意思決定の方法を学ぶ その4
?満場一致に注意する
意思決定を行う際、多くの場合意見の一致を試みます。
会議でも満場一致において決定を行うことが多々あると思います。
しかし、今日私たちが直面する課題は満場一致で決められるものではありません。
相反する意見の衝突、異なる視点との対話、異なる判断があって初めて良い決定が行えるのです。
したがって、意見の不一致が存在しない場合は決定を行うべきではないのです。
米国の大手自動車メーカーのGMで長年社長を務めたアルフレッド・スローンは、会議で意見が満場一致している際には、以下のように言ったそうです。
「それでは、この問題について異なる見解を引き出し、この決定がいかなる意味をもつかについてもっと理解するための時間が必要と思われるので、さらに検討することを提案したい」
もう少し詳しく述べますと、意見の不一致は3つの理由から必要です。
第一に、組織の囚人になることを防ぐからです。
意思決定を行う際には多くの人の思惑がからみます。
意識しているしていないに関わらず、多くの人が自らに都合の良い意見を述べます。
また中には恣意的に自分の利益の為に、決定を誘導しようとする人もいるかもしれません。
そのような特別な要請や意図から脱却する唯一の方法が、十分に検討され事実によって裏付けられた反対意見なのです。
第二に、選択肢を与えるからです。
決定には常にリスクが伴います。
最初から間違っていることもあれば、状況の変化により有効でなくなることもあります。
決定が有効に働かなくなったときに、十分に検討され理解された次善の策としての他の選択肢があれば、ただただ途方に暮れるというようなこともなくなります。
第三に、想像力を刺激するからです。
不確実な問題においては、ときに創造的な答えが必要です。
しかし、想像力は刺激しなければ出てきません。
一つの意見を検討しているだけで画期的なアイディアは生まれないのです。
その刺激となるものが論理づけられ検討し尽くされ、裏づけられている反対意見なのです。
一つの行動だけが正しく他の行動は全て間違っているという仮定からスタートしてはいけません。
自分は正しく彼は間違っているという仮定から入ってもいけません。
明らかに勉強不足な人や不真面目な人もいることは確かです。
しかし、明白でわかりきったことに反対する人は、バカか悪人に違いないと思ってはいけないのです。
反証がないかぎりは反対する人も知的で公正であると仮定しなければなりません。
したがって、明らかに間違った結論に達している人は、自分とは違う現実を見て、違う問題に気づいているのだと考えるべきです。
誰が正しく誰が間違っているかは問題ではないのです。
何よりもまず問題の理解に関心をもつことが、成果をあげるうえでは大切なのです。
多くの人が無意識のうちに、自分の意見が唯一正しく、相手の意見は間違っているという前提で話を進めてしまっています。
正しい意思決定を行おうとするならば、選択肢を十分に検討するための手段として反対意見が出るよう意識的に取り組まなければなりません。
?決定は本当に必要か自問する
優秀な外科医は不要な手術は行いません。
手術しなくても問題のない患者に対しては内科的療法で対処します。
意思決定も手術と同じです。
何もしなくても問題は起こらないという状況はあります。
何もしないと何が起こるかという問いに対して、答えが何も起こらないという場合には、状況が気になっても何も手をつけてはなりません。
何もしないと状況が悪化する場合には行動しなければなりませんし、急いで行動しなければチャンスが去ってしまうという場合も同じです。
しかしほとんどの場合、何もしなくても上手くいくわけでもないし、何かしないと取り返しがつかなくなるわけではないという状況です。
このような場合は行動した場合としなかった場合の犠牲とリスクを比較しなければいけません。
その指針は大きく2つあります。
第一に、得るものが犠牲やリスクを大幅に上回るのならば行動しなければいけません。
第二に、行動するかしないかいずれかにしなければいけません。
二股をかけたり、両者の間をとろうとしたりしてはいけません。
良性の腫瘍は摘出しなくても問題ない可能性はありますが、予防として摘出するのならば全て摘出しなければなりません。
半分だけ摘出ということはあり得ないのです。
手術はするかしないかです。
同じように意思決定も行うか行わないかのどちらかです。
半分の行動こそ常に誤りであり、必要条件を満たさない行動なのです。
?勇気を持って決断する
今まで述べてきたことを全て入念に検討すれば決定の準備は整ったことになります。
しかし、多くの人がここまできて決定を下すことができません。
決定には判断と同じくらい勇気が要ります。
良薬は口に苦しという諺がありますが、成果をあげる決断も苦い場合が多いです。
しかし、「もう一度検討し直そう」という声に耳を傾けてはなりません。
これまで多くの時間をかけて検討してきたことを蒸し返してはならないのです。
再検討する場合には、「再検討したら何か新しいことが出てくると信じるられる理由は何か」を問うことです。
もしその答えがノーであれば、再検討せず決断を下さなければなりません。
自らの決断力のなさのために、周りの人の貴重な時間を奪ってはいけません。
自ら決断を下す勇気を持たなければならないのです。
今日、意思決定は少数のトップだけが行うべきものではありません。
組織で働くほとんどあらゆる知識労働者が、なんらかの方法で意思決定を行っています。
あるいは少なくとも、意思決定のプロセスにおいて積極的な役割を果たさなければならなくなっています。
現代に働く知識労働者にとって意思決定をする能力は、まさに成果を上げる能力そのものなのです。
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