公正証書の活用
今回は公正証書の活用について説明していきます。
この文章を読むことで、
公正証書の必要性
一般に、会社と会社が契約を行う際はお互いの「未来に対する信用」で行います。
お互いの未来の約束を信じるからこそ契約を行うわけです。
しかし、いくら相手の未来を信じて契約を結んだとしても、その約束が果たされないこともあり得ます。
どんなに契約書に細かく正確に約束事を記載したとしても、それは決して100%ではありません。与えた信用が戻ってこないこともあるのです。
そして、契約が守られずに会社が損害を受け、損害を取り戻すための様々な働きかけがうまくいかなかった場合、会社は契約書を元に裁判を起こして自社の正当性を訴え、訴訟を起こすことができます。
しかし、裁判は決してすぐに結果が出るものではなく、結果が出るまでに時間と費用がかかってしまうのが普通です。
事業を継続して行わなければならない会社にとっては、それ自体が大きな痛手となります。
そのようなときに活用を検討したいのが、公正証書です。
会社が損害を受ける可能性のある場合に公正証書を作成しておくと、実際に損害を受けた際にその公正証書を元に相手の財産を差し押さえることができるようになります。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、新たに立ち上げられた法務部門ではS君とT君を教育する立場です。
S君とT君は現在Z社が結んでいる契約について、M社長の下で学んでいます。
A君も法務担当者となった直後は契約についての確認作業を行っていましたが、まだ完全に理解しているとは言えず、教育係として学習しなければと考えています。
そんな時、社内の営業部門に属する友人から「最近売掛金の回収が滞っている会社が複数あって困っている」という話を聞きました。
先方からの仕様変更などがない限り納品などは遅延なく行っているZ社としては、売掛金が回収できなければ納品するまでの支払いが先行して資金繰りが悪化することとなり、大変頭の痛い問題となります。
A君がいろいろと調べてみたところ、公正証書という書類を作成すれば、そのような相手先の債務を正式に証明してくれるためにZ社の債権を強制的に取り戻すことができると知りました。
A君はさらに公正証書について学び、M社長とS君とT君に作成の検討を提案してみようと思いました。
【解説】
例題のZ社では、複数の会社から売掛金を回収することができず困っています。
売掛金とは、相手先が後日支払うことを約束した売上のことで、まだ現金としては会社に入ってきていないお金です。
よって、この売掛金が増えてしまうと会社は現金の不足から費用の支払いなどに困るようになり、経営状態を悪化させる一因となります。
そこで、A君が考えた解決策が、公正証書の活用です。
自社と相手先の債権と債務を公正証書によって公的に明確にしておくことで、売掛金をスムーズに回収できるようになるというわけなのです。
公正証書とは
公正証書とは、簡単に言うと「手っ取り早く自分の債権を回収できるようになる証書」のことです。
上述したように、通常は債権を回収するには裁判の判決を待たなければなりません。
しかし、公正証書を作成しておくと、あらかじめ公証人の下で自社の債権と相手の債務を証明してもらっているため、いざというときに強制的に回収できるようになるのです。
公正証書の特徴
公正証書は、法務大臣によって任命される公証人が作成する裁判の判決に並ぶような強力な効力を持つ証書です。
このため、債務名義と呼ばれる債権者の債権が公的に証明された証書となります。
債権を強制的に回収する強制執行は、債務名義がなければできません。
債務名義は裁判所が強制執行を認める確定判決がその代表的なものですが、公正証書も債務名義となります。
また、公正証書が債務名義であっても、公正証書で強制執行を行うためには、さらに条件があります。
それは公正証書に「執行認諾文言」が入っていることです。
執行認諾文言とは、「債務者が債務を履行しない場合は、強制執行を承諾する」という意味の一文のことです。
このような一文を入れることで、公正証書によって強制執行を行うことが可能となります。
なお、執行認諾文言は当然債務者が認めなければ入れられませんので、公正証書を作成する際は、債権者と債務者が一緒に行う必要があります。
公正証書は一定の手続きを必要とするため、債権が発生するたびに作成するのはやや現実的ではないかもしれませんが、債権が回収できなくなると考えられる場合は活用を検討したい1つの方法であると言えるでしょう。
まとめ
・相手の債務が履行されない可能性がある場合は、公正証書を作成しておくのも契約の際の1つの方法である。
・公正証書に執行認諾文言を入れることで裁判の判決を待たずに債権を強制的に回収することが可能となる。
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