労働組合への対応
今回は労働組合への対応について説明していきます。
この文章を読むことで、「労働組合との問題の概要」「合同労働組合への対応」について学ぶことができます。
労働組合との問題
会社と労働者との間のトラブルというと、労働組合との問題も挙げることができます。
労働者が労働組合を結成することは、憲法によって 「勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。」として認められています。
いわゆる労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権))です。
よって、会社が労働組合の結成やその活動を妨害することは許されません。
この考え方は、労働者はどうしても使用者よりも弱い立場になりがちであるために、その立場は守られる必要があるという考え方から来ています。
また、一般に労働組合には企業別労働組合、職業別労働組合、合同労働組合(ユニオン)などがあります。
日本では伝統的に企業別労働組合が多いと言われていますが、企業別労働組合は大企業に多く、小さな規模の会社では労働組合がない会社が多くなっています。
そして近年では、そのような労働組合のない会社の社員が合同労働組合に加入することがあります。
合同労働組合はインターネットなどで情報を収集しやすく、一人でも比較的簡単に加入することができるためです。
今では認知度が上がったことで、特に会社への不満を持ち、その改善を求める労働者が駆け込むような存在になっています。
よって、仮に会社に労働組合がなくても、突然合同労働組合から団体交渉の申し入れが来るということもあり得ます。
ここでは合同労働組合への対応についてどのようにすべきかを考えてみましょう。
合同労働組合への対応
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、現在十分とは言えない社内規則の整備に取り組んでいます。
社員が働きやすいように、そして社員の不正などについては会社として厳しい対応を取れるようにするには、まだまだ問題は山積しています。
そんな中、A君はインターネットで合同労働組合と会社が対立し、それが大きな波紋を呼んでいるというニュースを見ました。
社員に対する会社の対応があるまじきものであると合同労働組合が会社に直訴し、もめている様子が動画でも配信され、会社の対応が横暴に見えてセンセーショナルな印象を与えているというものでした。
A君には、そのニュースからは合同労働組合の主張や会社の正当性について、本当のことを知ることはできませんでした。
しかし、会社の労働組合に対する対応によっては、このような大きなニュースになることがあるのだということははっきりと理解しました。
Z社には現在、労働組合はありません。現時点では結成の動きなどもなく、かつ合同労働組合からも団体交渉の申し入れがあったことはありません。
しかし、A君は現時点でも対応策を考える必要があるということを痛感しました。
【解説】
会社に企業別労働組合がない場合、対応すべきは合同労働組合が多くなります。
合同労働組合は企業別労働組合などとは違い、会社にとっては面識のまったくない労働組合です。
よって、仮に団体交渉などの申し入れがあった場合、その対応にとまどいを感じる場合も多いと思いますが、法令に従ってしっかりと対応しなければ、不当労働行為とされる場合があります。
法令に準拠して、冷静に対応しましょう。
合同労働組合(ユニオン)と企業別労働組合の違い
ではまず、合同労働組合と日本の大企業などに多い企業別労働組合の違いを理解しましょう。
合同労働組合とは、労働者であれば誰でも加入できる労働組合です。
全国規模の労働組合も存在し、上述したように労働組合に加入していない、あるいはできない労働者の受け皿になっている面もあります。
これに対して、企業別労働組合はその名の通り企業ごとに作られている労働組合です。
企業別労働組合は大企業で結成されていることがほとんどで、かつ正社員を対象としている場合が多くなっています。
このため、企業別労働組合がない、あるいは加入資格のない労働者が会社との団体交渉を望む場合は、結果的に合同労働組合に加入することが多くなってしまうのです。
合同労働組合との団体交渉の注意点
次に、合同労働組合との団体交渉の注意点を挙げておきましょう。
まず、会社で働く労働者が合同労働組合に加入し、団体交渉の申し入れがあった場合は、原則として会社は拒否することができません。
労働組合法では「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為としているためです。
よって、不当労働行為とならないように気をつけて、以下のように対応する必要があります。
注意点1:慌てて回答しない。
労働者が合同労働組合に加入し、団体交渉を申し入れてくる場合は、通常は労働者が会社に不満を持っている場合です。
よって、そのような不満因子に対し、合同労働組合が会社側の何らかの譲歩をせまってきて、最終的に労働協約の締結に持っていく、あるいは金銭解決を図るというのが普通です。
しかし、そこでいきなり労働協約にサインするなど、安易に会社が対応してしまうと一層不利な状況に追い込まれる可能性があります。
後々のことを考えて慌てて回答することはせず、会社として十分検討してから回答するようにしましょう。
注意点2:団体交渉は社外で、就業時間外に行う。
団体交渉に応じる際の注意点としては、社外で行い、かつ就業時間外に行うということです。
社内で応じてしまうと社員の目に触れることとなり、いらぬ動揺を招く可能性があります。
「団体交渉は社内で行わなければならない」という決まりがあるわけではありません。わざわざ社内を不穏な空気にする必要もありませんので、社外で行いましょう。
しかし、合同労働組合の事務所などは完全にアウェイですので心理的にも不利な状況に追い込まれることがあります。
できれば時間貸しをしているレンタル会議室などで行うようにしましょう。
また、就業時間中の交渉は業務に支障を与えます。
就業時間中は避けて、業務に支障が出ないようにしましょう。
注意点3:断るべきことは断る。
例えば、合同労働組合から交渉中の会議の録音や録画、社長の出席などを要求されることがあります。
しかし、これらのことは交渉に必須ではありません。
よって、断っても不当労働行為に当たることはありません。
例え発言には何の問題がなかったとしても、その後会議の録音や録画がどのように使われるかはわかりませんので、丁重に断るようにしましょう。
また、団体交渉は社長の出席が必須ではありません。
合同労働組合側からすると代表権があり、発言に責任が持てる社長の出席を求めるのは当然とも言えますが、交渉事は「検討する」という時間も必要です。
社長が出席した場合は、即決を求められることが多くなり、やはり不利な状況となりやすいと言えます。
とはいえ、交渉は誠実に行わなければ不当労働行為となります。
よって権限を持つ責任者が出席し、ただ回答を保留するだけではなく、即答できることは真摯に回答するなど誠意を見せることが必要です。
注意点4:経験が少ない場合は専門家に依頼する。
合同労働組合との交渉は、「経験がなければなかなかうまくいかない」と言われています。
例題のZ社のように、もし社内に交渉経験がまったくない場合は専門家に連絡し、対応を一任するということも検討しましょう。
顧問弁護士、あるいは合同労働組合との交渉に長けている弁護士などに依頼し、そのノウハウを社内に蓄積していくというのも一つの方法です。
まとめ
・労働者には労働三権(団結権・団体交渉権・団体行動権(争議権))が認められており、会社はそれらの権利に対して誠実に対応する必要がある。
・日本は企業別労働組合が多いことが特色であるが、労働組合のない会社の労働者は合同労働組合に加入することがある。
・合同労働組合との交渉は慌てず、誠意を持って対応して、時には専門家に依頼して対応してもらうことも検討する。
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