戦略的意思決定5(DCF法) その3
【実際に計算してみよう】
では実際に計算してみましょう。
1) 3〜5年後のキャッシュフローを2年後の価値に割り引く
まずは3〜5年後のキャッシュフローを2年後の価値に割り引きます。
3〜5年後のキャッシュフローは540です。
また、WACCが7%の3年の年金現価係数は2.6243です。
よって、計算は以下になります。
3〜5年後のキャッシュフローの2年後の価値 = 540×2.6243 = 1417.222
2)1.と2年後のキャッシュフローの合計を1年後の価値に割り引く
次に2年後のキャッシュフローの合計を1年後に割り引きます。
2年後のキャッシュフローは以下です。
・初期投資を行った翌年の期末(2年後) 410
・3〜5年後のキャッシュフローの2年後の価値 1417.222
・合計 1827.222
そしてこの合計額を1年後の価値に割り引きます。
WACCが7%の1年の複利現価係数は0.9346です。
2年後のキャッシュフローの合計の1年後の価値 = 1827.222×0.9346 ≒ 1707.7217
3)2.と1年後のキャッシュフローとの合計を最終的に現在価値に割り引く
最後に1年後のキャッシュフローの合計を現在に戻します。
・設備投資を行った年の期末(1年後) 280
・2年後のキャッシュフローの合計の1年後の価値 1707.7217
・合計 1987.7217
そしてこの合計額を現在価値に割り引きます。
WACCが7%の1年の複利現価係数は0.9346です。
1年後のキャッシュフローの合計の現在価値 = 1987.7217×0.9346 ≒ 1857.7247
ここまでで営業活動によるキャッシュフローの現在価値は1857.7247とわかりました。
そしてこの現在価値から初期投資を引いたものが最終的なキャッシュフローの現在価値となります。
最終的なキャッシュフローの現在価値(NPV) = 1857.7247−1000 = 857.7247
【投資の意思決定を行おう】
DCF法により、今回の投資の現在価値が判明しました。
現在価値は857.7247です。
5年間のキャッシュフローの現在価値がプラスとなっているため、この場合の意思決定は「投資を行う」ということになります。
キャッシュフローの現在価値がプラスということは、経営にかかる資本コストを差し引いても利益が出るということを意味するためです。
そしてDCF法はその計算の複雑さから、以下の点に十分気を付ける必要があります。
1.WACCを現実的な数値とする
会社を経営するために必要な金利とも言える資本コストとは、できるだけ正確なものにする必要があります。
WACCが1%でも変わってくると、割引率が異なってキャッシュフローの現在価値が大きく異なってくるためです。
負債の金利はともかくとしても、自己資本にかかる自己資本コストもより信憑性の高いものにしなければなりません。
WACCに関しては「負債コストと株主資本コスト」の記事で解説しています。
2.現在までの割引方法を間違えない
DCF法では未来のキャッシュフローを現在価値に割り引く手法です。
もし年間のキャッシュフローが同じであればただ年金現価係数を使用すればよいことになるので、計算は比較的楽になります。
しかし一般的には今回のようにキャッシュフローはその年によって異なってきます。
よって、その際にどの時点まで割り引いているのか、どこを起点に考えているのかを間違ってしまうとその数値も大きく異なってしまいます。
現在までの割引方法には十分注意を払いましょう。
3.減価償却や運転資本などをよく考慮する
今回のケースではわかりやすいように減価償却は定額法を前提に行っています。
しかし現在の日本企業は減価償却は定率法を採用するのが一般的です。
そして減価償却方法によって、現在価値が異なってくる場合もあります。
また運転資本の増減も、それが複数年となるとキャッシュフローに影響を与えることとなります。
DCF法で意思決定を行う際は、売上だけではなく様々な要素をより現実的な数値とする必要があります。
DCF法は現在価値でキャッシュフローを考えることができる大変有用な手法ですが、その準備も入念に行う必要があることを理解しましょう。
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