企業不祥事と法令違反
今回は企業不祥事と法令違反について説明していきます。
この文章を読むことで、「企業不祥事と法令違反の概要や例」、「企業不祥事と法令違反を防止するには」などについて学ぶことができます。
企業不祥事と法令違反の概要
会社が引き起こす不祥事や法令違反は、年々増加の一途をたどっているように感じる方も多いと思います。
「不祥事」というのは、会社にとってイメージダウンや売上低下をもたらす望ましくない出来事のことを言います。
そして、不祥事の中でも悪質なものは何らかの法令に違反していることがあり、そのような場合は「法令違反」となります。
例えば、飲食店のアルバイトによる不適切な写真の投稿やその拡散などは、まず会社の不祥事として表沙汰になります。
そして、それらの投稿内容から会社に何らかの法令違反の可能性があると考えられる場合は、命令や罰則の対象となります。
食品への異物混入、あるいは膨大な個人情報を持つ大企業からの情報流出や不適切な会計処理なども同様です。
そして近年では、このような不祥事や法令違反が一流の大企業や行政機関などでも起きているという報道を目にする機会が多くなっています。
本来、会社の経営者は会社を経営していく上で、不祥事や法令違反は「存続の危機にもなりかねない絶対引き起こしてはならない問題」という意識を持っており、社員教育なども行っているはずです。
それでもこのような問題は減少するどころか、むしろ増加しているように感じます。
では、なぜ問題は増加しているように感じるのでしょうか。そしてこのような問題はどのようにして解決し、かつ予防していくべきものなのでしょうか。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社のM社長は、あるテレビのニュースに釘付けになりました。
そのニュースでは、「最近証券取引所に上場した新興企業が上場直後に今後の業績の下方修正(取引所にこれまでの事前予想よりも利益額が減少すると報告すること)を立て続けに行ったことで株価が急落したこと」が伝えられていました。
そして、それに伴い新規に上場した会社の信頼性が揺らいでおり、取引所の上場基準などが問題視されるようになっていることなども報じられていました。
そのニュースの解説者は、「上場時には投資家の期待を高めるために利益予想を高くしておき、多額の資金を獲得するだけ獲得しすぐに下方修正を出すのは、ある意味会社の不祥事であると言える。」と話していました。
そして「上場する会社には投資家や社会に対して大きな責任があることを忘れてはならないはずだ。」と続けました。
M社長は考えさせられました。M社長は将来的にはZ社を上場させることを考えています。
上場によって株式を売り出し、キャッシュを得てさらなる成長につなげたい、あるいは経営を安定化させていきたいと思っているからです。
よってこの報道を見て「取引所への上場は会社のモラルを問われるものであること」、そして「モラルの欠如は不祥事とも捉えられかねないこと」、社会の信頼を得るためには、「いかなる場合であってもモラルを忘れない企業体質にしなければいけないこと」を痛感しました。
【解説】
会社にとって、上場というのは一つの大きな目標です。
もちろん、上場には多額のコストがかかり、かつ株主が固定ではなく流動的なものとなるため、望まない会社もたくさん存在します。
しかし、Z社のように大きく成長している会社の場合は、上場して投資家から高い評価を受けることによって株式が買われ、結果的に会社の価値を高めることが可能となります。
そして、近年ではZ社と同じように考えて新規上場を行う会社が増加傾向にあり、これは企業の新陳代謝や市場の活発化につながるとして好意的に受け止められています。
ただ、社会や投資家に対して大きな責任を負っており、厳しい審査を経て上場した企業でも、新興・老舗などを問わず不祥事や法令違反を起こしてしまう会社が後を絶たないのが実情なのです。
不祥事や法令違反の例
会社は、常に以下のような不祥事や法令違反のリスクにさらされています。
そしてこれらは、「内部事情」によるものと「外部事情」によるものに大別することができます。
内部要因による不祥事や法令違反
例えば、設計ミスを原因とする発火性を伴うストーブは、安全と認められる製造基準を常にクリアしていれば防げる可能性は高くなります。
食品の産地や成分の偽装は、そもそも正しい表示さえすれば起こることはまずあり得ません。
このような問題は内部事情によって引き起こされるものであり、原則として「必ず防ぐことができるもの」と言えます。
自浄作用によって抑えられるはずの問題が発生してしまう理由は、「利益こそがすべてという企業体質」や「事業の複雑化に伴う管理能力の欠如」などの問題があると考えられます。
外部要因による不祥事や法令違反
これに対して、近年は様々な国で様々な会社が技術力を向上させ、競争は激化の一途をたどっており、為替相場の変動といった外部変化や消費者の嗜好の移り変わりも著しくなっています。
そして、SNSが普及したことで簡単に商品の感想や写真、現在自分が置かれている就労環境などをインターネット上にアップし、そのような情報はいつでも閲覧することが可能です。
表示の偽装や労働者の管理違反などは、このようなインターネット社会特有の情報によって暴かれることも多くなっています。
このような外部要因は会社にとって予想しにくく、防ぐことが難しいものと言えます。
そして現在では、外部要因による不祥事や法令違反が増加している傾向にあります。
企業不祥事と法令違反を防止するには
では上記のような企業不祥事と法令違反を防止するには、どのような対策が必要かを考えてみましょう。
1.抜本的な防止策
まず抜本的な対策としては、会社を経営する上で守らなければならない法令、あるいは会社の事業に該当する法令について知るということが挙げられます。
意外に特に小さな会社にありがちなのが、「法令があること自体を知らなかった」というものだからです。知らずに法令違反を犯しているという例が少なくないのです。
例えば、セクハラやパワハラなどの問題は、未だに「どのような行為がセクハラやパワハラに当たるのか?」を理解していない社員や経営者が多数存在すると言われています。
よって、まずは「法令を知る」ということが大前提となります。
2.内部事情の防止策
次は内部事情の防止策についてです。
現在は一時期に比べると少なくなったとも言われていますが、「ノルマ(達成が必須の売上条件)」などを掲げる会社は、どの業界にも存在します。
もちろん会社は利益を出さなければ継続していくことは不可能となりますので、場合によってはノルマも必要になります。
しかし、ノルマにだけとらわれてモラルを忘れてしまうというのは、会社の社会的な意味合いを考えると本末転倒です。
まず必要なことは、「経営者がモラルについての意識を持つ」ということです。
経営者自らが売上や利益だけを見ているとしたら、社員がモラル違反に走るのはある意味当然と言えます。
例題のように会社としてあいまいな見通しで上場し、その後見通しを修正するなどの不祥事は、経営者に大きな責任があるという典型な例です。
まずは経営者が自ら社員の模範となる必要があり、その上で社員に対して「会社は社会性の高い存在なのだ」ということを発信していかなければなりません。
ただ、その場合もただ口先で伝えるだけではなく、何らかの制度を作るなどして取り組む必要があります。
そして、制度と同じく必要なのが「管理体制の構築」です。
今どこでどのような事業が行われており、それがどのような管理体制になっているかを常に把握することです。
小さな会社の場合はまだ組織全体を統括しやすいと言えますが、規模が大きくなる、あるいは組織変化が著しいなどの場合は、どうしても組織管理が疎かになっていきます。
管理の専門部署を置くなど、管理体制を見直すことが必要となってくると言えます。
3.外部事情の防止策
原則的には、外部事情を会社で変化させることはできません。
競争の激化や物価の変動、消費者の嗜好の変化、インターネットの進化などは社会的な流れだからです。
しかし、外部事情は変えられなくても、それに流されないという仕組みを構築することは可能です。
例えば、個人情報や機密情報などの流出を防ぐために、社内への機器(スマホやUSBメモリなど)の持ち込みを禁止する、あるいは会社のパソコンに対する外部機器のアクセスを禁止し、一切の情報を持ち出せないようにするなどです。
そして最も必要なことは、やはりここでも「社員のモラル教育や制度の構築」ということになります。
どんなに環境が変化しても、「不祥事につながるような行為は行わない」という教育や賞罰規定を設けるなどです。
不祥事や法令違反が起きてしまったときの対応手順
しかし、どうしても防ぎきれずに問題が起こった場合はどうしたらよいでしょうか。
不祥事や法令違反が発覚した場合は、以下のような対応を行います。
事実関係の把握
まず必要なことは事実関係の把握です。
いつ、どこで、何が、どのように起こったのかを明確にします。
ありがちなパターンは、いきなり「誰が行ったのか?」、「なぜそのようなことをしたのか?」という責任論を追及することですが、そのような責任論は会社内部の話であって、外部関係者にとって重要なことではありません。
まずは起きた事実を明確にすることを優先させます。
そして、法令違反に該当するかどうかは初期の時点では把握が難しいことも多いため、判断は行政や警察などに委ねるほうが適切です。
とにかくまずは正確な情報収集に努めることを最優先します。
迅速な情報公開
次に、できるだけ早急に情報を公開します。
公開する相手は消費者や取引先、株主、債権者、社員、行政機関、警察などになりますが、適切な相手に対して漏れがないように公開します。
このとき、最も大事なことは「情報はすべて公開する」ということです。
最も多い例は、会社のイメージダウンを恐れて何かを隠す、あるいは一部のみを公開してしまったりするというものです。
しかし、仮にそれが意図的な隠ぺいではなかったとしても、もしそれが後日発覚した場合は、「隠していた」というイメージを持たれることとなります。
よって、明確になっていることやまだ不明確なことも含め、すべての情報を公開することが必要です。
原因究明と具体的対策の決定
次に、具体的な対策の検討を行います。この段階では原因の究明が大切な作業になります。
会社のシステムとして不備があったからか、あるいは個人による意図的なものなのかなどを究明していきます。
そして最も早く、かつ効果のある対策を決定します。
対策については、一旦コストなどは度外視し、まずは事態の収拾が可能な対策を最優先します。
対策の実施
対策案が決まったら、即座に対応に移します。
ここで対応の遅れがあると、会社のイメージダウンはさらに深刻化します。よって全社的に迷いなく対応することが必要です。
当然行政や警察などから何らかの要請があれば、それにも応じていきます。
今後の改善策の決定・公開
対策の実施とともに必要なことは、「いかに今後同じようなことを起こさないか」という改善策について検討することです。
法務的な見地から対応に漏れのない改善策を検討し、実行に移します。
このとき改善策が本当に妥当かどうかの検証を行うため、PDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルを回してチェック機能を持たせることが必要です。
そして、必要に応じて改善策をより精度の高いものへと練り上げていきます。
まとめ
・会社の不祥事は法令違反に発展する恐れがある。
・会社の風土や経営者の意識が不祥事や法令違反を招く場合もある。
・不祥事や法令違反は外部要因によるものが増加しつつある。
・不祥事や法令違反が起きた場合、すべての情報を迅速に公開する。
・不祥事や法令違反の改善策は、PDCAサイクルでチェック機能を働かせながら構築する。
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