戦略法務とは
今回は戦略法務について説明していきます。
この文章を読むことで、戦略法務の概要や重要性について学ぶことができます。
戦略法務の概要
戦略法務とは、これまで出てきた紛争法務や予防法務とはやや考え方の異なるものです。
戦略法務が対象とする業務は、主に大規模な経営判断です。
代表的な例はM&A(Mergers and Acquisitions:合併&買収)です。
自社がある会社を買収しようと考えた時、買収の手段をどのようにするのかによって、手続きや税金などが変わってきます。
また、例えば債権が回収できなくなったとき、債権回収の手続きを行うにはある程度の費用や時間がかかります。
そして、仮に回収できる可能性が著しく小さいと考えられる場合は、回収にかける費用や時間を考慮し、回収をあきらめたほうが結果的に会社の利益につながるということも考えられます。
「会社の現状を理解した上で最もよい手段を検討する」というのが戦略法務です。
法律の専門知識を活かし、会社の経営が最も効率的になるような判断を行うということです。
そのような意味では、戦略法務は法務部門の業務の中でも最も高度なもの、かつ最終的に目指す形であるということができます。
会社の盛衰が激しい今日では、経営判断の遅れは経営の命取りになることがあるため、特に大企業を中心に戦略法務は徐々に浸透しつつあると言えます。
【例題】
ある日、スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社のM社長のもとに経営企画担当の役員から以下のような話がありました。
「取引先の金融機関から、ある会社を買収しないかという話が来ています。
相手先はアプリ開発の老舗で現在はスマホ対応の遅れによって業績が悪化していますが、当社にはない技術を持った会社ですので、我が社とのシナジー(相乗)効果が見込まれます。
我が社は現在は買収を行ったとしても資金繰りには問題がありません。よってぜひ前向きに検討したいと考えています。」
M社長は今回買収先となる会社についてはもちろんよく知っており、その技術力には以前から一目置いていました。
役員は続けました。
「しかし、M&Aを行うに当たって問題があります。それは相手先企業はこれまで事業拡大によって様々な業種に進出しています。
例えば最近では酒類の卸売りなども行っています。これらの事業については今後我が社で保有しても長期的なメリットに乏しいですから、ここはアプリ開発事業のみの事業譲渡という形での買収を考えています。
これが我が社にとって最も理想的な形と言えます。つきましては、金融機関とそのような交渉を行っていただきたいのです。」
M社長は役員の話を聞いて、確かにその通りだと思いました。そして金融機関と交渉してみることを約束しました。
【解説】
Z社のような成長企業が今後もその地位を揺るがないものにしていくための一つの手段が「M&A」です。
他社を合併あるいは買収し、その規模を拡大するということです。
しかし上述したように、M&Aを行うには様々な法律的な知識が必要となるため、一般的にはアドバイザーとして金融機関やコンサルティング会社の支援を受けることになります。
Z社の場合も金融機関との交渉になるわけですが、アドバイザーだけの意見に頼ってしまうと会社としての意思決定を誤る可能性があります。
よって法務部門が法律の専門家として、自社の経営にメリットとなるかどうかを判断することが大変重要になります。
個別の案件と法令との整合性を見るだけではなく、常に経営の根本に関っていくというのが戦略法務です。
戦略法務は予防法務と同様、今後の会社経営を効率的にかつ強くしていくものとしてその重要性が注目されており、特に成長を重視する大企業などで力を入れている業務です。
まとめ
・戦略法務は、法務的見地と経営戦略の両面を理解して初めて行える業務である。
・戦略法務は法律だけではなく、会社にとっての利益を考慮する最も難しい意思決定が必要となる。
・戦略法務のスキルを高めることによって、会社の将来的な効率化とコストダウンが期待できる。
・戦略法務の考え方は、大企業を中心に浸透しつつある。
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