コーディネーションゲーム(失敗と解決法)
ゲーム的状況の中には、プレイヤー同士が別々の戦略をとることがナッシュ均衡になるものもありますが、プレイヤー同士が同じ戦略になるように戦略を協調させることが、ナッシュ均衡をもたらすゲームもあります。
このようなゲームが「コーディネーション(協調)ゲーム」です。以下ではコーディネーションゲームの考え方を、事例を用いてより具体的に見るとともに、コーディネーションゲームの注意点について見ておきましょう。
例題
XとYは高校の同級生です。社会人になり2人とも地元に戻ってきたので、一度飲んで話そうということになりました。「駅前の本屋で待ち合わせよう」と連絡をとり、当日を迎えます。
しかしXは駅に着いてからYに連絡を取ろうとした時になって、自分が携帯電話を忘れてきたことに気づきます。「よく考えると、駅前の本屋の前なのか、本屋の中なのかは決めていないぞ」。Xはとりあえず本屋に向かいますが、どっちで待っておくべきなのか迷ってしまいます。
YはXより後に駅に着きましたが、一向にXと連絡がつきません。困り果てたYはとにかく本屋に行くことにしますが、やはりXと同じことに気づきます。「もしあいつが中に入っていて、自分が外にいたらいつまで経っても会えやしないぞ」。Yは難しい顔をしながら本屋へと向かいました。
解説
図1.2がこのゲームの利得表です。本屋の中で時間を潰しながら相手を待つ場合の利得を2、本屋の外で手持ち無沙汰にぼんやりと相手を待つ場合の利得を1とします。
XとYは落ち合うことが目的なので、落ち合えない場合の戦略の組み合わせは利得がゼロです。この時のナッシュ均衡は2人が落ち合える戦略の組み合わせ。したがって2つ存在します。
図2は互いの期待利得が2/3となる混合戦略のナッシュ均衡です。しかしどちらにせよ、XとYがどちらのナッシュ均衡を選ぶかは、論理的には説明できません。
コーディネーションの失敗
XとYにとっては利得が2になる「本屋の中で待つ」戦略がベストです。しかしこのような待ち合わせでは、Yの考えたように別々の場所で待っていて、なかなか会えないということが少なくありません。
早く来て中でずっと待っていたのに相手が来ず、店の外に出たら相手がいて「遅刻だよ」と心外なことを言われる、といった状況を経験した人も多いでしょう。
利得の高い均衡と低い均衡があっても、人は必ずしも高い均衡を選ぶとは限らないのです。このように利得の低い均衡を選んでしまうことを、「コーディネーションの失敗」と言います。
コーディネーションの失敗の解決方法
「コーディネーションの失敗」の解決は簡単です。例題の場合なら、前日の時点で「本屋の中、雑誌コーナーで待ち合わせよう」と決めておけば、コーディネーションの失敗は起きません。
他にも細い道ですれ違うときにも、右か左どちらに避けるかでコーディネーションの失敗が起き、ぶつかってしまうことがあります。
これが人対人であれば「どうもすみません」と言えば問題ありませんが、車対車ならそうはいきません。だからこそ「左側通行」というルールが設けられています。
ゲーム理論に引き寄せて言えば、「左側通行」はコーディネーションの失敗の解決策の1つと言えるでしょう。
まとめ
・戦略を協調させることが、ナッシュ均衡をもたらすゲームをコーディネーションゲームと呼ぶ
・人はコーディネーションゲームで、利得の高い均衡と低い均衡があっても、高い均衡を選ぶとは限らない
・コーディネーションで利得の低い均衡を選んでしまうことを「コーディネーションの失敗」と言う
・コーディネーションの失敗を解決するには、予め明確に約束をしておいたり、ルールを決めれば良い
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