報酬システム
今回は報酬システムについて説明していきます。
今回の文章を読むことによって、報酬システムとは何かについて学び、その後で日米の報酬決定要因の違いや近年の傾向について説明していきます。
報酬システムとは
それではまず、報酬システムとはどのようなものであるか見ていきましょう。
報酬システムとは、企業組織に所属するすべての従業員が仕事に対する魅力を感じ、高いモチベーションをもって仕事ができるように、人事評価の結果に基づいて公正かつ公平な立場で報酬を与えていくシステムのことです。
報酬には大きく分けて、金銭的報酬と非金銭的報酬があります。
金銭的報酬は文字通り、報酬として金銭を支給するもので、給与に含めて支給する場合と給与とは別に支給するものがあります。
非金銭的報酬には、周囲から評価されて昇進・昇格することを通じて、自己実現のための機会の提供を受けることなどがあります。
報酬をもとに目標の実現に向けてメンバーの行動を引き出す方法は幾通りかありますが、その際にメンバーにどの程度参画させるか、どのような種類の報酬を与えるかといった意思決定は、経営理念や従業員の要求等との一貫性を維持していく必要があります。
企業組織全体のミッションや目標と個人の目的を合わせていくことはもちろんのこと、会社としてどの程度の利益を上げ、どの程度の財務状況において一定額の報酬を与えることができるかなどの前提条件を理解しておくことが、報酬システムについて理解していく上で重要なのです。
では報酬の決定要因はどのようなものなのでしょうか。
この報酬の決定要因は企業によって異なっていることはもちろん、国によっても大きく異なっています。
そこで、日米の報酬決定要因についてどのような違いがあるか見ていきましょう。
まず、アメリカ企業における報酬決定要因について見ていきましょう。。
アメリカの報酬決定要因
アメリカでは、職務を詳細に分析して記述した職務評価に基づき、細かな等級と給与レンジを設定する「職務給制度」が広く普及していました。
職務給制度とは、職務ごとにその価値や難易度によって、給与があらかじめ決められているというものです。
例えば飲食店の場合であれば、コックの月給が30万円、ウェイターの月給が25万円というように、職務内容で給与の金額が決定します。
そしていったん決定した給与は、担当職務が変わらない限り変更はありません。
当時のアメリカでは公民権運動とそれに対応した法整備が進み、人種や性別等によって報酬を含むあらゆる雇用差別が禁止されていました。
そのことにより、被雇用者からの訴訟によってダメージを受ける企業が現れるようになりました。
社員からの訴訟リスクに対して敏感な企業にとって、客観性や説明性が高く、かつ属人的要素を排除した職務評価手法に職務給制度は適していました。
また、当時は人材の流動化が進んでおり、職務給制度を用いて外部の報酬相場との比較することもできていました。
しかし、次第に次のような問題点が出てきました。
1) 職務等級に対して固執する
2) 業績に対する関心の低下
3) 不要な社内政治や権力争いの発生
4) チームワークの低下
5) OJTを通じた能力開発の阻害
職務サイズのみが報酬の決定要因であったため、社員は自らの職務サイズを大きくしたり、より大きな職務サイズのポストを目指すようになり、そのための手段として高い業績を上げることを目指すのではなく、組織内の上位者に政治的に取り入るようになりました。
また、職務評価で職務内容が細かく規定されたため、職務記述書に書かれていないことはやらないという社員も出てきました。
その結果、組織の硬直化や官僚化が進み、チームワークが育たず組織の目標達成が阻害されたり、人員の配置転換を通じた社員の能力開発ができない等の弊害が出ていました。
このような弊害を取り除くため、1980年代以降、目標管理制度による実績主義が採用されたり、「ブロードバンディング」に発展しました。
ブロードバンディングとは、複数の職務等級を1つのバンドとしてグループ化しておき、そのバンド内での異動であれば等級の見直しをしないとするものです。
例えば、「等級1」「等級2」をまとめて「バンドA」としてグループ化していた場合で、そのバンドの中での異動(例:等級1→等級2)が発生した時は、移動前後で同じ等級となります。
これらの仕組みを通じて、職務給制度で出てきた弊害を解消する取り組みが進められていきました。
続いて日本企業での報酬決定要因について見ていきましょう。
日本の報酬決定要因
これまでの日本企業の多くでは、学歴、年齢・入社年次、職能資格等級などの属人的要素が給与を決定し、内部での一貫性(公平性)を検討するうえでの尺度となっていました。
これらのうち、職能資格等級とは社員の職務遂行能力に応じて格付けされた等級のことで、この等級をもとにして人事や処遇を実施する制度を職能資格等級制度といいます。
例えば、入社1年目の新入社員は「等級1」に属することとし、求められる能力を「上司の指示に従い業務を遂行する」と定義します。
そして「2等級」へ昇進するためには、「判断を伴う業務を担当し、1等級者の模範となって成果を実現する」能力を身につけなければなりません。
この様に、職能資格等級は職務経験によって積みあがっていくものであり、必ずしも担当する職務内容と結びつくものではなく、同一資格であっても実際に担当している職務内容が大きく異なっているケースも多くありました。
例えば、資格等級は同じ「4等級」であっても、係長を任されている人もいれば、主任を任されている人もいるというようなケースです。
担当している職務内容が違っていても同じ資格であれば、給与は基本的に同額であり、等級内の昇給額によって差をつけるような仕組みがあったとしても、それほど大きな差はつきませんでした。
また、職能資格等級制度の内容は企業組織によって独自に設定されるものであるため、他の企業組織の職能資格等級制度とは比較することができず、他社の給与と比較する際の尺度としても直接使用することはできませんでした。
そのため、他企業と給与の比較を行う際には、職務内容に基づいて比較することができないため、「高卒入社、勤続○年、扶養家族あり」といった属人的な情報に基づいて比較がなされてきました。
『近年の日本企業の報酬決定要因の傾向』
それでは、そのような日本企業の報酬決定要因は、近年どのようになっているのでしょうか。
近年、取り入れられるようになってきたのが、役割や職務に基づいた報酬制度で、多くの企業がこれをベースとして、成果に応じたインセンティブを併用する形になっています。
では、役割や職務の評価はどのように行われているのでしょうか。
代表的な評価方法として、以下の5種類を紹介していきます。
?ランキング法
?クラシフィケーション法
?ファクター・コンパリソン法
?ポイント・レイティング法
?インターナショナル・ポイント・レイティング法
それでは、?ランキング法から順に見ていきましょう。
?ランキング法
各職務について難易度や責任度などの観点から相互に比較を行い、トップから最下位までの順位を決定する方法です。
もっとも単純な方法ではありますが、職務間の隔たりの大きさを定量的に判断することはできず、評価者が対象職務をすべて正しく理解することが前提となるため、大きな企業組織で実行することは難しいようです。
?クラシフィケーション法
等級の数と各等級の基準を事前に定義しておき、基準と比較して各職務を合致する職務等級に当てはめる方法です。
このクラシフィケーション法の場合、明確な等級基準が決まっているのであれば、各職務の等級への当てはめが容易となります。
しかし職種が多岐にわたっている場合は、職種間で共通した定義を定めることが難しいというケースもあります。
クラシフィケーション法も職務を総合的にとらえる方法であり、やはり評価者の主観が介入しやすい状態となっています。
?ファクター・コンパリゾン法
まず、組織内の職務から代表的で報酬水準の確立した「基準職務」を設定します。
その後、基準職務とその他の職務の大きさの様々な要素を比較することによって、各職務の報酬水準を決定する方法です。
比較する際の要素は、以下のようなものがあります。
1) 技能要素(必要な熟練度や専門知識)
2) 身体的要素(業務に要求される姿勢や歩行距離等)
3) 責任要素(部下の管理、業務の種類の多さ等)
4) 労働環境要素(温度・騒音等の環境、危険性等)
基準職務数は、大きな企業組織の場合では20種類にもわかれる可能性があります。
この手法では職務に応じた市場相場が確立されていることが前提条件となるのに加えて、大きな組織評価では評価作業が非常に煩雑になってしまうという欠点があります。
?ポイント・レイティング法
最初に、ファクター・コンパリゾン法のように職務の中身を示す要素ごとに何段階かの水準を設定し、さらに要素ごとのウェイトを決定します。
そして各職務を各要素について評価し、その合計点で判定を行うというものです。
要素数は企業組織にもよりますが、多い場合には20以上もあります。
このポイント・レイティング法では、異なる職種の職務も客観的かつ妥当に評価することができます。
その一方で、設計段階で膨大な時間とエネルギーを要することや、細かいところまで決めすぎてしまい、導入後のメンテナンスがおろそかになってしまう恐れがあるなどの短所もあります。
?インターナショナル・ポイント・レイティング法
インターナショナル・ポイント・レイティング法は、ポイント・レイティング法をベースとした評価手法です。
グローバル展開を行う企業のグループ内全社において人材をグローバルに活用しようとする場合、職務の大きさに関する共通の尺度を持つために使用される評価手法です。
これら5つの評価方法からどの手法を採用するかは、組織自体をとりまく、内部・外部の環境要因や経営戦略等を勘案したうえで採用する必要があります。
どの手法を選択するにせよ、役割や職務の評価はあくまでも成果や求められる行動や人材像を定義・評価して、報酬をはじめとする処遇に結び付けるための基盤整備プロセスであることを忘れてはならないのです。
今回は、報酬システムについて日米の報酬決定要因の違いを中心として説明してきました。
伝統的な日本企業では職能資格等級制度が、アメリカ企業では職務給制度が活用されてきましたが、いずれも時代の変化に合わなくなり、日本では役割や職務に基づく報酬制度が、アメリカでは目標管理制度等の実績主義と組み合わせた報酬制度が導入されてきているのです。
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