業界と企業の比較分析 その1
【業界と企業の比較分析】
会社の財務は、その会社がどのような業界に属しているかによって大きく変わることで知られています。
よってここでは、まずは財務諸表から読み取れる4つの業界の特徴を挙げてみます。
そしてそれぞれがどの業界にあたるかを考え、自分の解答が合っているかどうかを確認してみましょう。
【業界AからDの特徴に関する問題】
≪業界Aの特徴≫
・売上高総利益率が際立って高い。
・流動資産は多いが、棚卸資産はほとんどなく、流動負債も少ない。
・固定資産は非常に少ない。
・販売費及び一般管理費の割合が非常に高い。
≪業界Bの特徴≫
・固定資産(特に有形固定資産)が圧倒的に多い。
・売上債権回転期間、棚卸資産回転期間が非常に短い。
・売上高営業利益率が低い。
・固定負債の割合が多く、支払利息も多い。
≪業界Cの特徴≫
・棚卸資産が圧倒的に多い。
・棚卸資産回転期間が圧倒的に長い。
・固定負債が多く、自己資本は少ない。
・固定資産をほとんど持たない。
≪業界Dの特徴≫
・売上高総利益率が比較的低い。
・減価償却の進んだ有形固定資産が比較的多い。
・自己資本比率が比較的高い。
・概ね特徴的な指標が少ない。
以上がA〜Dの業界の特徴です。
上記は比較的推測しやすい特徴の順に並べてあります。
一度冷静にそれぞれの特徴を整理し、解答を見る前に自分なりに考えてみましょう。
【業界AからDの特徴に関する解答】
ではA〜Dのそれぞれの業界がどういった業界なのか解答を見てみましょう。
≪業界Aの解答≫
業界Aで最も特徴的なのは、売上総利益率が高いということです。
これは、逆に言うと売上原価が安いということです。
また、流動資産が多く流動負債が少ない中で、棚卸資産はほとんどありません。
棚卸資産以外の流動資産が多いということは、手持ちの現金、あるいは売上債権や有価証券が多いということです。
この中のどれが多いのかはここからは判断できませんが、いずれにしても上記は当座比率((流動資産−棚卸資産)÷流動負債が高いことを意味しており、短期の安全性は良好と言えます。
また、固定資産が少ないことは、大きな設備を必要としない業界であると判断できます。
そして費用の中で割合が高いのが販売費及び一般管理費です。
内訳は示されていませんが、固定資産が少ないことから減価償却費などが大きくなることは考えにくく、可能性としては広告宣伝費や人件費、研究開発費などではないかと推測できます。
上記が、業界Aの特徴から考えられることです。
これらを総合すると、業界Aで最も可能性の高い業界は「インターネット業界」です。
特に広告やゲームなどといった、多大な設備を必要としない業界です。
このような業界は一般に、業績がいい時は売上が伸びれば伸びるほど利益が伸びるため、財務内容は突出したものとなります。
しかし一旦人気が低下すると、挽回するための広告宣伝費や人件費、開発費などが膨らみ、一気に利益を帳消しにする可能性があります。
また、固定資産を必要としないために参入障壁が低く、現在では競争も激化する一方です。
参入障壁とは、その業界に参入するにあたっての壁の高さです。
多大な設備や特殊な技術を必要とする業界は参入障壁が高くなり、汎用的な技術が通用する業界や設備をさほど必要としない業界は低くなります。
インターネット業界は最も参入障壁の低い、いわば、「浮き沈みの激しい」業界であると言えるでしょう。
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