戦略的意思決定5(DCF法) その1
【DCF法を理解する】
長期的な戦略的意思決定を行う際、最も代表的とも言える考え方がDCF(Discounted Cash Flow)法です。
DCF法は、これまで出てきた「フリー・キャッシュフロー」、「運転資本の意義」、「金銭の時間的価値」、「リスクと割引率」などをすべて使って計算を行う、いわば意思決定の集大成のような方法です。
そしてDCF法は戦略的意思決定だけではなく、企業価値の算定に使われる場合もある非常に重要な考え方となっています。
これを機会にぜひその考え方を理解しておきましょう。
【DCF法とは】
DCF法は、未来の「キャッシュフロー」を現在に「ディスカウント(割引)」して考えるという未来志向の意思決定手法です。
例えば新事業を行う際の投資計画で考えてみます。
一般に新事業を行う際は、まずその投資を行い、その投資資産を使って利益を生み出していきます。
しかし投資をしてすぐに投資額以上の利益が発生するというわけではありません。
毎期の利益が積み重なり、いずれ投資額を超えて最終的に黒字となるというのが普通です。
そしてこの場合、その毎期の利益がどの時点で最初の投資額を超えるかを考えるには、様々なことを検討しなければなりません。
例えば運転資本です。
投資を行って事業を行うには、投資額だけではなく、投資によって発生する運転資本を考慮しなければなりません。
最初に原材料などの支出が発生し、その後に売上がついてくるためです。
また、未来の利益は現在の利益ではないためにその利益の時間的価値を考慮することも必要です。
そして利益を出していく過程で発生する資本コストという経営上のコストも考える必要があります。
そしてこれらを考慮して、出ていくお金と入ってくるお金をすべて現在価値に割り引き、最終的に事業のフリー・キャッシュフローを求めるというのがDCF法という考え方なのです。
DCF法は様々な要素を取り入れなければならないために非常に複雑になりますが、逆に言うとDCF法で計算された結果は、多様な要素の見積もりが正しければ最も説得力を持つ意思決定手段になりえるということです。
なお、DCF法にはNPV(Net Present Value:正味現在価値)法とIRR(Internal Rate of return:内部収益率)法という二つの方法がありますが、IRR法はあまり実用的とは言えず、使用される機会が極端に少ないため、ここではNPV法を使っています。
【DCF法で投資の現在価値を計算してみよう】
ではここで、以下の投資及びその投資から生まれるキャッシュフローを用いて、DCF法による意思決定を行ってみましょう。
・初期投資を行った年の期初
初期投資費用 1,000万円(耐用年数5年、残存価額0、定額法で減価償却)
・初期投資を行った年の期末
営業利益 200万円
減価償却費 200万円
設備投資による運転資本の増減 50万円増
・翌年度の期末
営業利益 400万円
減価償却費 200万円
設備投資による運転資本の増減 50万円増
・3年目〜5年目の期末
営業利益 600万円
減価償却費 200万円(翌年度と同じ)
設備投資による運転資本の増減(期末) 50万円増(翌年度と同じ)
DCF法で計算する際の計算方法には、「必ずこうする」という明確な決まりはありません。
今回はまず未来のキャッシュフローを計算し、それを現在価値に割り引いて最終的にフリーキャッシュフローを求めるという方法で計算してみましょう。
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