損益分岐点分析の活用法 その1
【損益分岐点分析の活用法】
変動費と固定費を明確にして損益分岐点売上高を算出し、それを分析していくことは、利益計画を立てること以外にも様々な活用方法があります。
ここでは自動車部品製造会社であるS社、洋服製造販売会社であるK社、レストラン経営を行っているM社が抱えている3つの課題に対して、損益分岐点分析を活用することでどのような意思決定を行えばよいかを考えていきます。
【自動車部品製造会社S社が抱える課題:赤字となっている製品は撤退すべきか知りたい】
自動車部品製造会社であるS社は、これまで顧客の要請などによって様々な製品を生産してきました。
そしてどの製品も概ねその評価は高く、現在も全製品の生産を継続しています。
しかし近年になって自動車業界は部品の汎用化が急速に進み、S社の製品の中には顧客の発注数が減少し、営業赤字になっている製品Gがあります。
同業他社などの追い上げもあることから、S社では赤字となっている製品Gについて、顧客と相談して他社への発注を依頼することで、生産から撤退することも検討しています。
しかし、製品Gは仕様が特殊なため、特注品の設備を使って生産しています。
よってその設備は生産をやめて売却しようとしても、売却先がありません。
このため、S社は設備の耐用年数の減価償却(耐用年数が残り5年で簿価が2000万円なので、400万円/年)を進めて償却するか、多額の除却損(簿価である2000万円)を出してすぐに除却するかを選択しなければなりません。
なお、製品Gを生産している従業員は生産から撤退すると他の製品の生産に回せるため、労務費はかからなくなります。
このような場合、製品Gは生産から撤退するべきでしょうか?
≪S社が抱える問題の解決方法≫
まずS社の製品Gについて、その売上高と変動費、固定費を計算してみましょう。
製品Gの売上高、費用、利益は以下の通りです。
売上高 1000万円
変動費 800万円
固定費 500万円(うち減価償却費が400万円、労務費が100万円)
営業利益 −300万円
確かに営業赤字はマイナスです。
ぱっとこれを見る限りでは、撤退したほうがよいように見えます。
しかし、ここでいきなり撤退と決めるのは早すぎます。
根拠なく撤退と決定してしまうと、それが正しい意思決定だったかがわからず、今後にも活かせないためです。
よって、上記のデータを活用して損益分岐点分析を行ってみましょう。
まず、限界利益を算出してみます。
製品Gの限界利益は200万円(売上高1000万円−変動費800万円)です。
つまり限界利益率は20%です。
そして固定費は500万円です。
よって損益分岐点売上高は以下のように計算できます。
損益分岐点売上高 = 固定費÷(1−変動費比率(もしくは限界利益率))
損益分岐点売上高 = 500÷0.2 = 2500
損益分岐点売上高は2500万円です。
売上を今よりも150%アップさせなければ黒字にはなりません。
かなり高いハードルなので、ますます撤退が正しいのではないかと思われてきました。
しかしここで考えなければいけないことは、限界利益率がプラスであるということです。
つまり、固定費を考えなければ、利益は200万円発生しているということです。
そして生産から撤退した場合は労務費はかからないため、その固定費は、減価償却費の400万円となります。
よって、生産をしなければ製品Gの損益は以下のようになります。
売上高 0万円
変動費 0万円
固定費 400万円(減価償却費)
営業利益 −400万円
こう考えると、答えはおのずと出てきます。
製品Gは生産を続けるべきということです。
なお、今後5年間で考えると、その損益は以下のようになります。
撤退した場合 −2000万円
生産を続けた場合 −1500万円
いずれにしても赤字ですが、生産を続けたほうが最終的には500万円赤字額が軽減されています。
このように、ただ営業利益だけで考えてしまうと、損失=撤退と考えてしまいがちですが、実はそうではない場合があるということがわかります。
ただし、さらに考えなければいけないことがあります。
それは、生産をやめることで不要となる労務費を他の製品の生産に振り向けた場合に、どの程度の利益が見込めるかということです。
もしその労務費を他の生産に回すことで5年間に500万円以上(100万円/年)の利益が生み出せるとしたら、そちらのほうが生産を続けるよりも効率が良いということになります。
今度は従業員などの資源をどのように配分して利益を上げていくかを考える必要が出てくるということです。
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