金銭消費貸借契約書の概要とつくり方
今回は金銭消費貸借契約書の概要とつくり方について説明していきます。
この文章を読むことで、「金銭消費貸借契約書とは」「金銭消費貸借契約書の作成方法」について学ぶことができます。
金銭消費貸借契約書とは
金銭消費貸借契約書とは、金銭を貸借するための契約書です。
金銭消費貸借とは、その名の通り「消費貸借」です。
消費貸借とは、民法によって「消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。」とされている契約です。
つまり、借りた側は消費した金銭を消費し、それと「種類、品質及び数量の同じ物」を変換するという契約です。
借りたお金自体は借主が消費し、それと同じ価値(金額)のお金を準備して返還するということです。
これに対して、例えば本を借りてそれを読み、そのままその本を返却することは「使用貸借」と呼ばれます。
その本を使用はしますが、消費して他の本を返却するわけではないためです。
そして、この消費貸借は動産売買契約などとは異なり、実際に借主がお金を借りた時点で成立します。
つまり、「例え契約書を交わしたとしても、実際に貸主から借主に金銭が渡っていなければ、その契約は効力が生じない」ということです。
このような契約は、要物契約と呼ばれます。
契約で貸借される「物」が最初に必要であるということです。
なお、これに対して動産売買契約などは契約が結ばれた時点で効力が発生します。
このような契約は、諾成契約(だくせいけいやく)と呼ばれます。
消費貸借契約は実際に貸借が行われてから、あるいは貸借と同時に結ばれる要物契約であるということ、そして要物契約と諾成契約の違いについても理解しておきましょう。
連帯保証人について
次に、金銭消費貸借契約は基本的に連帯保証人を立てるケースが多くなっています。
貸主からすると、貸した金銭は借主が消費してしまうために、どうしても返済されないというリスクが高まります。
このために何らかの形でその返済が保証されることが必要なのです。
万が一借主が借りたお金を返済できない場合、それを保証するというのが連帯保証人です。
ここで注意しなければならないことは、連帯保証人がどのような存在であるかを理解しておく必要があるということです。
そもそも「保証人」とは、借主が「返済できない」場合にその債務の返済を保証する存在です。
よって、貸主から保証人に返済要求があったとしても、保証人はまず、貸主から借主に対して支払いを請求するよう求めることができます。
これは保証人の「催告の抗弁権」と呼ばれます。
また、貸主が「借主は返済ができない」と判断して保証人に返済を要求した場合でも、保証人が借主に返済能力があることを証明できれば、貸主に借主の財産に対して執行するよう要求することができます。
これは保証人の「検索の抗弁権」と呼ばれます。
これらの権利を持つことは、保証人として当たり前のことのように思えます。
返済するべきは当然借主だからです。
しかし、実は「連帯保証人」は催促の抗弁権も検索の抗弁権も持ちません。
つまり、貸主が何らかの理由で連帯保証人にその返済を請求したとしても、連帯保証人は断ることができないのです。
仮に借主に十分な返済能力があったとしてもです。
また、保証人が複数存在する場合、通常は返済すべき額を保証人の頭数で割った金額がその保証人の保証する金額となります。
しかし、連帯保証人はその全額を支払う義務があります。
連帯保証人が複数いる場合でも、貸主がある1人の連帯保証人に対して全額の返済を要求した場合、その連帯保証人は貸主に対して全額を支払わなければならないのです。
連帯保証人は、借主とほぼ同じ立場にあるということです。
そして、金銭消費貸借契約の場合は、保証人と言えばこの連帯保証人を指すのが普通です。
保証人と連帯保証人には大きな違いがあることをしっかり理解しておきましょう。
金銭消費貸借契約書つくり方
【解説】
※第8〜9条については、動産売買契約書の解説を参照してください。
タイトル
タイトルについては特にルールがあるわけではありません。よってただ「借用証書」などとしても問題はありません。
金銭消費貸借契約書の場合は、タイトルをわかりやすくするということは難しいので、貸主や借主、連帯保証人が理解できるタイトルであれば問題はないでしょう。
前文
前文では「誰と誰が契約するのか」を明確にします。
今回は貸主と借主の関係になるので、「貸主〇〇(以下「甲」)」と「借主〇〇(以下「乙」)」としていますが、貸主や借主という言葉は必須ではありません。
また、金銭消費貸借契約という言葉は、その後も複数回にわたって表記されると考えられるので「本契約」とし、この後は「本契約」という呼び方で統一しています。
そして、金銭消費貸借契約の場合は、連帯保証人も契約者に含まれます。
よって、「連帯保証人〇〇(以下「丙」)」として、三者で契約を締結したという表現になっています。
契約内容
第1条
まず第1条で、貸借を定義しています。
実際に誰が誰にいくら貸したのかを明確にしています。
上述したように、金銭消費貸借契約は要物契約です。
よって、表現としては必ず実際に貸主から金銭が貸し渡され、借主が受領したという過去形になります。
この時点ですでに貸借が行われたということです。
第2条
第2条では、利息を定義しています。
利息はその利率を年単位で記載します。
利息は利息制限法と出資法(出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律)によって制限が設けられており、以下のようになっています。
・元金が10万円未満の場合 年20%が上限
・元金が10万円以上の100万円未満の場合 年18%が上限
・元金が100万円以上の場合 年15%が上限
出資法では「金銭の貸付けを行う者が業として金銭の貸付けを行う場合」、つまり貸主が貸金業者である場合には、上記以上の利息を設けた場合は罰則(5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金)があります。
これに対して、貸主が貸金業者ではない場合の罰則は、年109.5%を超える場合となっています。
しかし、貸主が貸金業者ではない場合でも、利息制限法以上の利息を設定することは法令違反となり、無効となる可能性が高くなります。
利息制限法、出資法の上限金利を守って設定しましょう。
第3条
第3条では、弁済期を定義しています。
弁済期とは、借りたお金をいつ返すかということです。
基本的に、弁済期は元金と利息を分けて記載します。
今回は元金は一括払い、利息は毎月払いとなっていますが、元金も複数回に分けて返済するということにしても問題はありません。
貸主と借主が納得した形で弁済期を決めましょう。
第4条・第5条
第4条と第5条では、支払いと遅延損害金を定義しています。
金銭消費貸借契約書では、金銭のやり取りが契約のメインとなるため、支払いと遅延損害金の条項を別々にすることが多くなっています。
そして、遅延損害金も利息制限法によってその上限が規定されており、上限利率の1.46倍を超える場合は無効とされています。
よって、遅延損害金の上限は以下のようになります。
・元金が10万円未満の場合 年29.2%(上限利率は20%)
・元金が10万円以上の100万円未満の場合 年26.28%(上限利率は18%)
・元金が100万円以上の場合 年21.9%(上限利率は15%)
遅延損害金も上限を超えると法令違反となりますので、気をつけましょう。
第6条
第6条では、期限の利益の喪失を定義しています。
ただし、金銭消費貸借契約は片務契約なので、期限の利益を喪失する可能性があるのは借主だけです。
片務契約とは、債務が片方(この場合は借主)にしかない契約のことです。
これに対して、売買契約のように双方が債務を持つ契約は双務契約と呼ばれます。
よって、金銭消費貸借契約で期限の利益があるのは借主だけ、つまり期限の利益の喪失も借主だけに当てはまるということです。
なお、今回の金銭消費貸借契約では連帯保証人が債務の連帯保証をしています。
このため、場合によっては連帯保証人にも期限の利益の喪失条項を当てはめることが可能です。
借主と連帯保証人の関係性や信頼度によっては、連帯保証人にも期限の利益が喪失される条件を記載しておきましょう。
第7条
第7条では、連帯保証人を定義しています。
連帯保証人の役割や権利については上述した通りですので、ここでは「一切の債務の弁済」と、借主と連帯して保証する旨、つまり「乙と連帯して保証」するという内容が記載されていればよいでしょう。
後文
後文では契約書の部数と保管場所を明確にし、作成日を記入してそれぞれが記名捺印を行います。
金銭消費貸借契約は連帯保証人も契約当事者なので、契約書は3通作成され、貸主、借主、連帯保証人がそれぞれ1通ずつ保管する内容になっています。
これで契約書は有効となります。
必要で入っていない条文や不要な条文がないかを再度確認しましょう。
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