企業の安全性を分析 その1
【安全性を分析】
安全性とは、会社がどの程度自前の資金で経営が行われているかを見る指標です。
例えば無借金で経営を行っている場合は、資金の返済や利息の支払いなどの必要がないため、経営を安定的に行うことができます。
このような状態の会社を「財務体質が健全である」といいます。
財務体質が健全であれば、支払利息や買掛金などの返済に困ることもなく、「身の丈」にあった経営が可能になります。
しかし財務体質が健全であれば健全であるほど企業規模の拡大は望みにくく、その経営は安定を重視するがゆえに「伸びしろがない」とも言えます。
借り入れを行うことで財務レバレッジを大きくするほうが、資産が増えて成長可能性が高まるためです。
よって安全性は、高ければ高いほどよいとは一概には言えず、収益性とのバランスを取ることが必要であると言えます。
そのような意味で、安全性の分析は収益性と並んで非常に大切なものと考えましょう。
安全性の分析には、「短期」で見る安全性と「長期」で見る安全性があります。
短期で見る指標には流動性比率、当座比率などがあり、長期で見る指標には固定比率、自己資本比率などがあります。
また、借入金の利息支払い能力を見る指標に、インタレスト・カバレッジ・レシオというものがあります。
なお、今回もS社とY社の損益計算書と貸借対照表を使います。
そしてインタレスト・カバレッジ・レシオについては損益計算書も使用しますが、安全性分析の基本は貸借対照表です。
それぞれをよく使用される指標とともに見ていきましょう。
【短期の安全性】
短期の安全性とは、1年以内の短期の支払い能力のことです。
具体的には、「1年以内に支払うべき負債」の支払いを行うために、「1年以内に現金化される資産」をどの程度持っているかということです。
どんなに資産が多かったとしても、その資産が現金化できないものばかりであれば、短期的な支払い能力は弱いということになります。
≪流動比率≫
流動比率とは、流動負債に対する流動資産の比率です。
流動資産は1年以内に現金化できるものなので、流動資産が流動負債よりも多ければ短期的な支払い能力があり、安全であるということができます。
よって高いほうが望ましい指標です。
流動比率は、以下の計算式で求めることができます。
流動比率=流動資産÷流動負債×100
そしてS社とY社の流動比率は以下です。
S社の流動比率=7900万円÷4000万円×100 ≒ 197.5%
Y社の流動比率=7400万円÷3500万円×100 ≒ 211.4%
両社とも約200%となっています。
この200%という水準は、相当高い水準です。
よって流動比率は両社ともに最高レベルにあるということができます。
一般的には、100%以上あれば問題がないと判断されます。
そして100%を下回った場合は、資金繰りが厳しくなる可能性があると言え、注意が必要です。
しかし、例えば小売業や飲食業などの現金販売が中心となっている会社の場合は100%を下回ってもさほど問題視されません。
「売上=現金収入」なので、それを支払いに回せるためです。
≪当座比率≫
当座比率とは、流動比率をさらに厳しくした指標で、流動資産の中でも現金化が不透明な棚卸資産を除いてその支払い能力を見るというものです。
よって、棚卸資産が多い会社ほどこの比率は流動比率よりも悪化します。
S社の当座比率=6900万円÷4000万円×100 ≒ 172.5%
Y社の当座比率=6900万円÷3500万円×100 ≒ 197.1%
両社とも200%は切っていますが、十分良好な水準と言えます。
なお、流動比率と当座比率は高いほうが財務内容はよくなりますが、あまりに高すぎると、逆に資金を有効に活用していないと考えることもできます。
最近になり、内部留保を従業員の賃金アップに使うべきだという議論がありますが、内部留保を自由に使えるのはこの手元資金が潤沢に残っている場合です。
そしてS社とY社は共に手元資金に十分な余裕があるため、資金を有効に活用していないと判断されて賃金アップの圧力が高まる可能性があるということです。
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