戦略的意思決定1(フリー・キャッシュフロー) その1
【戦略的意思決定】
ここからは戦略的意思決定について考えていきましょう。
戦略的意思決定は経営方針とも密接に関係し、長期的に会社全体の動きを左右する意思決定です。
そして戦略的意思決定の最大の特徴は、「設備投資や組織変更などを行う必要がある」ということです。
よって、会社の収益に大きな影響を与えるため、業務的意思決定と比べると、緻密な準備やその付加価値創出に関する複雑な計算などが必要となります。
そしてここではまず、設備投資などの際に必須となる考え方である「フリーキャッシュフロー」について考えていきましょう。
【意思決定をキャッシュフローで考える理由】
キャッシュフローという概念は、すでに学んできました。
会計上の利益だけではなく「キャッシュ」の流れで財務を考えようというのがキャッシュフローという考え方でした。
外部関係者からすると、会計上の利益とキャッシュフローは最終的には同じになります。
しかし内部的には「その時点」と「会計上」のお金の流れには違いが発生しており、結果的に本来あるはずのキャッシュがない、あるいはその逆もあり得えます。
よってこれを回避するために必要な考え方がキャッシュフローという考え方でした。
そしてそれは意思決定を行う際にも同じことが言えます。
例えば投資をする際、その年度ごとに実際はどれくらいの現金収入と現金支出があるのかを正確に計算しておかなければ、その投資が「実際に」利益をもたらしてくれるかどうかの判断がつきません。
例えば、投資を行うことで生産量が増加し、売上高も増加したとします。
そして売上高が増加すれば、基本的には利益も増加します。
よって会計的な利益は増加します。
しかしだからと言ってこれが必ずしも成功だったかというとそうではありません。
まずそこには明確な時間軸がなく、どの時点で成功になるのかがわからないからです。
そしてもし設備投資費用が利益を上回っていれば、結果的には損失が発生していることになります。
これを回避するには、期ごとのキャッシュフローを計算し、そのキャッシュフローと設備投資費用を比べなければなりません。
よって、意思決定は原則として「キャッシュフロー」で考えなければならないのです。
【フリーキャッシュフローとは】
次に意思決定に必要なことは、投資効果を「フリーキャッシュフロー」で考えるということです。
フリーキャッシュフローとは、その意思決定を行った場合、そのキャッシュによる収入が支出をどの程度上回るかということを表す概念です。
収入>支出となり、会社にとって「自由」になった状態のキャッシュフローという意味です。
会社は意思決定によって付加価値を高めて利益をあげ、それを金融機関などの債権者や株主へ還元していかなければなりません。
よって、このフリーキャッシュフローが多ければ多いほど外部に還元できるキャッシュも増えるため、意思決定を行いやすいということになります。
また、仮にフリーキャッシュフローがマイナスの場合は当然のことながらその意思決定は採用できないということになります。
そして意思決定を行うためのフリーキャッシュフローは、あくまでも予測値です。
ある一定のルールに基づいてフリーキャッシュフローの額を予測し、それが会社として許容できるものであればそれが意思決定されます。
【フリーキャッシュフローの計算方法】
フリーキャッシュフローの考え方にはいくつかのパターンがあります。
代表的な考え方は以下の2つです。
1.「営業活動によるキャッシュフロー」+「投資活動によるキャッシュフロー」
2.「NOPAT(税引後営業利益)+減価償却費+運転資本増減(増加はマイナス、減少はプラス)」−「初期投資費用」
上記の2つは基本的な考え方は同じです。
いずれもビジネスで稼いだ収入から投資で出ていった支出を引いています。
そしてその違いは、1が主に会社としてのフリーキャッシュフローを見るのに使われるということ、2は主に事業などのフリーキャッシュフローを見るのに使われるということです。
1で計算する場合は、キャッシュフロー計算書があればその「営業活動によるキャッシュフロー」に「投資活動によるキャッシュフロー」を加算すればよいため、比較的簡単に計算することが可能です。
そしてキャッシュフロー計算書から計算するということは、その会社のその年度のフリーキャッシュフローを見ているということになります。
ちなみに1では営業活動によるキャッシュフローと投資活動によるキャッシュフローの間の符号が「+」となっていますが、投資活動を行っている会社は投資活動によるキャッシュフローはマイナスとなるため、その場合は引くことになります。
2の「NOPAT(税引後営業利益)+減価償却費+運転資本増減(増加はマイナス、減少はプラス)」−「初期投資費用」 についてはやや考え方が複雑なので、少し詳細に考えましょう。
2のケースは、例えば新事業に踏み切るかどうかを意思決定する際などに使用されます。
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