キャッシュフロー計算書(C/S) その3
5)
ここまでの小計を出します。
小計を出すのは、これがキャッシュベースで見た営業利益にあたるためです。
6)
投資や財務活動に関係のない損益を加減算します。
ここでは特別損益が投資活動によるものであるため除外して、営業損益だけを符号はそのままで記載します。
7)
最後に法人税の支払額を記載します。
以上で営業活動によるキャッシュフローが算出されました。
≪投資活動によるキャッシュフロー≫
投資活動によるキャッシュフローは、前期と当期の投資資産の増減を確認し、会計上の損益を加味して求めます。
今回は、以下の2点に注目します。
1.建物の減少
建物は前期の減価償却費累計額を除いた簿価が5100万円、当期4000万円となっていることから、簿価で1100万円減少していることがわかります。
また、当期の減価償却費はすべて合わせて1500万円ですが、機械装置と器具備品で1000万円計上されていることから、建物の減価償却費は500万円となります。
そしてこれを加味すると、売却していない建物の前期の簿価は4500万円です。
よって、前期の簿価である5100円から4500万円を引いた600万円が当期売却した建物だということがわかります。
また、損益計算書で建物の固定資産売却損が400万円となっています。
よって、実際の売却額は200万円となります。
そして200万円は売却による収入となり、キャッシュフローはプラスになります。
2.投資有価証券の減少
投資有価証券は、400万円減少しているため、簿価は400万円であることがわかります。
そして投資有価証券売却益が300万円発生しているため、実際の売却額は700万円となります。
この700万円も収入なのでキャッシュフローはプラスになります。
以上で投資活動によるキャッシュフローが算出されました。
≪財務活動によるキャッシュフロー≫
財務活動によるキャッシュフローは、前期と当期の借入金や純資産の増減から確認していきます。
1.短期借入金
短期借入金は400万円減少しています。
借り入れの減少=現金の支出になるので、キャッシュフローはマイナスとなります。
2.長期借入金
短期借入金と同じく、長期借入金も500万円減少しています。
借り入れの減少=現金の支出になるので、キャッシュフローはマイナスとなります。
なお、利益剰余金が520万円増加しているのは、税引後当期純利益が利益剰余金として内部留保されたためです。
このことにより、配当は行っていないことがわかります。
また、この520万円は営業活動によるキャッシュフローですでに加算されているため、財務活動によるキャッシュフローには含まれません。
以上で財務活動によるキャッシュフローが算出されました。
【キャッシュフローと当期純利益の違いを見てみよう】
ここまで、キャッシュフロー計算書の見方と作成方法を考えてきました。
ここで、例に挙げた自動車部品販売会社の当期のキャッシュフローと当期純利益の違いを見てみましょう。
キャッシュフロー :2000万円のプラス
当期純利益 :520万円の利益
このように、キャッシュフローと当期純利益には大きな違いがあることがわかります。
自動車部品販売会社の場合は、ビジネスでキャッシュを獲得しながら投資を抑えることで現金支出を減らし、会計上の損益以上に現金を獲得しています。
しかし、これが逆になる場合もあり得ます。
例えば、売れると判断して製品を作りすぎ、棚卸資産(在庫)が前期よりも膨れ上がった場合などは、在庫を抱えた分現金の獲得が先送りとなり、仮に利益がでていてもキャッシュフローはマイナスになる可能性があります。
そして利益は出ているのにキャッシュフローがマイナスという状態が続いた時に起こり得るのが、黒字倒産です。
損益計算書上は優良企業でも、そのやりくりの仕方によっては経営が危うくなる可能性があるということです。
これは利益だけを追求している場合に起こりやすい落とし穴だと言えます。
近年、「キャッシュフロー経営」が大事だと言われるのはこのためです。
キャッシュフローを学ぶことは、そういった落とし穴に落ちないようにする最良の方法です。
ぜひこの考え方を身につけておくようにしましょう。
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