほどでした。

 

米国企業は、自動車や家電製品などの日本製品の躍進に追い立てられるように、コスト低減や、リエンジニアリングなどの対応に迫られました。

 

それに加え、商品のライフサイクルが短期化したり、技術革新や情報の伝達速度が加速化したりといった、ビジネス環境の短期間での変化が顕著になってきました。そうしたことから、米国企業は常時変革を続けなければ、企業間生存競争に生き残れなくなったことも背景にあります。

 

コッターは、企業変革の妨げとなっている根本原因が、その変革を推進する人材の圧倒的不足だと考えました。

 

コッターの考えるリーダーシップとは、新たなビジョンを打ち立て、既存システムを改善するプロセスをビジョンに向かって履行実現することです。

 

既存のものを打ち破り改善することには抵抗もあるでしょう。また、変革が達成できたように思えても、一過性で終わってしまい、気付いたら元に戻ってしまっているというようなことも起こりえるでしょう。そういった失敗の轍を踏まないために、一定のプロセスが必要だとコッターは述べています。

 

コッターの問題意識

 

本題に入る前に、理解を深めるため、もう一つ知っておいていただきたいことがあります。コッターが、多くの大企業のマネジメント層を実際に見てきて、どのような問題意識を持っていたのかということです。

 

コッターによると、驚くほど多くの企業経営者は、リーダーシップを理解していないといいます。そして、マネジメントと混同していることが多いとしているのです。

 

その結果、多大な不効率、経営上の混乱、経営者のしくじりによる従業員の犠牲、従業員の成長機会の喪失が起こっていると指摘しています。

 

コッターが重要だと主張するのは、リーダーシップのスタイルではなく、質の部分であって、それはいつの時代においても不変だといいます。有能で知性あふれる人々が混乱している現実を見るにつけ、リーダーシップが本来どうあるべきかを明確にすることを痛感したと述べているのです。

 

リーダーシップの欠如により企業内で起こる悪例

 

リーダーシップとマネジメント

 

これまでで、コッターの提唱するリーダーシップの概要は理解いただいたと思います。一方、マネジメントについては、コッターはどう捉えているのでしょうか。

 

簡単に説明すると、既存のシステムの中で複雑性に対処して課題を達成することだとしています。リーダーシップは、「熱い」もので、マネジメントは「冷めた」ものであるという表現も使っています。

 

ここで誤解してはいけないのは、この両者はいずれも同じくらい重要だとコッターが認識していることです。どちらが欠けても企業運営には重要な支障をきたすことになります。

 

彼はまた、大企業のリーダー層の中で、マネジメントとリーダーシップの両方の能力を兼ね備えた者は少数で、大多数はリーダーシップが欠如していると指摘しているのです。リーダーシップの能力は、社内教育によって開発することができますが、それを積極的に実施している企業は限られているようです。

 

例1:以下の各項目は、リーダーシップ or マネジメントのいずれに関連しますか

 

リーダーシップとマネジメントの違いをよりはっきり認識していただくために、3つの文章を用意しました。それぞれ、どちらの内容についての説明か考えてみてください。

 

1. 文具メーカー勤務のXさんは、自ら提案した新商品の企画が通り、開発チームのリーダーを任されることになりました。このとき、彼女がプロジェクト成功のために、新たに発足したチームメンバーに方向性を示し、心をまとめあげるために起こす行動は、どちらに当たるでしょうか。

 

2. ゲーム会社に所属するYさんは、制作したゲームがヒットし、同じチームでゲームの続編を引き続き制作することになりました。このとき、Yさんが、チームメンバーからアイデアを募り、計画をまとめあげ、そのアイデアを達成するための制作費用の予算と制作期間の計画につき、会社の承認を得る行為はどちらに当たるでしょうか。

 

3. 繊維メーカーの内勤だったZさんは、岡山県の沿岸地域にある工場長として栄転することになりました。ところが、生産部門と品質検査部門の馴れ合いが習慣化し、自主ルールを無視して、品質に問題のある撚糸が出荷されていることが判明しました。Zさんは、検査制度を改め、検査部門の人員も入れ替える決断をしました。このとき、Zさんが、工場従業員に新たな検査体制を徹底するために採る行動は、どちらにあたるでしょうか。

 

コッターの考えるリーダーシップ

 

上記、例1の答えを最初にお伝えしましょう。コッターの唱えるリーダーシップの考え方からすると、1と3がリーダーシップに関連し、2がマネジメントに関連します。

 

1と3は現状を大きく変えたり、新規に組織を立ち上げたりと、敢えて極端なかたちにして「変革」というキーワードを連想しやすいようにしました。

 

しかし、ビジネスを取り巻く状況が目まぐるしく変わる現代の企業においては、既存の組織の中でも変革が求められることは、いつでも起こりえます。その組織のリーダーには、リーダーシップが求められることになります。

 

では、変革が求められる状況ではマネジメントは不要なのでしょうか。コッターは、マネジメントもリーダーシップと同じくらい重要で、リーダーシップだけでは業務が前に進まなくなってしまうと主張しています。

 

つまり、組織のリーダーは、マネジメント能力もリーダーシップの能力も兼ね備えるべきなのです。そのため、リーダー層の教育も極めて重要であると指摘しています。

 

例2:GEのマネージャー育成

 

ゼネラル・エレクトリック社(以下、GE)は、電力、航空機、ヘスルケアなどの事業を世界中で展開している企業です。カリスマ的経営者であるジャック・ウェルチ氏が永らくCEOを務めたことで有名です。

 

この企業は、「30万人の社員全員がリーダーシップを発揮する」という経営哲学が浸透しています。GEでのリーダーシップの定義は、「ポジションではなく、変化を起こし、人を励ましたり動機付けたりすることのできる影響力」だとしています。コッターの提唱する変革型リーダーシップの概念に極めて近いといえるでしょう。

 

そのことに加えてGEが素晴らしいのは、人材育成をマネジメント層の主要な業務と位置づけていることです。GEでは、経営幹部は、1/3の時間を人材育成に充てているといわれています。トップのCEOであっても例外ではありません。

 

CEOのジェフ・イメルトは、自ら研修の講師を勤め、研修を離れても世界各地の従業員との直接対話を通じて人材育成に貢献しています。人材育成のための年間予算は、実に10億ドルにのぼるのです。

 

リーダーシップを備えた人材を育てる重要性

 

コッターによると、マネジメントに長けた人材は多いが、リーダーシップの能力を持つ人材は世の中で圧倒的に不足しており、大企業においては喫緊の課題であるとしています。

 

しかし、経営者の多くは、マネジメントとリーダーシップの違いさえ理解しておらず、GEのように徹底した教育によりリーダーシップを兼ね備えた人材を社内から輩出している企業はほんの一握りだと考えられているのです。このことは、企業の将来の業績に大きな影響を与えるほど重要です。

 

経営者が、自分に続く人材を育てること、あるいは自分以上の能力をもつ次世代のリーダーに後を託すことを考え、社内での人材育成に力を入れるべきであると、コッターは強く主張しているのです。

 

リーダーシップ教育の必要性

 

マネジメントとリーダーシップの共通点と相違点

 

ここまで、マネジメントとリーダーシップの違いを具体例をあげて見てきました。マネジメントは既存のシステムの中で課題を達成させる能力であり、リーダーシップは変革を実現する能力であることは、理解いただけたと思います。

 

コッターはこの2つには、?課題の特定、?課題達成を可能にする人的ネットワークの構築、?実際に課題を達成させる、という共通の側面があるといいます。しかし、それらのための具体的手法が違うのだとも主張しているのです。

 

コッターの主張する、その具体的手法を以下に要約します。

 

?課題の特定

 

[マネジメント:計画の立案と予算策定] 
複雑な問題を解決するためのマネジメントの手法として最初に取り組むべきことは、計画の立案と予算策定です。定めた目標の達成に向けて実行ステップを綿密に策定し、推敲するための経営資源を配分します。

 

[リーダーシップ:針路の設定]
一方、組織変革の先鞭をつけるリーダーシップ発揮の方法は、まず長期的視野に立った将来ビジョンを示し、その実現のための戦略を準備することです。

 

?人的ネットワークの構築

 

[マネジメント:組織化と人員配置]
マネジメントで、計画立案の次に行うことは、計画を達成するための組織作りと人材配置です。計画実現のための組織を構築し、それに伴って新設されたポストには適切な人材を配置し、計画実行権限を可能な限り委譲し、実行状況を管理するといったことに取り組む必要があります。

 

[リーダーシップ: 組織メンバーの心の統合]
リーダーシップでは、ビジョンを示した後に取り組むのは、一つの目標に向けて組織メンバーの心を統合することです。メンバーがビジョンに向かって、協力して取り組むよう、方向付けを行います。

 

?課題の達成

 

[マネジメント:コントロールと問題解決]
課題を達成するためのマネジメントの手法は、計画・予算と現実の乖離が出ていないか、チェック(コントロール)し、乖離があれば解決することです。乖離のチェックは、フォーマルな報告書やミーティングといった方法だけではなく、インフォーマルな人的つながりまでも駆使して実施します。

 

[リーダーシップ:動機づけと啓発]
リーダーシップによるビジョン実現の方法は、動機づけと啓発である。変革への障害を克服するためには、個々人の意識の奥に封じ込められている根源的な感性や欲求に働きかけ、進むべき方向に導きます。

 

リーダーシップとマネジメントの具体的手法の違い

 

【まとめ】

 

・ジョン・コッターによると、リーダーシップは、変革を実現する能力であり、マネジメントは、既存のシステムの中で課題を達成させる能力である。

 

・リーダーシップとマネジメントは、現代の大企業におけるリーダー層にとっては、いずれも必要不可欠な能力であるが、リーダーシップ能力は圧倒的に不足しており、教育が重要である。

 

・両者には、?課題の特定、?課題達成を可能にする人的ネットワークの構築、?実際に課題を達成させる、という共通の側面があるが、具体的手法に違いがある。


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