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債権管理と債権回収

今回は債権管理と債権回収について説明していきます。

 

この文章を読むことで、「債権の概要」「債権回収の方法」について学ぶことができます。

 

債権とは

 

債権とは、後日相手からもらえる予定のお金などのことです。

 

具体的には、相手に販売はしたものの代金を販売時点では受け取らず、一定期日が経過してからもらうということです。

 

このようなお金は、売掛金、あるいは受取手形と呼ばれます。

 

そして、これらの債権は損益計算書では売上に計上され、貸借対照表上は流動資産として計上されます。

 

よって、計算書上はお金が会社に入ってきたことと同じ扱いになります。

 

しかし、気をつけなければいけないことは、これらの債権はあくまでも「まだ未収である」ということです。

 

これらの債権はまだ現金化されていないため、キャッシュフロー(お金の流れ)で考えると、マイナスになってしまっているのです。

 

このため、このような債権が増えていくと、計算書上は黒字でも実際は資金繰りが苦しくなるという事態が起こりえます。

 

特に規模が小さい会社の場合は、いわゆる「黒字倒産」ということにもなりかねません。

 

よって、その管理と回収作業は会社にとって大変重要な業務と言えます。

 

【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、後輩であるS君とT君に、M社長から聞いた人員増強に関する話をしていました。

 

A君:
「今度法務部門で新しく人員を採用するということだよ。今回は社内異動での増員ではなくて、外部から経験者を採用するみたいなんだ。二人とも最近はだいぶ疲れてるようだし、増員で少しは楽になるといいんだけどね。」

 

T君:
「それは素晴らしいですね。確かに最近は少し疲れているかなと自分でも思っていたんです。法務部門の仕事はやりがいがありますが、ほとんどが初めて経験する業務なので、経験者の方が来てくれると本当にありがたいですね。」

 

S君:
「僕も本当にありがたいと思います。僕とAさんは開発出身でT君は営業出身なので開発や営業にからむことについてはある程度やり方もわかるのですが、そうではないことはまったく未経験で仕事をすることになってますからね。経験者の方にいろいろ教わりたいです。」

 

A君:
「そうだね。新しく採用する担当者には主に予防法務や紛争処理をやってもらうということだよ。今後は新しい仕事が増えてトラブルもきっと多くなると思うから、僕たちもいろいろと教えてもらって、いろいろな業務をこなせるようにならなきゃいけないね。」

 

S君:
「そうですね。私が法務部門に来てからは大きな訴訟問題はありませんが、売掛金の回収が滞っている案件はいくつかありますし、今後はBtoC事業も始まります。全員がそういった問題にも対応できるようにならないといけないですね。」

 

3人は新しく採用される予定の担当者に期待をしながら、それぞれ自分たちも様々な業務をこなさなくてはならないのだと思いました。

 

【解説】
債権の管理や回収をスムーズに行うには、いくつかの手法を知らなければなりません。

 

例題のZ社も売掛金の回収ができていない案件がいくつかあるように、債権の現金化ができずに困っている会社はたくさんあります。

 

会社は常にその未来を考えなければなりません。

 

法務担当者も、「半年後の資金繰りは大丈夫か」、あるいは「今保有している債権は本当に現金化ができるか」ということを常に念頭において業務を進めなければならないのです。

 

そして、相手先に何らかの事情があり、期日までに支払いがされない場合はすぐに動かなければなりません。

 

もし相手先に何らかの問題が発生していてお金が払えず、回収もできないとなれば、会社はその分の損失を被ってしまうためです。

 

債権回収は、迅速かつ丁寧に行っていかなければならないのです。

 

債権回収の方法

 

債権回収の主な方法としては、以下を挙げることができます。

 

債権管理と債権回収1

1.請求書を送付する

 

まずは通常の請求作業です。

 

請求書を郵送するなどして、支払いの請求を行います。

 

この流れは一般的なもので問題はありません。

 

相手に請求の意思が伝わればよいということです。

 

2.直接連絡を取って請求する

 

請求書を送付したのに予定通りの入金がない場合、電話あるいは実際に訪問するなどして、請求内容を直接伝えます。

 

請求書を送付しただけでは、もしかしたら何らかの手違いで支払業務が滞っているだけかもしれません。

 

直接話をして確認を取りましょう。

 

3.内容証明郵便を送付する

 

直接連絡をしても確認を取れない、あるいは支払いに応じない場合は、内容証明郵便で請求書を送付します。

 

内容証明とは、郵便局が公式に手紙の内容を証明してくれる郵便です。

 

つまり、「いつ誰がどんな手紙を」送ったかについてが郵便局に保存されており、例えば相手が「そんなことは書いていなかった」などの言い訳ができない郵便ということです。

 

また、配達証明をつけることでその手紙が配達されたことも郵便局が証明してくれます。

 

これによって、請求書が間違いなく相手に届いたということが証明できるので、届いていないという言い訳もできなくなるのです。

 

内容証明郵便は請求書を送ったことの証拠となるため、例えば訴訟の前段階の手段としてよく使われます。

 

しかし、注意しなければいけないことは、状況を考えて出す必要があるということです。

 

いくら相手が支払いに応じなくても、例えば相手が付き合いが長く、今後も取引を継続したいと考えている会社、あるいは何らかの事情で今は支払いに関する対応ができない誠実な会社などの場合、内容証明を送ることで心証を害してしまうことがあります。

 

内容証明は証拠能力を持つことから心理的に相手を圧迫するものなのです。

 

よって、そのような会社の場合には、相手が対応しやすいように少し時間をおいて何度か連絡してみる、あるいはまずは対応できない理由を尋ねてみるなどの配慮も必要です。

 

大切な取引先の場合などは「対応するつもりだったのに内容証明を送ってくるなんて」などと思われてしまう可能性があり、今後の関係にひびが入る可能性もあります。

 

あくまでも内容証明は相手に対して訴訟も考えている場合の手段であると考えましょう。

 

4.相手の債権を譲渡してもらう

 

何らかのやり取りを通じて相手が支払える状況ではないと判断できる場合は、債権譲渡という方法があります。

 

債権譲渡とは、相手には現金はなくとも例えば売掛金などの債権を保有している場合、それを譲ってもらうという方法です。

 

債権譲渡はすべての債権で適用できるわけではなく、手続きも必要ですが、もし相手に何らかの債権があり、かつその回収が困難ではない場合には有効な手段となります。

 

5.準消費貸借契約に変更する

 

準消費貸借契約とは、民法で以下のように定められている契約を言います。

 

消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす

 

消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合

 

これは、例えば相手が商品などの代金として支払うべきお金(自社から見た売掛金)があることを言います。

 

これを消費貸借に変更することを約束した場合は、これによって成立したものとみなすということです。

 

つまり、売掛金を金銭消費貸借契約に変更するということです。

 

しかし、この契約変更は結局同じ相手から同じ金額を返済してもらう点では一緒です。

 

よって意味がないと感じるかもしれません。

 

実際、「どんなに時間をかけても支払ってもらうことはほぼ不可能である」という場合は意味がないかもしれません。

 

なぜならこの契約変更は、時効を延長するために行うからです。

 

時効の延長と中断

 

時効とは、簡単に言うと権利が法的に無効になるまでの期間です。

 

売掛金の回収を例に取ると、その時効は2年間です。

 

つまり、何もしなければ2年経つと時効が成立したということになり、相手は支払う義務がなくなってしまうことになります。

 

しかし、契約を金銭消費貸借契約に変更すると、5年もしくは10年に延長となります。

 

このために、「早期に返済してもらうことは難しいけれども数年のうちには返済が可能となる」というような場合は、時効を延長できるために金銭消費貸借契約に変更したほうがよいということになります。

 

また、時効には「中断」という概念もあります。

 

最もわかりやすい例は、相手が債務を承認することです。

 

例えば、支払いを約束する書面にサインをしてもらう、もしくは一部だけでも支払ってもらうことです。

 

そうすることで、時効は中断します。

 

また、上述した内容証明郵便でも時効は中断しますが、その効力は6か月間だけです。

 

あとは訴訟の手続きなどでも時効は中断しますが、訴訟はあくまでも最終手段ですので、時効を中断させるには相手に債務を承認してもらうのが最も望ましい方法であると言えます。

 

債権回収で困らないコツ

 

これまで見てきたとおり、支払いが難しい相手から債権を回収するには労力がかかります。

 

よって、債権回収に困らないように日頃から以下のことを心がけましょう。

 

契約時に取引相手のことを精査する

 

最も大切なことは、「相手が信用できる会社かどうかを見極めること」です。

 

登記書類を確認すれば会社の概要を確認することができますし、その会社について調査会社に調査を依頼することも可能です。

 

また、ホームページや日頃の相手担当者の対応などを見れば、どのような会社であるかについてある程度判断できます。

 

会社として自社との契約を重視しており、かつ支払い能力があるということをある程度の根拠を持って確認した時点で初めて契約を交わすということが重要と言えます。

 

取引をシンプルにする

 

例えば支払いサイトを短くする、最初は多額の取引はしないなど、できるだけその取引をシンプルなものにすることも大事です。

 

支払いサイトとは、支払いまでの猶予期間のことです。

 

例えば月末で締めてその翌月末に支払う契約であれば、その支払いサイトは1か月です。

 

もしこの支払いサイトが長ければ、相手は支払いは先だから大丈夫と考えて用意していたお金を別の出費に充てたり、支払い能力以上に購入してしまうといったことが起こりえます。

 

クレジットカードだとその場で支払わなくてよいので、ついたくさん買ってしまうという理屈と同じです。

 

また、支払いが先になればなるほど現金が入ってこないため、自社の資金繰りも厳しくなることが考えられます。

 

できるだけ取引はシンプルにして、信用できる会社ということが証明されたら取引を拡大していくのがよいでしょう。

 

公正証書を活用する

 

公正証書とは、「手っ取り早く自分の債権を回収できるようになる証書」のことです。

 

公正証書を作成しておけば、公的に自社の債権と相手の債務を証明してもらうこととなるため、万が一の場合に自社の債権を強制的に回収できることとなります。

 

特に取引に不安のある相手とどうしても契約する必要があるといった場合は、あらかじめ公正証書を作成しておくことで何かあった場合に備えることができます。

 

(詳しくは「公正証書の活用」の項目を参照してください。)

 

まとめ

 

・債権は、資産ではあるがまだ現金化されていないため、債権が増えると計算書上は黒字でも実際は資金繰りが苦しくなる可能性がある。

 

・債権回収の方法として、請求書を送付する、直接連絡を取って請求する、内容証明郵便を送付する、相手の債権を譲渡してもらう、準消費貸借契約に変更する、などがある。

 

・準消費貸借契約に変更すると、時効を延長することができる。

 

・相手が債務を承認すると、時効は中断する。

 

・債権回収で困らないコツは、契約時に取引相手のことを精査し、できるだけ取引をシンプルにすることである。

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