企業の安全性を分析 その2
【長期の安全性】
長期の安全性とは、1年以上の長期の支払い能力のことです。
具体的には、保有している固定資産の資金調達が安定的に行われているかということです。
≪固定比率≫
固定比率とは、固定資産をどの程度自己資本でまかなえているかを見る指標です。
固定比率は、以下の計算式で求めることができます。
固定比率=固定資産÷自己資本×100
固定資産は当面の間現金化されることはないので、可能な限り返済の必要のない自己資本で賄うべきと言えます。
また、分母の自己資本の比率が高いほうが安定していると言えるので、低いほうが望ましいことになります。
そしてS社とY社の固定比率は以下です。
S社の固定比率=6100万円÷6000万円×100 ≒ 101.67%
Y社の固定比率=4600万円÷5500万円×100 ≒ 83.64%
固定比率は、100%以下が望ましい水準です。
Y社はお手本のように100%以下となっており、S社は100%をやや超えていますが、両社ともに特には問題とならない水準です。
≪固定長期適合率≫
固定長期適合率とは、資金調達力に乏しい中小企業の安全性を見る指標として、固定比率の分母だった「自己資本」を「自己資本+固定負債」に変えたものです。
すぐに支払う必要のない固定負債を自己資本にプラスして、固定資産を自己資本+固定負債でどの程度まかなえているかを見ます。
固定長期適合率は、以下の計算式で求めることができます。
固定長期適合率=固定資産÷(自己資本+固定負債)×100
固定長期適合率も固定比率と同じで低いほうが望ましいことになります。
そしてS社とY社の固定長期適合率は以下です。
S社の固定長期適合率=6100万円÷1億円×100 ≒ 61%
Y社の固定長期適合率=4600万円÷8500万円×100 ≒ 54.12%
両社とも見事に数値が低くなりました。
両社が規模の小さい中小企業であることを考えると、固定資産調達の安全性にはさほど問題がないと言えます。
≪自己資本比率≫
自己資本比率とは、総資産に対する自己資本の比率です。
借り入れを行っていない場合は、自己資本比率は100%となります。
自己資本比率は高いほうが借入金の返済や利息の支払いを行う必要がないため、安全性が高くなります。
自己資本比率は、以下の計算式で求めることができます。
自己資本比率=自己資本÷総資産×100
そしてS社とY社の自己資本比率は以下です。
S社の自己資本比率=6000万円÷1億4000万円×100 ≒ 42.86%
Y社の自己資本比率=5500万円÷1億2000万円×100 ≒ 45.83%
両社とも50%を少し割る水準です。
自己資本比率も上場企業などのように市場から資金を調達できる場合は比較的高くなりますが、中小企業の場合は低くなることが多く、30%程度の会社が多いと言われています。
よって、両社ともまずまずの水準であると言えます。
自己資本と借入金のバランスが取れているということです。
【利息の支払い能力】
≪インタレスト・カバレッジ・レシオ≫
これまで見てきた安全性の指標には、原則として会社の利益という概念が含まれていませんでした。
しかし現実には、会社がどの程度利益をあげられるかも安全性に寄与します。
そして利益を加味して利息の支払い能力を見ることのできる指標がインタレスト・カバレッジ・レシオです。
インタレスト・カバレッジ・レシオは主となるビジネスで稼いだ利益(営業利益)と金融収益が支払利息に対してどのくらいあるかを見る指標です。
インタレスト・カバレッジ・レシオは、以下の計算式で求めることができます。
インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+金融収益)÷支払利息
そして一般に、インタレスト・カバレッジ・レシオは「倍」で表します。
比率が高いほうが、支払い能力は高いことになります。
そしてS社とY社のインタレスト・カバレッジ・レシオは以下です。
なお、ここではS社、Y社とも営業外収益は金融収益、営業外費用は支払利息と考えます。
S社のインタレスト・カバレッジ・レシオ=1500万円÷600万円 ≒ 2.5倍
(営業利益:1000万円、金融収益(営業外収益)500万円、支払利息(営業外費用)600万円)
Y社のインタレスト・カバレッジ・レシオ=3000万円÷500万円 ≒ 6倍
(営業利益:2500万円、金融収益(営業外収益)500万円、支払利息(営業外費用)500万円)
インタレスト・カバレッジ・レシオは一般的な水準が3倍程度と言われています。
よって両社とも許容範囲にあると言えます。
インタレスト・カバレッジ・レシオも他の指標と同様に上場企業などはその水準が高く、10倍を超えている企業が多くあります。
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