債権回収・訴訟・執行・保全をめぐる法務の全体像
今回は債権回収・訴訟・執行・保全をめぐる法務の全体像について説明していきます。
この文章を読むことで、「会社が直面する法的なトラブルについて、どのように克服していけばよいか」を学ぶことができます。
会社が直面する法的な問題
会社が経営を続けていくと、どんなにそれが順調であったとしても、様々なトラブルと直面することとなります。
会社は1社だけで独立して経営できるわけではありませんので、例え有効な関係を保っている会社との間でも、ちょっとした認識の違いや誤解などからトラブルが起こる可能性があります。
また、現在は競争社会です。
競合が多ければ多いほど、何とかしてライバルに勝ちたいと思う会社が多数存在することになり、トラブルも多くなっていきます。
もちろん、消費者を顧客としている会社の場合は、その顧客とのトラブルもあります。
そのようなトラブルの中で、例えば債権回収に関する訴訟、民事執行、保全手続きなどの法的な問題については、法律を理解していない社員が対応するのはリスクが伴うため、法務担当者の出番となります。
法務担当者として、様々なトラブルを克服していくにはどのようにしたらよいのか、トラブルの内容とともに考えていきましょう。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社のM社長は、現在法務部門の業務を担当しているA君、S君、T君の最近の多忙さについて心配していました。
3人はとても真面目で現在も積極的に様々な業務をこなしています。
しかし、その3人の姿はM社長の目からもはっきりとわかるほど、疲労が現れていました。
M社は今後新業務を展開する予定であり、そうなると営業や開発部門だけではなく、法務部門にもさらに負担がかかることになります。
いくら3人が法務担当者として力をつけてきたとは言え、これ以上無理をさせると3人のモチベーションの低下につながるような気がしました。
今後Z社との取引相手が増えるにつれ、取引先に対する債権の回収などについて訴訟のリスクも増えると考えられ、会社として対応していく必要があります。
M社長は、そのような業務については、やはりもう少し経験のある担当者を採用したほうがよいと感じました。
【解説】
例題のZ社が今後直面するであろう問題は、会社経営を行う上で避けることはできません。
相手が経営不振となり、売掛金などの債権が回収できなくなるリスクは常に存在すると考えられるためです。
そして、訴訟になる場合は弁護士に依頼することとなります。とはいえ、会社では何もしなくていいわけではありません。
必要な知識を身につけ、何かあったときに慌てない体制作りが必要なのです。
債権回収・訴訟・執行・保全をめぐる法務
まず、債権回収や訴訟といった問題は、それを可能な限り予防することが必要です。
つまり、「予防法務を適切に行う」ということです。
契約書のチェックや知的財産の管理などと同じように、債権が無事に回収できるよう、あるいは訴訟が起きないようにリスクを洗い出し、防止策を実行していくことが大切です。
例えば、新規に取引する場合の相手の信用力の確認や契約内容のチェック、あるいは交渉事などについての証拠保全です。
そして、業務担当者が窓口になっている場合は、担当者に対してやり取りを文書化するように指示し、「後日トラブルになった場合に備える」といった対策も必要です。
もちろん、そのようなトラブルは完全に回避できるわけではありません。突発的に予期しない問題が起こることもあり得ます。
しかし、まずは「できることを行ってトラブルの予防に努める」という心構えが必要です。紛争処理業務を可能な限り減らすということを心がけましょう。
債権の管理・回収
債権の管理・回収作業は、相手の状況にもよりますがなかなか大変な作業です。
相手がこちらからの問い合わせや請求に応じてくれれば問題はありませんが、相手に何らかのトラブルが起きている場合はすんなり答えてくれるとは限りません。
そのような場合はむしろ、「答えたくても答えられない」といった状況になると思われます。
そこで、回収作業として相手の債権を譲り受けたり、債権を消費貸借に変更するといった作業が必要になります。
これらの作業で実行可能なものを実行していきます。
訴訟・執行・保全
債権の回収が思うように進まないときは、訴訟によって解決を図ることになります。
このとき大切なことは、弁護士をうまく活用するということです。
弁護士には得意分野があります。
債権の回収などは比較的よく行われる訴訟であるため特に問題にはなりませんが、例えば知的財産などについての訴訟は、専門的な知識を必要とします。
よって、その分野に詳しい弁護士をうまく活用する必要があります。
弁護士を選ぶスキルも法務担当者にとって重要であると心得ておきましょう。
まとめ
・債権回収や訴訟といった問題は、常日頃予防法務を適切に行うことが必要である。
・訴訟によって解決を図る場合は、弁護士をうまく選んで依頼する必要がある。
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