ソフトウェア開発委託契約書の概要とつくり方
今回は、ソフトウェア開発委託契約書の概要とつくり方について説明していきます。
この文章を読むことで、「ソフトウェア開発委託契約書とは」「ソフトウェア開発委託契約書の作成方法」について学ぶことができます。
ソフトウェア開発委託契約書とは
ソフトウェア開発委託契約書とは、ソフトウェアの開発業務を委託するための契約書です。
業務委託の中でも対象をソフトウェアに特化させたものということです。
近年、パソコン上で行うゲームやスマートフォン用のアプリなど、世界中で多くのソフトウェアが開発されています。
また、産業用機器なども多くのものがシステム化されてきています。
自社でソフトウェアを開発ができる企業だけがそういった商品をリリースしているわけではありませんので、こういった背景を踏まえると、現代ではソフトウェア開発の委託契約がいたるところで行われていると考えられます。
よって、ソフトウェア開発の委託契約では、ソフトウェアの特性を考えた契約書にする必要があります。
ソフトウェアの特性
ソフトウェアの特性は、主に以下ようなものを挙げることができます。
1.委託者のスケジュールに沿って受託者が開発を進める必要がある
原則として、ソフトウェアは委託者の作成したスケジュールによって開発が進められます。
ソフトウェア開発の進捗が滞ると委託者のその後の作業に大きな影響を与える可能性もあるため、そのスケジュールについては契約書上で明確にしておく必要があります。
2.委託者により、ソフトウェアの仕様が変更される可能性がある
ソフトウェア開発委託契約で最も問題となるのが、仕様変更です。
仕様変更が多発すると、当然ながらソフトウェアの開発もその変更に合わせる必要があるため、納期が遅れることとなります。
よって、トラブル回避のためにも、仕様変更があった場合の両社の対応について必ず記載しておく必要があります。
3.ソフトウェアは多様な使われ方が想定されるため、その性能について納品後一定期間の保証が必要となる
ソフトウェアは物理的に存在する商品とは異なり、時に想定外の動きをする場合があります。
委託者が検査を行って合格したとしても、実際に使用してみて初めて判明する不具合なども多いものなのです。
よって、そのような事態に備えて、保証期間を設けるのが一般的です。
4.必要に応じてソフトウェアのバージョンアップなどの可能性に言及する必要がある
ソフトウェアは競合や顧客の要望に合わせて常に進化することが求められます。
例えば、WindowsなどのパソコンのOSは、数年ごとにアップデートされていきます。
仮に開発したソフトウェアがそのOS上で動作するものだとした場合に、それまでは問題なく動作していたとしても、OSのバージョン変わった場合に同じように問題なく動作するとは限りません。
場合によっては、そのOSのバージョンに合わせて開発したソフトウェアもアップデートしなければならないこともあります。
よって、委託者は常に「ソフトウェアのその後」について考えておかなければなりません。保守やバージョンアップに関する条項も必要であるということです。
5.知的財産権などについての記載が必須となる
ソフトウェアは様々な技術を駆使して開発されます。
このため、開発にあたって特許権などの権利を取得する、あるいは第三者の権利を侵害する場合もあり得ます。
よって、そのような場合の権利をどうするか、あるいは侵害した場合の責任について事前に明確にしておく必要があります。
ソフトウェア開発委託契約書つくり方
【解説】
※第6〜10条、第18〜21条については、動産売買契約書の解説を参照してください。
※第1条、第11〜12条、第17条については、業務委託契約書の解説を参照してください。
タイトル
タイトルについては他の契約書同様、特にルールがあるわけではありません。
よってただ「委託契約書」などとしても、問題はありません。
しかし、「委託契約書」などの場合は何を委託しているのかの判断がつかず、後日混乱を招く恐れもあります。
ここでは「ソフトウェア開発委託契約書」としていますが、より詳細にする場合は、「〇〇ソフトウェア開発委託契約書」などとして、〇〇の部分に開発を委託するソフトウェアの名称やカテゴリーを入れてもよいでしょう。
社内でのルールを決め、相手方と打ち合わせて最も両社が納得できるタイトルにしましょう。
前文
前文では「誰と誰が契約するのか」を明確にします。
今回は委託者と受託者の関係になるので、「委託者〇〇(以下「甲」)」と「受託者〇〇(以下「乙」)」としていますが、委託者や受託者という言葉は必須ではありません。
また、ソフトウェア開発委託契約書という言葉はその後も複数回にわたって表記されると考えられるので「本契約」とし、この後は「本契約」という呼び方で統一しています。
契約内容
第2条
第2条では、委託業務の内容を定義しています。
委託する業務は書面で明確にすることが望ましいでしょう。
特に、ソフトウェアの場合は口頭で指示することは認識の違いをもたらすことが多いため、大変危険です。
委託者の中にはソフトウェア開発は非常にタイトなスケジュールで進行することも多く、最初はともかく、その後の変更指示などはいちいち書面で指示をすることはできないと考えている担当者も多数います。
そして、受託者としても、度重なる指示があるたびに「書面でお願いします」とは言いにくいものです。委託者は顧客であるという意識が強いためです。
しかし、例えば電話での指示は、後になって必ず言った言わないという問題を引き起こすことになります。指示が多ければ多いほど、その経緯を把握することも難しくなります。
よって、書面が難しければ、例えば証拠が残るメールやその他の証拠が残る情報共有ソフトでやり取りを行う、あるいはそのようなツールが使えない場合は電話でも可能とし、その代わり指示のあった通話内容は両社の合意の上録音するなどの対策を取りましょう。
また、契約書上で業務内容を明確にするのが難しい場合は、その都度別紙などを使って委託者から受託者に明示するようにしましょう。
第3条
第3条では、業務委託料を定義しています。
業務委託料の決め方は、基本的には通常の業務委託契約書と同じで問題ありません。
しかし、ソフトウェアの場合は委託者の状況により、必要な資料が受託者に届かなかったり間違っている、あるいは仕様が変更されるなどのケースが非常に多くなります。
そのため、そのような場合に備えて業務委託料が変更される可能性についても記載しておきましょう。
変更ができない契約になると、受託者は完全に不利となり、かつ委託者の仕様変更などもコストがかからないという理由で安易に行われるようになっていきます。
受託者保護のために業務委託料は変更可能としておくべきでしょう。
第4条
第4条では、スケジュールと納入期日を定義しています。
スケジュールと納入期日は、委託者から受託者に指示することとなります。
スケジュールと納入期日についてもトラブルを回避するため、口頭などではなく書面で指示する、あるいは何らかの証拠が残るツールを使用するようにしましょう。
第5条
第5条では、引渡を定義しています。
引渡はソフトウェアによってデータでの納品やメディアでの納品などがありますが、両社が納得できる納品方法を記載しましょう。
なお、納入期日については業務委託料と同様に、委託者側の事情によって変更される可能性があるということを記載しておきましょう。
第13条
第13条では品質保証を定義しています。
上述したように、ソフトウェアは検査後に何らかの不具合が発生する可能性が物理的な商品よりも高いと考えられます。
よって、一定期間の保証期間を設けておきましょう。
そして、その保証期間中は、受託者が無償で修理を行うことも合わせて明確にしておきましょう。
第14条
第14条では保守を定義しています。
ソフトウェアの今後を考えて、保証期間が経過した後の保守やバージョンアップ、その他の変更などについて両社が連携できるようにしておきましょう。
ただし、今後については現段階ではまだ未定であるため、今後別途契約を結ぶことができるということにしておくのが無難です。
第15条・第16条
第15条と第16条では、知的財産権と第三者の権利侵害を定義しています。
知的財産権とは、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などの「法律上保護される利益に係る権利」のことを言います。
ソフトウェアの開発にあたり、これらの権利が取得された場合、その後権利を所有することで会社の利益に影響を与える場合もあります。
大きく利権に絡む可能性があることですので、その帰属先を明確にしておきましょう。
一般的には委託者に帰属されるとすることが多いですが、受託者に帰属させても問題はありません。
両社が納得できる形になるようにしましょう。
第三者の権利侵害については、権利を侵害した受託者がその責任を負うのが一般的です。
開発過程の責任は委託者には帰属しないと考えられるためです。
ただし、それを明記しておかなければトラブルになることも考えられますので、しっかりと明記しておきましょう。
後文
後文では、契約書の部数と保管場所を明確にし、作成日を記入してそれぞれが記名捺印を行います。
これで契約書は有効となります。
必要で入っていない条文や不要な条文がないかを再度確認しましょう。
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