ABCと価格設定
【ABCと価格設定】
自動車部品製造会社であるS社では、新しく参入した一般消費者向けの市場で車の消臭芳香剤を2種類(製品A、製品B)販売しています。
そして競合であるY社が製品Aの類似製品をS社よりも安い価格で販売し始めたため、S社はこれまでの原価計算を見直し、改めてABCによる原価計算を行いました。
するとこれまでの原価計算が不正確だったことが判明し、S社は製品AをY社よりもさらに低価格で販売することに成功しました。
しかし問題はABCで明らかになった製品Bの原価です。
ABCで明らかになった製品Bの販売価格と費用、営業利益は以下の通りです。
≪製品Bの販売価格と費用、営業利益≫
販売価格 1300円
直接材料費 500円
直接労務費 200円
間接費 800円
営業利益 −200円
ここからは製品Bの価格設定をどう見直すかについて考えていきましょう。
【原価を下げる方法】
製品Bは現在の販売価格に対して200円の営業赤字です。
消費者を振り向かせるための価格戦略として、このままの価格を維持して売上アップを見込み、増収を果たすことで黒字に転換させるという手法もあります。
しかし残念ながら製品Bは製品Aと比べると営業赤字を黒字に転換できるほどの売上はありません。
よって売上を伸ばすことももちろんですが、それ以外に以下の選択を行わなければなりません。
1.価格を上げる。
2.製造原価を下げる。
まず1の価格を上げる方法です。
これは最も手っ取り早いです方法ですが、当然のことながら売上は減少します。
よって「価格上昇分>売り上げ減少分」となればよいですが、逆に「価格上昇分<売り上げ減少分」となれば赤字額はさらに大きくなることとなります。
そう考えると、1の方法は「最終手段」であるということになります。
そうなると残るは2の製造原価を下げる方法しかありません。
そこでS社では製造原価を下げる方法について検討することとしました。
幸いにしてS社は、間接費についてABCにより、「どの活動」に原価がかかっているかがすでにわかっています。
そして仕様検査については車内で使用する製品のため、脱落による危険性などはどうしても排除しなければならないために省くわけにはいきません。
よって、間接費で削減できるのは「取扱説明書添付」と「製品の箱詰め作業」の2つです。
S社ではこの2つの作業について省ける作業がないかを検討することにしました。
まず、最も費用が掛かっているのは、製品の箱詰め作業です。
製品Bは製品Aに比べて形状が複雑であるため、その箱詰めは手間がかかる作業となっています。
よってS社では製造部門で緩衝材について改めて検討し、これまで発砲スチロールだった緩衝材を柔軟性のある素材のものとし、作業者が比較的箱詰めしやすく、かつ損傷しにくいものとしました。
そして苦労して原材料費には差がないものを選んで採用しました。
これにより、箱詰め作業は半分に短縮され、4分となりました。
また、現在3部添付している取扱説明書には、重複する内容があったため、これを1部減らして2部とすることでこちらも添付作業を省力化することが可能となりました。
これにより、間接費は以下のようになりました。
これまでよりも間接費は250円減少し、550円となりました。
≪製品Bの販売価格と費用、営業利益≫
販売価格 1300円
直接材料費 500円
直接労務費 200円
間接費 550円
営業利益 50円
これまで200円の営業赤字だった製品Bが50円の営業黒字となったのです。
よってS社は価格を据え置くことを決定し、さらなる売上の向上を目指すこととしました。
【価格設定に対するABCの効果】
上記でわかるように、ABCでは間接費が詳細に分類されているため、そのどこに削減ポイントがあるかが比較的容易に把握できるようになります。
そして間接費にその削減余地がない場合は、根拠を持って直接費の削減に取り組むことも可能になります。
このように、ABCはその原価を把握することで、製品ごとの原価の把握とともに価格設定に対しても効果があります。
ABCによる原価計算は様々な情報を必要とすることから、容易に導入できるというわけではありませんが、導入した際の効果は大きいと認識し、経営活動に活かしていきましょう。
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