不正や事故をめぐる法務の全体像
今回は不正や事故をめぐる法務の全体像について説明していきます。
この文章を読むことで、「増える不正や事故にどう対応していくべきか」を学ぶことができます。
不正や事故の影響
社会が便利になり、様々な情報を簡単に入手したり公開できるようになると、その「情報の希少性」は相対的に小さくなっていきます。
かつては上場していない会社の情報を得ることは非常に大変な作業でしたが、現在はホームページだけではなく、従業員や転職者、あるいは関係者の口コミなどで情報を精査すれば、その会社のある程度の雰囲気を知ることができます。
また、例えばマスコミが会社の不正に関するインターネット上の情報を大きく取り上げ、社会的に話題になることもあります。
そして、このような情報社会は会社経営にも大きな影響を与えています。
例えば、飲食店の従業員が職場でふざけて遊んでいるところをSNSにアップする、あるいは顧客が食べ物に異物が混入している写真をSNSにアップするなどして、その会社が悪い意味で注目され売上が一気に落ちる、あるいは一時期営業を停止せざるをえないなどの状況も発生しています。
このように、会社の不正や事故はこれまで以上に発生、露呈しやすくなっており、会社としてはより迅速に対応する必要が出てきています。
会社を危機にさらさないために、増える不正や事故にどう対応していくべきかを考えていきましょう。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、かなり形になってきた法務部門の仕事に満足しつつ、最近の忙しさで何かを見逃しているのではないかと考えるようになりました。
社内規定の整備は進み、少しずつですが社内のコンプライアンスに対する意識は高まっているように感じます。
しかし、様々な規定や規則は、それが整備されただけでは意味がないこともA君は理解しているつもりです。しっかりとと機能させなくてはならないのです。
業績が拡大し、会社が軌道に乗っていると誰もが思っている今だからこそ、A君は気を引き締めていかなければいけないと感じました。
【解説】
例題のZ社のように、勢いに乗っている会社はその勢いを止めまいと余裕のある資金を元手にして様々な新規事業に乗り出したり、部門の編成替えなどを行ってより利益を求めるようになる傾向にあります。
社会や消費者の変化の波が激しくかつ短くなっている現在では、このような流れはある意味必然と言えます。
しかし、その一方で会社の急激な変化によって社員が疲弊し、モチベーションが下がって不正や事故が発生しやすくなるということも否定できない事実です。
特に何らかの理由で経営陣と社員の間に溝が埋まれたりすると、この傾向はさらに強くなります。
このように考えると、A君が危機意識を持ち始めたのは、法務担当者としての自覚がさらに高まってきたという証でもあります。
そして、法務担当者だからこそ、そのような不正や事故への対処方法を考えていかなければならないということになります。
不正をめぐる法務
ではまず、会社で起こる「不正」にはどのようなものがあるでしょうか。
最も大きなニュースになりやすいのは、会社ぐるみの不正です。
取締役や部門の責任者などが関与し、不適切な会計処理をしたり架空の売上を計上するなどの会社経営の根幹に関わる不正です。
このような不正は、会社の社会的な地位を失墜させ、社員だけではなくすべてのステークホルダーの信頼をなくしてしまいます。
万が一そのような不正が起きた場合は、小手先だけの対応ではとても経営を立て直すことは難しくなるため、会社のトップ人事の刷新などの根本的改革が必要となります。
また、会社ぐるみの不正はその真相を究明するのに時間がかかり、かつ社内での調査には限界もあることから、第三者委員会の設置も検討されます。
会社の上層部が関与する不正は社内で調査すると、とかく身内だから調査が甘いなどの評価を受けやすいものです。
社会的な影響が大きい場合は、一層の厳格さと社会に対する説明が必要です。
このような観点から、専門家を招いて第三者委員会を設置することは、会社が事態を真摯に受け止めていることを社会に示すものにもなります。
そして、不正の中で最も多いものが、一部の関係者による不正です。
例えば、営業担当者がそのノルマを達成するために契約書を偽造する、製造部門の担当者が実際は行っていない工程の作業を行ったことにしてしまうなどです。
このような不正は会社のチェック機能が働いていれば、ある程度未然に防ぐことは可能です。
よって、このような不正を防ぐには、日頃から不正を察知する仕組みの構築を怠らず、会社の現状に照らして「どのような不正が起こる可能性があるか」について常に考えておく必要がります。
しかしながら、そのような不正は往々にして常にチェック機能が働いていないところで起こります。抜け穴が狙われるということです。
不正については起こさないだけではなく、万が一抜け穴があり、不正が起きてしまった場合にどのような対処をすればよいかをシミュレーションしておく必要があり、かつ懲戒事由などについても、確認あるいは整備しておく必要があるでしょう。
そして、不正が起きた際は行政処分を受ける可能性もあります。
法務担当者としては、どのような場合に行政処分が下されるのか、あるいはそのような事態になった場合にどのように対応するかについても調査しておく必要があります。
事故をめぐる法務
不正とともに会社が常に意識しなければならないのが「事故」です。
製品の欠陥による事故、食品加工の段階で異物が混入してしまう事故などです。
このような事故については、近年消費者の商品を見る目が敏感になっていること、製造物責任法(PL法)などで会社の責任が明確にされていることなどを考慮し、できる限り商品が安全かつ欠陥のないものにする必要があります。
製品の欠陥については、仕様に関する様々なチェックはもちろんですが、取扱説明書などに不備や説明不足はないか、消費者に誤解を与える表現はないかについて細かく検証する必要があります。
例えば食品加工であれば、設備や従業員の衛生管理の徹底や製品ごとのライン管理の徹底などが必要になってきます。
また、万が一製品に欠陥があり、問題が発生した場合は、速やかにそれを公表して対処しなければなりません。
その際、消費者の安全が過度に脅かされる場合は、リコールという措置が取られます。
リコールとは、一度販売された商品を回収し、修理や交換、返金などを行うことです。
リコールというと「自動車」が有名ですが、自動車以外の製品でも行われます。
そして、リコールには「法律によるリコール」と「会社の自主的なリコール」があります。
法律によるリコールは、消費者基本法と消費生活用製品安全法、道路運送車両法によって定めがあります。
まず消費者基本法では、「安全を害するおそれがある商品の事業者による回収の促進、安全を害するおそれがある商品及び役務」に関して情報の収集及び提供等を行う必要があるとしています。
また、消費生活用製品安全法では、重大な欠陥のある製品については国がリコールを命じることができるとされており、この場合は無条件でリコールを行う必要があります。
道路運送車両法は、自動車の場合に適用されます。
自動車に設計上の不具合が発見された場合は、道路運送車両法に基づき、国に届け出ることによってリコールを行います。
自主的なリコールとは、文字通り会社が自主的に行うリコールです。
もし製品に何らかの欠陥があり、安全性に問題があるとなった場合、消費者のその会社に対するイメージは悪化してその後の経営にも大きな影響が出ます。
よって、会社は自主的に商品を回収し、消費者への対応を行うケースが多いのです。
ここでリコールの判断を間違えると大きな問題となる可能性があるので、その判断は会社として迅速に行う必要があると言えます。
まとめ
・情報化により、会社の不正や事故はこれまで以上に発生、露呈しやすくなっており、会社としてはより迅速に対応する必要がある。
・法務担当者としては、もしも会社で不正が起きてしまった場合にどのような対処をすればよいかをシミュレーションしておく必要があり、かつ懲戒事由などについても、確認あるいは整備しておく必要がある。
・近年消費者の商品を見る目が敏感になっていること、製造物責任法(PL法)などで会社の責任が明確にされていることなどを考慮し、できる限り商品が安全でかつ欠陥がないものにする必要がある。
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