株主から見た企業価値 その2
【2.マーケットアプローチ】
マーケットアプローチとは、株式市場(マーケット)に株式を上場している類似企業と自社を比較して、会社の時価総額を判断するという方法です。
マーケットアプローチは、類似企業比較法などと呼ばれる場合もあります。
時価総額とは、「株価×発行済株式数」のことです。
そして上場企業の場合、株価は市場に流通していて投資家が自由に決めていると考えられるため、この時価総額が投資家から見た企業価値ということになります。
上場していない会社の場合は自社の株式が自由に売買されることはないために、マーケットに流通しており投資家によって決められた株価から算出される時価総額と比較するということです。
なお、比較する際に使われる指標には様々なものがありますが、比較的簡単に決められるのが「PER」という指標です。
PERは「Price Earnings Ratio:株価収益率」と呼ばれ、「株価÷EPS(Earnings Per Share:一株当たり当期純利益 )」で表されます。
PERは、株式投資を行う際などの目安となる代表的な指標です。
そしてこのPERを使った比較は以下のように行います。
PER = 株価 ÷EPS(当期純利益÷発行済株式数)
ここで、「時価総額 = 株価×発行済株式数」であることから、「株価 = 時価総額÷発行済株式数」となります。
そしてこれを上記のPERの計算式に代入すると、以下のようになります。
PER = 株価 ÷EPS(当期純利益÷発行済株式数)
= (時価総額÷発行済株式数)÷(当期純利益÷発行済株式数)
= (時価総額÷発行済株式数)×(発行済株式数÷当期純利益)
=時価総額×(1÷当期純利益)
=時価総額÷当期純利益
そして最終的に時価総額は以下のようになります。
時価総額 =PER×当期純利益
つまり、似た会社のPERがわかれば、自社の時価総額(=株主から見た企業価値)が計算できるということです。
例えば比較対象企業のPERが15倍、自社の当期純利益が1,000万円だったとします。
この場合の株主から見た企業価値は以下です。
株主から見た企業価値 = 15×1,000 = 1億5,000万円
なお、新しく上場した会社などで売上や利益額が急速に成長している会社は、PERの指標が著しく高くなっている場合があります。
これはその会社の成長性が織り込まれているためです。
例えば利益が年々3倍になっている会社の場合は、単純に考えるとPERは年々1/3に低下していきます。
このために成長企業の場合はPERなどは将来低下する前提として考えられ、次ののインカムアプローチなどでその価値が判断されます。
なお、類似企業比較法ではその指標としてEBITDA(Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization:金利及び税及び減価償却前利益)で比較する場合もありますが、ここでは省略します。
【3.インカムアプローチ】
インカムアプローチは、会社が生み出すキャッシュフローから時価総額を計算する方法です。
そしてこの考え方は、DCF法によって計算されます。
DCF法は戦略的意思決定で採用される方法ですが、株主から見た企業価値を算出する際にも使用されます。
そしてDCF法を使った企業価値は、大まかには以下のように計算できます。
株主からみた企業価値 = フリーキャッシュフロー÷(WACC−フリーキャッシュフロー成長率)
そして企業価値を厳密に計算するためには企業の継続価値を考える必要がありますが、これ以降はファイナンス理論になってくるため、ここでは省略します。
なお、DCF法は「フリーキャッシュフロー成長率」という言葉からもわかるようにその「成長」を前提とした企業価値の算出方法です。
このため、現在及び将来にわたって成長が期待される会社については、この手法が大変有効となります。
【それぞれのアプローチの特徴】
これまでに出てきた3つのアプローチの特徴は以下のようになります。
1.コストアプローチ
原則として会社を清算する場合、あるいは身内への事業承継などを行う際などには最も現実的と言えるアプローチ方法です。
将来性は問わないため、成長過程で他社などに会社を売却する場合は企業価値が圧倒的に不利となるので、そのような場合には原則として採用されません。
2.マーケットアプローチ
会社の業種が従来からある伝統的なものであり、比較的他社と比較しやすい場合などによく採用されます。
新規性の高い業種などでは採用しにくく、また当期純利益は特別損失の計上などにとって大きくぶれる場合もあるため、単年度で考えるのではなく複数年度、あるいは複数の会社の指標を参考にする必要があります。
3.インカムアプローチ
成長性の高い会社の企業価値を算定するのに向く方法です。
しかし計算が複雑となるために計算尺度によってはそのブレも大きくなることが多く、慎重な検討が必要な方法です。
企業価値はその考え方によって常に変化するとも言えますが、ここでは3つのアプローチ方法があるということを理解しておきましょう。
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