知的財産権とは
今回は知的財産権について説明していきます。
この文章を読むことで、「知的財産権を学ぶ意義」「知的財産権保護の方法」について学ぶことができます。
知的財産権とは
近年、様々な技術の進歩に伴って、知的財産の重要性が高まってきています。
知的財産は「知財」などとも呼ばれ、知的財産基本法によると、以下のように定義されています。
「「知的財産」とは、発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう。」
大まかに考えると、「形を持たないもの(無形)で、かつ、それ自体に価値のある技術あるいは情報(財産)」ということになります。
そして知的財産権とは、知的財産を守る権利のことです。
知的財産は、その技術あるいは情報を持つ会社(もしくは個人)にそれを守る権利が与えられているということです。
ここからは知的財産の定義や学ぶ意義などについて、その概要を理解していきましょう。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社に、新しい法務担当者が加わることとなりました。これまで別の会社で長く法務を担当してきたUさんです。
Z社のM社長は、UさんをZ社の法務担当者であるA君、S君、T君に紹介しました。
M社長:
「Uさんは長年法務を専門に担当してきた法務のスペシャリストだ。今後当社の予防法務や紛争処理業務を中心に行ってもらおうと考えている。みんなもよく頑張ってくれているが今後Uさんから学ぶことは多いはずだから、いろいろと学んで今後に役立ててほしい。」
そして、Uさんが挨拶をしました。
Uさん:
「私はこれまで予防・紛争処理をメインに企業法務に携わってきました。特に多かったものは知的財産に関する業務です。
M社の場合、知的財産についてはこれから蓄積が進んでいくと思います。その際にはしっかりとした法律の知識を基に、適切な保護を行っていかなければなりません。
そして何より、知的財産に関する最低限の知識が必要になります。知的財産は物としての財産とは異なり、独特の概念の上に成り立っているからです。私はそのあたりを中心に担当していくことになると思います。皆様よろしくお願いいたします。」
A君、S君、T君はそれぞれUさんに挨拶を済ませ、その後Uさんが話していた知的財産について話をしました。
S君:
「これまで知的財産に関する仕事はあまりありませんでしたが、今後は増加していくでしょうからUさんにいろいろ教えてもらって頑張らないとですね。」
T君:
「そうだね、僕なんかは知的財産の知識はそうとうあやふやだからまずは基本から勉強しないとだね。」
A君:
「知的財産権の保護は企業法務の柱といってもいいくらいだからね。しっかり勉強してみんなで会社を守るという意識を持たなければいけないね。」
3人は知的財産について、Uさんの指導を受けながら知識と経験を積んでいこうと思いました。
【解説】
特に独自の技術を持ってものづくりを行っている会社にとっては、知的財産の保護は大変大事なこととなります。
もし、知的財産が保護されなければ、会社はその独自性を失ってしまうこととなり、競争社会で埋没してしまう可能性があるためです。
そして、Uさんが話していたように、知的財産は例えば車や家などの物理的な財産ではありません。独特の概念の上に成り立っている財産です。
よって、それを理解した上で知的財産の保護を考える必要があります。
知的財産の定義
上述したように、知的財産とは「形を持たないもの(無形)で、かつ、それ自体に価値のある技術あるいは情報(財産)」のことです。
知的財産の特徴を理解するために、例えば車との比較で考えてみましょう。
車は一度購入すると、それは購入者だけの財産になります。もちろん施錠をしていなかったりどこかに放置してしまっていたりすると、盗まれる可能性はあります。
しかし、通常は施錠をした状態で専用の駐車場に置かれ、簡単には盗むことができません。
これに対して知的財産は無形の財産です。
例えば、ブランドのロゴマークで考えてみましょう。
ロゴマークは商標と呼ばれる知的財産です。
このロゴマークは、特に人気のあるブランドなどはそれをつけることで消費者の購買意欲を掻き立てる役割を担います。「このブランドだから買う」という消費者も決して珍しくはありません。
しかし、そのロゴマークは第三者が簡単に真似をすることができます。同じようなロゴマークを商品につけることで、消費者はそのロゴマークが本物と間違えて購入してしまう可能性もあります。
そうなってしまうと、本来そのロゴマークを使っている会社は大きな痛手を受けることになります。
しかも、その「真似をする」という行為は比較的簡単にできてしまうため、会社が防ぐ手段を講ずるのはほぼ不可能です。
知的財産には、「真似されやすい=財産を盗まれやすい」という大きな特徴があるのです。
よって、この知的財産には法律によって権利を与え、真似(盗み)を禁止しようという考え方が知的財産権という権利を生み出したのです。
知的財産権を学ぶ意義
知的財産を学ぶ意味は、大きく分けて以下の2つにあると言えます。
1.活力ある経済社会を実現するため
知的財産基本法では、その目的を「新たな知的財産の創造、及びその効果的な活用による付加価値の創出を基軸とする活力ある経済社会を実現するため」としています。
つまり、真似されやすい無形の財産である知的財産権が保護されなければ、活力のある経済社会が実現できなくなるということです。
例えば、多額な投資を行って新規性のある製品を作ったとしても、すぐに真似されるのであればお金と時間をかけて新しい製品を作る会社はなくなってしまいます。
そして、会社がそのような活動をやめてしまえば、ただ同じような製品が社会に出回るだけで経済が進歩することもなくなります。
すべての会社が新しいものを作るチャレンジをやめ、マネされてもいいような同じような製品だけを生産することとなってしまうということです。
あるいは素晴らしい小説を書いて出版したとしても、その小説が様々なメディアに転載されてしまえば出版物は売れないこととなり、見返りは限定的となります。
そうすると、やはり時間をかけて小説を書こうと考える人はいなくなります。これらは社会全体にとって大きな打撃です。
知的財産はそれを作った会社や人を守るためだけではなく、社会全体を守るために保護しなければいけないということです。
2.知的財産には様々な種類のものがあるため
一口に無形の財産と言っても、様々なものがあります。
例えば、スマートフォンの電池に関する発明や液晶画面を繊細にする技術などは、特許権で保護されます。
また、ボタンの配置や構造といった構造に関する考案は実用新案権で、薄型にしたり模様の入ったデザインにすることは意匠権で保護されます。
そして、製品につける製品名やロゴは商標権で保護されます。
このように、知的財産権は必ずしも一つの製品に一つだけ発生するというわけではありません。様々な権利が存在するということです。
よって、仮にある製品について特許権だけを理解して出願したとしても、実はその製品には特許権以外の知的財産が存在しているとすれば、それらの知的財産権は簡単に真似されることになってしまいます。
その製品に関するすべての知的財産を理解できなければ、結果的に知的財産権は主張できなくなる可能性があるということです。
様々な知的財産を理解することで、その製品、財産を「ほぼ完全に」守ってあげることができるようになるのです。
知的財産権の種類
では、改めて知的財産権にはどのようなものがあるかを理解していきましょう。
一般的に、知的財産権とは以下の権利を言います。
1.特許権(特許法)
2.実用新案権(実用新案法)
3.商標権(商標法)
4.意匠権(意匠法)
5.著作権(著作権法)
6.育成者権(種苗法)
7.回路配置利用権(半導体集積回路の回路配置に関する法律:半導体集積回路配置法)
8.営業秘密(不正競争防止法)
9.商号(商法)
10.商品表示・商品形態(不正競争防止法)
このうち、1.特許権、2.実用新案権、3.商標権、4.意匠権は、産業財産権と呼ばれています。
これらの産業財産権は、産業の発展を目的に守られている権利で、主に産業が生み出す知的財産の権利です。
また、1.特許権、2.実用新案権、4.意匠権、5.著作権、6.育成者権、7.回路配置利用権、8.営業秘密は、知的創作物についての権利で、3.商標権、9.商号、10.商品表示・商品形態は、営業上の標識についての権利です。
なお、それぞれの権利に関する詳しい説明は後述しますのでここでは省略します。
また、出願に関しては必要な場合と必要のないものがあります。
著作物については原則として出願は必要ありませんが、例えば著作権・著作隣接権の移転等の登録を行いたい場合などは文化庁に申請します。
知的財産権保護の方法
上記で10種類を挙げたように、知的財産権には様々なものがあります。
そして、知的財産権の保護ということを考えたとき、その手法にも様々なものがあります。
まず、ブランドのロゴなどは製品につけられるものであり、必ず人の目に触れることとなるものです。
この場合は、必ず商標登録をすることが必要です。人が目にすることができるものは、誰でもそれを真似することができてしまうためです。
これに対し、例えば全国でも有名なラーメン店が独自の製法でスープを作っていたとします。この場合、そのスープの製法は知的財産となり、特許が取れるかもしれません。
ただし、もしそのラーメン店がそのスープを決して他店に使用させたくないと考えた場合、特許を取ることは決して適切な知的財産の保護方法とは言えません。
なぜなら、特許を取得することでそのスープの製法は世の中に知られることとなってしまうためです。そして、全く同じではなくても、同様のスープが他店でも作られてしまうかもしれません。
よって、この場合は特許ではなく、「営業秘密」という形で技術を外部に漏らさないようにしたほうが得策と言えます。
このように、技術のような表面的には見えない知的財産については、その保護方法はその財産の活用の仕方によって変わってきます。
「知的財産の保護はその活用方法によっても変わってくる」ということを理解しておきましょう。
まとめ
・知的財産とは、形を持たないもの(無形)で、かつ、それ自体に価値のある技術あるいは情報(財産)である。
・知的財産権とは知的財産を守る権利のことである。
・知的財産には、「真似されやすい = 財産を盗まれやすい」という大きな特徴があるため、法律によって権利を与え、真似(盗み)を禁止しようという考え方が知的財産権という権利である。
・知的財産権を学ぶ意義として、「活力ある経済社会を実現するため」「知的財産には様々な種類のものがあるため」ということを挙げることができる。
・知的財産権のうち、特許権、実用新案権、商標権、意匠権は産業財産権と呼ばれている。
・技術のような表面的には見えない知的財産については、その保護方法はその財産の活用の仕方によって変わる。
・技術のような表面的には見えない知的財産については、特許ではなく「営業秘密」という形で技術を外部に漏らさないようにしたほうがよい場合もある。
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