配置システム
今回は配置システムについて説明していきます。
今回の文章を読むことによって、配置システムの分類やその目的、注意すべき事項を学ぶことができます。
配置システムの機能
企業組織における人材の配置においては、職務の役割を明記した「職務記述書」とメンバーの持つ能力やスキルの要件を適正に判断し、適材適所に人材を配置していく必要があります。
その一方で、単に業務への適性だけで人材の配置を行うのではなく、長期的な人材育成の観点からその時点ではあまり適性があるようには思われない職務を担当させることもあります。
例えば工場内での組立作業についてすぐれた適性を持つ社員がいたとしても、その社員に一生工場内での組立作業を任せるのではなく、管理能力を身につけさせ、現場の仕事について精通した工場管理者として育成していくというケースがあります。
以上のように、人材配置についての第一の目的は業務を円滑に遂行していくことにありますが、その他にも以下のような項目が目的として意識されています。
?メンバーが最も能力を発揮できる業務を担当させる
?ある仕事(プロジェクト)を遂行するために補完的に複数のメンバーを集める
?新入社員に組織や基本的な業務を覚えてもらうためにベテランの部下にする
?特定の仕事に習熟させるためにベテランの部下にする
?マネジメント能力を育成するために責任ある地位につける
?ゼネラル・マネジメント能力を育成するために様々な職務を担当させる
?と?は、メンバーの持つ能力・スキルを組織として有効に活用するための配置となります。
?と?は、能力やスキルがまだ十分でないメンバーを育成するための配置に該当し、
?と?は将来の組織を担う人材を育成することに焦点があてられています。
つまり、配置システムには、「戦略実行のために適材適所に人材を配置する」という機能と、「人材育成」という機能の2つの機能を持っています。
これらの機能のうち、人材育成の機能が実効性を持って組織が継続していくようにするためには、メンバーが配置先で経験したことを活かせる職務を次に与えることです。
これまでの企業組織においては、ゼネラリスト養成の名目の下に配置先の多様性は意識していても、連続性についてはそれほど意識されないことも多くありました。
今後は、配置転換によってスキルを身につけた人材をどのように活かしていくかを慎重に考えていく必要があります。
配置システムによる人材育成
マネジメント側は、メンバーに対して新しいスキルを身につけるための場をどのように用意するのか、あるいは身につけたスキルを次の配置先で発揮するための場をどのように用意するかを予め計画しなければなりません。
メンバーが身につけたスキルについては、適切に評価し報いることも必要となります。
スキルを身につけるという成果に対して正当な評価が行われなければ、メンバーは仕事に対するモチベーションを引き出すことはできないでしょう。
メンバーは正当に評価を受けると信じるからこそ、一生懸命スキルの習得に努めているのです
人材を適所に配置しながら育成するという機能は人事部だけでできることではありません。
その人材が適材であるかどうかについては、現場の担当者でなければ判断できませんし、業務遂行に必要なスキルや所要人数については、直接の現場担当者でなければわかりません。
当然ながら、配置先で人材育成を行っていく場合、教育を担当するのは当該部署の担当者になります。
どのような期間でどのような能力・スキルを身につけさせていくかについては、現場の担当部署と人事部が協力して決めていく必要があります。
特に、日本の企業組織においては公式の経営幹部育成プログラムが存在しない会社が多いということを考えると、配置システムの持つ意味は大きなものになります。
日本の企業組織の多くでは、公式的な育成プログラムよりもジョブ・ローテーションを通じた様々な仕事の経験を通じて、様々なスキルを身につけさせるという方法がとられています。
つまり、日本の企業組織の多くでは、人材育成の責務は人事担当部署のみでなく全部署が担っているということを意味しています。
総務部門に配属されれば総務部長が、営業部に配属されれば営業部長がメンバーへの教育の責任を負うというシステムになっており、複数部署での経験を通じて組織全体がどのように業務を進めているかを理解できるようになります。
ただし、実践的な業務経験を通じて経営幹部を育てることは重要ですが、集合研修などの公式的な育成プログラムが必要ないというわけではありません。
配置先での業務経験を省察する機会としての育成プログラムは、とても重要な意味を持ちます。
学習と実践のサイクルを業務の中に組み込んでいけるように、配置転換を工夫するという循環的な関係が配置システムと教育プログラムに求められます。
人材の配置に関しては、企業組織内部での人材配置以外に、企業組織をまたいだ形での配置である出向や転籍があります。
出向は、社員としての身分を維持したまま、他社の指揮命令系統に従い業務を行うというものです。
社員としての身分は維持されているため、給与等の待遇については出向元の規定に従うことになりますが、研修や評価については出向先の企業と出向元企業とで相談しながら実施されることが多いようです。
転籍は転籍先の社員、つまり別会社の社員になることであり、多くの場合は元の会社に戻ることはありません。
出向や転籍の目的は社内での人材配置と同様に、人材の最適配置による業務遂行や人材育成ですが、元の企業の人員整理の一環として活用されるケースもあります。
このようなケースでは、出向者や転籍者のモチベーションが低下してしまい、受け入れ先企業の組織へ悪影響を与えることにもつながってしまいます。
採用や配置のシステムは人事システムのサブシステムであることから、他のサブシステムとの整合性が重要となります。
中長期的な視点を持ちつつ人事システム全体としてのバランスを取っていく必要があります。
さらに言えば、人事システム以外のシステムや施策とも関連付けて考えていく必要があります。
人事システム自体が人事部だけの主導では完結しないシステムであるため、企業組織内の他の部署、特に現場との強い連携があって初めて人事システムは有効に機能するのです。
今回は配置システムについて見てきました。
人材の配置については、業務の円滑な遂行と人材育成の2つの目的があり、今回の文章では特に人材育成に関する面から説明してきました。
企業組織に属する人は、誰もがみな自ら希望する職務につけるというわけではありません。
しかし、企業の継続的な成長は、企業組織内の人材の成長によってもたらされると考えることができます。
人的資源管理の観点から見て重要なことは、公式的な教育プログラムとともに、配置システムを通じて様々な業務経験を積むことによってメンバー個人の成長を促し、長期的な企業組織自体の成長を促進する体制を築いていくことです。
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