税効果会計
【税効果会計】
税効果会計とは、会計上の収益と費用が税法上の益金と損金とは完全に一致しないことから来るズレを反映させようというものです。
法人税は、原則として損益計算書から計算された税引前当期純利益から税率分が引かれます。
よって例えば税引前当期純利益が100万円で法人税率が35%だった場合の法人税と当期純利益は以下のようになります。
(単位:千円)
売上 5000
税引前当期純利益 1000
法人税 350
当期純利益 650
この税引前当期純利益は、売上を起点としてそれぞれの「収益−費用」として出した利益です。
しかし、実はこの法人税は厳密には会計上の税引前当期純利益から算出されるわけではありません。
税率を決める税法上の課税対象は課税所得と呼ばれ、「益金−損金」で計算されます。
会計上の収益は税法上では益金となり、費用は損金となります。
しかしこれがすべて対応するわけではなく、収益であっても益金ではないこと、あるいはその逆もあります。
費用と損金の場合も同じです。
そして中にはその期には益金や損金として認められず、来期に認められるものなどもあります。
例えば上記の例で言うと、費用4000(売上5000−税引前当期純利益1000)の中で、1000は当期に税法上の損金とならなかったとします。
すると当期純利益は以下のようになります。
(単位:千円)
売上 5000
税引前当期純利益 1000
法人税 700
当期純利益 300
費用4000のうち、1000が損金として認められなかったので、損金は3000となり、課税所得は2000として計算されてしまったのです。
会計上の収益 5000
会計上の費用 4000
税引前当期純利益 1000
↓
会計上の費用4000のうち、1000が損金として認められない。
↓
税法上の益金 5000
税法上の損金 3000
課税所得 2000
そして、この1000は来期に損金として認められたとします。
来期も当期と同じ収益と費用だったとすると、来期の当期純利益は以下のようになります。
(単位:千円)
売上 5000
税引前当期純利益 1000
法人税 0
当期純利益 1000
来期に損金1000が認められるため、損金が5000となって計算されているのです。
会計上の収益 5000
会計上の費用 4000
税引前当期純利益 1000
↓
当期認められなかった1000が損金として追加で認められる。
↓
税法上の益金 5000
税法上の損金 5000
課税所得 0
すると、会計上の利益と税法上の損益の認識時期の違いで、収益と費用は同じでも当期純利益には大きな差が出てしまうことになります。
当期税引前純利益 1000
当期純利益 300
来期税引前純利益 1000
来期純利益 1000
当期と来期には700もの差があり、2期合計の純利益は1300です。
そしてもしこの一時的な差異がなければ、以下のようになります。
当期税引前純利益 1000
当期純利益 650
来期税引前純利益 1000
来期純利益 650
当期と来期の純利益は同じで、2期合計の純利益は1300です。
このように、合計すると同じですが、期ごとに見ると利益額に大きなばらつきが出てしまうことになります。
そして会計上と税法上で認識時期の違うものを「一時差異」といい、この一時差異を解消するために行うのが税効果会計です。
税効果会計では、当期に損金として認められなかった費用が来期に認められると仮定した上で、以下のような処理を行います。
≪当期≫
(単位:千円)
売上 5000
税引前当期純利益 1000
法人税 700
法人税等調整額 −350(法人税から引く)
当期純利益 650
≪来期≫
(単位:千円)
売上 5000
税引前当期純利益 1000
法人税 0
法人税等調整額 350(法人税に足す)
当期純利益 650
そして実際は当期に支払っていても来期に課税されなくなる予定の法人税等調整額350は、法人税の前払いを行ったと考えて当期の「繰延税金資産」として資産に計上します。
そして来期に取り崩して相殺します。
これが税効果会計です。
税効果会計を行うと、「その期の企業の実態を映す」という会計の趣旨により沿った利益を算出することができます。
しかし、注意点があります。
それは、繰延税金資産は「法人税を前払いする=来期以降も利益が発生して法人税を支払う」という前提に立っているということです。
よって、もし来期以降に黒字の見通しが立たず、法人税を払う状態ではないとすると、この繰延税金資産は資産としての価値がなくなることになります。
よって現在は、税効果会計は比較的収益性の高いと考えられる上場企業や大企業には義務化されていますが、中小企業は任意適用となっています。
なお、収益と益金、費用と損金に差がある場合でそれが解消されない(そもそものルールが違っている)ものは一時差異に対して永久差異と呼ばれ、税効果会計の対象にはなりません。
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