企業の効率性を分析 その1
【効率性を分析】
効率性とは、いかに資産の無駄をなくして経営を行っていくかということです。
例えば生鮮食品を販売している会社がいつも在庫を持ちすぎて廃棄してしまう割合が高ければ、それは効率的な経営とは言えません。
また、逆にソフトウェアのダウンロード販売などを行っている会社には基本的に在庫という概念がないため、販売されればされるほど利益だけを獲得できることとなり、効率は良いといえます。
このように、効率性は売上に対しての「ムダ」がないかどうかをチェックする指標です。
仮に需要の変化によって会社に使っていない機械があるとすると、それはムダとなって効率性を低くする要因になります。
そのような機械は売却することでムダな資産が減り、必要なものに費用をかけられるようになって経営効率は高まります。
つまり効率性を分析することで、会社が資産などを適正に管理しているかどうかがわかるということです。
ずさんな管理や計画性に乏しい需要予測などを行っている場合は、この指標は低下してしまいます。
そして効率性も、損益計算書と貸借対照表を使って計算します。
今回は総資産・売上債権・棚卸資産・仕入債務を使って売上との関係を調べます。
これらは「回転率」、あるいは「回転期間」で考え、それぞれの単位は「回」、と「日あるいは月」となります。
「回転率」とは各資産に対する売上の比率で、基本的に高いほうが効率的となり、「回転期間」はそれを期間で考えたもので、期間が短いほど効率的となります。
そして今回も自動車部品製造会社であるS社とその競合会社であるY社の損益計算書及び貸借対照表を使って分析してみましょう。
【総資産回転率と回転期間】
総資産回転率とは、総資産に対して売上がどの程度あるかを表す指標です。
また、総資産回転期間は総資産が売上の何日分、あるいは何か月分あるかを表す指標です。
総資産回転率と回転期間は、以下の計算式で求めることができます。
総資産回転率=売上高÷総資産
総資産回転期間(日)=総資産÷(売上高÷365)
総資産回転期間(月)=総資産÷(売上高÷12)
(ここでは月の計算は省略します。)
そしてS社とY社の総資産回転率と回転期間は以下です。
S社の総資産回転率=1億円÷1億4000万円 ≒ 0.71回
Y社の総資産回転率=1億円÷1億2000万円 ≒ 0.83回
S社の総資産回転期間(日)=1億4000万円÷(1億円÷365) ≒ 511日
Y社の総資産回転期間(日)=1億2000万円÷(1億円÷365) ≒ 438日
回転率はY社のほうが高く、回転期間はY社のほうが短くなっています。
これは効率性を考えるとY社のほうがよいことを意味しています。
売上は同じであるため、総資産が少ない分だけY社のほうが効率的な経営を行えているということです。
【売上債権回転率と回転期間】
売上債権回転率とは、売上債権に対して売上がどの程度あるかを表す指標です。
また、売上債権回転期間は売上債権が売上の何日分、あるいは何か月分あるかを表す指標です。
売上債権とは受取手形と売掛金を足したもので、売上があっても現金となっていないものなので、効率のよい経営を行うには少しでも減らす必要があります。
現金化を早くする必要があるということです。
売上債権回転率と回転期間は、以下の計算式で求めることができます。
売上債権回転率=売上高÷売上債権
売上債権回転期間(日)=売上債権÷(売上高÷365)
売上債権回転期間(月)=売上債権÷(売上高÷12)
(ここでは月の計算は省略します。)
そしてS社とY社の売上債権回転率と回転期間は以下です。
S社の売上債権回転率=1億円÷3000万円 ≒ 3.33回
Y社の売上債権回転率=1億円÷2000万円 ≒ 5回
S社の売上債権回転期間(日)=3000万円÷(1億円÷365) ≒ 109.5日
Y社の売上債権回転期間(日)=2000万円÷(1億円÷365) ≒ 73日
売上債権回転率もY社のほうがS社に比べて高く、回転期間も短くなっています。
Y社はS社と比べて売上を現金化する時間が早い、つまり支払いを現金で行ってもらったり、入金時期を早めてもらうことに成功しているということです。
一概には言えませんが、Y社はS社より顧客に対して支払いに関する交渉力が強い可能性があります。
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