組織と戦略
【組織と戦略】
今回は組織と戦略について説明していきます。
この文章を読むことによって、組織と戦略との関連性と戦略の決定プロセスについて理解することができます。
組織と戦略の関連性を説明する前に、戦略とは何かを考えていきましょう。
戦略は、企業組織の具体的活動の指針となるものです。
戦略の定義には様々なものがありますが、よく用いられる定義としては「競争優位性によって、企業や事業の目的を継続的に達成できる構造を構築するための施策群」というものがあります。
この定義においては、競合他社との競争に勝って利益を上げ続けることを強く意識しています。
組織のメンバーは戦略を手掛かりにしながら仕事を進めていきます。
各メンバーが同じ戦略を行動基準とすることによって、最終的にすべてのメンバーが同じ方向に向かって進むことができます。
統一した戦略がなければ、各メンバーが独自に判断を行うことになり、個人的な好みや思惑、独断による判断が入ってくることになり、組織という協働のシステムが機能しなくなってしまいます。
戦略は組織が目的を達成していくために必要不可欠なものであり、その戦略をいかに作り上げていくかはマネジメントにとって重要な問題です。
企業組織が戦略を生み出す方法については、大きく2つのアプローチがあります。
1つめは「トップダウン・アプローチ」、2つめは「ボトムアップ・アプローチ」です。
【トップダウン・アプローチ】
まず、トップダウン・アプローチについて説明していきます。
トップダウン・アプローチは欧米の企業、特にアメリカの企業によって多く採用されており、トップマネジメントであるCEO(最高経営責任者)が戦略を策定して、部下に実行させていくというものです。
戦略を策定する前提として外部環境の分析を行い、自社の市場でのポジショニングを確定していきます。
そして、参入した市場において、「コスト・リーダーシップ戦略」「差別化戦略」「集中戦略」の3つのうちいずれかの戦略を採用することとなります。
こうした戦略の特徴としては、分析的であり、その分析結果から導き出される戦略も定式化されているということです。
分析対象や分析手法がオーソドックスなものなので、結果的に同じような結論に達しやすくなります。
トップダウン・アプローチでの戦略実行が実効性を持つためには、戦略がどのようなものか明示し、組織メンバーが誤解することのないように説明していく必要があります。
作成した戦略を受け入れ実行していくようにメンバーを説得しなければなりません。
組織メンバーの戦略に対する理解が不十分であれば戦略の最初の目的を果たすことが難しくなります。
そのためトップマネジメントには、組織メンバーに対して十分な説明と説得を行うことが求められます。
【ボトムアップ・アプローチ】
続いてボトムアップ・アプローチについて説明します。
ボトムアップ・アプローチは、現場の社員が状況に応じて上司へ提案を行い、上司が提案を承認して意思決定を行っていくというものです。
このような意思決定方法は日本企業に多く採用されています。
ボトムアップ・アプローチで策定された戦略については、企業組織の外側からはよく見えないという特徴があり、そのため「日本企業には戦略がない」という指摘がされることもありました。
また、ボトムアップ・アプローチにおいては、組織の最高責任者が意思決定するのではなく、メンバーの決定を承認するだけであるため、結果責任を誰が取るかが曖昧であるという批判もあります。
しかし、意思決定に際して、より上位の人間が承認・決定し、オーソライズするという公式の手続きをマネジメントがとることが担保されていれば、こうしたボトムアップ型の戦略策定方法は大いに強みを発揮します。
それでは、ボトムアップ・アプローチの強みとはどのようなものでしょうか。
ボトムアップ・アプローチの強みとしては、以下の5点が挙げられます。
?環境の変化に即した戦略となりやすい
?実行者の当事者意識が醸成されやすい
?外部から感知されにくい
?競合他社から簡単にまねされない
?希少性が高い、オリジナリティの高い戦略となる
このようにボトムアップ・アプローチから生まれてくる戦略は創発的戦略と呼ばれます。
特に重要なポイントは、ビジネスの現場に近い人間が意思決定を行っていくことにあります。
企業組織を取り巻く環境は常に変化していますし、企業組織の内部も常に静的な状態を保つことはありません。
企業組織が行動を起こせば、その企業組織にとっての外部環境を構成する競合他社や顧客に影響を与え、企業組織自体にも変化を起こします。
このような変化を常に感じ取る位置にいる現場担当者が、企業組織にとっての方向性についてより的確な提案ができると言えます。
ボトムアップ・アプローチでの戦略立案を行っていく場合は、担当者が自律的に行動することが期待されています。
環境の変化を読み取り、そこから何かを判断するためには、問題意識や当事者意識を持った人材が自律的に思考・行動する必要があります。
そして、ボトムアップ・アプローチでの意思決定を行っていく組織にとっては、ミドル・マネジメントが重要な役割を担います。
ミドル・マネジメントにはある程度の実務経験があり、担当業務に習熟しているとともに会社の内情についてもそれなりに理解しているからです。
そこでは担当業務だけの狭い見方ではなく、全社的な視点を取り込むことが期待されます。
また、ミドル・マネジメントが提案を行っていく際には、部下や同僚とともに情報を共有し、ともに分析し、議論を深めていくことが期待されます。
このようにミドル・マネジメントが戦略提案を行う場合には、実践的経験を通じてある程度確証を得たものを案として作成できるという強みがあります。
【戦略の実行】
最後に戦略の実行力について見ていきます。
戦略としてどんなに素晴らしいものを作り上げたとしても、実行されなければ意味がありません。
戦略そのものの巧拙よりも、戦略の実行力(徹底度合い・スピード・柔軟性・熱意など)が競争力につながりやすいとの認識が強まっており、いかに実践に落とし込んでいくかが重要な課題となっています。
いかに精緻な戦略を作り上げたとしても、環境の変化が激しいため、戦略立案の際に設定した数値が現状に合わないこともあります。
そのような場合には、現場にて柔軟に戦略を修正することが求められます。
また、戦略に基づいて仕事を進める人は論理性だけを手掛かりにはせず、様々な観点から価値判断をすることも重要です。
「やりたくない」「やっても効果がない」と判断されれば、どのような施策も効果的に実行することはできません。
いずれにせよ、実行段階で判断を下し、行動に移していくのは現場担当者になります。
戦略立案の段階から、適切に実行されることを念頭に置いて策定を行っていくことが重要です。
その点、ボトムアップ・アプローチでの戦略立案の場合は、実践する人が主導的な立場に立って戦略を提案し、全社的に展開されていくという特徴があるため、有利であると言えます。
戦略の基本的な考え方や目指す方向、戦略が生まれた背景を熟知しているため、実践に移す時に軸足がぶれることなく、環境の変化に応じて修正することができるのです。
以上、見てきたように戦略立案方法にはトップダウン・アプローチとボトムアップ・アプローチがあります。
環境変化の激しい現代においては、ボトムアップ・アプローチでの戦略立案が重要になってきています。
そのためには、ミドル・マネジメント層を中心に自律的に行動できる人材の育成がポイントとなってきます。
今後の戦略立案〜実行においては、現場の判断力・実行力を高め、柔軟に変化に対応しながら戦略の立案・実行ができる組織を作り上げていくことが重要なポイントとなってくるでしょう。
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