契約書の役割と重要性
今回は契約書の役割と重要性について説明していきます。
この文章を読むことで、契約書にはどのような役割があり、どのような重要性を持つのかを理解することができます。
契約書とは
契約書は、その名の通り、契約しようとする会社間の約束事となるものです。
法的に効力のある契約書を交わして契約を結べば、それは正式に約束をかわしたこととなり、今後はその契約通りに物事を実行していく義務が発生します。
契約を結び、実行していくことは「契約の履行」と呼ばれ、実行しないことは「契約の不履行」と呼ばれます。
契約が不履行となると、仮にそれが故意ではなくやむにやまれぬものだったとしても、結果的にはそれは「契約違反」となります。
そして、契約内容によっては相手先から「損害賠償」を請求される可能性もあります。
契約書を交わすということは、それだけの義務を負うことなのです。
また、契約書にはそれ以外にも様々な役割があり、契約する会社にとって非常に重要なものとなります。
ここでは契約書にはどのような役割があり、どのような重要性を持つのかを理解していきましょう。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社で新たに法務担当者となったS君とT君は、M社長から指示を受けてZ社が結んだ契約について、契約書を確認しながらどのようなものがあるかについて学び始めました。
契約は事業の中核となるスマートフォンのアプリ開発に関するものが大半を占めていましたが、中には二人のまったく知らないものもたくさんありました。中には、契約書自体が必要なのだろうかと思う取引もありました。
特に、発注に関する契約書には契約が非常に長期間に渡っているものがあり、そのような契約の中には、長期契約を結ぶのであればその都度発注に適した業者を選択するほうが会社にとってコストカットできるのではないかと考えられるものもありました。
そこで、二人はM社長にそのような契約書について、本当に必要なものかどうか疑問があることを伝えました。
すると、M社長は言いました。
M社長:
「確かにわが社には見直すべき契約や不必要な契約というのがあると思う。そこは今後の課題でもあるし、まさに君たちに今後検討してもらいたいことでもある。ただ、契約というのはその場その場の損得以上に重要な意味を持っていることもあるんだ。」
二人はM社長の話に聞き入っていました。
M社長:
「それはしっかりと一定期間の取引が約束されるということだ。例えば発注を期間契約なしですることももちろん可能だ。けれども、万が一肝心な時に必要なものがそろわないということになれば、今度は受注取引を履行できなくなる可能性がある。
そうなってしまえば、会社としての信用を傷つけることになる。その不確実性を契約書が担保してくれていると言えるんだ。だから契約見直しに関しては十分慎重になることが必要だ。現場の声なども聞いて判断しなければならないんだ。」
二人は深く頷きました。
そして、契約書の役割とその重要性について、改めて考えてみようと思いました。
【解説】
例題でM社長がS君とT君に話したように、契約には「不確実性を担保する」という意味合いがあります。
口約束だけの取引だと仮にそれが履行されなくても法的な問題はない(証明することが困難である)ために、不確実性の担保にはならないということです。
しかし、S君とT君が考えたように、あえて拘束される契約を結ばずにその都度臨機応変に対応していくというのも、経営を効率化する手段としては大切なことです。
よって、契約書を作成するかどうか判断するには、相手先の信頼性や会社にとっての取引の重要性などを十分に検討する必要があります。
そしてM社長が言っていたように、現場の状況についても把握し、さらには現在の社会状況や経済状況も頭に入れておかなければなりません。
契約書の役割
では、契約書の役割を基礎から考えてみましょう。
基本的な役割は以下の4点となります。
1.取引を確定させる
2.取引を実現可能とする
3.取引に違法性がないようにする
4.社会通念上相当であるものとする
それぞれ詳しく見ていきましょう。
契約書の役割1:取引を確定させる
契約書の役割として最も基本となることは、その取引を確定させることができるということです。
契約を受注と発注に分けて考えてみましょう。
受注契約の場合
受注契約の場合、一定期間の契約を結ぶことは、売上が確実になることを意味します。
例えば現時点で競争が激しい、あるいは激しくなると予想される場合は、契約を結ぶことで少なくともその契約期間中は競争に巻き込まれることなく売上を計上できることとなります。
発注契約の場合
発注契約の場合は、物やサービスが確実に手に入ることを示します。
例えば、希少価値の高い物や多くの人手や手間を必要とするサービスなどの場合、必要となった段階で販売先を探したとしても、相手先に物がない、あるいはサービス提供する余力がなければ急には発注できないことになります。
しかし、契約書を結んでいれば相手先に契約の履行義務が生まれるため、そのような問題は回避できることとなります。
契約書の役割2:取引を実現可能とする
契約書を交わすことで取引を実現可能なものとすることができます。世の中の物やサービスは、様々な素材や技術などから成り立っています。
ここで例として、自社の商品開発のためにどうしても欲しいサービスがあったとします。しかし、そのサービスには高度な技術力が必要であるため、外注に頼らざるを得ません。
そして、そのようなサービスを提供してくれる会社が現れたとします。
ただ、その時点では本当にサービス提供をしてくれるのかどうか不明です。
しかし、契約書を結んでそれが法的拘束力を持てば、その取引は実現可能なものとして担保されることとなり、確実にほしいサービスが手に入ることとなります。
そして、商品開発に着手することができるようになるのです。
契約書の役割3:取引に違法性がないようにする
当然ですが、会社はコンプライアンスを徹底する必要があります。
取引に何らかの不透明な部分がある、あるいは違法性があると考えられる場合は、取引を行うべきではないと言えます。
しかし、契約書によって取引の詳細が記載され、不透明な部分がクリアされて違法性が排除されれば、その取引はコンプライアンス上問題ないと判断できるようになります。
契約書の役割4:社会通念上相当であるものとする
どんなに魅力的な物やサービスの売買であっても、社会通念上それに見合う対価が発生していなければ、その取引はある一方には有利となり、他方には不利となります。
どこまでが社会通念上相当なのかということを定義するのは難しいですが、特に大企業と中小企業間、あるいは元請けと下請けなどのように立場的な違いがある会社間の取引は、不公平なものになりがちです。
ましてや口頭での約束事となると、ますますその場の雰囲気や立場に左右されることとなり、かつ取引の不透明性が高まります。
しかし、契約者双方が合意して初めて成立する契約書を作成することで、双方が会社として社会通念上相当であると判断したことになります。
契約の証拠が残ることとなるために、あまりにも不公平な契約はしにくくなるのです。
契約書があるから必ずその契約は不公平ではないとまでは言い切れませんが、会社と会社が結ぶ公的な契約である以上は、契約書は行き過ぎた不公平の抑止力となります。
まとめ
・契約書は、契約する会社間の約束事を記載したものである。
・契約書を交わすことは双方が義務を負うことであり、契約違反となると相手先から損害賠償を請求される可能性もある。
・契約書には「不確実性を担保する」という意味合いがある。具体的には、取引を確定させること、取引を実現可能とすること、取引に違法性がないようにすること、取引を社会通念上相当であるものとすることなどである。
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