動産売買契約書の概要とつくり方
今回は動産売買契約書の概要とつくり方について説明していきます。
この文章を読むことで、「動産売買契約書とは」「一般的な動産売買契約書の例とその解説」を知ることができます。
動産売買契約書とは
動産売買契約書とは、ある動産(商品)を売買するための契約書です。
契約書を作成することで、売買によって商品の売主から買主に所有権が移転したことを証明できることとなります。
そして、納品や支払いのトラブルの抑止力にもなります。
動産売買契約書の作り方
【解説】
タイトル
タイトルについては、特にルールがあるわけではありません。よって、ただ「売買契約書」などとしても問題はありません。
しかし、「売買契約書」の場合は何を売買しているのかの判断がつかず、後日混乱を招く恐れもあります。
ここでは「動産売買契約書」としていますが、より詳細にする場合は「〇〇売買契約書」などとして、〇〇の部分に売買する商品の名称やカテゴリーを入れてもよいでしょう。
社内でのルールを決め、相手方と打ち合わせて最も両社が納得できるタイトルにしましょう。
前文
前文では「誰と誰が契約するのか」を明確にします。
今回は売主と買主の関係になるので、「売主〇〇(以下「甲」)」と、「買主〇〇(以下「乙」)」としていますが、売主や買主という言葉は必須ではありません。
また、動産売買契約という言葉はその後も複数回にわたって表記されると考えられるので、「本契約」とし、その後は「本契約」という呼び方で統一しています。
契約内容
第1条
まず、第1条で目的となる動産を定義しています。
ここでは(物品)としてその品名と数量を明確にしています。
また、物品、あるいはその品名はその後も複数回にわたって表記されると考えられるので、「本件物品」とし、その後は「本件物品」という呼び方で統一しています。
第2条
第2条では、代金を定義しています。
代金は単価と代金総額に分けて明示しています。消費税についても、税込、あるいは税抜きを明記します。
一般的には税抜きの価格とする場合のほうが多いですが、その際に何も書かないと税込と判断される可能性もあるので、誤解を避けるためにも忘れずに記載しておきましょう。
そして、代金は何より正確でなければいけません。当たり前のことではありますが、契約書作成の際は代金の記載に間違いがないかを入念にチェックしましょう。
第3条
第3条では、引渡を定義しています。
引渡とは納品のことです。
契約書では法律上の表記として、引渡という表現を使うのが一般的です。
引渡についてはその期日や場所はもとより、引渡方法も明記しておいたほうがよいでしょう。
方法を明記していなければ、引渡されていないと思われていたものが実は発送で届いていたなどの混乱を招く恐れがあるためです。
そして、納品時の費用については、原則としては民法によって売主が負担することが規定されています。
しかし、後のトラブルを回避するために、どちらが負担するべきかについても記載しておいたほうが良いでしょう。
売買契約は、納期が守られることが大前提となりますので、当然のことながら納期が守られない場合は契約違反となりえます。
ですが、万が一のために納期が守られなかった場合についても記載しておくと、買主の損害を回避することができます。
可能な限り記載しておくようにしましょう。
第4条
第4条では、支払いを定義しています。
支払いについても納品と同様に支払い期日や場所、支払方法を明記します。
また、支払いはどの時点が基準になるのかも重要です。
引渡後に検査などがある場合、検査を行う前を支払いの基準とするか、検査後を基準とするかということです。
一般には、買主の求めている基準に適合していると判断されたとき(検査に合格して受入が完了したとき)を基準とすることが多いようです。
しかし、あいまいになりがちな場合も多いので、基準を明確にしておきましょう。
そして、支払方法についても具体的に記載します。
振込の場合にかかる手数料負担など、細かい費用についても明記しておきましょう。
なお、支払いも期日が守られることが大前提となります。
ですが、万が一支払いがされなかった場合についての取り決めも記載しておくと、売主の損害を回避することができます。
可能な限り記載しておくようにしましょう。
第5条
第5条では、検査を定義しています。
検査はあらかじめその合格基準を決めておいたほうが、その後の検査をめぐるトラブルの回避につながります。
検査の合格基準は買主と売主がともに納得できるものにする必要があります。
よって、買主が事前に甲に連絡する、あるいは両者で協議して決めるなどが望ましいでしょう。
そして、検査をいつまでに行うかも決めておく必要があります。
いつまでも検査がされないと、場合によっては受入が完了しないこととなり、売主が支払を待たされてしまうことになるためです。
買主としてはできるだけ検査期間は長く取りたいところですが、両者が納得のできる期間を設定しましょう。
また、検査基準から外れた場合の不良品の取り扱いについても記載しておきましょう。
不良品は売主の落ち度ということになりますので、原則としては売主の費用で交換することとなりますが、より明確にするためにも、どのように対処するかを記載しておきましょう。
第6条・第7条
第6条と第7条では、受入と所有権の移転を定義しています。
受入はどのタイミングでされるのか、所有権はいつ売主から買主に移転するのかを明確にしておきましょう。
上記の契約書例では買主が検査を行うため、支払い条件を確定させるためにも検査での合格時に受入完了としています。
また、所有権とは文字通り一切の権利を所有する権利のことです。
この所有権の移転時期を決定することで、初めて買主の使用や販売に関する権利が明確になります。
第8条
第8条では、危険負担を定義しています。
危険負担とは、例えば売主が納品する前に商品が盗まれるなど、商品に何らかの問題が発生した場合に、どちらがその損害を負担するかということです。
普通に考えると、あえて危険負担を定義する必要はないように思えます。
なぜなら、一般的には「管理している側」がその危険を負担するのが普通だからです。
よって上記の場合は、納品する前に盗まれていることから、当然その危険負担は売主が行い、代替品を納品するべきとなります。
これは、債務者主義と呼ばれています。
しかし、民法では例外的に、「特定物に関する物権」については「債権者の負担に帰する」としています。
つまり、契約を締結した後であれば、契約対象となる商品などが何らかの理由でなくなってしまったとき、仮にそれが納品前であってもその特定物については買主にその危険負担の義務があるということです。
具体的には、売主が納品する前に商品が盗まれてしまったとすると、買主は商品も受け取れずにかつ、その代金を支払わなければならないのです。
よって、そのような事態を避けるために、契約書で危険負担について明記する必要があるのです。
第9条
第9条では、瑕疵担保責任を定義しています。
瑕疵(かし)という言葉は日常ではあまり使いませんが、「欠陥」という意味の言葉です。
そして、瑕疵担保責任とは、受け渡した商品にその時は検査でもわからなかった隠れた欠陥があった場合、売主が買主に対してどのように責任を取るかということです。
瑕疵担保責任は買主を保護するために民法でも規定されていますが、契約書でその期間などを明確にすることによりトラブルを回避しやすくなります。
第10条
第10条では、期限の利益の喪失を定義しています。
期限の利益の喪失は、原則として会社に「緊急事態」が発生したときに喪失されることとなります。
些細なことで期限の利益が喪失してしまうと、債務者にとっては非常に不利な契約となってしまうためです。
よって、双方が契約を履行できなくなると考えられる緊急事態を挙げるようにします。
あくまでも基準は、契約が履行できない、あるいは債務が返済できなくなる可能性がある、ということです。
そして、そのような緊急事態が発生した場合は、債務をすぐに返済するという取り決めを行います。
第11条
第11条では、解除を定義しています。
契約を解除できる基本要件は、契約違反です。
どちらかが契約を違反してしまうと、契約自体の意味がなくなってしまうためです。
よって、その場合は即座に契約を解除できること、また、契約解除によって被る損害を賠償請求できることを明記しておきましょう。
第12条
第12条では、任意処分を定義しています。
もし買主が商品を受け取らない場合、当然ながら売主はその商品を販売することができなくなって厳しい状況となります。
よって、その商品を任意に処分できることを認め、かつ売主に損害が発生しないようにするのが任意処分条項です。
任意処分は、売主を保護するための条項と言えます。
第13条
第13条では、管轄合意を定義しています。
管轄合意とは、裁判になった場合にその裁判をどこで行うかということです。
原則として、裁判は相手(被告)の住所がある地域を担当している裁判所に起こします。
しかし、それが遠い地域である場合は、裁判を起こすのも一苦労ということになります。
そして、それは相手にとっても同じです。
よって、あらかじめ管轄となる裁判所を決めておきましょうというのが管轄合意です。
なお、専属的合意管轄裁判所という表現にすると、それ以外の裁判所は一切認めないという意味になり、より裁判所を厳密に特定できることになります。
第14条
第14条では、協議を定義しています。
協議の内容は一般的なものであり、特別に記載が必要というわけではありません。この条項によって何かが決まるわけでもありません。
しかし、契約締結後に予期できなかったあらゆる問題をすべて訴訟で解決することを前提としてしまうと、契約が非常に人間味のないものとなってしまいます。
最終的には訴訟になるということは変わりませんが、契約当事者が協議して解決できることは協議するというのは、社会における重要な考え方です。
そこで、この協議の条項を設け、お互いに誠意を持って契約を進めていきましょうと確認しています。
後文
後文では、契約書の部数と保管場所を明確にし、作成日を記入してそれぞれが記名捺印を行います。
これで契約書は有効となります。
必要で入っていない条文や不要な条文がないかを再度確認しましょう。
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