弁護士を活用しよう
今回は弁護士の活用の仕方について説明していきます。
この文章を読むことで、「弁護士の選び方」「弁護士を選ぶ際の注意点」を学ぶことができます。
弁護士の必要性
特に企業法務の訴訟を考えた時、弁護士抜きで勝訴を勝ち取るのは非常に難しいと言えます。
企業法務は専門的な知識が必要とされ、裁判の進め方も判決に大きな影響を与えると言われているためです。
よって、そのような訴訟を考えたとき、弁護士をうまく活用することも法務担当者にとって大切な仕事です。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社のM社長は、新しい法務担当者を採用するにあたり、その採用条件を考えていました。
まずは法務の経験に長けていることがその絶対条件であるとM社長は考えました。そして次に、弁護士とのパイプがある人が望ましいと思いました。
現在、Z社には顧問弁護士はいません。何かあったときに相談できる弁護士はいますが、その弁護士はZ社のことを熟知しているというわけではありません。
今後の事業の拡大を考えると、やはりZ社のことを理解して動いてくれる顧問弁護士が必要であると考えています。
そんなとき、M社長は弁護士とパイプがあり、Z社の顧問を見つけてくれそうな法務の専門家を紹介してもらえる機会がありました。
その人はUさんといい、現在別の会社に在職していますが、もっと法務担当として活躍できる会社を探しているとのことでした。
M社長はUさんにいいました。
M社長:
「当社では新事業を始めるにあたり、予防法務及び紛争処理に長けている法務担当者を探しています。今の法務担当者は全員経験が浅いために裁判の経験などがありません。今後のために訴訟問題などに詳しい方にぜひ当社の法務担当者になっていただきたいと考えているんです。」
Uさん:
「御社が今業績を急拡大させていることは耳にしております。私は15年間ずっと訴訟問題に携わってきました。M&Aや危機管理の経験もあります。経験はそれなりに積んできたと思っております。」
M社長:
「それは心強いです。Uさんのことは知り合いから話を伺ってましたが、当社は今後M&Aも視野に入れていますので、M&Aのご経験もあるのであればぜひ当社の法務担当者になることをご考慮いただけませんでしょうか。今後条件などについて詳細の説明をさせてください。」
Uさん:
「私も今以上に法務の仕事に没頭できる会社を探しておりました。ぜひお話を聞かせてください。」
M社長:
「ありがとうございます。あと1つ伺いたいのですが、実は当社の課題の一つに弁護士の問題があります。
当社には現在顧問弁護士はいません。相談できる弁護士はいるのですが、企業法務の専門ではなく、当社のことを深く理解していただいているとは言えません。かといって大手の法律事務所に依頼するのは現時点ではコストの問題もあって時期尚早だと思っています。Uさんは弁護士につてなどはお持ちですか?」
Uさん:
「そうですね。1人思い当たる弁護士がいます。その人は現在私が在籍している会社と契約している大手の法律事務所を辞めて今は個人事務所を開いているのですが、私は長年の付き合いですので、企業法務全般において有能な弁護士であることは保証できます。
今業績を拡大している御社であれば、きっと強力な味方になってくれると思います。」
M社長はUさんに好印象を持ちました。そしてぜひZ社に来てもらいたいと思いました。
【解説】
大企業を除き、顧問弁護士がいる会社の割合は低いとされています。そして、一度も弁護士に相談したことのない会社も多いと言われます。
訴訟が少ない日本の社会では、相談事は税理士などにすることで済んでしまうことが多いためです。
Z社もその例外ではなく、顧問弁護士はいません。
ではこのような場合、法務担当者は弁護士とどのように接したらよいかを考えてみましょう。
弁護士の選び方
訴訟のリスクがある会社でも、例えばそれが債権回収に関するものが大半であるといった場合は、基本的に弁護士選びに神経質になる必要はありません。
そのような業務はほとんどの弁護士が経験しているものであり、弁護士による違いはさほどないと言えるからです。
しかし、それが知的財産に関わるものなど専門的な分野の場合は、途端に話が変わってきます。
一般には、そのような案件が多い大規模な会社は、例題のUさんの会社のように大手の法律事務所と契約をしています。
企業法務は案件額が大きいために、専門とするのは大手の法律事務所が多いためです。
しかし、Uさんの知り合いの弁護士のように、個人でありながら企業法務に詳しい弁護士もまったくいないというわけではありません。
Z社のようにまだ大手の法律事務所に頼むには早いと考える会社の場合は、そのような弁護士に依頼できるのはかなり理想的であると言えます。
弁護士に依頼をする、あるいは顧問となってもらう場合には、どのような案件が多いかによって依頼先が異なってくると考えましょう。
弁護士を選ぶ際の注意点
例題のUさんのように長年付き合いがあり、その人のことを良く知っているという場合は、その弁護士は信頼できると言えるかもしれません。
ただし、そうではない場合、弁護士がどのような経歴を持っているかについては入念に確認する必要があります。
企業法務の経験が豊富にあり、顧問料などの費用も安く済むという弁護士はなかなか存在しないからです。専門性が高ければ、当然報酬も高くなります。
よって、弁護士に依頼する場合は、どのような実績があるのかをまず確認しましょう。
また、求めていた弁護士に出会えた場合でも、弁護士に完全に丸投げしてしまうことはよくありません。
もちろん弁護士は専門家ですので、任せるべきところは任せるべきです。
しかし、会社のことについては弁護士は専門家ではありませんし、弁護士に会社の中をすべて見てもらい把握してもらうこともできません。
会社の事情を知っているのは、法務担当者です。よって、法務担当者が弁護士の耳となり口となって会社のことを伝える必要があるのです。
例えば、裁判になった際も、重要な証拠を持っているのは弁護士ではなく社内にいる法務担当者です。本来提出できるはずの証拠の存在を弁護士が知らなければ、勝てる裁判も勝てなくなってしまう可能性があります。
当然弁護士はそのような証拠がないかどうかについて、法務担当者に確認を求めてきます。しかし、その時点でその証拠が存在するかどうかを見極めることができるのは法務担当者しかいません。
現場担当者と協力して弁護士に少しでも有利な証拠を提出できるのは、社内にいる人間だけだということを肝に銘じましょう。
そして、弁護士と一緒に会社を守るという意識を強く持ちましょう。
なお、特に顧問弁護士となってもらう場合には、その弁護士の考え方も理解する必要があります。
例えば、会社ができる限り和解を重視したいと考えているのに会社の見解を理解しようとせず、すぐに訴訟を起こす弁護士だとしたら、会社が他社からみられる印象は変わってきます。
すぐに訴えられる可能性のある会社として見られることになり、取引先が減ってしまうかもしれません。
逆に、会社は訴訟で臨みたいのに和解で済ませようとする弁護士の場合も、会社としてはベストな弁護士を選ぶことができたとは言えないでしょう。
法務担当者は、常に会社の状況や要望を理解して動いてくれる、信頼関係を築ける弁護士を見つけるように努力すべきと言えるでしょう。
まとめ
・債権回収に関する訴訟が多い場合は、弁護士選びに神経質になる必要はない。
・企業法務全般に関する訴訟が多い場合は、専門性が高い弁護士に依頼することが必要となる。
・法務担当者には、弁護士と「一緒に」会社を守るという意識が必要である。
・法務担当者は、常に会社の状況や要望を理解して動いてくれる弁護士を見つけるように努力すべきである。
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