業務委託契約書の概要とつくり方
今回は業務委託契約書の概要とつくり方について説明していきます。
この文章を読むことで、「業務委託契約書とは」「業務委託契約書の作成方法」について学ぶことができます。
業務委託契約書とは
業務委託契約書とは、何らかの業務を委託するための契約書です。
商品売買の場合と異なるのは、対象となるものが「業務」という成果であるということです。
よって、商品売買とは異なる概念の条項も必要になります。
業務委託契約書作成の際は、「契約対象が業務であるということ」に留意して作成しましょう。
業務委託契約書のつくり方
【解説】
※第7条、第8条、第10〜11条については、動産売買契約書の解説を参照してください。
※第6条については、継続的売買取引基本契約書の解説を参照してください。
タイトル
タイトルについては他の契約書同様、特にルールがあるわけではありません。
よって、ただ「委託契約書」などとしても問題はありません。
しかし、「委託契約書」の場合は何を委託しているのかの判断がつかず、後日混乱を招く恐れもあります。
ここでは「業務委託契約書」としていますが、より詳細にする場合は「〇〇業務委託契約書」などとして、〇〇の部分に委託する業務の名称やカテゴリーを入れてもよいでしょう。
社内でのルールを決め、相手方と打ち合わせて最も両社が納得できるタイトルにしましょう。
前文
前文では「誰と誰が契約するのか」を明確にします。
今回は委託者と受託者の関係になるので、「委託者〇〇(以下「甲」)」と、「受託者〇〇(以下「乙」)」としていますが、委託者や受託者という言葉は必須ではありません。
また、業務委託契約書という言葉は、その後も複数回にわたって表記されると考えられるので「本契約」とし、その後は「本契約」という呼び方で統一しています。
契約内容
第1条
まず、第1条で委託業務を定義しています。
委託業務はできるだけわかりやすく、かつ明確に表記するようにしましょう。
複数の業務がある場合は、号としてその業務を挙げていきます。
注意点は以下の2つです。
1.委託業務に付随する業務の存在を考えて表記する。
一般的に、委託業務は完全に言葉で表記できるとは限りません。
商品であればピンポイントで表記することが可能ですが、委託業務の場合は「その業務を行うにあたって必要な業務」も存在することがあります。
ただ、そのような付随業務の存在が契約書上になければ、そのような付随業務をめぐってトラブルになる可能性があります。
何らかの付随業務にはコストがかかるとして、受託者から委託者に別途費用が請求されることもあるからです。
付随業務については委託者保護の条項と言えるため、受託者が契約書を作成する場合は付随業務について記載しない場合が多くなる傾向にありますが、委託者はチェックを怠らず、可能な限り「契約にない業務」が発生しないようにしましょう。
そして、受託者も今後の取引を円滑にするために、あらかじめ付随業務も見込んだ契約であるという意識を持つことが必要です。
両社で認識に相違が発生しないように心がけましょう。
表現としては、「付随する一切の業務」などとするのが望ましいでしょう。
2.受託者の管理義務を表記する。
委託業務は、例えば何らかの資料を作成したり商品を販売するといった目に見える成果を対象とした「成果型」と、業務を行った日や時間を対象とする「時間型」に大きく分けることができます。
成果型の場合は、業務の進捗が目に見えることが多いためトラブルになりにくいのですが、時間型の場合はその成果は人員によって、あるいは業務のやり方によって変わってくる可能性があります。
具体的に言うと、例えばやる気のない担当者がその業務に当たれば、委託者の想定する業務をこなせなくなる可能性があるということです。
そうすると、その時間内にどれだけ成果が出せるかは受託者次第ということになり、委託者はそれに従うだけということになってしまいます。
これは契約として不平等と言えるので、委託者は受託者に対し、その業務にあたる際に「善良なる管理者の注意」をもって業務を遂行させる必要があります。
しっかりとした管理を行って、成果にムラが出ないようにさせなければならないということです。
そのような「受託者の管理義務」も忘れずに記載しておきましょう。
第2条
第2条では、業務委託料を定義しています。
業務委託料は成果型の場合はその成果で、時間型の場合は月単位でいくらという料金体系にするのが一般的です。
場合によっては成果と時間の両方を考慮することもあります。
そのような際は、業務委託料の発生基準について明確に記載しておきましょう。
第3条
第3条では、支払いを定義しています。
業務委託料の支払いは月単位で締めて、その月の業務委託料を決められた期間内に支払うのが一般的ですが、業務内容を鑑みて委託者と受託者の状況に合わせて決定しましょう。
また、支払方法については振込の場合にかかる手数料負担など、細かい費用についても明記しておきましょう。
第4条
第4条では、再委託の禁止を定義しています。
委託業務の内容により、再委託を禁止するかしないかは判断が分かれますが、特に委託者が再委託してほしくないと考えている場合は、この条項は必ず盛り込みましょう。
再委託した場合、再委託先が何らかの情報を漏えいさせてしまっては委託者、受託者ともに被害者意識が生まれることになります。
さらにはそこに第三者も含まれるため、話は複雑になってトラブルは思ったよりも大きくなります。
よって委託者は、受託者の再委託先について把握していない、あるいは不安を感じている場合は再委託は禁止するのが鉄則です。
そして、委託者が再委託先を信用できると考えて認めた場合に限り、再委託を認めるということにしたほうが、トラブル回避に役立ちます。
委託者から見れば第三者の再委託者がどの程度の能力を持っていて、その程度の成果を出せるのか予測が立てられませんし、管理もしきれない場合が多いので、余計なリスクを背負う可能性が高くなります。
再委託については、考慮されていない契約書も多く存在しますので注意しましょう。
第5条
第5条では、報告を定義しています。
業務委託は、委託した途端委託者からはその進捗状況が見えなくなってしまう場合も多々あります。
順調に進んでいると思っていたものが、実は受託者が何らかのトラブルに見舞われていて業務が進んでいなかったという事態も大いにあり得ます。
よって、そのようなトラブルの発生を防ぐため、委託者としては何らかの形で受託者の業務の進捗状況を把握する手段を持っておく必要があります。
委託者からその状況報告を求められた際は、受託者は直ちに報告する義務があるという条項を設けておきましょう。
また、予め受託者から委託者に対して、定期的に進捗状況の報告をするという取り決めを行っておいてもよいでしょう。
第9条
第9条では有効期間を定義しています。
有効期間は、その設定や解除・継続については継続的売買取引基本契約書と同じで問題はありません。
動産売買契約と異なる点は、例えば業務マニュアルなどの資料を委託者から受託者に預託、あるいは貸与されているケースが多いということです。
このため、業務が終了した際は、そのような一切の資料やデータを業務終了後に受託者から委託者に返還される必要があります。
よって、そのような内容の条項を追加しておきましょう。
なお、返還では手間がかかる、あるいはコストがかかるなどの場合は、廃棄するという条項にしてもかまいません。
ただしその際は、廃棄が確実にされたことが確認できるマニュフェスト(廃棄証明)などの提出を求めるとよいでしょう。
後文
後文では、契約書の部数と保管場所を明確にし、作成日を記入してそれぞれが記名捺印を行います。
これで契約書は有効となります。
必要で入っていない条文や不要な条文がないかを再度確認しましょう。
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