ビジネス文章の書き方
今回はビジネス文章の書き方について説明していきます。
この文章を読むことで、わかりやすいビジネス文章を作成するための手法について学ぶことができます。
ビジネス文書
法務部門は契約書の審査をはじめ、ビジネス文章を作成する機会が多い部署です。
例えば法律に関する相談を文章で回答する、あるいは弁護士に相談する、経営層に新規事業に関する法務的な見解を説明するなどです。
そして、法務部門が作成するビジネス文章と、他の部門のそれとの違いは、その多様性です。
法務部門のクライアントは基本的に社内のすべての部門です。法律に詳しい人もいれば、詳しくない人もいます。
法務担当者はそのようなクライアントに対し、「誰にでも理解してもらえる」ビジネス文章を書く必要があります。
また、法務に関するビジネス文章は、やはり法律用語が多くなってしまいます。どうしても法律用語を使わなければならないことがあるためです。
よって、文章が難しいという印象を持たれがちです。
法務担当者として、わかりやすいビジネス文章を作成するための手法を考えてみましょう。
【例題】
スマートフォンのアプリ開発を基盤事業とするZ社の法務担当者であるT君は、休暇が終わって出社してきたS君が出社早々頭を抱えてため息をついていることに気づきました。
S君:
「休暇前に開発部門の前の上司から、法律に関する相談を受けたんだ。公式というわけではなかったし、急いでいるわけでもないということだったからとりあえず僕が対応したんだけど、今日出社してメールを確認したらまったく意味がわからないっていう返信が来てて落ち込んでたんだ。僕としては法務担当者としてできるだけ調べて詳しく回答したつもりだったんだけど、ダメだしされて落ち込んじゃって。」
T君がS君を元気づけていると、そこにA君がやってきてこう言いました。
A君:
「ちょっと君が上司に出したメールを見せてもらえる?」
S君はA君に上司に出したメールをプリントアウトして見せました。
「君の気持ちは痛いほどわかるよ。僕も最初の頃はとにかく知識をつけないといけないと思ってやたらと専門用語を使っていたような気がする。
でもね、専門用語はそれを知らない人にとっては、説明がないとまるで外国語のように感じるものなんだ。そしてまったく意図がつかめなくて放り出してしまったりする。
例えばこの「意思の欠缺」という言葉だけど、説明がなければ聞いたことがある人でない限りわからないよね。そうすると結局自分で調べなければいけなくなって、こういうことが続くとだんだん読むのが苦痛になって最後はあきらめてしまう。きっと君の元上司はそういうことを言っていたんだと思うよ。」
S君は確かにという顔をして頷きました。
A君:
「僕も含めて我々法務担当者は難しい言葉を使えばいいということではないと思うんだ。あくまでもそれを読むのは誰かということを考えて、そしてその人に合った文章を提供しなければいけないと思う。そういったことも少しずつ学んでいこう。」
S君は自分たちは担当者になったばかりで、自分の業務に必死になり、相手の立場に立っていなかったことを反省しました。
そして、A君の言葉に勇気づけられた気がしました。
【解説】
仕事が専門的になればなるほど、特に仕事を始めたばかりの担当者はその専門知識を使いたくなるものです。
例題のS君のように、ビジネス文章の中に専門用語を入れてしまったりするのはその典型です。
しかし、法務担当者が作成する良い文章とは、決して専門用語が散りばめられた文章ではありません。
法務担当者としては理解しておかなければいけないことだとしても、他の社員が知らなければならないということではなく、むしろ理想はそのような専門用語を一切使用せず、誰にでも理解できる簡単な言葉で伝えることだからです。
法令などが絡んでくるとすべてを簡単な言葉に置き換えることは難しいですが、法務担当者としては「相手は法務のことは知らないし、特に知る必要もない。」という認識を持つことが必要です。
ビジネス文章作成のポイント
では、法務担当者がビジネス文章を作成する際、どのような点に気を付けたらよいか、そのポイントを考えてみましょう。
ポイント1:文章を理解するための時間がかからないようにする
文章を読む人が誰であれ、その人が文章を読む目的は、あくまでも「仕事を進めるため」です。勉強のように、その文章を理解することが目的なのではありません。
文章の理解に時間がかかってしまうということは、その人の仕事の時間を削ってしまうことになります。
これでは本末転倒です。
よって、専門用語をわかりやすく伝えることはもちろん、できるだけ短い文章で伝えるべきことを端的に文章にすることが必要です。
ポイント2:相手に合わせた文章にする。
例えば、例題のS君のケースように文章を読む人がまったく他部門の人の場合もあれば、外部の弁護士の場合もあります。
弁護士に問い合わせる場合は、S君のケースとは違って相手は法律のプロです。どんなに専門用語を使ったとしても問題はないでしょう。(ただし、もちろん読みやすい文章にすることは必要です。)
また、読む人が同じ社内の場合でも、社長が読む場合と実務担当者が読む場合では与えられた時間の制約や知るべき内容に大きな違いが出てきます。
読む人が社長であれば、状況にもよりますが、基本的には実務の細かな内容を書く必要はありません。
そして、伝えたい内容がすぐにわかるような文章にする必要があります。
これに対して実務担当者であれば、実務を行うための詳細な情報が必要になってきます。
ビジネス文章を読む人が誰なのかを考えて作成することも大切なポイントです。
ビジネス文章の2つの作成方法
では、具体的にビジネス文章を作成する際、どのように行えばよいでしょうか。
ビジネス文章の作成方法には、2つの方法があります。
作成方法1:結論を先に書く
ビジネス文章の基本的な作成方法は、まず結論を先に書くということです。
どんな仕事もそうですが、現場は時間と戦っています。要するにイエスかノーか、ということを知りたいということも多いものです。
よって、まずは「ご依頼があった表示方法は、景品表示法に違反している可能性があります。」などの結論を先に書き、その上でその理由を書くというのがベターと言えるでしょう。
相手が理由も知りたい場合はその理由を読んで確認できますし、まず結果が知りたいという場合は最初だけを読めば理解できるからです。
法務担当者としては結論付けた理由を書くのは当然ですが、現場や担当者の状況によってどんな情報が必要なのかは変わってきます。
よって、最重要なことから書いていくというのが、オーソドックスなビジネス文章の作成方法です。
作成方法2:理由を先に書く
結論を先に書く場合は、どちらかというと現場が法務担当者に質問をし、法務担当者がそれに回答するというようなシチュエーションで有効になってきます。
しかし、法務担当者が例えば弁護士や上司に依頼やお願いをする場合などは、理由を先に書いたほうがよい場合もあります。
例えば、訴訟を起こされた際に弁護の依頼をする場合、いきなり「弁護をお願いします。」と書き、報酬などについて相談すると、相手はなんの弁護かがわからずに不快感を持つかもしれません。
よって、そのような場合はまず現状を報告し、「このような状況のため、弁護をお願いします。」としたほうが相手に伝わりやすいでしょう。
また、上司に研修の参加などを頼む場合も同様です。
「独占禁止法に関する案件が増加しており、現在独占禁止法に関して詳しい担当者が社内にいないため、研修への参加許可をお願いします。」などとしたほうが、上司には伝わりやすいでしょう。
読みやすいビジネス文章とは
最後に、読みやすいビジネス文章とはどのようなものかを確認していきましょう。
これは法務担当者が作成する文章に限ったことではありませんが、ビジネス文章自体が「じっくり読む」ことよりも「時間をかけずに読む」ことが優先されます。
このことを踏まえて、以下のような文章作成を心がけましょう。
1.誤字脱字がない
これは基本中の基本です。
誤字脱字がないことは基本なだけに、それが散見されると「あいつには頼めない」ということになってしまいます。
どんなに大丈夫と思っても確認を怠らず、場合によって他の人にも確認してもらうなどして万全な状態にしましょう。
2.主語と述語をわかりやすくする
長い文章などでは、主語と述語の関係性がわからなくなることがあります。
よって、できるだけ主語と述語の間を短くして、その関係性をわかりやすくするようにします。
わかりにくいケース:
「AはBとCとDであるためにEとなります。」
わかりやすいケース:
「AはEとなります。理由はBとCとDです。」
3.箇条書きをうまく使う
箇条書きは視覚的に目を引きやすく、特にビジネス文章には向いていると言えます。
文章をつなげると長くなる、あるいは同等の内容の羅列になってしまうという場合は、箇条書きを使って並べることで、読む人のストレスを軽減できることもあります。
複数の内容を並べる必要がある場合は、箇条書きを取り入れて文章をシンプルにしましょう。
わかりにくいケース:
「問題点はAとBとCとDである。特にBについては法令違反の可能性があるため、再度検討を要請します。」
わかりやすいケース:
「問題点は以下です。
・A
・B
・C
・D
特にBについては法令違反の可能性があるため、再度検討を要請します。」
4.別紙を活用する
文章の根拠となる素材が長い文章、あるいは複数のデータなどの場合、それらを文章に挿入すると文章は長文となって理解しにくいものとなります。
よって、そのような場合は別紙を活用し、それを参照してもらうようにします。
わかりにくいケース:
「著作物は、著作権法第十一条により、一.小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物、二.音楽の著作物、三.舞踊又は無言劇の著作物、四.絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物、五.建築の著作物、六.地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物、七.映画の著作物、八.写真の著作物、九.プログラムの著作物と例示されています。」
わかりやすいケース:
「著作物とは、著作権法第十一条(別紙A)により、例示されています。」
(別紙A)
著作権法第十一条
一.小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物
二.音楽の著作物
三.舞踊又は無言劇の著作物
四.絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物
五.建築の著作物
六.地図又は学術的な性質を有する図面、図表、模型その他の図形の著作物
七.映画の著作物
八.写真の著作物
九.プログラムの著作物
5.可能な限り1枚でまとめる
ビジネス文章は、あくまでも内容を速く正確に伝えることが重要です。
よって不要と思われる文はできるだけ削り、1枚にまとめられていて、読む人が一目で概要を理解できるような文章が理想的です。
ただし、短すぎて目的が伝わらないというのもビジネス文章としては失格になってしまいますので、絶対に1枚でなければならないということではありません。
可能な限り完結な文章にするということを心がけましょう。
まとめ
・法務担当者は相手に合わせて、誰にでも理解してもらえるビジネス文章を書く必要がある。
・ビジネス文章は、できるだけ専門用語を使わなくても理解できるようにする。
・ビジネス文章の作成方法には、「結論を先に書く」手法と「理由を先に書く」手法の2つがある。
・ビジネス文章は誤字脱字や見やすさ、わかりやすさに気をつけて、可能な限り短くまとめるようにする。
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