人の強みを生かす
すでに自らの強みを知る必要性に関しては述べてきましたが、成果をあげるためには人の強みを生かすことも重要です。
特に人事においては強みに焦点を合わせることがとても重要です。
弱みを最小限に抑えるのではなく、強みを最大限に発揮させることが大事です。
組織の利点は個人の弱みを意味のないものにすることができることです。
数字に強いけれど対人関係の能力が劣る人間は、独立して仕事をすることは難しいですが、企業の経理部では強みを生かして成果をあげることができます。
対人能力を必要とする営業はそれを強みとする者が行えばよいのですから。
弱みに配慮して人事を行えば、上手くいったとしても平凡な組織に終わってしまいます。
それよりも個人の強みを最大限に生かせるよう人事を行なわなければなりません。
私たちは学校で得意分野を伸ばすことよりも苦手分野を克服するという教育を受けてきたため、どうしても強みではなく弱みに焦点をあててしまいがちです。
大きな強みを持った人はたいてい大きな弱みも持ち合わせています。
しかし、全ての分野で強みを持つ人などはあり得ないし、人の卓越性は一つの分野でのみ発揮されるものです。
個々の弱みを無意味化し一つの強みを最大限に生かせるから組織に意味があるのです。
アメリカの鉄鋼王、アンドリュー・カーネギーの墓碑には
「おのれよりも優れた者に働いてもらう方法を知る男、ここに眠る」という言葉が刻まれています。
この言葉こそが組織の人事において必要な考え方です。
成果をあげる為には、部下や同僚の強みを見出し、それを仕事に適用させることが必要です。
アメリカの自動車王と呼ばれたヘンリー・フォードは高校を中退していますが、大成功をおさめました。
あるとき、その成功に嫉妬した有名大学卒のエリート金融マンに、嫌がらせとして深い教養を必要とする質問をいくつも投げかけられたことがあります。
そのときにフォードは、
「その質問の答えは分からないが、その分野でアメリカ最高の人物なら、5分で連絡が取れる」と答えたと言われています。
彼も優秀な部下を何人も抱えていたのです。
カーネギーもフォードも部下の強みを生かすという原則を深く理解していました。
大きな成功を収めている人は必ずこの原則を理解しています。
しかし、いくら強みを生かす人事をしなければならないからといって、個人の強みに合わせた職務設計をしてはなりません。
仕事はなすべきことにしたがって客観的に設計しなければなりません。
しかし客観的であっても適切に設計しなければなりません。
それは人にできない仕事は作ってはならないという意味です。
前職で十分な実績のある人が2〜3人と挫折するような仕事は、そもそも最初から人にできるような仕事ではないと考えるべきです。
また一定期間仕事で成果をあげられない者がいた場合は、その人間の適性に合った部門に移動させてあげなければなりません。
そして人事の失敗はその人事を行った人間の責任としなければなりません。
成果をあげられないのはその人の強みを生かしきれなかったからだと考えなければなりません。
組織の評価基準は天才的な人間の有無ではなく、平凡な人が非凡な成果をあげられるか否かです。
強みを生かす人事ということを考えれば、当然人事考課も強みに焦点を合わせる必要があります。
人事考課では何が出来なかったかを見るよりも、何が非常に良く出来たかを見る必要があります。
そうすることによって弱みではなく強みを生かす組織を作ることができます。
また、強みを生かすのはなにも部下や同僚だけではありません。
上司の強みも生かすことを考えなければなりません。
よくテレビで上司を倒して出世していく企業ドラマがありますが、実際には上司が出世しなければ自分が出世することも難しです。
これも上司に媚びへつらうのではなく、上司の強みを理解して、その強みを生かすよう提案すべきです。
もちろん上司に対して、
「あなたはこういったことが強みなのでここを生かしていきましょう」などと言っては角が立ちますので、上手なやり方を考えなければなりません。
上司が成果をあげることは自分にとってプラスになるのだと認識して、上司の得意なことを得意なやり方で行うよう提案できると良いと思います。
人は自分のことより他人のことの方がよくわかるものです。
人の強みを見極めそれを生かすような仕事をさせることが、自分自身にとっても組織にとっても成果をあげる重要な要素なのです。
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