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全部原価計算と直接原価計算

【全部原価計算と直接原価計算】
全部原価計算と直接原価計算の概要と直接原価計算のメリットについては、「製品原価と期間原価」で記載しました。

 

全部原価計算では固定費と変動費の区別をしないために期末棚卸資産にも固定費が含まれることになり、一方で直接原価計算では固定費はすべて当期製造原価となり、期末棚卸資産は変動費だけが含まれることに違いがありました。

 

そして、直接原価計算で計算した原価を財務諸表に反映することは許されておらず、財務諸表には全部原価計算で計算した原価を反映させなければなりません。

 

しかしながら未来を見据えた管理会計という側面で考えると、直接原価計算で計算された原価で考えたほうがより現実的でかつ正確な原価をとらえることができます。

 

ここでは全部原価計算と直接原価計算での固定費の扱いによってどの程度営業利益に差が出るかについて考え、直接原価計算の必要性を考えてみたいと思います。

 

 

【全部原価計算と直接原価計算による営業利益の違い】
全部原価計算と直接原価計算による営業利益の違いを以下のケースで考えてみましょう。

 

売上高 70,000
期首棚卸資産 変動費 2,000 固定費 2,000
当期製造原価 変動費 20,000 固定費 20,000
期末棚卸資産 変動費 3,000 固定費 3,000
販売費及び一般管理費 変動費10,000 固定費10,000

 

 

≪全部原価計算≫
全部原価計算では固定費と変動費は分けずに計算します。

 

まずは売上原価を計算してみます。

 

・売上原価 = 期首棚卸資産(2,000+2,000)+当期製造原価(20,000+20,000)−期末棚卸資産(3,000+3,000) = 38,000

 

次に営業利益を計算します。

 

営業利益 = 売上高70,000−売上原価38,000−販売費及び一般管理費(10,000+10,000) = 12,000

 

 

≪直接原価計算≫
直接原価計算では製造原価の固定費と変動費は分けて計算します。

 

直接原価計算にはいくつかの計算方法がありますが、ここではまず限界利益(売上高−変動費)を計算し、限界利益から固定費を引くことで営業利益を計算してみます。

 

まずは変動費を計算して限界利益を求めましょう。

 

・限界利益 = 売上高70,000−変動費((期首棚卸資産変動費2,000+当期製造費用変動費20,000−期末棚卸資産変動費3,000)+販売費及び一般管理費変動費10,000) = 41,000

 

次に固定費を計算します。

 

固定費 = 当期製造原価固定費20,000+販売費及び一般管理費固定費10,000 = 30,000

 

最後に限界利益から固定費を引いて営業利益を求めます。

 

営業利益 = 41,000−30,000 = 11,000

 

全部原価計算と直接原価計算では、両者の営業利益には違いがあることがわかります。

 

 

【営業利益に違いが生まれる理由】
上記の計算をよく見てみると、全部原価計算で計算された原価と直接原価計算で計算された原価には以下の関係があることがわかります。

 

全部原価計算の原価 = 直接原価計算の原価+期首棚卸資産固定費−期末棚卸資産固定費

 

そして営業利益にも以下の関係があります。

 

全部原価計算の営業利益 = 直接原価計算の営業利益+期首棚卸資産固定費−期末棚卸資産固定費

 

つまり、期首の棚卸資産よりも期末の棚卸資産が多くなればなるほど、全部原価計算による営業利益は直接原価計算による営業利益よりも大きくなるということです。

 

製品原価と期間原価」でも記載しましたが、棚卸資産を増やせば増やすほど全部原価計算による利益は大きくなります。

 

逆に言うと、貸借対照表上の棚卸資産を数年に渡って調べてみて、もし増加傾向にある場合は見かけ上の営業利益が大きくなっており、どこかのタイミングで棚卸資産が減少するにつれて営業利益は大きく減少する可能性があるということです。

 

そして棚卸資産が減少することは販売につながるためによいことではありますが、仮に棚卸資産として計上している在庫の価値が低下し、廃棄や投げ売りなどをせざるを得ない場合は、ますます利益の低下を招くことになります。

 

これらのことを認識して実際の原価管理方法としてはやはり直接原価計算で行って実情を把握し、安全な原価管理を行うことが必要であると言えるでしょう。

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