不正への対処法
今回は不正への対処法について説明していきます。
この文章を読むことで、「不正の予防」「不正が起きた場合の対応」について学ぶことができます。
会社の不正をなくすために
会社の不正をなくすためには、会社として2つの側面からのアプローチが必要です。
それは、以下の2点です。
1.不正が起こらないように予防する
2.不正が起きてしまった場合に誠実に対応する
最も理想的なのは、1のアプローチですべて片がつくことです。
つまり、会社としての予防体制が完璧に整っており、すべての不正を未然に防止することです。
しかし、現実には100%の体制を整えることは不可能です。
なぜなら不正を未然に防ぐためには体制だけではなく、経営者や社員のモラルも必要であり、絶対に不正をしてはいけないという心構えが不可欠だからです。
また、まれに不正を不正とは思わずにしてしまったということもあります。
そのような問題を克服するには、社員に対する教育も必要になってきます。
よって、やはり会社には1の「予防体制」だけではなく、2の「起きてしまった場合の誠実な対応」も必要であるということになります。
では、不正の予防と対応はどのように行っていけばよいでしょうか。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるA君は、今Z社で不正が起きるとしたらどのようなことが考えられるかを考えていました。
アプリ開発で考えられる不正は、顧客情報などを入手するプログラムを組み込み、その情報を悪用するということでした。
しかし、Z社のアプリは自社と相手先で様々な角度からの検査を受けており、例えZ社が会社ぐるみでそのような不正を行おうとしても、相手先の検査で見つけ出すことができます。
A君はこのような不正はBtoC事業が展開されるようになってからの問題だろうと考えました。
ニュースなどを調べていると、特に成長企業に多い不正はお金に関するもののようでした。
そして、以前M社長から聞いた新興企業の話を思い出しました。
その会社は上場直後に今後の業績の下方修正を立て続けに行ったことで株価が急落、そのことによって新規に上場した会社の信頼性が揺らいでおり、取引所の上場基準などが問題視されるようになっているというものでした。
M社長は「わが社も上場を視野に入れているだけに、このような問題は絶対に避けなければいけない。」と話していました。
上場した新興企業があえて不正を行ったのか、それとも見通しが甘かっただけなのかはA君にはわかりません。Z社がそのようなことするとも思ってはいません。
しかし、仮にその新興企業の問題が不正と呼べるものだったとすると、Z社も上場という目標のために何らかの不正に手を染めてしまう可能性もゼロとは言えません。
A君は、どのような状況になったとしても、会社としてそのような不正をしてしまうことだけは避けたいと考えました。
そして、いつでも堂々としていられるようなコンプライアンス体制の確立が必要なのだと思いました。
【解説】
例題のA君が懸念した業績に関する未来の見通しに関する問題は、不正かどうかを断定することは大変難しい問題です。
あくまでも未来のことであるために、不正だと判断する確固たる証拠がない場合が多いためです。
よって、上記のような問題は、あくまでも会社のステークホルダーに対する姿勢、あるいはモラルの問題ということになります。
しかし、一般に不正とは、故意に行ったと断定できる問題です。
よって、例えば「過去」の損益計算書を改ざんして利益があるように見せかけた場合などは、その証拠が明確になりやすいので不正と断定できます。
会社はまず、そのような「断定できる不正」をなくすよう努めなければなりません。
その上で、ステークホルダーに対する姿勢やモラルを向上させていかなければならないのです。
不正の予防
上述したとおり、会社にとって最も理想と言えるのが「不正を未然に防ぐ」ということです。
不正を予防するための手段は、3つあります。
1.不正の予兆をとらえる
まず1つ目の方法は、不正の予兆をとらえるということです。
例えばある部署に、残業時間が他の社員と比べて圧倒的に長い社員がいたとします。
その原因がこの社員の能力が高いために業務が集中してしまうということであれば、現時点で何らかの不正を行っているとは考えにくくなります。
よって、その場合は他の社員の能力向上などを図って仕事量を平均化するなどの対策を取って、この社員の負荷を分散させる必要があります。
忙しすぎると今後はその社員が疲弊してしまい、また過度のストレスによって新たに何らかの不正を行ってしまう可能性もあるためです。
しかし、この社員に特に業務が集中しているわけではないのであれば、残業時間が長い理由は何か他にあるのかもしれません。
極端ではありますが、例えば残業中の他の社員の目が届かない時間帯に、会社の秘密情報を盗み出しているかもしれませんし、何らかの仕様書を改ざんしているかもしれません。
そして、「理由のない残業が長い→不正を行っている可能性が高い」という因果関係が何らかの形で証明されれば、特に理由がないはずなのに残業時間が長い社員をピックアップして行動調査を行うことで、不正を見つけることができるかもしれません。
このような因果関係を見つけるためには、外部データも活用する必要が出てきますが、そのようなデータを蓄積させていくことで、予兆を見つけ出す可能性は高まります。
2.実際に監査を行う
予兆がある不正は、比較的見つけやすいと言えます。
しかし、本当に恐い大きな不正は、予兆から簡単に発見できることはほぼないと言っていいでしょう。
そのような不正は用意周到に行われるものだからです。
そういった不正を防ぐためには、実際に監査に入るしかありません。
代表的な存在は、会社の監査役です。
監査役には取締役が不正を働いていないか、あるいは何らかの法令違反を犯していないかなどを監査する義務があります。
この機能を監査部門などに持たせて、実際に現場を監査するのです。
人員と手間、労力はかかりますが、特に重要情報を多く持つ大企業や金融機関などでは、内部監査がよく行われています。
内部監査はいつ入るかわからない状況で行うことで、不正の抑止力にもなるため、有効な方法です。
3.その他の方法
その他に予防措置として考えられるのは、例えば人事異動です。
重要情報が集まっている、あるいは資金管理の権限が集中している部署については定期的に人事異動を行い、長期に渡って同じ業務に携わることがないようにします。
そうすることで後任者にばれてしまうような不正を行うことはできなくなり、かつ万が一行っていたという場合には、後任者によって発見されることとなります。
銀行員に転勤が多い理由は、この不正を防ぐための人事異動の意味合いがあります。
また、同様の手段としては毎年ある一定期間の休暇を義務づけ、もし不正が行われている場合はその期間で発見できるようにするなどの方法もあります。
不正が起きた場合の対応
次に予防措置をとっても不正が未然に防げず、起きてしまった場合のことを考えましょう。
この場合は、以下の流れで対応していきます。
?事態を把握する。
?即座に必要な相手に情報を開示する。
?不正の全容を明らかにする。
?関係者への処分を決定する。
?対応策と抜本的な再発防止策を立て、必要な相手に報告する。
?事態を把握する
まず、会社が第一にすべきことは、事態を把握することです。
不正の種類によってはいきなりすべてを把握することは難しいこともありますので、その場合は「はっきりとわかっている事実」と「わかっていない事実」を分類し、少なくともここまではわかっているということを整理します。
時間がたつにつれて発覚してくる事実を「わかっている事実」に追加していきます。
?即座に必要な相手に情報を開示する
次に情報開示です。
必要に応じて株主や債権者、関係会社などに対して不正の事実を公表します。
情報は隠すことなくわかることはすべて報告するというのが鉄則です。
情報を小出しにしていると思われないよう、現時点で何がわからないかも合わせて公表する必要があります。
?不正の全容を明らかにする
ある程度情報が集まり、伝えるべき関係者に伝えた段階で、不正の全容を明らかにしていきましょう。
実際に車内でどのようなことが起こっていたかを調査するわけですが、ここで重要なことは「すべてを明らかにする」ということです。
例えば様々な部門が不正に関与しており、事態が複雑になっている、あるいは専門的な内容で社内に理解できる人が少ない場合などは、内部調査だけだと全容を解明できない可能性もあります。
そのような場合は、外部による調査も検討する必要があります。
弁護士や公認会計士など、どの部門とも関連のない外部の独立した専門家を招いて第三者委員会を設置し、委員会に調査を委ねることも一つの方法です。
第三者委員会などというと大企業の不正を解明するというイメージがあり、実際に大企業や上場企業以外で設置するというのはまれではあります。
しかし、会社の存続に関わる不正であれば、第三者委員会の設置も十分に検討の余地があります。
公平公正な手段で真摯に不正対応を行っていると外部にわかってもらえるためです。
?関係者への処分を決定する
ある程度全容が明らかになったら、関係者の処分を検討する必要があります。
処分は就業規則の懲戒事由に基づいて行います。
このとき、例えばまったく同じ処分を受けるべき人が違う処分となる、あるいは処分の内容が甘く、再発防止に効果がないなどと思われるようですと、さらに信頼を落としてしまう可能性があります。
よって、今後のことを考えて処分は厳正、かつ公平にということを心がけるようにしましょう。
また、例え不正が現場レベルだけで行われていたとしても、その行為を見抜けなかった上司にも責任の一端があると考えられます。
よって、上司及び経営者の監督責任は逃れられません。
現場だけに責任をかぶせて終わりにしてしまうと、やはり周囲は納得できないことになります。責任者の責任も明確にしましょう。
?対応策と抜本的な再発防止策を立て、必要な相手に報告する
最後に、対応策と抜本的な再発防止策を立てます。
対応策は、いつ何をどのように対応したのかについて、人事面も含めてその詳細をまとめましょう。
不正の内容とその対応策から、必要な再発防止策を講じます。
このとき気をつけなければならないことは、再発防止策は「抜本的」なものでなければならないということです。
今回の不正を糧にして、今後考えられる不正の可能性もすべて防止できると考えられる防止策でなくてはなりません。
不正が起こるということは、会社自体に不正を起こさせる何らかの原因があるということになります。
この何らかの原因を探り当ててそれを解消するものでなければ意味がありません。
例えば、「何となく社内に不正を起こしても仕方がないという空気があった。」という場合には、経営層を含む全社レベルの教育が必要になってきます。
そのような場合は全社員に外部のセミナーを受講させて意識改革を行うなどの対策が必要です。
「抜本的」というキーワードを忘れないように今後の防止策を検討しましょう。
まとめ
・不正に対するアプローチは、「不正が起こらないように予防する」、「不正が起きてしまった場合に誠実に対応する」という2つの視点で行う。
・不正を予防するためには、「不正の予兆をとらえる」、「実際に監査を行う」などの手法がある。
・実際に不正が起きてしまった場合は、「事態を把握する」→「即座に必要な相手に情報を開示する」→「不正の全容を明らかにする」→「関係者への処分を決定する」→「対応策と抜本的な再発防止策を立て、必要な相手に報告する」という順番で対応する。
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